マイホーム戦国

石崎楢

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第79話:大和合戦(11)信貴山城の戦い 前編

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1567年7月5日、龍田城を出陣した筒井軍は信貴山城を目指し西進。
そこで待ち構えていた三好政康、松永久秀軍と対峙していた。

次々と届く朗報に筒井軍の士気は高まっている。
義輝率いる山田軍と高山軍も合流していた。

「真っ向からのぶつかり合いでも最早負ける気がしませぬ。」
筒井順慶は敵陣を見据えて言う。
「順慶・・・松永を甘く見るな。最後まで何をするかわからんぞ。」
義輝は首を振った。

三好三人衆よりも松永弾正久秀・・・
正直、素性も定かではない。
岩成友通と同じく成り上がりではある。
しかしその武将としての力量は紛れもなく本物だ。

そして三好政康。
この男の武もまた本物・・・。
勢いだけでどうこうできる相手ではない。

「順慶・・・駆け引きだ。こちらから手出しはならぬ。」
「はッ。」


そして対峙したまま動く気配のない山田・筒井軍を見て三好政康は思案していた。

何故・・・動かぬ。こちらの策を読んでいるのか?

「政康様。長免様の軍と合わせての挟撃は無意味かと。」
松永久秀が進言する。

そう、既に富雄川の戦いで敗退した三好長免の軍は信貴山城付近で待機していた。
三好政康、松永久秀と示し合わせて山田・筒井軍への攻撃の機会を伺っていた。

「まだか・・・今、攻めずしてどうする。」
三好長免は苛立ち隠せなかった。
長男である長虎が山田軍に捕らわれたことを知り、岩成友通への怒りも大きい。
更に山田軍の追撃にも怯えていた。

「行くぞォ!!全軍、突撃をかける!!」
三好長免の軍四千が一気に筒井軍に押し寄せてきた。

「来たか・・・ギリギリまで我慢しろ!!」
義輝の指揮の下、山田軍の鉄砲隊が三列で狙いを定めている。

「恐れるな、数ならば上じゃ!!」
長免の声と共に勢いを増して押し寄せる三好軍。

「撃てィ!!」
次々と火を噴く鉄砲の前に崩れ落ちていく三好軍の兵たち。
しかし怯むことなく前進してくる。

「鉄砲隊下がれ!!迎え撃つぞ!!」
義輝が先陣を切り、山田軍は真っ向から三好軍とぶつかり合った。


ほう・・・やはり打って出たか・・・三好長免。

松永久秀はほくそ笑む。

「今だ・・・全軍攻撃開始じゃ!!」
三好政康の声と共に四千の本軍が攻めて出た。

「来たか・・・ここで大和の命運が決まるぞ!!」
筒井順慶が天高く槍を突き上げる。
「おう!!」
家臣団も槍や刀を頭上に突き上げた。
「突撃だァ!!」
筒井軍も全軍が打って出た。


戦いは総力戦となった。
数で勝る三好軍と士気で勝る山田・筒井軍。


松永軍はやや下がった位置から戦いに参加していた。

潰し合えば良い・・・長免か政康・・・どちらかが討たれれば儲けものじゃ。


「久秀は何をしておる・・・本気で戦っておるのか・・・」
群がる筒井軍の兵たちを薙ぎ倒しながら三好政康は呟く。


「三好政康・・・その首貰い受ける!!」
そこに筒井家家臣窪田内記が騎馬隊を率いて三好政康の本陣へ突入してきた。
「こしゃくなァァァ!!」
憤怒の形相の政康が槍を振りかざす。
「グオッ!!」
窪田内記は何とか受け止めるも勢いで吹っ飛ばされて落馬した。
止めを刺されそうになるも辛うじて逃げ出す内記。
「窪田殿・・・お任せを!!」
そこに一馬が駆け込んできた。

「小僧・・・邪魔立てするかァァァ!!」
「邪魔立てじゃない・・・その首貰うぞ。」
政康と一馬は壮絶な一騎打ちを始めた。


「数ではこちらが上じゃ。攻めたてれば良いだけじゃァ!!」
三好長免の檄の下で義輝たち山田軍は押されていた。

「さすがだな・・・長免・・・。」
義輝は必死の形相で戦っていた。

「下がるな!!下がれば負けだぞ!!」
高山重友率いる高山軍も三好軍に押されている。


強いのう・・・さすが三好の皆さまじゃ・・・

久秀は呆れたような顔を見せると馬に乗った。

「よし・・・山田と筒井を血祭りに上げろォ!!」
ここで松永軍が突撃をかけてきた。


筒井軍の本陣では

「殿・・・松永が・・・」
慌てふためく森好之。
しかし、全く動じていない順慶。

大丈夫・・・来るよ・・・こっちにもね。

その順慶の予感の通りに北の方角から一隊の軍が押し寄せてきた。


「ここで決着をつけるのだァ!!」
十市遠長率いる十市軍が三好長免の軍の側面を急襲したのだ。

「もう追いついてきおったか・・・」
三好長免は苦々しい表情で戦況を見つめる。

これから更なる援軍が来れば窮地に陥ることは確実じゃ・・・
ここは合わせて戦うが無難。

「政康と久秀に合流して陣形を立て直す。」
そのまま三好長免の軍は応戦しつつ下がり始めた。



その頃、信貴山城。
松永家家臣結城忠正は五百の兵を率いて留守を任されていた。


まさか攻めてくる訳がない・・・攻めてこれる訳がない。

安心しきっている城内の兵たち。
その中には山田・伊賀の忍びたちが紛れ込んでいた。


「まさか源次と再び仕事をするとはな・・・」
松永軍の兵に扮した藤林長門守正保がため息まじりで言う。
「本当ですな。どさくさに紛れて俺を斬らないでくださいよ。」
同じく松永軍の兵に扮した鳥兜の源次がニヤついた顔で言い返す。
二人は城内の兵糧庫付近に火薬や油を捲いていた。


本丸御殿では女中に扮した真紅が台所に立っている。

そろそろ・・・やるわよ・・・。

「きゃああ!! 火よ・・・火事よォォォ!?」

真紅は台所に火をつけると大声で叫んで逃げ出す。
あらかじめ仕込んでおいた油に引火して一気に燃え広がる。


「結城様!!大変ですぞ。本丸御殿で火事でございまする。」
天守閣でくつろいでいた忠正の下に兵が駆け込んでくる。

「なんだと・・・すぐに消せ!!」
「はッ!!」
その兵は返事をするとそのまま忠正に近づいて刀を一閃。

「げふッ!?」

断末魔を上げながら忠正の首が飛んでいった。

「ちょろいね・・・」
その兵は焔の陣内だった。

「何奴・・・なんと・・・」「結城様が討たれたぞ。曲者じゃァァ!!」
結城忠正の家臣たちが異変に気付いて次々と階下から上がってくる。

「おさらば!!」
陣内の声と共に天守閣に火の手が上がった。

「うおッ!!」「逃げろォッ!!」
慌てふためく家臣たちを尻目に陣内は窓から屋根を伝い逃げ出した。


信貴山城の異変は戦場にも確実に伝わっていた。

「城が・・・信貴山城が燃えているだとォォォ!!」
松永久秀は大声で叫ぶと馬首を転じて城へと向かいだす。

「殿ォ!!」
家臣団も慌てて追いかけていく。

「九十九髪茄子が・・・九十九髪茄子を守らねば!!」
そんな久秀を尻目に呆れ顔の飯田基次。

「殿に構うなァァァ!!」
そんな基次の檄も虚しく松永軍の兵たちは統制を失い混乱をきたしていた。

俺が松永弾正の配下になったのは面白い戦を味わえたからだ。
三好に歯向かったり・・・何とも言えぬ味わい・・・
それがどうじゃ・・・訳が分からぬわ。

憤る基次であったが、その表情が突然晴れやかになった。
その視線の先にいるのは槍を構えた一人の若武者。

「高井義成か・・・かかって来い!!」
基次は満面の笑みを浮かべ手招きをする。

「飯田基次・・・私を弓矢だけの男と思うなよ・・・いざ・・・参る!!」
義成は十文字槍を構えるとそのまま基次に襲い掛かった。


そして次々と火に包まれる信貴山城では。

「ぐわッ!!」「ぎゃッ!!」
そこに大手門から堂々と入り込んでいく一隊の軍。
その先頭に立つ三人の男の前に信貴山城の守兵たちは成す術なく次々と倒れていく。

「温い・・・生温い戦場じゃのう五右衛門。」
「全くだ。手応えがないぜ。」
前田慶次と五右衛門であった。
そしてもう一人は前田利家。

「よし、城門前に鉄砲隊だ。山田の鉄砲隊の力を見せてくれ。」
「ああ・・・任せろ!!」
利家の声に応えるのは本田正信。

盾隊を配置し、その背後に連発式の銃を手にした五十名の鉄砲隊が待機。
城に戻ろうとする松永軍への迎撃準備である。
それに合わせて城内に潜んでいた山田・伊賀の忍びたちも暴れだしたことにより、混沌状態と化した信貴山城。


もう間もなく戦いに決着の時が訪れようとしていたのだった。

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