マイホーム戦国

石崎楢

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第112話:罠と罠

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1568年10月丹後国上安城。

「うらァッ!!」
若狭武田家家臣であった小原帯刀は先陣を切って城内に突入していた。

「若狭侍の誇りを見せよォ!!」
同じく若狭武田家家臣であった野田甚太夫も、負けじと守兵達を斬り倒しながら城内へと続いていった。


よし・・・次は一色の守護所を落とすだけだ。

旧武田軍を率いる武藤友益は怒りに満ちていた。
行方不明だと思われていた武田元明の鎧と兜が、丹後で売られていたことを知ったからである。


そして残存の旧武田家家臣団は高浜城に集結しすると、若狭国守護代となった清興に直談判を申し出た。

「島殿。我らに丹後攻めを!!」
旧若狭武田家四家老の一人であった武藤友益は清興に詰め寄るかの勢い。

「まだ若狭国内の国人衆の方々がまとまっておらぬ状況・・・今は静観せざるを・・・」
「天下の勇将たる島左近清興殿がそのような・・・ならば拙者がこの命に替えても若狭国人衆を懐柔してみせましょうぞ。」
そう言い放ったのは内藤勝行。旧若狭武田家四家老の一人である。

「分かり申した。ただ此度の丹後攻めの最中に若狭国内で反乱などがあった際は、越前の朝倉殿に介入していただきますぞ。」
清興の言葉に旧若狭武田家家臣団に動揺が見られた。

朝倉の介入だけは避けねばならぬ・・・こちらにも武田家としての意地がある。

武藤友益は振り返ると旧家臣団を見回す。

「朝倉による介入だけはさせませぬ。島殿に若狭をお任せしたいのです。」
「我らの意地を見せましょうぞ!!」

次々と旧若狭武田家家臣団から声が上がるのだった。



丹後国堺谷城を落とした清興率いる山田軍。
周辺の倉谷城、佐武ヶ嶽城も陥落させており一色義道の居る八田守護所は目と鼻の先であった。

「このまま攻め落とすか・・・降伏を待つか・・・。殿ならば後者だろう。俺もそれにあやかりたいと思ってはいるのですがな・・・。」

清興は景兼と二人で八田守護所を見つめていた。
既に八田守護所からは一色軍は兵を退きつつあった。

「建部山城に立て篭もるのだろうな。すぐに全力で攻め落とすか・・・それとも丹後の国人衆を籠絡して彼らの力を使うか・・・。」

景兼は思案している様子だったが、清興は笑みを浮かべていた。

「既に中山城城主沼田幸兵衛は懐柔済みですぞ。」

そこに姿を現したのは毒蝮の金蔵。配下の忍びを複数名連れていた。

「金蔵、久しいな。」
「お久しぶりでございます。疋田様。」

金蔵とその配下の忍びたちは平伏する。

「他にも弓木城の稲富祐直や男山城の高岡貞正などはこちらの手に落ちております。」
「相変わらず仕事が早いな。」
「嬉しいですな。軍師様に褒められるとは。」

景兼と金蔵の会話が弾んでいる。

思えば大和国内で精一杯であった我らがこうしてここにいるのが不思議なものだ。
俺が若狭国守護代だからな・・・。一馬や義成はもっと上にいくかもしれぬ。
まあ・・・どこまで行くのか楽しみだ。
殿は全然楽しくはないだろうがな・・・。

清興は兜を脱ぐと大きく深呼吸をするのだった。



そして建部山城に追い詰められた一色義道。
その軍勢の数は二千程であった。

「丹波守も播磨守もまだ援軍をよこさぬというのか・・・」

義道は苛立ちを隠せない。
丹後の諸地域にいる家臣団が次々と山田家に懐柔されつつあることも大きかった。
ここから一色義道には地獄のような日々が待ち受けているのである。



摂津国芥川城。
三好義継は日々不満が募るばかりであった。

俺が三好家当主になってからというものの、岩成のヤツも全く動こうとせんではないか。

「三好義継殿。もっと気持ちを大きく持たれるのです。」

本丸御殿の一室で一人怒りに震えている義継のもとに現れたのは赤龍。

「おお、赤龍殿か。」
「首尾は上々ですぞ。」

赤龍の言葉を聞いてにんまりとする義継。

「畠山高政は本気で山田との戦に望んでおります。だが現当主の秋高は戦を好んでおりませぬ。ここで河内と紀伊が二分化されれば、再び三好家に畿内での覇権を取り戻す機会が訪れましょう。」

「それは嬉しいぞ。」

ますます喜びが増長していく義継。

ただ一つ・・・気掛かりなのが遊佐信教。
この男の動き次第ではの書いた筋書き通りにならぬ・・・
頼んだぞ・・・緑霊。

赤龍は表情をこわばらせると天を仰いだ。



河内国高屋城付近の森の中。

二人の男が激しい戦いを繰り広げていた。

「灰月・・・どこまで邪魔立てするのだ!!」
緑霊の長刀が唸りを上げて虚空を斬り裂く。

「日ノ本を守るためならば永遠に邪魔をしてくれようぞ。」
灰月は両手の円月輪でそれを軽く弾いていく。

「ならば・・・悠長なことは言ってられぬ・・・死ね!!」
緑霊の声と共に緑装束の一団が現れた。

「ツガルで操られた可哀想な忍び共か・・・。」
灰月が言った瞬間、

「ぐべッ?」「ふげッ!?」

次々と緑装束の兵たちの首が飛んでいく。

「緑霊さんでした?あまりお会いしたことがないので・・・」
橙火が血飛沫の中、刀を構えて緑霊の方へ向かっていく。

「・・・橙火・・・この女・・・。」
緑霊は後ずさりし始める。

「腕自体ではわたしに劣るものではないでしょう・・・さあ・・・来なさい。」
橙火の美しい顔、しかし無表情な顔と醸し出すオーラが禍々しい。

この女は得体が知れぬ・・・その剣技はまさしく神速。
見切れぬわけではないがな・・・ここでギリギリの戦いをする必要はない。

緑霊は長刀をしまうと大きく後ろに飛び退いて間合いを取った。

するとその背後に一人の男が姿を現す。

「よくわからんが死んでね!!」

その男の鋭い一撃をなんとか緑霊はかわすも肩口から血が噴き出していた。

なんだ・・・この男は・・・

緑霊は驚愕の表情でその男を見つめる。

「俺は飛鼠。だからあんまりお天道様の下では動きにくいのよね♪」

その男、飛鼠があくびをしている間に緑霊は肩を抑えながら逃げていった。


「わざと逃がした?」
橙火が呆れ顔で飛鼠に聞く。

「俺個人的都合でね。」
「仕方がないか・・・フフフ。」

そんな橙火と飛鼠を横目に灰月は静かに立ち尽くしていた。

少しでも義栄公には長く生きて貰わねばならない。
次の日ノ本の為に・・・
我らは誰がこの日ノ本を治めるのにふさわしいか見極めねばならぬのだ。

そんな灰月に対し、自分の顔を指差す飛鼠。

「残念だが、緑霊を取り逃がした時点で論外だな。」
「キツイな・・・灰月さんよォ・・・。」
「おぬしもそれがわかっているからこそ、我らと行動を共にしているのだろう?何とも皮肉めいた名前で。」

そんな灰月の言葉を受けた飛鼠は親指を立てると何処かへと立ち去っていった。



謎の集団同士の争い。
そしてこの飛鼠という男の正体・・・

複雑に絡み合った歯車が少しずつ回り始めていた。
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