マイホーム戦国

石崎楢

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第78話:大和合戦(10)第3次木津城の戦い

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1567年7月3日、富雄川の戦いで山田軍が勝利を収めた頃、木津城は岩成友通率いる三好軍に囲まれていた。

「さあ・・・じっくりと攻略させてもらうとしよう。」
岩成友通は余裕の笑みを浮かべている。
その脇には怪訝そうな表情の塩見頼勝がいた。

よくも平気で長虎様を見捨てる・・・
いや・・・まさか始めからそのつもりではないのか・・・


「囲んでいるな・・・」
城内から清興は三好軍の様子を眺めていた。

囲ませているとも言えるがな・・・

「布陣は素晴らしい。さすが岩成友通だな。」
鳥屋尾満秀はその陣容に感嘆している。


「ハァッ!!」
大宮景連の剛弓が唸りを上げると三好軍の兵が次々と倒れていく。
その配下の兵たちも弓の達人が揃っており三好軍は大手門に近づけなかった。

「持久戦は正直しんどいものだ。」
額の汗をぬぐう景連。
「ご苦労さまです。大宮様。」
小四郎も弓を手にしていた。
「櫟原殿も中々の手並みではないか。」
「いえ・・・大宮様の腕はまさしく神技に等しいかと。」
景連はその言葉を聞くも心は別のところにあった。

山田軍の高井義成・・・私とどちらが上なのだろうかな・・・
是非、勝負をしてみたいものだ。

「撃てェ!!」
計盛の声と共に鉄砲隊も狙撃を始める。

まだまだ決着がつきそうにない・・・そんな気配が漂っていた。
しかし、山城国勝竜寺城では、

閃光のような槍の一撃で三好軍の武将が突き倒される。
鋭い眼光で槍を構えているのは六角家家臣蒲生賢秀。

「大手門を抑えたぞ。ワシに続けェ!!」
賢秀の声と共に城内に雪崩れ込む六角軍。

「山田殿に顔を合わせた際に胸を張れぬからな・・・絶対に約束通りに勝竜寺城を落とさねばならない。そして都の三好勢力を駆逐する。」
六角義定は本陣で戦いの行方を見守っている。
その傍らには金蔵と権八が控えていた。

前日7月2日夜に六角軍が四千の兵で勝竜寺城を急襲した。
城を守るのは五百の兵のみ。
度重なる岩成友通からの援軍要請で守兵の数が削られていた。
その隙を完全に見計らっての攻撃である。

六角氏は北近江の浅井氏と争いを続けており、身動きが取れない状態が続いていた。
それを打破させたのが越前の朝倉義景である。

私からの書状を受け取った朝倉義景は六角義定と同盟を結んだ。
これにより浅井長政は手出しができなくなったのである。


北近江の小谷城では浅井長政はただ苛立ちを募らせていた。
「六角に手出しするな・・・まあわかるが・・・。織田からの縁談の話が途切れておる。」
そんな長政を見て家臣団も皆、表情を曇らせている。

「織田は大和の山田と繋がっているとの噂が・・・」
そんな声に長政はますます怒りの形相を強めていく。

山田は六角と繋がっているという話もある。
朝倉とも繋がっている可能性も高い・・・俺の邪魔をする気なのか・・・

そこに家臣の一人が駆け込んでくる。
「美濃の斎藤龍興から使いの者が参りました。」
「なんだと・・・」

小谷城に斎藤龍興からの使者が訪れた。
このことが新たなる火種を生むことになる。


その頃、若狭国領内。
京の都を目指して南下をしている軍勢があった。
その旗印は三つ盛木瓜・・・朝倉義景が一万の兵を率いている。

やっとじゃ・・・やっと都に帰れる。

朝倉軍の中で護衛たちに囲まれ上機嫌の男がいた。
足利義秋であった。

その脇で冷静な面持ちで正面を見据えているのは朝倉義景。

義秋様がその器にあるとは思えん。
だが、義輝公の弟君。邪見に扱うことはできぬ。

朝倉義景の名前の義は足利義輝から直々に与えられた名誉あるものであった。
忠臣として永禄の変の際も都に上り将軍家を助けるべきであったが、加賀国の一向一揆のために動きが取れなかったという後悔。
自身が恐れていた三好や松永に対し、大和国の国人衆が団結して立ち向かっている現実。
これらが義景を突き動かしたのであった。


一進一退の木津城の攻防の最中に、勝竜寺城が六角義定に攻められているとの報が岩成友通に伝えられた。

「ろ・・・六角だと?」
友通にとってまさしく寝耳に水である。
すぐにそのことは全軍に伝達された。

「遂に・・・遂に来たか・・・。」
清興の眼には撤退を始める三好軍の姿が映っていた。
いずれ岩成友通の軍は撤退するから・・・そこで追撃だ。私を信じてください。

岳人の言葉を改めて思い出すと清興は高らかに声を上げた。

「全軍突撃だァァ!!」
山田軍・北畠軍は木津城から勢いよく出陣するとそのまま三好軍に突撃していく。


それを見た岩成友通はただ絶句するばかり。

何故、追撃してくる?やつらは勝竜寺城の危機を知っておるのか・・・
まさか・・・まさか六角と繋がっておるのか・・・

全力で逃げ出す岩成友通。
その後を追いかけていく家臣団。

「ぐわあ!!」「助けてェ!!」
統制を失ったままの三好軍の兵たちは次々と倒れていく。

「くッ・・・これでは死んでいく者たちが何も浮かばれんぞ。」
塩見頼勝は覚悟を決めると槍を投げ棄てて馬から下りた。
そこを山田軍の兵たちが取り囲む。

「ワシは丹波国国人塩見頼勝じゃ。これ以上の戦は我らに無意味。降伏するぞ!!」
頼勝の言葉に周囲の三好軍の兵たちも一斉に降伏の意思を示した。

「塩見殿、良き判断ですぞ。」
そこに清興がやってきた。
「おぬしは確か・・・筒井の・・・」
頼勝は驚きの表情で清興を見る。
「このまま丹波まで兵を退いてくだされ・・・我らは追いませぬ。」

その清興の言葉を頼勝はすぐに理解ができなかった。
戦国の世で降将を逃がす、兵を丸々逃がすということは考えられないことである。

「意味が解りませぬぞ。」
「我が殿は多分そうする・・・必ずそうすると思ったからですぞ。」
清興は笑顔で頼勝の肩に手を置く。
「塩見殿がおられなくなれば領地の民はどうなりますか?遠く丹波から大和まで三好の命でやってこられたのは本意ではありますまい。」

少し考え込むと頼勝は平伏した。
「かたじけない・・・。いずれ山田家が上洛された際には力になりましょう。」
「お願い申し上げます。」

降伏した三好軍の兵も多かったが、塩見頼勝は丹波からの兵を連れて去って行った。

「勝ちどきを上げるか。」
清興の言葉と共に木津城周辺に一斉に勝ちどきの歓声が巻き起こる。

見事に私たちは岩成友通を一歩も大和に足を踏み入れさせることなく勝利を収めたのだ。
この木津城周辺を舞台にした戦いは、後に大和合戦木津城の戦いとして歴史に刻まれるのである。


岩成友通退却の報はすぐに私たちに届いた。
富雄川の戦いで疲弊した将兵たちを勇気づけるものであった。

「さすが清興・・・私の心をわかっているもんだね。」
私は嬉しかった。清興が塩見頼勝を逃がしたことを。
そういう私も十河存保とその手勢を讃岐へと逃がしたのである。

それは讃岐国の民のことを思っての決断だった。

「十河は三好の一族ですぞ。いずれ敵になるかと。」
秀吉の言うことは良くわかる。
「でもね。私は十河家を滅ぼしたいわけではないのです。余所の国をどうこうしようとも思わないですし。それは三好や松永に対しても同じですよ。要は侵略するなら大和から追い出すということです。滅ぼしたいわけじゃない。」
私は秀吉に説明をした。
「奇人・・・奇人変人だろ?ウチの殿さまは。」
五右衛門が呆れ顔を見せる。
「ワハハハ!! ホントだな・・・面白い男だ。掴みどころがない。」
その隣で慶次が笑っている。
この二人はお互いの実力を認め合い仲良くなっていた。

「・・・なんとも・・・不思議な御方ですな・・・大輔殿!!」
「褒め言葉と捉えますよ。」
秀吉の私への呼び方が大輔殿に変わったのが嬉しかった。


あと残るはこの大和合戦における最後の戦いである。
三好長免、三好政康、松永久秀と私たち大和国国人衆による最終決戦のときが刻一刻と近づいていたのだった。

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