マイホーム戦国

石崎楢

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第142話:四強揃う

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比叡山での今川家と里見家の戦いはクライマックスを迎えていた。

「ここまで六戦六分というのは偶然とは思えぬぞ。」
今川家の七番手は今川氏真。その手に木刀を握りしめている。

「・・・。」
里見家の七番手の男も木刀を手にしているが、その表情は穏やかそのもの。


「始め!!」
審判の声と共に今川氏真は構えを見せる。

油断も隙も無い・・・まさしく達人の領域にある。恐るべし今川氏真。

試合を観戦している竹中半兵衛重治は感嘆していた。

今川氏真は剣聖塚原卜伝から鹿島新當流を学んでいる。
父である英傑今川義元も生まれながらの武を持っていた。

それに引き換え里見家の七番手は・・・

隙だらけの構えで闘志をまるで感じさせない男であった。
重治の目から見ても何かを秘めているようには見えなかった。
今まで里見家の男たちが驚くべき腕であったのに対し、全くいいところが見受けられないのである。

フラフラと動きながら辛うじて今川氏真の攻撃をかわしている。

「つかみどころのないやつめ!!」
しかし氏真の鋭い太刀筋は徐々にその男を追い詰めていた。

「おおっと・・・くッ・・・やば・・・」

「何をしておるんじゃ・・・あやつは・・・。」
里見家当主里見義弘は苦虫を嚙み潰したような顔でつぶやく。

「悪い癖が出てますな・・・我らが頭領は・・・」
獅子丸と呼ばれていた男がほくそ笑んでいる。

「犬ですからな・・・わんわんとじゃれ合いたいんでしょう。」
舵木丸という名の男も余裕の笑みを浮かべていた。

その様子を見ていた重治は慌てて試合場の里見家の男をじっくりと見定める。

既に見切っている・・・この男は・・・何を秘めているというのだ。

さあて・・・そろそろいくか・・・。

今川氏真の攻撃を捌ききった里見家七番手の男は刀を切っ先で円を描いた。

「里見八犬士随一の戦士・・・犬江八房いぬえやつふさ往くだワン!!」

次の瞬間、今川氏真は天高く吹っ飛ばされて地面に叩きつけられた。

「まさか・・・」
赤龍たちは思いがけぬ敗北に固まっている

「ワンワン・・・。」
その男犬江八房は木刀をくるくると回転させるとそのままキメポーズで勝利をアピールするのだった。


そして大徳寺では

「尼子家七番手武輝丸。」

先に試合場に立つのは義輝だ。

「上杉家七番手上杉輝虎。」

どよめきが走る中、上杉輝虎は木刀を手に試合場へと歩いてくる。
既に勝敗は決していた。
初戦の鬼石、飛鼠、霞丸で三連勝。その後、上杉家は北条景広や登坂藤右衛門という若手の奮戦で盛り返すも六戦目で尼子の山中鹿介の前に上杉家六番手の新津勝資が敗れたのである。

久しぶりに血が滾りますぞ・・・義輝公!!

上杉輝虎は喜びに満ちていた。

俺は加減を知らぬぞ・・・

義輝も木刀を構えると笑みを浮かべる。

「始め!!」

審判の声と共に両者踏み込んでの壮絶な打ち合いが始まった。

「強い・・・これが越後の龍か!!」
霞丸は驚きの声を上げた。
義輝に全く引けを取らない剣技、その身のこなしに見惚れてしまっていた。

ワシはこの男といずれ戦おうと思っていたのか・・・
出羽国なぞ上杉輝虎が本気になればひとたまりもないだろう・・・

義輝は打ち合う度に感じる重みに心地よさを感じていた。

さすがだ。剣の重みが違う・・・俺が戦った相手の中で間違いなく最強だぜ!!

そんな義輝の姿に輝虎はひたすらに真っ向から打ち合っていく。

やはり生の実感とはここにある・・・ワシの生きざまはここにあるのじゃ!!

この戦いは終わりの予感を感じさせないものであった。
そして時間切れ引き分けという形で幕を下ろすのである。

そして伏見稲荷では既に戦いが終わっていた。

「何というザマじゃ!!」
怒り心頭の北条氏政。
なんと七戦全敗という結果に終わってしまい、周囲に当たり散らしている。

こんなもんでいいだろう・・・俺たちの出番は都の夜って訳だ。

風魔小太郎は宇喜多直家に目配せをする。

さあて・・・都の夜に誰が消えるか楽しみなものだねえ♪

宇喜多直家はニタリと笑うとあえて毛利陣営に目をやった。

勝利を収めた毛利陣営だが、小早川隆景はただ宇喜多直家を睨み続けていた。

なんと挑発的な男よ・・・だが、毛利を舐めるなよ。
貴様の好きにはさせぬわ!!

違う駆け引きが既に始まっていた。



そして大覚寺。

「山田家六番手長滝慎之介。」
「武田家七番手真田幸隆。」

審判の声に合わせて両者向かい合う。

「始め!!」

両者共に得物は槍である。

慎之介はいきなり全開で踏み込んでいった。

「第一の槍、烈風流激突!!」

その強烈な一撃に面食らう真田幸隆。

なんだ・・・この槍は・・・

辛うじて防ぐも既に自身の槍が折れかけてしまった。

しかし、慎之介は落ち着き払って審判に真田幸隆の得物交換を促す。
その佇まいに異変を感じた五右衛門。

「マジか・・・慎之介が化けおった・・・」

慎之介の身体から湧き上がる闘気を感じとっていた。

「殿のおかげだな。殿の戦いぶりが慎之介を更なる高みに昇らせたってことだ。」
「あとはあの武田の真田幸隆・・・多分手傷を負っておる。これでは勝負にならぬな。」

慶次と清興の会話を聞いていた私はうなずく。

やっちゃえよ慎之介!!

「真田殿・・・その身体では無理ではございませぬか?」
慎之介は真田幸隆に声をかける。

「若造が・・・遠慮はいらぬぞ・・・。」

笑みを浮かべて手招きをする幸隆。

「では・・・覚悟!!」
慎之介は思い切り踏み込むと鋭い突きを放つ。

「ぐぬッ!?」
それに合わせて真田幸隆も踏み込んでの一撃。
慎之介は顔を背けてかわしながらの突きが幸隆の喉元へ・・・

「参った!!」
慎之介の槍は喉元ギリギリで寸止めしていた。
その見事な腕前に名将真田幸隆も敗北を認めるしかなかったのだった。


「勝負あり!! 勝者長滝慎之介!!」

私たち山田家は見事に武田家を破り準決勝へと進出したのだった。


「山田大輔殿。楽しかったぞ!!」
「私もですよ。武田信玄殿。」

試合後に私は武田信玄と語り合った。
甲斐の虎の日ノ本への熱い思いはよくわかった。
しかし、それよりも驚いたのがかなりのエロオヤジだったのである。

「若いのはたまらんぞ。大輔殿もどうじゃ?」

そんなお勧めをされたが即答で断った。
何故ならば信玄は男もOKなのである。
いや・・・むしろこの戦国時代はそれが普通らしい。

「上杉謙信なぞは男しか好まぬらしいぞ。」

そんなことを聞くと上杉謙信と会うのが怖くなるものだ。


ともかく準決勝に進出したのは里見家、尼子家、山田家、毛利家となった。
組み合わせは確定していないが、どこが来ても手強いだろう。

しかし、都の夜は今宵も策謀の渦が巻き起こる予感に満ちていたのであった。
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