マイホーム戦国

石崎楢

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第75話:大和合戦(7)第2次龍田城の戦い

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大和国龍田城。
度重なる松永軍との小競り合いで兵たちは疲弊していた。

「我らの相手がある意味で一番厄介かもしれぬ。」
慈明寺順国は具足を外すと座り込んだ。
「戦慣れしている松永弾正。その裏には三好政康が控えている。」
井戸良弘は肩や膝に手傷を負っており治療を受けながら話に加わっている。

徐々に削られていく・・・将も兵も肉体以上に精神的に追い詰められている。
これが松永の戦か・・・。

義成は腕組みをすると天を仰いだ。

そこに援軍の報が入った。
「山田家より芳野一馬殿が援軍に参られました。」

一馬は大広間に通されるも疲弊した順国たちを見て言葉を失う。
「一馬、ご苦労さん。」
「ああ、木津城行って多聞山城に戻ってからの龍田城だ。」
義成と一馬は互いに手をパチンと合わせた。

「芳野殿、ご苦労であった。頼りにしておりますぞ。」
「はッ!!」
順国の言葉に一馬は平伏する。
「慈明寺様、大和に織田からの援軍が参りました。準備が整い次第、山田は三好長免と決戦になります。」
一馬の言葉に一同驚きの表情を浮かべた。

「織田・・・尾張から援軍・・・」
「はッ。殿は織田信長と友好関係にあります。また越前の朝倉や若狭の武田、近江の六角、紀伊の畠山にも何やら書状を送ったようです。それぞれに動きがあるかと。」
一馬の話を聞く順国。徐々に表情が和らいでいく。

山田殿は恐れを知らぬというのか・・・三好を包囲するというのか・・・
いや・・・まさか・・・。

順国は目を輝かせながら一馬を見つめる。
一馬はその意図を読み取り笑顔でうなずく。

「よし・・・我らも・・・」
「慈明寺様、お待ちください。私に策がございます。」
義成が順国を止めた。
その表情は自信に満ち溢れていた。


龍田城を望む位置に陣を張る松永軍。
そこに三好政康の軍が信貴山城から下りてきた。

「そろそろだな。」
「はい、龍田城の筒井の兵たちは虫の息ですぞ。」
三好政康と松永久秀は二人並んで龍田城を眺めていた。

「長免殿は動いておらぬ。此度の戦を舐めておるだろう。岩成は山城で未だに足止めを喰らっておる。長虎がついておりながらな。」
政康は久秀に言う。
三好長虎が捕らわれたことは三好長免にも政康にも伝わっていなかった。

「まあ長免様は謀略専門、岩成様は勢いだけの御方。いた仕方ないこと。」
久秀は含み笑いを浮かべると政康の耳元で囁いた。
「武人として誇り高き政康様こそ、三好をまとめるべき存在かと。」
「たわけが・・・。」
政康は久秀の言葉を一笑に伏した。
しかしその表情は何かが芽生えたかのよう。

おお・・・やはりまんざらでもないようじゃのう。武人の誇りばかりでただ長免と友通についていくだけの男が・・・。

久秀は政康を見るとニタリといやらしい笑みを浮かべるのだった。


1567年6月25日。
三好政康・松永久秀の両軍は龍田城に総攻撃を開始した。

「ん・・・止まれィ!!」
久秀は龍田城の様子がおかしいことに気づいた。

大手門が開いたままである。
城内には旗がたなびいてはいるが、どうにも様子がおかしい。
物見櫓にも人影はあるが、人らしい動きを見せていない。

「・・・もしや・・・秀勝はおるか?」
「はッ・・・ここに。」
久秀に呼ばれて現れたのは松永家家臣竹内秀勝。

「龍田城に突入じゃ。五百の兵を与えるぞ。」
「たった五百であの城を・・・」
「なあに・・・奴らは既に逃げておる。多分、昨夜のうちにな。姑息にも空城の計なぞしよるとは。」

そして竹内秀勝率いる松永軍五百は龍田城へと近づく。
全く攻撃される気配がない。

「ありゃ案山子じゃ・・・よく出来た案山子じゃ!!」
城内の物見櫓の人影を見た兵たちがざわめく。

「よし・・・。」
竹内秀勝は久秀の本陣に合図を送る。

「やはりな。政康様、お先に龍田城に入っておりますぞ。」
松永軍が先行して進軍を始めた。
「狭い城じゃ我が軍では入りきらん・・・。」
政康は険しい表情で久秀の後姿を睨んでいた。

先行する竹内秀勝と手勢五百は大手門を通り抜けた。
その瞬間・・・
「罠じゃあァァァ!!」
秀勝の叫び声と共に龍田城内からけたたましい程の銃声が鳴り響いた。

そして大手門から逃げ惑う松永軍の兵たち。
その後を追いかけてくるのは慈明寺順国率いる筒井軍。

城内では竹内秀勝とその家臣たちが無残な最期を遂げていた。

「やりおったなァ・・・慈明寺順国!!」
久秀は怒りを露わにする。
そこに南の方角から攻めてくる軍勢が見えた。

「さあ・・・松永弾正ォ。禊の時間だァ!!」
片岡城城主の筒井家家臣片岡春利が三百の兵で突撃をかけてくる。

「年貢の納め時だ!!」
北の方角からは回り込んでいた一馬と義成率いる山田軍五百が攻め込んできた。

「いたぞ・・・弓矢小僧がァァァ!!」
飯田基次が松永軍の中から飛び出してきた。

「おっと・・・義成じゃなくて私が相手いたす。」
一馬が基次の前に立ちはだかった。
「退けィ!!」
大刀を振りかざし基次は一馬に襲い掛かった。
一馬はその一撃をかわすとすぐさま双槍で反撃。

なんと・・・双槍だと・・・

基次は一馬の自在な槍さばきに翻弄される。

「ならばァ!!」
基次は右手に大刀、左手に刀を手にする。

私がどれだけ強くなっているか・・・試すにはもってこいの相手♪

一馬は目を輝かせながら双槍で基次を威嚇。
基次も笑みを浮かべる。

強いな・・・あの弓矢小僧といいこの双槍の小僧といい・・・楽しいぞォ♪

両手に得物を手にした一馬と基次の一騎打ちは激しくも鮮やかであった。
千手観音の如き両者の手数に松永久秀も思わず見入ってしまっている。

そんな中、次々と弓矢で松永軍の鉄砲隊を射抜いていく義成。
更に山田忍軍の忍びたちも鉄砲隊を狙って次々と襲い掛かっていた。

「頃合いだァ!!」
義成の命令で兵が狼煙を上げる。

すると龍田城の向こうから砂塵を上げて現れる軍勢。
その先頭を切るのは筒井順慶。
両脇を松倉重信と森好之が固めている。
筒井軍本軍二千が到着したのだ。

これは窮地ではないか!!

久秀は焦りを隠せないままに何とか陣形を立て直そうとする。
しかし、混乱した松永軍は完全に統制を失っていた。

これではさすがに松永も死ぬじゃろう・・・

三好政康は撤退の合図を出した。
「全軍退けィ!!」
久秀の号令で松永軍は一斉に退却していった。

「チ・・・小僧。名はなんと申す?」
基次は一馬の双槍の攻撃をかわしながら問いかける。
「山田家家臣芳野一馬。」
一馬は更に攻撃の手を強める。
基次は受け流しながら逃げるタイミングを計っていた。
「ワシは飯田基次じゃ。そしてあの弓矢の小僧は?」
「あの者は山田家家臣高井義成。」

なるほど・・・あれが諸木野弥三郎を討ち取った・・・

基次は大刀を振りかざすと一馬の馬の顔を平打ちする。

ブヒヒーン!?

激痛に飛び上がる馬に驚く一馬。
その隙に基次は馬首を転じて逃げていった。

なんとか馬をなだめた一馬は大きなため息をついた。

世の中は広い。まだまだ強い者はいるってことだ。
もっと・・・もっと強くならねば。

そんな一馬の隣に義成はやってくると背中をポンと叩いた。

「お疲れ!!」
「ああ・・・まだまだ足りないけどな。」
「私もだ・・・。」
二人は顔を見合わせるとお互いに肩を叩き健闘を讃え合うのだった。


撤退する三好・松永軍を見つめる筒井順慶。

大輔殿が外交、そして軍事であれだけ頑張っておられる。
私に出来ることはその思いを汲んで戦うのみ!!

「次の戦いでケリをつけるぞ・・・重信、好之。絶対にここで防ぐ。」
「はッ!!」「大和の民の為にも!!」
順慶の覚悟は重臣二人にも強く伝わっていた。


こうして龍田城を舞台にした二度目の大きな戦いも筒井軍の勝利に終わった。
そして次に待ち受けるのは更なる大きな規模の戦いであるという予感。
筒井順慶の心は絶対に負けられない戦いという覚悟で打ち震えていたのだった。

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