マイホーム戦国

石崎楢

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第54話:戦国時代でアイドルをプロデュースしてみました

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激動の一年も幕を下ろし、迎えた1567年。
私たちは貝那木山城から多聞山城に居を移した。

城内の大手門裏手に小さな廟が建てられている。
その前で美佳が手を合わせて拝んでいた。

九兵衛・・・あなたが死んだと聞かされた時・・・
不思議とあまり涙が出なかったんだ・・・
それはね・・・
ただあなたが死ぬなんて信じられなかったの・・・
今は・・・悲しいより寂しい・・・かな。


「美佳様、毎日拝んでいるな・・・。」
「ああ・・・何とか元気出してもらわないと・・・」
一馬と義成がその様子を見つめている。
純忠と慎之助、源之進も複雑そうな表情を浮かべていた。

そこに城の門番が美佳に駆け寄っていくのが見えた。
「なんだ・・・?」「いくぞ!!」
一馬達は美佳の下へ急ぐ。

「いかがされましたか、美佳様?」
純忠が聞く。
「え? 大丈夫・・・あたしにお客様だって・・・。」
美佳は笑顔で答えると門番に言った。
「その人を通してください。」
「はッ!!」

そして門番が連れてきたのは一人の少女だった。
「なんだ・・・可愛いぞ・・・。」
慎之助はその少女を見つめて思わずつぶやく。
「うんうん・・・ヤバいかもしれぬ。」
純忠もうなずく。

「美佳様!!」
「おりん!!」
二人は抱き合って喜んでいる。
結婚して宇陀の地を離れたはずのおりんが美佳に会いに来たのだ。
「どうしたのよ・・・おりん、こんな遠くまで?」
美佳の言葉におりんはうつむくと
「・・・美佳様ぁ~!!」
美佳に再び抱きついて大声で泣きだしたのだった。


多聞山城の本丸御殿。
「凄い・・・何よこれ♪」
おりんは目を輝かせながら御殿の中を見回す。

多聞山城の本丸御殿はまさしく豪華絢爛であった。
金箔の塗られた柱や壁には至る所に障壁画が描かれている。
「パパは落ち着かないって言っているよ・・・宇陀川城に帰りたいってね。」
美佳は御殿の中の一室におりんを連れて行った。

「おりん・・・どうしたの?」
「美佳様、わたしは逃げてきたのです・・・嫁ぎ先から。」
おりんは涙を浮かべながら美佳に語り始めた。

「なるほどね・・・。」
「お父は逃げてきたわたしを勘当しました。」
「・・・。」
「それでも本当に好きだと思える人と添い遂げたいのです。」
「わかるよ・・・。」
「まだわたしはそんな人と出会えていないのです。」
おりんは訴えかけるような眼差しで美佳を見つめた。

そうか・・・

部屋の外で話を聞いていた私は部屋の戸を開けた。

「話は聞いたよ・・・ってぶべ!?」
開けた瞬間に美佳の回し蹴りが炸裂した。
「年頃の娘の部屋は勝手に入らないの・・・デリカシー無さすぎ!!」
「や・・・山田の殿様・・・。」
驚くおりんを尻目に涙と鼻血を流しながら吹っ飛んでいく私であった。


そして本丸の大広間。
「・・・ということで宗久殿。おりんをお願いします。」
私は頭を下げる。

「いやあ、こちらとしては助かりますわ。こんな別嬪さんが働いてくれればお客様は倍増ですわ。」
今井宗久はすっかり茶屋経営に夢中になっていた。
遂に『茶処いまい』の二号店として多聞山城店を開店させたのだ。
茶湯の天下三宗匠の一人と謳われるはずの男が商魂丸出しになっている。
確実に私のせいでこの男の歩むべき人生は変わっている。
まあ・・・いいか♪

「それにしても宗久殿・・・」
「なんでございましょう?」
「茶屋娘(ちゃやむすめ)っていい響きだよね。」
私は遂に思いをぶちまけた。
「それをあえて茶屋っ娘(ちゃやっこ)と呼んでみましょうか。」
「・・・」
「しかも『。』を付けて・・・茶屋っ娘。というのはどうでしょうかね。やっぱりね・・・『。』は必要だよね。」
「・・・」
宗久は何が何だかよくわかっていないようだ。

「そうか・・・アイドルだね・・・パパはアイドルを作りたいんでしょ?」
「さすが美佳・・・私の娘だ。」
「パパって昔さ、●ー娘。のヲタだったんだよね?」
「そうねえ・・・センターりかっちを夢見ていてねえ・・・叶ったんだよね・・・『THE ●~ス!』でね・・・」

なんのことかわかりません・・・山田様。

宗久はただ座っているだけ。
おりんは何だか楽しそうな予感に笑顔を見せている。

「もし曲が必要ならわたしが書くわ♪」
朋美がやってきた。
「そうだな・・・朋美は大学の時って軽音だったんだよね?」
「そうなのよ。」
朋美はおもむろにエアギターを始める。
「ママってギターなの?」
「ドラムよ♪」
美佳はズッコケた。

「どんなジャンルやっていたの?」
気を取り直した美佳が再び聞く。
「え~とね・・・カー●スっていうバンド知ってる? リヴァプールの残虐王って言われたバンドなんだけどね・・・それをポップにした感じ♪」

わけわかんねえよ・・・朋美さんワールドスゲーよ。
さすがの私もドン引きです。

「じゃあ・・・あたしが振付け決めるね・・・早速明日からオーディションだ!!」
美佳はおりんの手を握る。
「よくわからないけど楽しみ♪」
「おりんはセンターよ。」
「本当によくわからないけどなんか嬉しい♪」
「でしょ♪」

こうして『茶屋っ娘。』プロジェクトが始動した。
翌朝、城の大手門前に立札がたった。

求ム、齢十五から二十までの健康で器量よしの娘。
詳しくは『茶処いまい』まで・・・

そして数日後、多聞山城二の丸にて茶屋っ娘。オーディションが開かれた。

「茶屋っ娘。1期生オーディション!!」
私の声と共に笛や琴が艶やかに奏でられる。
なんか違う気がするが、時代が時代なので仕方ない。

「本日の審査員を紹介します!!」
あ~なんか私のテンション高いねえ・・・
まあ観ているのは一馬達と抽選で選ばれた百名の兵たちだったりする。
内輪ノリだが気にしないぞ。

「審査員の明智光秀さんです。」
光秀は立ち上がり頭を下げる。

「審査員の石川五右衛門さんです。」
五右衛門は立ち上がると叫んだ。
「盛り上がっているかァァァァァァ!!」
「おおォーッ!!」
会場のテンションがアゲアゲですな。

「審査員の赤埴信安さんです。」
久しぶりの赤埴信安はただとまどっているだけだった。

わたしは何でここにいる?

そしてここからスペシャルゲスト。
「特別審査員の北畠フトシくんです。」
「フトシじゃないブヒ!!」
北畠具房は怒っている。
「失礼いたしました・・・北畠具房さんです。」
「よろしくブヒ!!」

すると何故かブーイングが巻き起こる。

「酷いブヒ・・・完全アウェイだブヒ。」
具房は涙目になっていた。

「そして審査委員長は北畠具教さんです。」
北畠具教は立ち上がると両手を上げる。

「大御所!! 大御所!!」
大御所コールが響き渡る。
さすが一代で伊勢北畠家の隆盛を築き上げた男・・・大人気だ、カリスマだ。

こうして始まったオーディションは笑いあり涙ありであった。
予定の時間をオーバーしたが遂に1期生が決まった。

「茶屋っ娘。1期生は・・・おりん!!」
おりんは涙ぐみながら笑顔で観衆に手を振る。

うん・・・ヤラセですな。

「おせん。」「お福。」「お彩。」「お静。」
次々と私に呼ばれる娘たち。

「みんな可愛いねえ・・・。」
「なんかこういうのいいよな。」
源之進と純忠が語り合っている。
「・・・なんだ・・・この応援したくなる気持ちは・・・」
一馬は興奮を抑えられないようだ。
「わかるよ・・・わかるって・・・」
慎之助は興奮のあまり震えている。

なんだ・・・なんだよ・・・これ?

義成だけは素であった。

「以上・・・この五名が『茶屋っ娘。』に決定しましたァ!!」
「ウオォォォー!!」
会場のテンションはMAXだ。

「そしてデビュー曲が決まりました。」
私の声に会場が静まり返る。

「曲名は茶柱standingです!!」
「ウオォォォー!!」

こうして茶屋っ娘。はデビューが決まった。
とは言っても戦国時代なので電気もなけりゃ音源も作れない。
それならば・・・
茶処いまい多聞山城店の隣に茶屋娘劇場を建てた。
ここで茶屋っ娘。は週1回の定期公演をすることになるのだ。

さあこれから茶屋っ娘。を全国展開していくぞ。
私は心に強く誓ったのだった。
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