マイホーム戦国

石崎楢

文字の大きさ
66 / 238

第59話:風魔現る

しおりを挟む
夜、無言で神戸城を見つめる柴田勝家。
その背後には四人の男が控えていた。

「柴田殿・・・もう失敗は許されませんぞ。」
その中の一人が口を開く。
「わかっておる・・・小太郎殿。」
勝家の身体から闘気が溢れている。
小太郎と呼ばれた男はその威圧感を感じ取るとほくそ笑んだ。

死ぬ気でやってもらわねば困るのだ。
わざわざ私がここまで来ているのだからな・・・

この男は風魔小太郎。
忍び集団風魔一党の頭領である。

「明日は必ず山田の軍を打ち破る・・・見ておれ!!」
勝家は大声を張り上げた。
小太郎以下控えている男たちはそれぞれが笑みを浮かべていた。


その頃、神戸城と滝川・柴田軍の中間地点。
気配を消しながら数人の影が動いていた。

若君の戦術は恐ろしいもんだね。

焔の陣内が何かを仕掛けていた。

「陣内様、終わりました。」
忍びたちが集まってくる。
「ご苦労・・・明日は大量の花火の打ち上げだな・・・」
陣内は夜空を見上げた。

全く美しさを感じさせない花火だけどな・・・。


そして夜が明けた。

「これはびっくりだよ・・・。」
岳人は思わずつぶやいてしまった。
滝川・柴田軍が隊列を整えて進んでくる。
その兵の数はこちらの倍以上はあるのではないか?

「でもね・・・ここでやらないと歴史の流れに屈することになるからね。」
そんな岳人の独り言を傍らで聞く光秀。

「石川殿・・・若君を頼みます。」
「承知してるって!!」
五右衛門はいつの間にか岳人の前に立っていた。

「光秀さん、軍の展開を!!」
「ははッ。」
岳人の命を受けて、光秀は将兵に指示を与えていく。

城の正面に陣を構えた山田軍。
更に神戸軍と大宮吉守率いる北畠軍も城から出ると山田軍に合流した。

神戸具盛は岳人の顔を見つめている。

聡明な顔をされている・・・。

「神戸殿、どうかされましたか?」
「いえ・・・岳人殿もそろそろ考えられる御年かと思いまして。」
「・・・!?」
具盛の言葉に首をかしげる岳人。
「若君・・・嫁を娶る頃ではないかということですぞ。」
光秀は言うと笑みを浮かべた。
「・・・!?」
岳人は顔が真っ赤になるも、
「そのような話は戦いの後ですよ・・・。」
すぐに冷静な口調になり、敵軍の動向に目をやる。

そろそろだね・・・

岳人は五右衛門に目配せをする。

了解!!

五右衛門は指笛を三回吹いた。


「あの程度の兵力とはいえ、注意せねばならぬ。」
勝家は神戸城の前に陣取る山田軍、神戸・北畠軍を見据える。

鉄砲の性能は向こうが上だが、数では圧倒的に我らが上だ。

滝川一益は前面に弓隊、鉄砲隊を展開していた。

数で潰すしかない、多少の犠牲は止むを得まい。
ただここで敗北したとなると柴田殿は無論のこと、私まで立場が危うくなる恐れがあるのだ。
右翼に森可成、左翼に池田恒興をそれぞれ二千の兵で配置している。
中央のせめぎ合いに乗じて左右から包み込む。
これで負けはない・・・。

一益は勝家と目を合わせる。互いにうなずきあった。
「全軍攻撃開始じゃァ!!」
勝家の号令で滝川・柴田軍は勢いを増して攻め込んでくる。
ちょうど昨晩に陣内たちが何かを仕掛けたところに差しかかった時だった。

轟音と共に大爆発が次々と起こる。
その爆発は周囲に飛び火するかのように続いていく。
「うわあァァァッ!!」「ギャァァッ!!」
滝川・柴田軍の兵たちの悲鳴が響き渡る。

「な・・・何か起こったというのだ・・・。」
一益は思わずたじろぐ。
「大地が・・・大地が爆発しおったというのか・・・」
勝家は思わず手にしていた槍を地面に落としてしまう。

「・・・。」
勝家の背後に控えていた小太郎達もさすがに動揺を隠せなかった。

巻き上がった砂塵と爆炎が晴れると・・・
「ウオォォォォッ!!」
山田軍が突撃をかけてきていた。
次々と火を噴く鉄砲隊の攻撃に滝川・柴田軍の兵は倒れていく。
「ハッ!!」
義成は槍を振りかざして次々と敵兵を薙ぎ倒していく。
その中で光秀は先陣を切って一益と勝家がいる本陣に突撃していた。
「光秀様・・・先行しすぎでは!!」
純忠と慎之助も続いている。

おのれ・・・何がどうなっておるかわからんぞォ・・・

光秀の前に勝家が立ちはだかった。
「ワシが織田家家臣の柴田勝家じゃ!!」
「山田家家臣明智光秀・・・柴田殿のお命頂戴いたす!!」
光秀と勝家は互いに槍を振るう。
正史では織田四天王として並び称された明智光秀と柴田勝家。
この二人が命の取り合いを始めたのである。

これは参った・・・どうすれば良いのやら・・・

一益はただうろたえているだけだった。
そこに慎之助が襲い掛かる。

「名のある方と見受けられる・・・我が名は山田家家臣長滝慎之助なり!!」
その槍の一撃が一益を貫いた・・・と思いきや
「なんとォ!?」
後方に一回転して攻撃を回避した。
「もうヤケクソじゃ・・・貴殿の首を獲って殿への弁明の材料にするぞォ!!」
一益は刀を抜くと目つきが変わった。
禍々しいオーラを感じて慎之助はたじろぐ。

この真冬に冷や汗かよ・・・ヤバいかもな・・・
しかし、その目は輝きに満ちていた。

一馬や義成のような武功が欲しい・・・
なんか負けている感じがするからな・・・それだけはゴメンだぜ!!

慎之助は馬から飛び降りるとそのまま槍の穂先を一益に向けた。
その顔には不敵な笑みが浮かんでいる。

「小僧・・・いい度胸だ。冥途の土産に教えてやろう。私は織田家家臣滝川一益だァァァァッ!!」
一益は叫ぶと慎之助に飛びかかっていった。

その向こう側では・・・
純忠の鉄鏈の前に敵兵は手も足も出ない。
爆発での混乱もあり、まさしく縦横無尽に純忠は敵陣を駆け巡っていた。

「・・・きたかァ!!」
純忠は突然飛んできたクナイを次々と弾いていく。
その視線の先には風魔小太郎が無表情で立っていた。

「鉄鏈か・・・。」
小太郎は純忠を見つめる。
「忍びか・・・甲賀か?」
「オマエの師の名は白虎か・・・。」
突然の小太郎の言葉に純忠は驚く。
「何故・・・我が師の名を・・・」
「なるほどな。山田家に弟子が何人かおると言っていたがその一人か。」
小太郎は鉄鎖を両手に持つとグルグルと回し始めた。

「何故・・・白虎という名を知っておるのかと聞いているんだよォ!!」
純忠は鉄連を変幻自在に操り小太郎を追い詰めていく。
「強いな・・・。」
小太郎はそう言いながらも鉄鎖を鉄連に絡める。
「てめえェッ!!」
「そうそう・・・本気で来ないとお師匠さんが悲しむぞ。」
語気を荒める純忠に対し小太郎はひたすら挑発を繰り返すのだった。


「何ということだ・・・」「これはマズイぞォ!!」
本軍が危機に陥っている状況を知った池田恒興、森可成の両軍は滝川・柴田軍に加勢するために移動を始めていた。
そこに横から奇襲をかける神戸軍と北畠軍により大乱戦状態となっていた。

「僕も行くよ。」
本陣の岳人が馬に乗ろうとするが、五右衛門が遮った。
「待てって若様・・・ちょっと行ける状況じゃないってこと。」

そう言った五右衛門の視線の先には三人の男がいた。

これは・・・危機的状況じゃないの・・・

五右衛門は長刀を抜くと眼光鋭く三人を威嚇する。

「我が名は風魔一党の廖鬼。」
一人がその背から大刀を手にした。

「同じく醜鬼。」
もう一人は両手に手斧を持つとぐるぐると回し始める。

「同じく巖鬼。」
最後の一人は多節昆を両手に得物として持っていた。


「風魔・・・あなた方は北条家の忍びではないのですか?」
岳人は怖気づくこともなく強い口調で三人に問いかける。

「・・・ワハハハハハッ!!」
三人は顔を見合わせると笑い出した。

「凄いのう・・・山田の若君は♪」
醜鬼はそう言うと手斧を岳人に投げつけた。

「!!」
しかし五右衛門がそれを素手でキャッチする。
それを見るとさすがに風魔の三人の表情が変わった。

「貴様を仕留めて山田の若君の身を預からせてもらおう。」
廖鬼は言うと醜鬼、巖鬼と共に五右衛門を囲んだ。


さすがの五右衛門も危機的状況である。
果たして岳人を守り切ることができるのであろうか。

しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん
ファンタジー
 戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。  3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。  家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。  そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。  こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。  身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

処理中です...