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第80話:大和合戦(12)信貴山城の戦い 後編
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煙が上がる信貴山城。
松永久秀は追いついてきた家臣団や兵と共に急いで向かっていた。
しかし、そこに側面から急襲してくる筒井軍の兵たち。
「逃がすかァァァ!!松永弾正ォォォ!!」
筒井家家臣片岡春利の手勢である。
「こしゃくな!!」
松永家家臣海老名友清が兵たちを率いて迎撃する。
「とにかく城じゃ・・・城に戻らねば!!」
久秀は敵にも味方にも目もくれず、ただ信貴山城へ馬を走らせた。
「ハアァァァッ!!」
義輝は元規と英圭を連れて三好長免軍へと斬り込んでいた。
三好長免・・・長免・・・どこにいる?
鬼気迫る義輝の表情に元規は悲しげであった。
やはり・・・恨みは消せませぬか・・・義輝様。
やがて義輝の視線の遥か先に豪華な鎧を身に纏う武将の姿。
「長免ゥ!!」
義輝は唇を噛み締める。
ただそこにたどり着くには敵兵の数があまりに多すぎるのだった。
「クソがァァァ!!」
それでもかいくぐり三好長免へと向かおうとするも
「!?」
元規と英圭がそれを遮った。
「おまえら・・・どけよ。」
「どくわけにはいかないって。」
義輝を英圭が睨みつけて言う。
「殿が泣くぜ・・・義輝様に死なれたらな。」
英圭は鉄棒を振り回しながら敵兵を薙ぎ倒す。
「勝秀様を失ったときの義輝様は辛そうでした。そんな思いを我らにも味合わせると?」
元規の流星鎚の前に敵兵はただ倒れていくだけである。
「ダメだな・・・俺は・・・。」
義輝は天を仰ぐと嘆息した。
すると北の方から更に軍勢が押し寄せてきた。
その先頭に立つのは岳人。
両脇に六兵衛と黒木鉄心を従えている。
「岳人か・・・。」
義輝はつぶやく。
岳人率いる山田軍が怒涛の如く三好長免軍に襲い掛かった。
「小僧・・・ここまでの手練れとは思わなんだ。」
三好政康は肩で息をしながらも笑みを浮かべていた。
「さすがです・・・天下に名高き三好政康殿・・・。」
一馬も疲弊していた。しかしその眼はむしろ輝きを増していた。
戦うこと百合に及ぶも決着はつかなかった。
「うむ・・・この戦はどうやら我らに勝ち目がないようじゃ・・・兵を退かせてもらおう。」
「逃がしませぬぞ。」
「ワシは逃げぬ・・・兵を逃がすのじゃ。」
政康はニヤリと笑うと槍を頭上に掲げた。
「退却じゃ!!」
その声はすぐに三好政康軍に伝わっていく。
「殿、退却しますぞ。」
「ワシはまだこやつの相手をせねばならん。すみやかに退却せい!!」
「しかし・・・」
「為三と合流すれば再起できる。あやつに後は任せるから往けィ!!」
家臣団は政康を説得するも受け入れてもらえぬままに去っていった。
なんと・・・豪胆な・・・
一馬は政康の姿に驚きを隠せなかった。
「さあ・・・若造・・・」
「拙者は山田家家臣芳野一馬でございます。」
一馬の言葉に政康はうなずくと槍を構え啖呵を切った。
「芳野一馬とやら。ワシを越えてみろ。ワシを討てばその名は日ノ本中に轟くじゃろうて!!」
「ありがたきお言葉・・・ならば越えてみせましょう!!」
双槍を構えると一馬は政康へと再び立ち向かっていった。
義成と飯田基次の戦いも佳境に差しかかっていた。
この若造・・・槍でも俺に引けを取らぬではないか・・・。
基次は義成の才にただ感嘆していた。
「貴様のような者が一人でもおれば弾正様も安泰だったかもな。」
基次は槍を投げ棄てると背負っていた大刀を手にした。
くるか・・・ここからが勝負・・・。
義成は額の汗をぬぐった。
基次は大刀を振りかざし義成に襲い掛かる。
目ざとくその一撃を躱すも
「この先に追っていけば弾正様がおるだろう。」
義成にそう囁いて基次は逃げていった。
なんと・・・
思わず立ち尽くす義成。
「いずれまた戦場で会おうぞ・・・ワハハハ!!」
基次はそのまま乱戦の中に消えていった。
「数で勝る我らがこうまで押し込まれるとは・・・」
三好長免はわずかな家臣を引き連れて逃げていた。
しかし、そこに一人の若武者が追いついてきた。
「ぐわッ!!」「ぐえッ!!」
家臣たちを次々と槍で薙ぎ倒していくと長免の正面に立つ。
「や・・・やめろ・・・」
「私には覚悟ができている・・・御免!!」
その若武者の槍が長免の喉元を貫いた。
「私の名は山田岳人!!三好長免殿討ち取ったりィ!!」
若武者は岳人だった。
震える手をごまかすかのように槍を天高く突き上げる。
本当に・・・もう戻れない・・・何があっても戻らない・・・私は・・・
落馬した三好長免の首は六兵衛が斬り落とした。
「我ら、山田家の若君である山田岳人様が三好長免を討ち取ったぞォ!!」
六兵衛の声は瞬く間に戦場を駆け巡った。
「岳人・・・やってくれたか・・・」
義輝は思わず涙を浮かべる。
その両脇で元規と英圭が笑顔を見せていた。
三好長免討死の報は一馬と一騎打ちをしている三好政康にも伝わった。
「無念・・・。」
政康は一馬の一撃で槍を弾き飛ばされるとうなだれる。
「捕らえよ!!」
一馬の声で兵たちが群がるように政康を囲んでいった。
三好長免討死、三好政康が捕らわれたことも気づかぬままに松永久秀は信貴山城に近づいていた。
しかし城門の前には鉄砲隊が待ち構えている。
「ゆけィ!! 城の中へ突入じゃ!!」
久秀の命令だが兵たちは躊躇している。
「このまま行けば鉄砲の餌食になるだけですぞ!!」
家臣の一人が久秀を諫める。
「九十九髪茄子をどうするつもりじゃ!!」
荒れ狂う久秀。
そのときだった。
一筋の矢が松永久秀の首を貫いた。
「が・・・ガハッ・・・」
そのまま落馬すると痙攣して動かなくなる。
「殿・・・殿が討たれたぞォ!!」 「逃げろォ!!」
松永軍はその場で混乱しながらあちこちへと離散していった。
「松永久秀討ち取ったり・・・。」
弓を構えて久秀の亡骸の前に立ったのは義成だった。
すると城から物凄い勢いで逃げてくる一団が見えてくる。
「石川様・・・?」
五右衛門や本田正信、慶次、利家、そして山田軍の兵や忍びたちだ。
「義成。おおッ・・・松永弾正を討ったか!!」
五右衛門は義成と松永久秀の亡骸を見て思わず足を止める。
「はッ!!」
「じゃあ・・・首を忘れずに取ったら逃げろよ!!」
義成を促すと五右衛門は逃げていった。
「義成。信貴山城が爆発するわ!!」
真紅が女中の恰好のままで逃げてくる。
その後には城内にいた女・子供たちがついてきていた。
「なんと・・・わかりました!!」
義成が答えた瞬間だった。
爆音と共に天守閣が粉々に大爆発を起こした。
次々と起こる誘爆で信貴山城の建物が吹っ飛んでいく。
「予想以上に火薬を使い過ぎたみたいね・・・」
「はあ・・・。」
麓まで駆け下りた真紅と義成は燃え上がる信貴山城を見つめていた。
大将を失った三好・松永軍は投降する者たちや何処かへ逃げ出す者たちで完全に戦意を失っていた。
「順慶殿。」
「岳人殿!!」
岳人と順慶がガッチリと握手を交わす。
こうして大和合戦最後の戦いである信貴山城の戦いが終わった。
大和国人衆は北畠や織田の援軍の力を借りながらも、見事に畿内の覇者であった三好三人衆と松永弾正久秀に勝利を収めたのだ。
その頃、三好三人衆最後の一人となった岩成友通は立ち尽くしていた。
勝竜寺城に立つ六角家の旗印。
「なんということじゃ・・・」
城を失った友通は西の芥川城へと落ち延びるしかなかった。
同じく飯森山城を奪われた三好義継も兵を率いて芥川城を目指していた。
既に高屋城を畠山秋高に奪われており居城を失っていたのだった。
翌7月6日、貝吹山城に立て篭もっていた三好康長は三好三人衆の敗北を知ると降伏。
こうして大和合戦は大和国人衆の完全勝利で幕を閉じた。
遂に・・・宿願である大和を一つに・・・達成だ!!
私は富雄川沿いの本陣でその朗報に思わずガッツポーズをした。
ここから歴史は更に動き出していく・・・その新しい刻みが何を招くのであろうか。
私には予想さえできず、ただ今の勝利に酔いしれているだけであった。
松永久秀は追いついてきた家臣団や兵と共に急いで向かっていた。
しかし、そこに側面から急襲してくる筒井軍の兵たち。
「逃がすかァァァ!!松永弾正ォォォ!!」
筒井家家臣片岡春利の手勢である。
「こしゃくな!!」
松永家家臣海老名友清が兵たちを率いて迎撃する。
「とにかく城じゃ・・・城に戻らねば!!」
久秀は敵にも味方にも目もくれず、ただ信貴山城へ馬を走らせた。
「ハアァァァッ!!」
義輝は元規と英圭を連れて三好長免軍へと斬り込んでいた。
三好長免・・・長免・・・どこにいる?
鬼気迫る義輝の表情に元規は悲しげであった。
やはり・・・恨みは消せませぬか・・・義輝様。
やがて義輝の視線の遥か先に豪華な鎧を身に纏う武将の姿。
「長免ゥ!!」
義輝は唇を噛み締める。
ただそこにたどり着くには敵兵の数があまりに多すぎるのだった。
「クソがァァァ!!」
それでもかいくぐり三好長免へと向かおうとするも
「!?」
元規と英圭がそれを遮った。
「おまえら・・・どけよ。」
「どくわけにはいかないって。」
義輝を英圭が睨みつけて言う。
「殿が泣くぜ・・・義輝様に死なれたらな。」
英圭は鉄棒を振り回しながら敵兵を薙ぎ倒す。
「勝秀様を失ったときの義輝様は辛そうでした。そんな思いを我らにも味合わせると?」
元規の流星鎚の前に敵兵はただ倒れていくだけである。
「ダメだな・・・俺は・・・。」
義輝は天を仰ぐと嘆息した。
すると北の方から更に軍勢が押し寄せてきた。
その先頭に立つのは岳人。
両脇に六兵衛と黒木鉄心を従えている。
「岳人か・・・。」
義輝はつぶやく。
岳人率いる山田軍が怒涛の如く三好長免軍に襲い掛かった。
「小僧・・・ここまでの手練れとは思わなんだ。」
三好政康は肩で息をしながらも笑みを浮かべていた。
「さすがです・・・天下に名高き三好政康殿・・・。」
一馬も疲弊していた。しかしその眼はむしろ輝きを増していた。
戦うこと百合に及ぶも決着はつかなかった。
「うむ・・・この戦はどうやら我らに勝ち目がないようじゃ・・・兵を退かせてもらおう。」
「逃がしませぬぞ。」
「ワシは逃げぬ・・・兵を逃がすのじゃ。」
政康はニヤリと笑うと槍を頭上に掲げた。
「退却じゃ!!」
その声はすぐに三好政康軍に伝わっていく。
「殿、退却しますぞ。」
「ワシはまだこやつの相手をせねばならん。すみやかに退却せい!!」
「しかし・・・」
「為三と合流すれば再起できる。あやつに後は任せるから往けィ!!」
家臣団は政康を説得するも受け入れてもらえぬままに去っていった。
なんと・・・豪胆な・・・
一馬は政康の姿に驚きを隠せなかった。
「さあ・・・若造・・・」
「拙者は山田家家臣芳野一馬でございます。」
一馬の言葉に政康はうなずくと槍を構え啖呵を切った。
「芳野一馬とやら。ワシを越えてみろ。ワシを討てばその名は日ノ本中に轟くじゃろうて!!」
「ありがたきお言葉・・・ならば越えてみせましょう!!」
双槍を構えると一馬は政康へと再び立ち向かっていった。
義成と飯田基次の戦いも佳境に差しかかっていた。
この若造・・・槍でも俺に引けを取らぬではないか・・・。
基次は義成の才にただ感嘆していた。
「貴様のような者が一人でもおれば弾正様も安泰だったかもな。」
基次は槍を投げ棄てると背負っていた大刀を手にした。
くるか・・・ここからが勝負・・・。
義成は額の汗をぬぐった。
基次は大刀を振りかざし義成に襲い掛かる。
目ざとくその一撃を躱すも
「この先に追っていけば弾正様がおるだろう。」
義成にそう囁いて基次は逃げていった。
なんと・・・
思わず立ち尽くす義成。
「いずれまた戦場で会おうぞ・・・ワハハハ!!」
基次はそのまま乱戦の中に消えていった。
「数で勝る我らがこうまで押し込まれるとは・・・」
三好長免はわずかな家臣を引き連れて逃げていた。
しかし、そこに一人の若武者が追いついてきた。
「ぐわッ!!」「ぐえッ!!」
家臣たちを次々と槍で薙ぎ倒していくと長免の正面に立つ。
「や・・・やめろ・・・」
「私には覚悟ができている・・・御免!!」
その若武者の槍が長免の喉元を貫いた。
「私の名は山田岳人!!三好長免殿討ち取ったりィ!!」
若武者は岳人だった。
震える手をごまかすかのように槍を天高く突き上げる。
本当に・・・もう戻れない・・・何があっても戻らない・・・私は・・・
落馬した三好長免の首は六兵衛が斬り落とした。
「我ら、山田家の若君である山田岳人様が三好長免を討ち取ったぞォ!!」
六兵衛の声は瞬く間に戦場を駆け巡った。
「岳人・・・やってくれたか・・・」
義輝は思わず涙を浮かべる。
その両脇で元規と英圭が笑顔を見せていた。
三好長免討死の報は一馬と一騎打ちをしている三好政康にも伝わった。
「無念・・・。」
政康は一馬の一撃で槍を弾き飛ばされるとうなだれる。
「捕らえよ!!」
一馬の声で兵たちが群がるように政康を囲んでいった。
三好長免討死、三好政康が捕らわれたことも気づかぬままに松永久秀は信貴山城に近づいていた。
しかし城門の前には鉄砲隊が待ち構えている。
「ゆけィ!! 城の中へ突入じゃ!!」
久秀の命令だが兵たちは躊躇している。
「このまま行けば鉄砲の餌食になるだけですぞ!!」
家臣の一人が久秀を諫める。
「九十九髪茄子をどうするつもりじゃ!!」
荒れ狂う久秀。
そのときだった。
一筋の矢が松永久秀の首を貫いた。
「が・・・ガハッ・・・」
そのまま落馬すると痙攣して動かなくなる。
「殿・・・殿が討たれたぞォ!!」 「逃げろォ!!」
松永軍はその場で混乱しながらあちこちへと離散していった。
「松永久秀討ち取ったり・・・。」
弓を構えて久秀の亡骸の前に立ったのは義成だった。
すると城から物凄い勢いで逃げてくる一団が見えてくる。
「石川様・・・?」
五右衛門や本田正信、慶次、利家、そして山田軍の兵や忍びたちだ。
「義成。おおッ・・・松永弾正を討ったか!!」
五右衛門は義成と松永久秀の亡骸を見て思わず足を止める。
「はッ!!」
「じゃあ・・・首を忘れずに取ったら逃げろよ!!」
義成を促すと五右衛門は逃げていった。
「義成。信貴山城が爆発するわ!!」
真紅が女中の恰好のままで逃げてくる。
その後には城内にいた女・子供たちがついてきていた。
「なんと・・・わかりました!!」
義成が答えた瞬間だった。
爆音と共に天守閣が粉々に大爆発を起こした。
次々と起こる誘爆で信貴山城の建物が吹っ飛んでいく。
「予想以上に火薬を使い過ぎたみたいね・・・」
「はあ・・・。」
麓まで駆け下りた真紅と義成は燃え上がる信貴山城を見つめていた。
大将を失った三好・松永軍は投降する者たちや何処かへ逃げ出す者たちで完全に戦意を失っていた。
「順慶殿。」
「岳人殿!!」
岳人と順慶がガッチリと握手を交わす。
こうして大和合戦最後の戦いである信貴山城の戦いが終わった。
大和国人衆は北畠や織田の援軍の力を借りながらも、見事に畿内の覇者であった三好三人衆と松永弾正久秀に勝利を収めたのだ。
その頃、三好三人衆最後の一人となった岩成友通は立ち尽くしていた。
勝竜寺城に立つ六角家の旗印。
「なんということじゃ・・・」
城を失った友通は西の芥川城へと落ち延びるしかなかった。
同じく飯森山城を奪われた三好義継も兵を率いて芥川城を目指していた。
既に高屋城を畠山秋高に奪われており居城を失っていたのだった。
翌7月6日、貝吹山城に立て篭もっていた三好康長は三好三人衆の敗北を知ると降伏。
こうして大和合戦は大和国人衆の完全勝利で幕を閉じた。
遂に・・・宿願である大和を一つに・・・達成だ!!
私は富雄川沿いの本陣でその朗報に思わずガッツポーズをした。
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