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第77話:大和合戦(9)富雄川の戦い 後編
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日付も変わった1567年7月2日。
富雄川を挟んで対峙する山田軍と三好軍。
そんな中で山田軍の先鋒明智光秀の陣から灯りが消えた。
何をする気だ・・・
三好軍の池田勝正には光秀の動向が読めなかった。
夜襲か・・・この我らの布陣で奇襲は不可能。
逃げても追い詰めるまでよ・・・。
そのとき再び対岸に灯りがともった。
山田軍は川沿いギリギリに移動して布陣を始めている。
「ほう・・・小賢しい真似を・・・。」
三好長免は山田軍の動きに苛立つ仕草を見せる。
山田軍の兵たちが柵を次々と建てはじめているのだ。
灯りをつけて敵前で堂々と作業をしている。
されている側からすれば愚弄されているに等しい行為であった。
「おのれ・・・親興、勝正と信秀と共にあやつらを討ち取れ!!」
「はッ!!」
三好家家臣伊丹親興は二千の兵を率いて丘陵を下っていく。
池田勝正、坂東信秀もそれぞれ兵を率いてそれに続く。
「来たぞ・・・明智殿。」
六兵衛はニヤリと笑う。
「全軍撤退する!!」
光秀の号令で山田軍は作業を放り出して逃げていく。
「よし・・・榴弾砲準備!!」
岳人の指示で兵たちが準備を始める。
「手筈通りにあの灯りのところを狙うんだ。」
「ははッ!!」
逃げ惑う山田軍を追いかけて川を渡る三好軍。
立てかけの柵を壊しながら追い詰めていこうとしたときだった。
「撃て!!」
岳人の声と共に轟音が轟く。
「ギャァァァ!!」
三好軍の兵が吹っ飛ばされて倒れていく。
次々と火を噴く榴弾砲。
「なんだ・・・何が起こっておる?」
三好軍の本陣で長免はその轟音と兵たちの悲鳴に狼狽するばかり。
「なんだァ!? 罠か? 者共落ち着けィ!!」
池田勝正は必死に兵たちをなだめ混乱を収めようとしていた。
「池田殿ォ!!これは何なのじゃ!?」
そこに坂東信秀が馬を飛ばして近づいてくる。
「坂東殿。ワシにも理解でき・・・グアァァァッ!?」
言いかけた勝正の近くに榴弾砲の弾丸が飛んできた。
あまりの激痛に勝正は落馬する。
「オオ・・・な・・・なんだ・・・これは・・・」
勝正は激痛の理由に戸惑うばかり・・・手足に鉄の破片が刺さっていたのだ。
その側で愛馬が全身に破片を受けて倒れていた。
「ば・・・坂東殿・・・」
そして坂東信秀が破片まみれで無残な最期を遂げているのを見て言葉を失う。
「よし・・・反撃だ。殲滅せよォ!!」
光秀の声と共に山田軍は再び反転し、混乱する三好軍へと攻め込んでいく。
なんという戦じゃ・・・あのようなモノを大量に生産できたならば、この日ノ本を制圧することも容易ではないのか・・・
秀吉は戦況を見つめながら額の汗をぬぐった。思いもがけぬ冷や汗である。
「藤吉郎・・・これは・・・」
「又左。次の時代はこのような戦いになるのかもしれぬ。」
「ああ・・・恐ろしいモノだ。」
秀吉の言葉に利家はうなずく。
「ウオォォォッ!!」
黒木鉄心の鉄棒が唸りを上げる。
「ぎゃッ!?」
伊丹親興は兜を砕かれるとそのまま吹っ飛んでいった。
頭から血を流し逃げていく。
「伊丹親興殿を捕らえよ!!」
鉄心の声に三好軍の混乱は止まらない。
追撃を止めない山田軍の攻撃は夜通し続いた。
そして夜が明けた。
富雄川周辺におびただしい数の屍が転がっている。
降り出した雨は戦場を洗い流すかのように雨脚を強めていく。
私はいたたまれない気持ちになり胸が苦しくなった。
確かに大和を守るための戦いではある。
そしてやらなければこちらがやられるということもわかっている。
わかってはいるのだ・・・だがしかし・・・
「山田様どうされました?」
秀吉が心配そうに声をかけてきた。
「何故・・・このようなことになる。常に殺し合いではないですか・・・」
私の言葉に秀吉は目を閉じる。
そして目を開けると静か口調で語りかけてきた。
「世の中には話し合いの席につくことさえできぬ者もいるのです。誰もがわかりあえるわけではありますまい。」
「・・・。」
「ですが、私はそんな者でも話し合いの席につかせてみせたいと思っております。」
「・・・。」
「まあそのような戯言を殿に言ったら鼻で笑われるでしょうが・・・」
秀吉は天を仰ぐ。降り注ぐ雨をあえて受けながら・・・
翌7月3日。
三好軍は二手に分かれて攻撃をしてきた。
北から十河存保率いる三千の兵、西からは三好長免の本軍が横に大きく陣形を広げ、中央突破をかけてきた。
「父さん、あと各砲門は一発ずつしか撃てない。」
岳人の声に
「ああ・・・撃ったら全軍突撃する。」
私も覚悟を決めた。
「撃てぇ!!」
榴弾砲が一斉に火を噴く。
十河存保の軍に3発、三好長免の軍に7発が着弾した。
しかし、混乱しつつも三好軍はこちらに向かってくる。
「戦いを終わらせるぞォッ!!全軍突撃!!」
私の声と共に山田軍全軍が一斉に丘陵を下っていった。
「よし、我らの力を見せるときぞ!!」
興福寺の僧兵たちが中央に斬り込み奮戦する。
「心強いものだ・・・。ワシらも負けんがな。」
宗厳たち柳生勢も続いて斬り込んでいく。
そんな中、十河存保の軍が混乱をきたしていた。
「ウルァァァァッ!!」
五右衛門の剛剣の前に次々と血飛沫を上げて倒れていく敵兵たち。
「ガルルルァァッ!!」
前田慶次の大刀を一閃すると絵に描いたように敵兵たちが吹っ飛んでいく。
「ありゃ・・・獣だな・・・野獣二匹が檻から解き放たれたって感じだな。」
言うのは蜂須賀正勝。
「アンタも獣だろ?暴れてこいや!!」
槍で敵兵を突き倒しながら軽口を叩くのは浅野長政。
この二人は秀吉の家臣である。
「油断するな。三好も死ぬ気で向かってきているぞ。」
秀吉がその手の刀を一閃すると周囲の敵兵の首が次々と飛んでいく。
「ワハハハ・・・藤吉郎・・・おぬしも獣を飼い慣らしておるではないか!!」
正勝が笑いながら棍棒を振り回すとまた敵兵たちが吹っ飛ばされていく。
なんでこう藤吉郎の周りにはおかしな連中が集まるのか・・・
前田利家は馬上から次々と三好軍の騎馬隊を突き倒していく。
するとその脇で
「ぎゃぱッ!?」「ぐわあッ!?」
三好軍の騎馬隊が次々と何者かによって薙ぎ倒されていく。
その男は利家に近づくと声をかけてきた。
「槍の又左殿、お初にお目にかかります。私は山田家家臣長滝慎之助と申します。」
慎之助は一礼するとそのまま手勢を率いて突撃していく。
その鮮やかな槍捌きに思わず利家はニヤリと笑ってしまった。
ああ・・・この者も手練れか・・・どうにも血が騒ぐ・・・
血が騒ぐ戦場じゃァァ!!
利家の目つきが変わった。野獣のような目つきで単騎で三好軍に突撃していく。
通り過ぎた後には次々と三好軍の屍が転がっていった。
「三好長免はどこだ!!」
六兵衛は大刀を振るいながら三好軍の奥深くまで斬り込んでいた。
「見つからんのう・・・絶対に贅沢な恰好をしておるはずじゃ。」
鉄心も六兵衛と共に続いていたが本陣付近でも三好長免を見つけることができないのである。
十市軍は三好軍の本軍と交戦していた。
「大和は我らの国だァ。誇りにかけて守るのだァァ!!」
「オウッ!!」
十市遠長の声と共に増々士気を高揚させて三好軍を追い詰めていく。
その頃、三好長免は側近たちを連れて丘陵上の安全な場所に避難していた。
「なんということじゃ・・・ワシが負ける・・・」
力無くうなだれているところに急使がやってきた。
「一大事でございます!! 飯森山城陥落!!」
「な・・・なんだとォ・・・言っておることの意味がわからぬ。」
長免は急使の胸倉を掴む。
「箸尾高春が二千の兵で飯森山城を急襲。三好義継様は高屋城へとお逃げになられました。」
意味がわからぬ・・・何がどうなっておるのじゃ・・・
河内飯森山城では箸尾軍が勝ちどきを上げていた。
「よくもまあ勝てたものだな。」
箸尾高春は家臣たちと酒を酌み交わしながら勝利の余韻に浸っていた。
飯森山城を守る三好軍は手強かった。
三好家当主はあくまでも三好長免ではなく三好義継である。
必死の抵抗に遭いながらも何とか攻略に成功したのだった。
「くッ・・・退くぞ。全軍退却だ!! 、南に向かい政康と弾正と合流する!!」
長免は大声で叫ぶと一目散に逃げていった。
三好軍はそのまま富雄川沿いに南下して逃げていく。
「私はどうすれば良いのじゃ・・・。」
十河存保はまだ齢十三の子供である。
「我らはこのまま摂津へと退却しましょう。」
家臣の赤沢宗伝が進言する。
そこに前田慶次が乱入してきた。
「大将さんはどいつかねえ?」
群がる家臣団を大刀で次々と仕留めていく。
「ひいィィィ・・・。」
存保は腰を抜かして動けない。
「殿・・・お逃げくだされ!!」
宗伝がその前に庇うように仁王立ちした。
その背後で存保は泣きながら叫ぶ。
「う・・・動けない・・・誰かァァァ!!」
その様子を見て慶次は冷酷な表情に変貌すると大刀を構えた。
「この時代に生まれたことを呪うのだな・・・」
「さ・・・させんぞォ!!」
宗伝は刀を抜くと必死の形相を見せた。
「ならば二人まとめて・・・仲良くあの世で大名ごっこでもするんだなァ!!」
慶次の大刀が振り下ろされる。
「!!」
しかし、その大刀は受け止められた。
「貴様・・・。」
「子供に手を出すな・・・大将とはいえ怯えてるだろうが。」
五右衛門の刀が慶次の大刀をしっかりと防いでいた。
「おい・・・アンタら・・・素直に降伏しろって。」
「なんと?」
五右衛門の言葉に驚く宗伝。存保はひたすらうなずいている。
「俺んとこの殿さまは絶対に悪いようにしない。山田大輔はそういう男だぜ♪」
「フン・・・くだらん・・・茶番だな。」
慶次は大刀を投げ棄てると何処かへと立ち去っていった。
「悪いな・・・俺と殿様は甘ちゃんなんだよね。」
五右衛門は刀を鞘に収める。
なんて馬鹿力だ・・・俺の手がまだ痺れている。
五右衛門と慶次はお互いに震える自分の手を見つめていた。
戦場の至る所で山田軍、織田軍、十市軍の勝ちどきの声が響き渡っている中、
「勝っちゃったね・・・景兼。」
「そうですな。大勝といっても過言ではないでしょう。」
私と景兼は喜びよりも安堵感に浸っていた。
その側で岳人は既に次を見定めていた。
兵を休ませたら次は清興さんを助けにいかねば。
こうして大和合戦における最大の戦いとなった富雄川の戦いは幕を閉じた。
十河存保の軍の降伏と三好長免軍の撤退により私たちの勝利という結果である。
しかし、戦いはまだ残っている。
まだ大和合戦は終わらない・・・。
富雄川を挟んで対峙する山田軍と三好軍。
そんな中で山田軍の先鋒明智光秀の陣から灯りが消えた。
何をする気だ・・・
三好軍の池田勝正には光秀の動向が読めなかった。
夜襲か・・・この我らの布陣で奇襲は不可能。
逃げても追い詰めるまでよ・・・。
そのとき再び対岸に灯りがともった。
山田軍は川沿いギリギリに移動して布陣を始めている。
「ほう・・・小賢しい真似を・・・。」
三好長免は山田軍の動きに苛立つ仕草を見せる。
山田軍の兵たちが柵を次々と建てはじめているのだ。
灯りをつけて敵前で堂々と作業をしている。
されている側からすれば愚弄されているに等しい行為であった。
「おのれ・・・親興、勝正と信秀と共にあやつらを討ち取れ!!」
「はッ!!」
三好家家臣伊丹親興は二千の兵を率いて丘陵を下っていく。
池田勝正、坂東信秀もそれぞれ兵を率いてそれに続く。
「来たぞ・・・明智殿。」
六兵衛はニヤリと笑う。
「全軍撤退する!!」
光秀の号令で山田軍は作業を放り出して逃げていく。
「よし・・・榴弾砲準備!!」
岳人の指示で兵たちが準備を始める。
「手筈通りにあの灯りのところを狙うんだ。」
「ははッ!!」
逃げ惑う山田軍を追いかけて川を渡る三好軍。
立てかけの柵を壊しながら追い詰めていこうとしたときだった。
「撃て!!」
岳人の声と共に轟音が轟く。
「ギャァァァ!!」
三好軍の兵が吹っ飛ばされて倒れていく。
次々と火を噴く榴弾砲。
「なんだ・・・何が起こっておる?」
三好軍の本陣で長免はその轟音と兵たちの悲鳴に狼狽するばかり。
「なんだァ!? 罠か? 者共落ち着けィ!!」
池田勝正は必死に兵たちをなだめ混乱を収めようとしていた。
「池田殿ォ!!これは何なのじゃ!?」
そこに坂東信秀が馬を飛ばして近づいてくる。
「坂東殿。ワシにも理解でき・・・グアァァァッ!?」
言いかけた勝正の近くに榴弾砲の弾丸が飛んできた。
あまりの激痛に勝正は落馬する。
「オオ・・・な・・・なんだ・・・これは・・・」
勝正は激痛の理由に戸惑うばかり・・・手足に鉄の破片が刺さっていたのだ。
その側で愛馬が全身に破片を受けて倒れていた。
「ば・・・坂東殿・・・」
そして坂東信秀が破片まみれで無残な最期を遂げているのを見て言葉を失う。
「よし・・・反撃だ。殲滅せよォ!!」
光秀の声と共に山田軍は再び反転し、混乱する三好軍へと攻め込んでいく。
なんという戦じゃ・・・あのようなモノを大量に生産できたならば、この日ノ本を制圧することも容易ではないのか・・・
秀吉は戦況を見つめながら額の汗をぬぐった。思いもがけぬ冷や汗である。
「藤吉郎・・・これは・・・」
「又左。次の時代はこのような戦いになるのかもしれぬ。」
「ああ・・・恐ろしいモノだ。」
秀吉の言葉に利家はうなずく。
「ウオォォォッ!!」
黒木鉄心の鉄棒が唸りを上げる。
「ぎゃッ!?」
伊丹親興は兜を砕かれるとそのまま吹っ飛んでいった。
頭から血を流し逃げていく。
「伊丹親興殿を捕らえよ!!」
鉄心の声に三好軍の混乱は止まらない。
追撃を止めない山田軍の攻撃は夜通し続いた。
そして夜が明けた。
富雄川周辺におびただしい数の屍が転がっている。
降り出した雨は戦場を洗い流すかのように雨脚を強めていく。
私はいたたまれない気持ちになり胸が苦しくなった。
確かに大和を守るための戦いではある。
そしてやらなければこちらがやられるということもわかっている。
わかってはいるのだ・・・だがしかし・・・
「山田様どうされました?」
秀吉が心配そうに声をかけてきた。
「何故・・・このようなことになる。常に殺し合いではないですか・・・」
私の言葉に秀吉は目を閉じる。
そして目を開けると静か口調で語りかけてきた。
「世の中には話し合いの席につくことさえできぬ者もいるのです。誰もがわかりあえるわけではありますまい。」
「・・・。」
「ですが、私はそんな者でも話し合いの席につかせてみせたいと思っております。」
「・・・。」
「まあそのような戯言を殿に言ったら鼻で笑われるでしょうが・・・」
秀吉は天を仰ぐ。降り注ぐ雨をあえて受けながら・・・
翌7月3日。
三好軍は二手に分かれて攻撃をしてきた。
北から十河存保率いる三千の兵、西からは三好長免の本軍が横に大きく陣形を広げ、中央突破をかけてきた。
「父さん、あと各砲門は一発ずつしか撃てない。」
岳人の声に
「ああ・・・撃ったら全軍突撃する。」
私も覚悟を決めた。
「撃てぇ!!」
榴弾砲が一斉に火を噴く。
十河存保の軍に3発、三好長免の軍に7発が着弾した。
しかし、混乱しつつも三好軍はこちらに向かってくる。
「戦いを終わらせるぞォッ!!全軍突撃!!」
私の声と共に山田軍全軍が一斉に丘陵を下っていった。
「よし、我らの力を見せるときぞ!!」
興福寺の僧兵たちが中央に斬り込み奮戦する。
「心強いものだ・・・。ワシらも負けんがな。」
宗厳たち柳生勢も続いて斬り込んでいく。
そんな中、十河存保の軍が混乱をきたしていた。
「ウルァァァァッ!!」
五右衛門の剛剣の前に次々と血飛沫を上げて倒れていく敵兵たち。
「ガルルルァァッ!!」
前田慶次の大刀を一閃すると絵に描いたように敵兵たちが吹っ飛んでいく。
「ありゃ・・・獣だな・・・野獣二匹が檻から解き放たれたって感じだな。」
言うのは蜂須賀正勝。
「アンタも獣だろ?暴れてこいや!!」
槍で敵兵を突き倒しながら軽口を叩くのは浅野長政。
この二人は秀吉の家臣である。
「油断するな。三好も死ぬ気で向かってきているぞ。」
秀吉がその手の刀を一閃すると周囲の敵兵の首が次々と飛んでいく。
「ワハハハ・・・藤吉郎・・・おぬしも獣を飼い慣らしておるではないか!!」
正勝が笑いながら棍棒を振り回すとまた敵兵たちが吹っ飛ばされていく。
なんでこう藤吉郎の周りにはおかしな連中が集まるのか・・・
前田利家は馬上から次々と三好軍の騎馬隊を突き倒していく。
するとその脇で
「ぎゃぱッ!?」「ぐわあッ!?」
三好軍の騎馬隊が次々と何者かによって薙ぎ倒されていく。
その男は利家に近づくと声をかけてきた。
「槍の又左殿、お初にお目にかかります。私は山田家家臣長滝慎之助と申します。」
慎之助は一礼するとそのまま手勢を率いて突撃していく。
その鮮やかな槍捌きに思わず利家はニヤリと笑ってしまった。
ああ・・・この者も手練れか・・・どうにも血が騒ぐ・・・
血が騒ぐ戦場じゃァァ!!
利家の目つきが変わった。野獣のような目つきで単騎で三好軍に突撃していく。
通り過ぎた後には次々と三好軍の屍が転がっていった。
「三好長免はどこだ!!」
六兵衛は大刀を振るいながら三好軍の奥深くまで斬り込んでいた。
「見つからんのう・・・絶対に贅沢な恰好をしておるはずじゃ。」
鉄心も六兵衛と共に続いていたが本陣付近でも三好長免を見つけることができないのである。
十市軍は三好軍の本軍と交戦していた。
「大和は我らの国だァ。誇りにかけて守るのだァァ!!」
「オウッ!!」
十市遠長の声と共に増々士気を高揚させて三好軍を追い詰めていく。
その頃、三好長免は側近たちを連れて丘陵上の安全な場所に避難していた。
「なんということじゃ・・・ワシが負ける・・・」
力無くうなだれているところに急使がやってきた。
「一大事でございます!! 飯森山城陥落!!」
「な・・・なんだとォ・・・言っておることの意味がわからぬ。」
長免は急使の胸倉を掴む。
「箸尾高春が二千の兵で飯森山城を急襲。三好義継様は高屋城へとお逃げになられました。」
意味がわからぬ・・・何がどうなっておるのじゃ・・・
河内飯森山城では箸尾軍が勝ちどきを上げていた。
「よくもまあ勝てたものだな。」
箸尾高春は家臣たちと酒を酌み交わしながら勝利の余韻に浸っていた。
飯森山城を守る三好軍は手強かった。
三好家当主はあくまでも三好長免ではなく三好義継である。
必死の抵抗に遭いながらも何とか攻略に成功したのだった。
「くッ・・・退くぞ。全軍退却だ!! 、南に向かい政康と弾正と合流する!!」
長免は大声で叫ぶと一目散に逃げていった。
三好軍はそのまま富雄川沿いに南下して逃げていく。
「私はどうすれば良いのじゃ・・・。」
十河存保はまだ齢十三の子供である。
「我らはこのまま摂津へと退却しましょう。」
家臣の赤沢宗伝が進言する。
そこに前田慶次が乱入してきた。
「大将さんはどいつかねえ?」
群がる家臣団を大刀で次々と仕留めていく。
「ひいィィィ・・・。」
存保は腰を抜かして動けない。
「殿・・・お逃げくだされ!!」
宗伝がその前に庇うように仁王立ちした。
その背後で存保は泣きながら叫ぶ。
「う・・・動けない・・・誰かァァァ!!」
その様子を見て慶次は冷酷な表情に変貌すると大刀を構えた。
「この時代に生まれたことを呪うのだな・・・」
「さ・・・させんぞォ!!」
宗伝は刀を抜くと必死の形相を見せた。
「ならば二人まとめて・・・仲良くあの世で大名ごっこでもするんだなァ!!」
慶次の大刀が振り下ろされる。
「!!」
しかし、その大刀は受け止められた。
「貴様・・・。」
「子供に手を出すな・・・大将とはいえ怯えてるだろうが。」
五右衛門の刀が慶次の大刀をしっかりと防いでいた。
「おい・・・アンタら・・・素直に降伏しろって。」
「なんと?」
五右衛門の言葉に驚く宗伝。存保はひたすらうなずいている。
「俺んとこの殿さまは絶対に悪いようにしない。山田大輔はそういう男だぜ♪」
「フン・・・くだらん・・・茶番だな。」
慶次は大刀を投げ棄てると何処かへと立ち去っていった。
「悪いな・・・俺と殿様は甘ちゃんなんだよね。」
五右衛門は刀を鞘に収める。
なんて馬鹿力だ・・・俺の手がまだ痺れている。
五右衛門と慶次はお互いに震える自分の手を見つめていた。
戦場の至る所で山田軍、織田軍、十市軍の勝ちどきの声が響き渡っている中、
「勝っちゃったね・・・景兼。」
「そうですな。大勝といっても過言ではないでしょう。」
私と景兼は喜びよりも安堵感に浸っていた。
その側で岳人は既に次を見定めていた。
兵を休ませたら次は清興さんを助けにいかねば。
こうして大和合戦における最大の戦いとなった富雄川の戦いは幕を閉じた。
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しかし、戦いはまだ残っている。
まだ大和合戦は終わらない・・・。
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