マイホーム戦国

石崎楢

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第81話:私が守護になってしまった

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大和合戦も終わり、国中は戦の傷跡を残しながらも人々には笑顔が溢れていた。
多聞山城も梅雨明けの暑い日差しの中、穏やかな時間が流れている。


いいもんだね~♪ この誰にも邪魔されない時間。

私は茶室でのんびりと寝ころんでいた。
側には平蜘蛛と五右衛門が信貴山城から持ってきた九十九髪茄子。

そんなに良い物なのかねえ・・・
この時代にネットオークションがあったらどれだけの値が付くのだろうね。

「あっ・・・ここにおられたのですね。」
そこにお市がやってきた。
ちなみに秀吉たちが尾張に帰った後も大和に残っている。
信長からお願いされているので仕方がない。
仕方がないというか・・・本当にお市は可愛いのだ。
顔も性格も申し分のない奇跡の存在かもしれない。

「あ、失礼失礼。」
私は身体を起こす。

「あの・・・お願いがあるのですが・・・」
お市が顔を近づけてくる。

マジで可愛いんですけど・・・
私のような腐れたオヤジには近寄りがたい神々しさなんですけど・・・

そのとき、私は背後に殺気を感じた。
その強い殺気に思わず振り返ると

「殿様・・・織田家の姫君に何を・・・?」
真紅が涙を浮かべて私の背後に立っていた。

「あら、真紅さん。真紅さんからもお願いしてよ。」
「・・・。」
天真爛漫なお市に対し死んだ目で見つめ返す真紅。

「岳人様のご案内で大和の国を見て回りたいのです。」
「殿様、市姫のお気持ち察せねばなりませんよ!!」

お市の言葉を聞いてすぐに被せてくる真紅。

「わかりました。岳人と護衛に何人かつけましょう。」
私はこう答えるしかなかったのだった。


大手門裏の廟では美佳が手を合わせて拝んでいた。

九兵衛・・・やっと大和国が一つになったよ。
これからパパは大変だけどさ。
あたしもできることは何でもするつもり・・・

「美佳様。いつもありがとうございます。勝秀も喜んでおりますよ。」
六兵衛が美佳の隣に立っている。
「そうだね・・・やっぱ寂しいよ・・・。」
美佳は寂しげな笑顔を見せた。


その様子を遠くから見ている一馬と義成。

「どうした?そんな情けねえ顔して。」
そこに五右衛門がやってくる。
しかし、二人は無言でただ美佳を見つめていた。

「釈然としねえな・・・。」
更に姿を見せたのは前田慶次。
秀吉たちが帰った後も多聞山城に残っていたのだ。
名目上はお市の護衛だが、好き勝手に遊びまわっている。

「女なんて押し倒してな・・・」
「首が飛びますよ・・・というか美佳様にそのような真似はできませぬ。」
慶次の言葉を遮って義成が言う。
「いつも思うのですが、勝秀様の存在が大きすぎるのかもしれませぬ。」
一馬は物憂げな表情で天を仰ぐ。

「時間だよ・・・時間。」
五右衛門は二人の肩に軽く叩いた。
「見たところだが、美佳姫は生娘。悲しみもやがて薄れていくだろう・・・。そのときに誰が美佳姫の隣にいるかということが重要なんじゃねえか。」

「き・・生娘・・・」
一馬と義成は思わず唾を飲み込んだ。
「そんなお前らも生息子っぽいけどな。」
五右衛門の言葉に笑い出す慶次。
「ワハハハ!!天下の三好政康を生け捕りにし、松永弾正久秀を討った男たちが生息子とは面白いものだ。」
「なっ・・・なんという侮辱。」「石川様、前田様といえど言い過ぎですぞ。」
一馬と義成は真っ赤な顔で怒りに震えていたのだった。


そして1567年7月25日、多聞山城大広間にて大和国中の有力国人が一堂に会した。
筒井順慶、越智家広、十市遠長、箸尾高春の大和四家。
高山重友、柳生宗厳も並んでいる。
宇陀からは赤埴信安、そして芳野家当主として芳野一馬。
吉野からは小川弘久、秋津守信、飯貝佐吉。
宇智からは二見光重、楢原利久、吐田遠隆。
筒井家傘下ながら独立した立場でもある井戸良弘や片岡春利も並ぶ。
最前列に私が座っていた。

「多聞山城城主山田大輔殿。大和国を守護して頂きますぞ。」
上座にいるのは興福寺別当の空実。
大和国は室町幕府から任命された守護は存在せず、興福寺がその代行をしていた。

「いずれは都から勅使が来られて任命されることとなります。その際には上洛して頂かねばなりませぬ。」
「ははッ!!」
「全ては山田殿のおかげじゃ。」
空実は立ち上がると笑顔で私に歩み寄る。

「越前の朝倉義景と若狭の武田元明が足利義秋公を伴い上洛を。近江の六角義定も力を合わせて都より三好勢力の駆逐も果たした。全ては山田殿のお考えじゃろう。」
「はい。出来る限り無駄な争いは避けたいのです。本来は同じ考えの者同士がいがみ合う必要はないと思います。」
私はそう言うと国人衆を見回す。

「ごもっともじゃ・・・元々はこの大和国の為にという思いのはず。ワシは大輔殿についていくぞ。」
越智家広は言う。
「目が覚めたというべきですか。私も微力ながらお力になりましょう。」
十市遠長は静かな口調でそして力強い眼差しを私に見せた。
「筒井家に二心はありませぬ。高春殿もそうであろう?」
順慶が箸尾高春を見る。
「もちろんですぞ。筒井家家臣ではなく大和四家としてお仕えいたします。」

その様子を微笑みながら見ている赤埴信安。

あのときの気の良さそうな不思議な人物がここまでになるとは・・・


1565年の夏の日、赤埴城。

「初めまして。私はこういう者です。」
「はあ・・・なんですかこれは?」
「名刺です。」

六兵衛、九兵衛に連れられてやってきた山田大輔は何かおかしかった。
話によると違う時代から・・・先の時代からやってきたらしい。
だたその服装や言動から感じるものがあった。
というか嘘をつく目をしていない。
何というか友になれそうな男だ・・・そんな印象だったものだ。


そんな感慨深そうな信安の脇で一馬は目に涙を浮かべていた。

殿が・・・殿が遂に大和の守護に・・・私の宿願が叶うんだ・・・


空実が帰っていった後、私による国内の領地分配が始まった。

「筒井順慶殿。」
「はッ。」
「これまで通りと信貴山城など旧松永の領地をお任せします。」
「ありがたき幸せ。」

なんか大河ドラマみたいだな・・・私が殿様みたいじゃん・・・主人公じゃん♪

「越智家広殿。」
「はッ。」
「これまで通りと高田城、布施城などの葛下一帯をお任せします。」
「ありがたき幸せ。」

「十市遠長殿。」
「はッ。」
「これまで通りとかつての旧領である龍王山城及び旧福住・山田の領地をお任せします。」
「なんと・・・ありがたき幸せでございます。」

「箸尾高春殿。」
「はッ。」
「異動して頂いてもよろしいですか?」
「どこでも構いませぬぞ。」
高春は目を輝かせて言う。
「では、木津城に入っていただいて木津一帯をお任せしたい。」
「この上ない幸せでございます。」


その他の国人衆は元の任地を任せられた。
ただ、宇陀は高山重友と赤埴信安で半分ずつ統治する形となった。



そして国人衆が帰った翌日、山田家家臣団を集めての評定が始まった。

「え~と・・・まずは一馬と義成だね。」
「はッ!!」「城を頂けるんですね?」
「ぶッ!?」
義成の一言に私は思わず吹き出してしまった。

「一馬には宝来城。義成には超昇寺城をお任せします。」
「ははッ!!」「ありがたき幸せ!!」

「先越されたな・・・」
「悔しいぞ・・・全く。」
純忠と慎之助がぼやいている。

「正虎殿。」
「はッ!!」
「正虎殿には飯森山城をお任せしたい・・・よろしいですか?」
私の言葉に楠木正虎は涙を流し始める。
「よ・・・よろしいのですか?新参者の私が・・・」
「あの場所を守るのに相応しいのは正虎殿です。」
「ははッ!!命に代えてもお守りします。」

「正信殿。」
「はッ!!」
「正信殿には田原城をお願いします。」
「ありがたき幸せ。正虎殿と共に大和の西の備えはお任せくだされ。」
「頼みます。」

「清興さん。」
「なんだね?」
「すまないんだけど多聞山城に常駐してもらっていいかな?」
「構わないぞ。」
私は清興に目配せをする。
「ははッ・・・アリガタキシアワセ二ゴザイマスル。」
棒読みの清興。
家臣団は景兼も含め皆が呆れ顔だ。

「六兵衛。」
「は~い。」
「歌姫の砦を改修して城にしてよ。」
「了解。」
私は六兵衛との相変わらずのやり取りに安心感を覚えるのだった。

その様子を見ているのは三好長虎。
表情は引きつっている。

「どうよ・・・三好長虎。これが山田家だ。」
五右衛門が声をかける。
「こんなヌルい連中が戦になるとああも変わるとはな。」
長虎は苦笑い。
「三好康長は俺たちに加わるそうだ。岩成友通の言いなりにはなりたくないらしい。」
「そりゃそうだ。」
「三好政康殿は隠遁したぞ。」
「しそうだな・・・。」
「それじゃあ三好長虎はどうする?」
「もう少し牢で考えさせてもらうぞ。意外に居心地も良いしな。」
そう言うと長虎は兵たちに連れられて立ち去っていった。

「義輝。」
「はッ・・・私でございますか?」
私の声に義輝は首をかしげる。
「宇陀川城を任せてもいいかな?」
「本当か!!」
義輝は笑顔になった。
その背後で寂しげな表情の元規と英圭。

「あと・・・ここにはいないけれど岳人に貝那木山城を任せるつもりだ。」
私の言葉に家臣団は一様にうなずいた。



こうして評定が終わった。

「長かったね、パパ。」
美佳が大広間に入ってくる。
「ああ・・・そうだな。でもこれからがもっと大変だ。」
「そうだね・・・。」

「あなた・・・岳人は大丈夫かしら・・・。」
更に朋美がやってきた。
「大丈夫だと思うぞ。真紅とくのいち軍団に源之進、大雅、更にあの怪物をつけているから。」
私は朋美の肩を抱く。

「そうそう・・・慶次はバケモンだから。それに源之進と大雅という智謀もある剛の者をつけているから安心だって♪」
五右衛門が言う。

「まあ・・・殿はちと自由にさせ過ぎるとも思いますが。」
「全くですぞ。殿・・・これからは大和国守護になるのですから、ある程度気を引き締め続けねばなりませぬ。」
光秀と景兼もやってきた。

「わかっているって・・・ああ・・・大変だよな・・・要は社長だろ。」
私は重責に思わず頭を抱えるのだった。


こうして私は大和国守護山田大輔として乱世に名を轟かせてしまうことになった。
それがこの先、更に歴史を大きく変える出来事を引き起こすことになるとは知る由もなかった。
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