マイホーム戦国

石崎楢

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第76話:大和合戦(8)富雄川の戦い 前編

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1567年6月23日、富雄川沿いの山田軍本陣。

「準備万端だね。」
岳人が満足げな表情で三好軍の陣を眺めている。
新型の大砲を10門と共にに前線にやってきたのだ。

「これは一体?」
本多正信は大砲をいぶかしげな表情で見る。
多聞山城にあったものと比べると砲身も短く小さめである。

「榴弾砲だよ。」
「りゅうだん・・・ほう?」
首をかしげる正信。
「城にあるのは攻城戦用。これは言いにくいんだけど・・・対人・・・人を殺めるための大砲というのは言い過ぎかもしれないけど。」
岳人は榴弾砲を触る。

「私は死んだら確実に地獄行きだよね・・・。」
自嘲気味につぶやく岳人。
「その際はお供しますぞ。」
正信がひざまずいて頭を下げる。

「若君・・・。」
なずなたちくのいち五人衆は悲しげな表情で岳人を見つめていた。
「なずな殿、私たちが絶対に若君を死なせはしないから安心してくれ。」
岳人に同行してきた大雅が声をかける。
「ええ・・・私たちも同じですわ。」
なずなたちはうなずいた。


その頃、三好軍の篠原長房は三千の兵を率いて南下していた。
矢田峠を越えて攻め込むという策であった。

「伏兵に気をつけろ・・・。」
篠原長房の指示で急がずに慎重に狭い峠を越えた三好軍。
やがて平野部へと下り立つと・・・

「止まれ!!」
長房は進軍を止めさせる。その視線の先には敵の軍勢が見えていた。


「岳人の予想通りだ。」
待ち受けていたのは宝来城から出陣した義輝。
「あんなに狭い峠をよく越えてきましたね。」
「時間をかけてきただろう。まあご苦労さまということだな。」
元規と英圭はそれぞれ得物を手にすると義輝を見た。

「元規、英圭。」
「はッ」「いかがされましたか?」
「あれは阿波の篠原長房の軍勢だ。あの男は三好の中核を担っておる。」
義輝は三好軍の旗を見ると目つきが変わった。
「なるほど・・・討ち取らなければならない相手ですね。」
「ああ。兵力差はあるがやるしかないぞ・・・腹をくくれよ。」
「わかっております。」
元規と英圭も気合十分で敵軍を見据える。


「山田軍はおよそ一千か・・・何があるかわからんが・・・攻撃開始じゃァ!!」
篠原長房の号令と共に三好軍が一斉に攻めてくる。

「小細工はいらないぞォ!!一人頭三人倒せば良い。四人倒せば楽勝だ。」
義輝は声を上げると薙刀を振りかざし先陣を切る。
「英圭殿、遅れまするな。」「元規・・・誰に口を聞いておる。」
元規と英圭も続いた。

「ウオォォッ!!」
義輝の前に三好軍の兵は次々と倒れていく。
鬼神の如き強さでまるで道が開くかのように縦に敵陣を切り裂く。

「騎馬鉄砲隊!!」
義輝の声と共に騎馬隊が飛び出し鉄砲を構える。

「騎馬に鉄砲だと・・・」「なんだあれは・・・」
三好軍の将兵は突然のことに驚く。

「撃て!!」
一斉射撃で三好軍の兵たちは次々と倒れていく。

「おのれ・・・こちらも鉄砲隊、弓隊じゃ!!」
篠原長房の家臣の命令で三好軍も鉄砲隊が前に出てくるが

「撃て!!」
先の騎馬鉄砲隊が下がりすぐに次の騎馬鉄砲隊が現れて一斉射撃。
撃つ間もなく次々と三好軍の鉄砲隊が倒れていく。
更に次の騎馬鉄砲隊が現れ三好軍の弓隊を撃ち倒していった。

「なんという統率のとれた兵達じゃ・・・」
その様子を見ていた篠原長房は嘆息した。
騎馬鉄砲隊の側には次の銃を準備する兵たちがおり、流れ作業で手渡していた。

完全に真ん中をこじ開けたところで三好軍の背後から一隊の軍勢が突撃をかけてきた。

「重友!!」
義輝は思わず大声を張り上げた。

なんと絶妙な頃合いだ・・・見事だ!!

高山重友の軍が背後に回っていたのだ。
「全軍、狙うは篠原長房の首のみ!!」
重友は槍を振りかざしいきなり敵の騎馬武者たちを単騎で血祭りに上げる。

ずっと山中の潜んでいたからね・・・雨ばかりで苦しかったけど・・・
全てはこのときのため!!

「殿に続け!!」
高山家家臣神谷久高たちも続く。
郡山城に兵を残し、二百の兵での奇襲。
しかし、宇陀の地で激戦を潜り抜けた猛者たちばかりである。
三好軍は完全に前後からの挟撃で大混乱していた。

その中で重友は大将らしき立派な甲冑を身に付けた男を視界に捉えた。
篠原長房である。

「篠原長房かァァァ!!」
重友は叫びながら槍を振りかざし長房に襲い掛かる。

「させるかァァァ!!」
家臣団が立ちはだかろうとするも
「ぐえッ!!」「ぎゃッ!!」
次々と流星鎚の攻撃を顔面に喰らい落馬していく。

「高山様。道を開けます!!」
元規の流星鎚の前に篠原長房の家臣団は手も足も出ない。

「殿を守れ!!」
鉄砲を持った三好軍の兵たちが駆けつけてくるも
「させるか!!」
英圭が鉄棒で次々と薙ぎ倒していく。

「若造がァァァ!!」
長房も槍を構えるも
「若造ではない・・・高山重友だァ!!」
重友の神速の如き槍の一突きが長房の喉元を貫いた。

「篠原長房討ち取ったりィ!! 高山重友様が篠原長房を討ち取ったぞォ!!」
英圭が大声で叫ぶ。

「殿が・・・。」「逃げろォ!!」
三好軍は統制を失いあちこちに逃げ惑い始める。

そこに義輝が駆け込んできて大声で叫んだ。
「武器を捨てて降伏しろ!!命までは取らぬぞ!!」

地面に倒れ、虫の息の篠原長房は義輝の姿を見る。

な・・・義輝公・・・生きて・・・

そしてそのまま動かなくなった。

倍以上の戦力の三好軍だが、大将を失ったことにより次々と投降していく。
見事な短期決戦による山田軍の勝利となった。

あとは義兄上・・・頼むぜ。俺たちは手筈通りに順慶と合流する。

義輝は北の方角を祈るような思いで見つめるのだった。


1567年6月25日。
富雄川沿いに私が率いる山田軍と秀吉率いる織田軍が到着した。
合わせて五千の兵で陣を展開していく。

「殿、遅かったな。」
五右衛門たち山田忍軍は既に戦闘準備を整えていた。
「五右衛門紹介するぞ。」
私が秀吉たちを紹介しようとするも

「オウ・・・。」
「ああん? なんだテメエ!!」
五右衛門と前田慶次が何故かメンチの切り合いを始めている。
お互いに戦国時代では飛びぬけた・・・いや現代でも飛びぬけてしまうぐらいの高身長同士である。
あまりの迫力にさすがの秀吉も前田利家も止められない。
「まあまあ・・・。」
景兼が止めようとするも
「なんだァ?」
慶次は景兼にも啖呵を切る。
困り顔の景兼は宗厳に振ろうとするも、当の宗厳は喧嘩寸前の五右衛門と慶次を楽しそうに見ていた。

そして超昇寺城から六兵衛が一千の軍を率いて、十市遠長も西大寺から二千の軍で合流。
更に柳生から興ヶ原助秀率いる柳生軍、興福寺からも僧兵五百の援軍が送られてきた。


次々と山田軍の陣に兵が集まっていくのは対岸の池田勝正には確認できていた。
その報告を受けて三好長免の本軍も移動を開始。
遂に富雄川を挟んで両軍がそれぞれ丘陵の上から向かい合った。


そして月が替わった1567年7月1日。
三好軍の池田勝正率いる四千の兵が丘陵を下って山田軍めがけて攻めてきた。
それに対し山田軍は明智光秀率いる三千の兵が丘陵を下っていき真っ向から立ち向かう。
遂に大和合戦における最大の戦いである富雄川の戦いの幕が切って落とされた。

池田勝正配下の荒木村重は先陣を切り、山田軍を正面から突き崩そうとする。
「させるかよ!!」
光秀の軍で先陣を切るのは源之進。

「若造がァ!!ワシは池田家家臣荒木村重じゃ!!」
「私は山田家家臣八滝源之進・・・参る!!」

源之進の二本の刀と村重の槍がぶつかり合う。
そして十合程打ち合いの後に血飛沫が上がった。

「ギャァァ!!」
荒木村重の両手首が斬り落とされた。
そのまま落馬して動かなくなった。

「荒木村重討ち取ったり!!」
源之進の声と共に山田軍は勢いを増して三好軍と渡り合う。


「まだ・・・まだ・・・撃たないよ。」
岳人は榴弾砲の発射のタイミングを待っていた。

狙うのは・・・三好長免の本軍。


「池田勝正様、劣勢でございます。荒木村重様討ち死されました。」
三好軍の本陣、三好長免はその報告に首をかしげる。

「情けないのう・・・信秀を向かわせろ!!」
三好長免の命で坂東信秀が二千の兵を率いて池田勝正の軍に加勢する。

「六兵衛・・・頼む!!」
「はッ!!お任せください!」
山田軍からは六兵衛率いる一千の兵が光秀の軍に加勢した。

戦況は一進一退。
しかし三好軍に援軍が到着した。
十河存保率いる三千の軍である。

「おいおい・・・なんか敵さん増えているぞ。」
五右衛門が三好軍の陣を眺めながら私に声をかける。
「援軍だろ・・・わかっているって。」

そして夜になると三好軍は退いていった。
しかし、そのまま光秀たちは丘陵の麓に陣を敷き臨戦態勢で待機。

「手強いですな。」
六兵衛と光秀は源之進と黒木鉄心を交え話し合っていた。
「いつもの鉄砲戦術もあれだけの大軍相手には難しい。」
「弾薬には限界があるからの・・・」

そこに伝令がやってきた。
岳人からの指示を聞くと六兵衛と光秀は笑みを浮かべる。


そして光秀たちの陣から灯りが消えた。
この戦いの行方を左右する岳人の策とは一体どのようなものなのだろうか。

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