マイホーム戦国

石崎楢

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第52話:多聞山城の戦い(4)

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多聞山城城内に突入した山田軍は松永軍必死の反撃に苦戦を強いられていた。
「よく出来た城だな・・・。」
清興はつぶやく。
守りやすく攻めにくい。
一見、豪華な櫓や御殿もある派手な城ではあるが、中には守るための様々な工夫が施されていた。
攻城兵器がなければ落とすためにどのくらいの時間を費やすのだろうか。

「明智殿、火を使うのはやめておこうか?」
「島殿もそう思われますか・・・。」
清興の言葉に光秀はうなずくと天守閣を見つめた。


本丸御殿では久通の正室や子供たちが怯えた表情で固まっていた。
そこにやってくる一人の女中。
「奥方様、こちらよりお逃げくだされ。」
「そなたは誰じゃ?」
「この城はいずれは落ちまする。若君たちのためにも・・・」
その女中の真剣な眼差しに久通の正室はうなずく。
「こちらです・・・。」

慌ただしい城内をうまく通り抜けていく。
「奥方様と若様を逃がすのじゃ、道を開けよ!!」
その女中の凛とした態度に松永軍の兵たちは道を開けていく。

「まずはここに隠れましょう。」
城内の外れにある土蔵の中に久通の正室と子供たちは逃げ込んだ。
その女中は土蔵の戸を閉めると姿を変えた。

「忍びの者ですか・・・!?」
久通の正室は驚く。
「この戦いが終わるまでお守りいたします。」
その女中は真紅であった。

前日の晩、人払いをした本陣にて
「真紅。この戦で頼みがあるんだけど・・・。」
「なあに?」
「松永久通の奥さんと子供たちを確保して欲しい。」
私は真紅の耳元でささやくように言った。
「殿の側を離れたくない・・・。」
真紅は首を振ると私に甘えた顔と声色で迫ってくる。

うん・・・ヤバい・・・落ちそうだ・・・
ダメだ・・・我慢・・・堪えろ・・・私の男性本能!!

「頼む・・・。」
「はい・・・わかりましたァ!!」
真紅は不貞腐れた顔でアカンベーをすると本陣から出ていった。

「モテる男は辛いですね・・・。」
義成が本陣に戻ってきた。
「私は真紅とべ・・・別にそういう関係じゃないからな・・・」
「わかってますって・・・ったく小さい小さい・・・小っちぇえっての!!。」
取り乱す私に義成の厳しい言葉の数々・・・
「なんでこんな人に真紅さんは惚れているんですかねえ・・・」

義成くん・・・酷いです・・・

「ただ、松永久通の奥方やお子を助けるというのは賛成です。この時代・・・無駄な殺生が多すぎますから。」
そう言うと義成は笑顔を見せた。


搦手門では義輝と白虎の戦いが続いていた。
それぞれの武器は既に壊れかけている。

こんなに強いヤツは初めてだ。
まだこのような男が日ノ本にいるとは思わなかった・・・

義輝は薙刀を振るう。

強き者・・・しかしこの男の武は異質だ。
さすが義輝公・・・この武を私が・・・

白虎も大刀を振るう。

バキッ・・・
ぶつかり合った瞬間、互いの武器が音を立てて真っ二つに折れた。
すかさず義輝は刀を抜く。
しかし、白虎にはもう武器がなかった。

「!!」
義輝は一気に間合いを詰めて白虎を斬りつける。
しかし白虎は信じられないほどの跳躍を見せて義輝の背後に飛び退いた。
すかさず義輝は反転して刀を一閃。
白虎は連続で後方宙返りをして一気に距離をとると逃げていった。

「ふう・・・。」
義輝は大きなため息をつくと天を仰いだ。

このような者がいるとは・・・天下は広いものだ・・・


大手門下での五右衛門と緑霊の戦いも続いていた。
互いの振るう剛剣の凄まじさにいつの間にか周囲の兵たちは戦いを止めていた。
ただの傍観者たちとなり、二人の戦いを見守っている。

北畠の大御所や胤栄よりも強い・・・
この男・・・九兵衛を寄せ付けなかった理由もわかる

五右衛門は次第に冷静になっていた。
しかし緑霊は違った。

このような・・・押し付けるかのような武などあっていいものか・・・
あの御方に必要のある武ではない・・・

緑霊の攻撃が愚直になってきたことを五右衛門は見逃さなかった。
大きな一撃をうまくかわすと懐から鎖を取り出し投げつける。
その鎖は緑霊の刀に巻き付いた。

「今だ!!」
五右衛門の声を共に二人の男が現れて緑霊の両腕に縄を絡めた。
「こういうことなら任せておけ。」
「勝秀様の敵か・・・。」
鳥兜の源次と啄木鳥の権八だった。
大手門の上で気配を消して緑霊の隙を伺っていたのだ。

しかし緑霊はニヤリと笑うと口で何やらつぶやき始める。
「ハアァァァァァァァッ!!」
緑霊が叫ぶと源次と権八は吹っ飛ばされた。

「私の名は緑霊。石川五右衛門・・・次に会う時が貴様の命日だ。」
そう言い残して緑霊は姿を消した。

「なんじゃい・・・今のは。」「身体が痛い・・・。」
源次と権八は何とか立ち上がった。

「次に会う時ね・・・。」
五右衛門は既にボロボロになった刀を投げ棄てるとつぶやいた。

次に会う時はアンタの命日だよ・・・緑霊。


本陣では・・・
「ぐはッ・・・!?」「ぎゃッ!!」
義成の弓の前に青装束の一団は次々と倒れていく。

「くッ!!」
大雅は鈎鎌槍を自在に操り青彪と渡り合っていた。

天賦の才・・・私は初めて槍や刀に触れた時から言われ続けている。
宇陀黒岩の豪農の息子だったが、遊びで始めた武芸に心奪われた。
旅の武芸者を呼んでは様々な武術や技を伝授してもらい腕を磨き続けた。
そのうち旅の武芸者たちを呼んでも誰もが私に歯が立たないようになった。

そんなときに山賊を追い払った山田家の話を聞いた。
これが私にとって名を売る千載一遇の機会ではないか!?

そして・・・私はここにいるのだ!!

大雅の鈎鎌槍は更に手数が増えて青彪の槍を封じ込めていく。

「さすが・・・黒岩殿・・・・・・!?」
感嘆する義成であったが、青彪の表情を見て驚く。

全く表情を崩さない青彪。
そして懐に手を入れた。

「黒岩殿、避けて!!」
義成が叫ぶ。そして弓を構えたときだった。

青彪は大雅めがけて何かを投げつける。
更に義成にも投げつけてきた。

「当たるか!!」
大雅は身体をひねってかわす。
義成は刀を抜いて叩き落とした。

まさか・・・

青彪が投げたのは鉄扇だった。

「グアァァァ!!」
反転した鉄扇が大雅の背中に直撃する。
血を吐いて倒れ込む大雅。

「千之助・・・大雅を!!」
「しかし、殿を・・・」
「私は構わん。大雅を連れていけ!!」
私の命令で千之助は大雅を連れて逃げていった。

「殿・・・少しよろしいですか?」
義成が苦笑いを浮かべながら私に聞いてくる。
「どうした?」
「殿を守りきれたら美佳様を私にくださいね・・・」
そう言うと義成は刀を鞘に収め槍を手にした。

「高井義成か・・・オマエは強き者だ・・・その命を捧げてもらおう。」
青彪は鉄扇を懐にしまうと義成を見る。

「強き者・・・私の名を知っている? 光栄ですね。」
義成は槍を構えた。

多分、いや・・・絶対にこの男に勝てない・・・

義成は先程の青彪と大雅の戦いで悟っていた。
大雅との戦いにおいて青彪は全力を出していない。
そして今も同じ・・・弄ばれている。

そんな義成の姿に私は感じ取った・・・
まさか・・・死ぬ気では?
私を助けるために・・・だから美佳を自分にくれと言った。
もう嫌だ・・・照友殿、九兵衛・・・嫌だ・・・

「私が戦おう・・・義成下がれ!!」
私は黒漆剣を手にすると義成の前に立った。
「・・・なんと・・・」
青彪は予想外の出来事に驚愕の表情を浮かべている。
「殿・・・それは成りませぬ・・・」
「たわけがァ!!」
遂に私は戦国時代風の言葉で義成を一喝すると青彪を睨みつけた。
正直に言えば、ヤケクソであり恐怖を通り越している状態ですが・・・

「征夷大将軍坂上田村麻呂から受け継ぎしこの剣・・・括目せよ!!」
私は黒漆剣を抜いて天に掲げた。

突然、空に暗雲が立ち込める。
突風が吹き荒れて私の身体を包み込む。



遂にこの多聞山城攻めも佳境に差しかかってきた。
果たして私と青彪の戦いはどのような結末を迎えるのだろうか・・・
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