マイホーム戦国

石崎楢

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第143話:大友宗麟襲撃

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永禄12年2月16日、永禄大武道会二日目の夜。
京の都の夜は雪化粧・・・その中を音もなく駆け抜けていく影たち。

「大友宗麟は比叡山ではないと・・・。」
「ならばどこじゃ・・・」
「勝竜寺城かと・・・既に別動隊が向かておりますが故に我らはこのまま伏見へ。」

その影たちは次々と数を増やしながら伏見へと南下していった。


山城国勝竜寺城。

「イイノミップリダネ、ソウリンサン♪」
ルイス・フロイスと大友宗麟は酒を酌み交わしていた。

「ルイスも楽しそうね♪」
カウンターに立つのはひよりだ。私から店を引き継いでいる。
薬膳料理やまだは美少女料理人という時代設定的にあり得ない展開で大繁盛していた。
最早、京に滞在中は毎日訪れるルイス・フロイスをルイス呼ばわりのひより。

「切支丹について岳人殿と語り合えたのは収穫じゃった。この先の日ノ本を救うのは主であろうな。」
酔いも回っている大友宗麟は頭頂部まで真っ赤になっていた。

「宗麟もまるで茹でタコみたい・・・可愛い♪」
「えへ・・・そう?おっちゃん茹でタコみたいで可愛い?・・・ってこら♪」

ひよりも無礼そのものであるが、物怖じしない態度が気に入られたようだった。


このように盛り上がっている最中・・・

「させんぞォ!!」
鋭い太刀筋で瞬時に浪人風の男を二人斬捨てるのは藤林長門守正保。
更にクナイを次々と投擲して忍びたちを倒していく。

城下町の外で繰り広げられる死闘。

「こやつら見たことがないぞ・・・皆の者・・・油断するでないぞ!!」
「おう!!」
正保の声のもと、伊賀の忍びたちと山田軍の兵たちが謎の侍・忍び集団を迎撃しているのである。

勝竜寺城は改修されており、城下町入り口には門と四方には町を囲む柵が形成されていた。
三重に城下町は形成されており、一旦門を閉じれば侵入は困難である。

そのはずであったが・・・既に刺客は城下町の奥深くに入り込んでいたのである。

「ワハハハ・・・イエス様万歳!!」
ハイテンションの宗麟とルイス・フロイス。

そのとき、突然天井から一人の影が降りてきた。
そしてクナイを宗麟めがけて投擲する。

「ヒィ!?」
宗麟は慌てふためいて椅子から転げ落ちたことでクナイをかわすことができた。
しかし、その影は狙いすました次のクナイを宗麟の眉間めがけて投擲する。

「!!」
だが、そのクナイも宗麟に届くこともなく音を立てて叩き落された。

「商売の邪魔しないくださいな・・・。せっかくルイスと宗麟が楽しく飲んでいるんじゃないの・・・野暮ね♪」
カウンターから飛び込んできたひよりが叩き落していたのだ。

「忍びか・・・山田め・・・手際が良すぎるな。」
その影は腰から抜いた剣を構えた。

まるで蛇のような形状をしているその剣を見たひよりはつぶやく。

「変わった刀ね・・・。」
そして額から流れ落ちた一筋の汗を拭った。

この男・・・得体が知れない・・・

「我が名は蛇眼丸・・・。可愛い小娘だが腕は立つようだな・・・楽しみだ。」
その男は蛇眼丸と名乗ると不思議な構えでひよりを威嚇するのだった。

その頃、店の前でも死闘が繰り広げられていた。

「絶対に中に入れさせるな!!」
大友家家臣佐伯惟教は怪しげな風情の男たちの襲撃に抵抗していた。
しかし、腕が及ばずに配下の者共は次々と斬り伏せられていく。

「紀伊守殿・・・これは一体!?」
同じく大友家家臣臼杵鑑速は槍で牽制しながら店の入り口を守る。

「邪魔するな!!」
そこに怪しげな風情の男たちの一人が鑑速に襲い掛かった。
「させんぞ・・・ぐおッ!!」
しかし、その鋭い太刀を防ぎきれずに槍ごと肩口から斬られて倒れ伏す。

「四郎左衛門殿ォ・・・ぬう・・・。
佐伯惟教の声も届かずに止めをさされそうになる臼杵鑑速。

そのときだった・・・

クナイがその男めがけて次々と飛んでくる。
めざとく全てを鮮やかに弾き返す手並みを見せたが・・・

「がはッ・・・」
背後から何者かがその男を刺し貫く。
崩れ落ちていく男の背後に立っていたのは岳人護衛くのいち五人衆の一人なずなだ。

「はァァ!!」
もみじが怪しげな男の一人を斬り伏せる。
その間にすみれ、みずは、れんかが店の入り口を固めた。

「大友宗麟様を守れ!!」
更に英圭が兵を引き連れて駆けつけてくる。
その手には連発式の銃。

「刺客に正々堂々もないぞ・・・殿の大切なお客人を守れ!!」
英圭の狙いすました射撃で次々と撃ち抜かれて倒れていく怪しげな男たち。
弾切れになると配下の兵に銃を手渡すと背中の鉄棒を手にした。

「なずな殿ォ!! 店の中だァァァ!!」
英圭は何かを察したかのように大声を張り上げる。
くのいち五人衆はすぐさま店内へと突入した。

「お・・・遅いです・・・なずな様・・・」
そこには手傷を負ったひよりがひざまずいでいた。

「ひよりが・・・。」
五人は蛇眼丸を囲むようにそれぞれ武器を構えた。
しかし、踏み込めない・・・

なんなのよ・・・あの目は・・・

蛇眼丸のあまりに鋭く恐ろしい眼光に無意識に恐怖を感じていたのだ。

「ヤメテクダサイ・・・シュハアラソイヲノゾミマセン。」
フロイスは勇気を持って立ち上がると十字架を蛇眼丸に向けた。

「おい、伴天連・・・貴様は殺すことができぬが邪魔すれば痛いぞ・・・」
「ひいい・・・」

フロイスは慌ててひよりの陰に隠れる。その隣では震える大友宗麟。

「さあ・・・全員まとめて・・・」
「させぬわァァァ!!」

そこに店の壁をぶち壊して飛び込んできたのは英圭。
鋭い鉄棒の一撃を振るう。

「なんだ・・・この・・・飛躍感ッ!!」
蛇のような形状の剣、蛇剣でその一撃を防ぐも腕ごと持っていかれそうになってしまう蛇眼丸。

「貴様・・・名は?」
「私は山田家家臣仁興英圭だ。」

蛇眼丸は驚きの表情を浮かべる。

山田家の強者共は大覚寺にいるのではないか?
若造の癖に、この者の強さは遜色がないぞ・・・大覚寺におる者共と。

「貴様こそ名は何という?」
「蛇眼丸。どうやら今宵はワシの夜ではないようじゃ・・・。」

そう言い残すと蛇眼丸は物凄い跳躍で天井から逃げて行った。

「なずな殿、追わなくて結構ですぞ・・・あの者の狙いは大友宗麟様のみ。」
英圭はなずなたちを制するとひよりの手当てを始めた。

あの蛇眼丸・・・ただ者ではない・・・何者だ・・・


勝竜寺城城下町から脱出した蛇眼丸は大きなため息をつく。

「話が違うぞ・・・風魔小太郎。」
「蛇眼丸。まさか大友宗麟を討ち損じるとは・・・。」

蛇眼丸の傍らに姿を現した風魔小太郎は言葉と裏腹に竹筒を手渡す。
その竹筒の水を一気に飲み干した蛇眼丸は笑みを浮かべた。

「何故に笑われるか?」
「山田の家臣にあれだけ強いのがおったとはな・・・。」
「こちらとしては厄介極まりない。」

そう言うと二人は笑い合う。

「それにしてもこの蛇剣とやらの扱いにくさは・・・」
「では蛇眼丸の次の名はどうする?」
「その時になったら適当に決める・・・。今は全てを見定める時だ。」

蛇眼丸という名を騙った男は勝竜寺城を見ると再び笑みを浮かべると蛇剣を投げ捨てると何処かへと立ち去って行った。

何を考えておる・・・その才覚・・・いずれはこの乱世に名を残すであろう・・・黒田官兵衛よ。

その後姿を見送った小太郎も再び姿を消すのであった。


勝竜寺城での大友宗麟襲撃の阻止には成功した。
しかし、次は誰が狙われているのだろうか?誰が何を企てているのだろうか?
暗躍する風魔小太郎の真意も謎のままであった。

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