マイホーム戦国

石崎楢

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第113話:幻の秘薬を求めて

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もう訳がわからんぞ・・・

五右衛門は断崖絶壁をよじ登っていた。
崖の岩場に杭を打ち付け、縄を結びながら命懸けの登攀。

「俺はそこまでお人好しじゃなかったはずなんだけどね・・・。」
思わずつぶやく独り言。

「五右衛門様、しっかりと打ち付けて結んで欲しいでやんす。落ちたら死んじゃいますんでやんすよ。」
崖の下から声がする。

「黙れ!!お前らはそのぐらいじゃ死なんだろ?」
「いやあ、妖怪も普通に死ぬでやんす。場合によっては即死でやんす。」

五右衛門の遥か下には二匹の妖怪がいた。
河童と天狗である。
その隣には真紅配下のくのいちのひより。
更にその後方からふらふらと歩いてくるのは慶次と鉄心、焔の陣内、そして謎の男。
皆、傷だらけであった。

1568年10月、ここは大和国大峰の奥深い山中である。
何故、このようなことになったのかというと・・・


同年9月中頃、山城国勝竜寺城。

「殿・・・いや・・・義父上。お話がございます。」
楓が二条御所を抜け出して私に会いに来た。

「どうした・・・楓?」
「義栄公の御身体のことでございます。」

私は真紅と重治を交えて茶室で楓から話を聞いた。

「殿はどのように考えられます?」
重治は話を聞き終えると私を見た。

要は足利義栄はもう長くはないということ。
ただできれば少しでも長く生きさせてあげたい・・・奇跡が起こるのならば病を治して欲しい。

それが楓の願いであった。

「難しいだろうな・・・。」
私にはわかっていた。
楓から義栄の状態を聞いた瞬間に・・・現代でいう『癌』であるということを。
しかも末期だろう。
私も実の両親や祖父母を癌で亡くしているのでよくわかるのだ。

「殿、河童をお呼びになってはいかがですか?」
真紅が言う。

「河童? 真紅様、河童などこの世におりませぬぞ。」
重治が笑みを浮かべて言い返す。

「いるわ。現に殿が妖怪を呼び寄せるという噂が立っているのはご存じでしょ?」
「噂でしょう。」
「私が本能寺で斬られた際の致命傷は河童が治してくれたのよ。」
「まさか・・・ご冗談を。」

段々と真紅と重治の会話が言い争いに変わりつつある。
竹中半兵衛重治というのはリアリストで実際に目にしたもの以外は信じないタイプだろう。

「わかったよ。」
私は右手を頭上に掲げる。

「来い・・・黒漆剣よ。」

すると黒漆剣が空を飛んで私の手に収まった。

「・・・!?」
茫然としている重治。

「出でよ・・・俺の友達・・・河童。」

私の声と共に空間が裂けて一匹の妖怪が姿を現した。本能寺の時の河童だ。

「お久しぶりでやんす。御主人様も美乳のくのいち様も・・・うほ・・・!!」
河童は重治を見ると目がハートになった。

「なんという美しい御方・・・ズッキューンでやんす♪」
河童は重治に近づいていく。確かに美女のような美しい顔ではある。

マジか・・・本物の妖怪・・・河童・・・

重治は固まっている。
その重治の胸を揉みしだこうとする河童だったが、

「私は男だ!!」
「ばらばァッ!?」
重治の拳が一閃、河童は血を吐きながら吹っ飛んでいった。


「なるほど・・・それならば私の薬でも難しいでやんすよ。でも、ただ一つだけ可能性が残されているでやんす。」
歯を数本砕かれた河童は涙を流しながら説明する。

「大和国大峰の山中奥深くに幻の秘薬があるといわれているでやんす。」
「お願い、河童さん。将軍義栄公を助けてください!!」

河童にすがりつく楓。

「このような美しい女子に頼まれては断れないでやんすが・・・・ただ一つ条件があるでやんすよ。」
「エロは禁止だぞ・・・封印どころか浄化するぞ!!」

私は珍しく語気を荒める。河童はそれに怯えたようだ。

「エロではないでやんす。可愛い女子を秘薬探しの道中に一人でも結構なんで・・・お供に欲しいでやんすよ!!」
怯えながらも必死な河童。

「わかったわ、河童さん。私の配下の中でも一番の別嬪をお供にさせますわ。」
「美乳のくのいち様は優しいでやんす。」
「私は山田大輔様の側室の真紅です。名前を覚えなさい!!」
「ははァ!!・・・でやんす。」

あまりに奇想天外な展開・・・重治は口をぽかりと開けたままであった。

「御主人様、あと妖怪仲間の天狗を呼ぶでやんす。大峰には詳しいでやんす。」

河童の言葉を受けて、私は黒漆剣を使い天狗を呼び寄せた。

「マジか・・・天狗か・・・おかしいだろ・・・。」
遂に重治は頭を抱えてブツブツと呟き始める。

「大峰では何が待ち受けているかわからんぞ。御主人様、屈強な者を八名程御集めくだされい。無論、ワシや河童も頭数に入れてくだされい。」
天狗の言葉に河童の表情は青ざめていくのだった。


こうして大峰遠征の八名が集められた。

「俺かよ・・・。まあ退屈しのぎにはいいかもな。」
五右衛門は嬉しそうな顔をしていた。

「河童と天狗・・・河童と天狗・・・?」
慶次はさすがに妖怪を生で見るのは初めてであり、ただただ凝視するばかりである。

「おお、河童か・・・久しぶりじゃな。」
「黒木殿でやんすね。」
なんと鉄心と河童は知り合いのようだ。
どうやらこの河童は宇陀に棲む河童のようで、鉄心が幼少期の頃に相撲をして遊んでいた間柄とのこと。
おかしいだろ・・・!?

「ええッ!?わたくしめが呼ばれたのはこういうことですか!?」
河童と天狗を見て酷く狼狽する一人の男。
六角家配下の甲賀忍軍上忍の杉谷善住坊である。

「杉谷殿、俺も驚いております故に許してくだされ。」
久しぶりの山田忍軍中忍の焔の陣内が杉谷善住坊にひたすら詫びていた。
どうやら旧知の仲でスカウトしたということで責任を感じているのだ。

「殿のお力になれますのは光栄ですわ。」
そして伊賀下忍のひよりも集められていた。
『薬膳料理やまだ』の仕事も一時休職扱いということだ。

これに河童と天狗が加わった総勢八名・・・正確には六名と二匹が幻の秘薬を求めて大峰へと出発していった。

「河童はさておき・・・五右衛門と慶次は野獣だぞ。ひよりちゃんの貞操は大丈夫かいな?」

旅立つ彼らを見送りながら私は真紅に問いかける。

「黒木殿や陣内、甲賀の杉谷様がおられるので。それにひよりは下忍ではありますが、元々は中忍、上忍クラスの中忍ですわ。わたしより数段腕が立つので・・・。」

真紅はそう答えるとため息をついた。

あのコは戦場に立つと危険なの・・・五右衛門や前田様ぐらいしか抑えられないわ・・・



こうして選ばれし六名と二匹に対し、大峰ではどのような困難が待ち受けているのだろうか?
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