マイホーム戦国

石崎楢

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第55話:松永弾正動く

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1567年1月のある日のこと・・・

いい加減にこのキラキラした御殿を何とかしたいもんだな・・・
リフォームしてもっと実用的にねえ・・・
東大寺の宮大工さんたちに頼もうかな。

私は御殿を出ると茶室に入った。
ここは侘び寂びが感じられる素敵な空間だ。

私は大の字で寝転がった。
もうここに住みたいって感じだね。

そのとき、何者かの気配を感じた。
「誰かいるのかい?」
私の声に反応して誰かが出てきた。
「おお・・・殿様。バレたか。」
五右衛門であった。よく見ると手に何やら茶釜を持っている。
「何それ?」
「ああ・・・茶釜。」
「どうすんの?」
「売るの。」

しばらく間を置いて改めて私は五右衛門に問いかけた。
「売れるの?」
「多分、城一つ買えると思うぜ。」
「なんていう茶釜?」
「平蜘蛛♪」

再び、私と五右衛門は見つめ合い沈黙が流れた。

「それって売ったらダメなヤツじゃん。」
「やっぱり?」
五右衛門は気まずそうにてへぺろをするのだった。

平蜘蛛に関しては松永攻めの前に岳人から詳しいことを聞いていた。
松永弾正が命よりも大事にしていた、そして織田信長が何よりも欲していたという茶釜だということ。
きっと信貴山城か多聞山城にあるという話だったが・・・

「多分、この時期は松永弾正の性格からして多聞山城に隠していたんじゃないかな。居城になるはずだったと思う。」

岳人の予想が的中したということだ。

「五右衛門・・・オマエがどうなっていくか、この前教えたよね?」
「はい。」
五右衛門が正座をしている。
「私はオマエに泥棒になって欲しくないの。まっとうに生きて欲しいの。」
「既に忍びなんで・・・陰日向に生きているんですけど・・・」
五右衛門は死んだ目で言い返す。
「そんなこと言わないでよ・・・それなら茶屋娘劇場の支配人やってくれる?」
「はい・・・すんませんでした、忍びの道を頑張ります。」
「それじゃ大仏殿でも見に行くか。」
「またかよ~。」
私と五右衛門は茶室を出ていった。

そのまま無防備に置かれている平蜘蛛。
これが大きく歴史を変えてしまう火種になるのである。


信貴山城では
「どうすればいいのじゃ・・・ワシの平蜘蛛がァ・・・。」
憤っている一人の男、松永弾正久秀だ。
「殿・・・いい加減あきらめてくだされ。」
家臣の一人が諫めるも
「平蜘蛛をあきらめる?馬鹿も休み休み言え!!あの出来損ないの息子に預けたのが間違いじゃったわ!!」
久秀はその家臣の胸倉を掴むと殴り飛ばす。

多聞山城が落ちて早や一月・・・毎日毎日平蜘蛛のことばかりだ・・・
家臣団は辟易としていた。

「殿・・・山田大輔にお願いしてみてはいかがですか?」
一人の家臣が口を開いた。
楠木正虎・・・名将と謳われた楠木正成の子孫である。
「山田大輔は無駄な殺生を好まぬ、捕虜にした将や兵を丁重にもてなす話のわかる方のようです。平蜘蛛の件も話せばわかってくださるかと・・・。」
もう一人の家臣が同調した。
本多正信・・・元徳川家家臣、正史上では再び徳川家に帰参する名将である。

「平蜘蛛・・・あれは一度手にすれば二度と手放せなくなる代物じゃ・・・山田といえど手放すつもりはなくなるじゃろう!! 何故に多聞山城に隠してしまったんじゃ・・・ワシは・・・」
久秀は頭を抱えている。

「三好長免に頭を下げよう・・・。」
「なんですとォ!!」
突然の久秀の一言に家臣団は絶句する。

「平蜘蛛のためじゃ・・・三好の力を借りて多聞山城を落とす。」
久秀は立ち上がると大広間を出ていく。
「何処に行かれまする?」
家臣の一人が声をかけるも
「三好長免のところへワシが直々に頭を下げてくる。」
久秀の後を慌てて追いかける家臣団。
しかし、楠木正虎と本多正信はその場を動かなかった。
二人は顔を見合わせると大きくうなだれた。


私は五右衛門を伴って東大寺に来ていた。
あまりに大きく壮厳な佇まいの大仏殿。

現代の大仏殿より遥かに素晴らしいよ・・・

私は鹿と戯れながら大仏殿を眺める。
その隣で五右衛門はあくびをしながら突っ立っていた。

「1567年に東大寺は戦火に巻き込まれ大仏殿が焼失する。三好三人衆と松永弾正の戦いが原因なんだ。」
私は岳人の言葉を思い出す。

歴史を変えてでもこの大仏殿、東大寺を守らなければ・・・
国を守る大仏様を燃やすなどさせるものか・・・
今からでも様々な布石を打っていかねばならない。
私は心に強く誓うのだった。


その頃、景兼は柳生で養生していた。
「豊五郎・・・動けるか?」
柳生宗厳が屋敷の縁側に腰を下ろす景兼に声をかける。
「まだまだ使いものになりませぬ。」
景兼は腹をさする。

「伊勢守様に伊豆守殿か・・・やはり信じられぬ。」
宗厳は景兼の隣に腰を下ろす。
「あの顔と声、太刀筋はまさしく叔父上に宗治様だった・・・。」
「さすれば・・・伊勢守様も伊豆守殿も既に・・・」
「考えたくはありませぬが・・・」
景兼は立ち上がると庭を歩き始めた。
「叔父上、宗治様を倒しその力を奪った者・・・でしょう。」
立ち止まると天を仰いで嘆息する。
「いずれはまた大きな戦の際にその者たちは現れるだろうな・・・まあ腕が治ったからワシに任せておけ。」
宗厳は笑みを浮かべて景兼を見つめる。
「お願いいたします・・・。」
「ああ・・・それではしばらく柳生は豊五郎に任せてワシは大輔殿のところに行くとしよう。」
宗厳は息子の厳勝を伴って柳生を出ていった。

「・・・。」
景兼は見送った後、胤栄が眠る部屋に入っていった。
あれからずっと目覚めることなく昏睡状態の胤栄。
高弟の魁雲、翔雲が毎日看護を続けていた。

胤栄殿・・・私はあの者共とどのよう戦えばいいのでしょうか・・・

景兼の脳裏に浮かぶのは紫恩、青彪、緑霊、白虎、そして信綱と宗治に顔を変えたあの謎の男。
目覚めぬ胤栄にただ心の中で問いかけるのであった。


数日後、摂津国芥川山城。

「ほう・・・どのような面持ちで来るかと思えば神妙よのう。」
三好長免は含み笑いを浮かべて問いかけている。
その先には松永弾正久秀がいた。
「昨今の非礼の数々・・・誠に申し訳ございませぬ。」

ひたすらに平伏するだけの久秀。
それを見て長免は優越感に浸りきっていた。

「それで山田大輔を共に討って欲しいということじゃな・・・。」
その長免の言葉を傍らで聞いていた三好長虎は久秀を睨む。

自分の力が及ばぬと分かれば平気で敵にも頭を下げよる・・・

「父上、ワシは山田と戦うのは反対じゃ。」
長虎の言葉に思わず慌てふためく久秀。
「ワシはあの男を知っておる。戦うよりも配下にすれば良い。」
「なんですと・・・長虎・・・さま・・・」
「何やら人材の宝庫のようだしな。」
「そうか・・・まあ政康と友通にも相談せねばなるまい。久秀、ご苦労じゃった。また使いでもよこそう。」
長免の言葉に平伏する久秀。しかしその目は憎しみの炎に燃えていた。

帰路につく久秀たち一行を見つめる長虎。

ワシの目はごまかせんぞ・・・久秀。

その遠くからの長虎の視線に気付いた久秀。

長虎・・・邪魔だてしおって・・・覚えておれ!!

そのまま久秀は大和の国に帰らずに何処かへと向かっていった。
この久秀の行動が更なる混沌を生み出すことになる。


「おお・・・凄い行列だな。」
多聞山城下に戻ってきた私と五右衛門は茶屋娘劇場に出来た行列に驚く。
「殿さまは戦よりも商売の方が向いているよな。」
「私もそう思うんだけどね・・・。」


平和な光景に思わず心が安らぐ私であった。
様々な陰謀が渦巻き、私を飲み込んでいこうとしている。
このときは全く気付きもしなかったのであった。
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