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第157話:凋落の名門
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1569年3月末、山城国勝竜寺城。
「確かに美味でございますが、私は小食で・・・」
「何言ってんの。だから病弱なのよ。」
伴天連の方々が日々集う「薬膳料理やまだ」の個室で私は竹中半兵衛重治夫婦を接待していた。
戦国時代で合法的に牛肉や猪肉、雉肉を食べれるお店として公家の方々にも好評。
若き美女料理人としてひよりが腕を振るっており、彼女目当ての客も多い。
「殿。暇さえあれば御馳走になり申し訳ございません。」
重治が恐縮している傍らで妻であるいねは物凄い勢いで肉を食べている。
「重治も早く子供を作らないといけない。ウチの料理は精力がつくぞ。」
私の言葉にいねも同調する。
「あなたが頑張らないといつまで経っても子ができませぬ。せっかく風邪ひかぬお身体になられたのに。」
「すまぬ・・・いつも私の夜がいたらぬばかりに・・・」
天才軍師である竹中半兵衛にも弱点があるのかと思うと私のドS心に火がつくものだ。
「ひよりちゃん?」
「なあに大ちゃん。」
殿を大ちゃん呼ばわりだと・・・この小娘が・・・
私とひよりのやり取りに憮然とした表情の重治。
「スッポンスープお願い。」
「はい♪ 大ちゃん、真紅様と頑張るのですか?」
「いや、半兵衛といねさんに飲んでもらおうと思ってね。」
そしてひよりはスッポンスープを二人前運んできた。
恐る恐る飲む重治だが・・・
「なんですと・・・これはなんという美味しさ。元気がみなぎりますぞ。」
「たまらないですわ♪」
美味しそうに飲み干す二人。これも私の作戦なのである。
竹中半兵衛重治は病弱であり、1579年には亡くなってしまうという史実がある。
これからの山田家のため、日ノ本のために長生きしてもらう。
優秀な遺伝子を持つ子供も一人ではなく何人も残してもらいたい。
これは食事による虚弱体質の改善、長い目で見れば食事療法なのだ。
このことにより竹中半兵衛という男の歴史が大きく塗り替えられることになるのは後の話である。
まだ残雪の丹後国。
「出陣!!」
八田守護所から出陣する山田軍その兵力は五千。
大将である清興は元規、純忠を従えて建部山城を目指す。
しかしこのとき、丹後国守護一色義道が立て籠もるその城は既に窮地に陥っていた。
「うぬぬぬ・・・」
一色義道は城の麓を眺めて一人唸り声をあげていた。
建部山城を西から包囲しているのは家臣のはずである赤尾但馬守、小倉播磨守の手勢である。
「おのれ・・・ワシをたばかりおって・・・」
憤る義道に朗報が舞い込んでくる。
「殿、義清様が手勢千五百を率いてこちらへ向かっております。」
「さすがじゃ義清。ワシたちも合わせて反撃に出るぞ。」
そして一色義道の実弟である吉原義清は兄を救うべく必死の行軍をしていた。
居城である吉原城は建部山城から離れており、途中には山田家に寝返った家臣団の居城が点在している。
兄上を救うのじゃ・・・
しかし、その思惑は無残に散ることとなる。
「なんだと・・・」
吉原義清の軍は行軍を止めた。
その先に見えるのは山田の旗印。
「来たか・・・急ぎならばこの道しかあるまいと踏んだが・・・」
景兼率いる山田軍二千の兵が待ち構えていた。
「先陣を切らせていただかせてもよろしでしょうか?」
景兼の弟子である鳥見俊英が進み出る。
「決して大将首は獲るな。生かして捕らえることができるならば任せよう。」
「ははッ!!」
俊英は鉄砲隊、盾隊を前面に展開させると名乗りを上げる。
「我こそは山田家軍師疋田豊五郎景兼様が一の弟子鳥見俊英なり!! ここより先へは通すわけにはいかぬ。」
それに対し一色家からも一人の騎馬武者が現れた。
「吉原義清様が家臣近藤義明じゃ。若造が、後悔するぞォ!!」
近藤義明は槍を振りかざすと俊英めがけて襲いかかる。
俊英も槍を得物にすると迎え撃つ。
「グエッ!?」
打ち合うことわずか十合ほどで近藤義明は喉元を貫かれて落馬した。
「次は誰だ!!」
あまりの圧倒的な武の前に怖気づく一色軍。
「何をしておる。一騎打ちなどの時代錯誤はどうでも良い!! 弓隊、鉄砲隊。あの者を狙い撃て!!」
吉原義清が叫んだ時だった。
山田家の鉄砲隊が素早く展開すると一斉に射撃を始める。
その正確な射撃の前に一色軍の兵たちは次々と倒れていくばかり。
「義清様、無意味な争いはお止めください。」
そんな中で山田軍の中から現れた一人の若者。
その顔を見ると義清は言葉を失った。
「弥四郎か・・・」
一色家砲術指南稲富家の次期当主である稲富弥四郎祐直であった。
丹後の山田軍の鉄砲隊は稲富家の指導により正確無比な射撃ができるようになっていたのだ。
「既に丹後は一色家のものではございませぬ。元はと言えば若狭国の内乱に介入し武田家を滅亡させたこと。発端は我々にございます。」
「なんじゃと・・・」
このことは義清には初耳であった。
畿内に急激に勢力を伸ばしている山田家による侵略ではないのか!?
兄上が若狭の・・・武田と逸見の争いに介入した・・・聞いておらぬ。
そして義清は山田軍の本陣へと家臣団を伴い入っていった。
「吉原義清殿、果たして丹後の民や国人衆は今のままで満足されておるのか?」
景兼の言葉に義清は答えられなかった。
国人衆は既に我ら一色を見限っておる・・・全ては兄上の業の深さのせいじゃ・・・
「疋田殿、失礼ながら我らや丹後の民は圧政に苦しんでおりました。」
吉原義清の家臣小西石見守が義清を遮って前に出てきた。
その後も次々と家臣団が義道の悪政を訴える姿に義清はただ嘆息するばかりであった。
そして建部山城には清興率いる山田軍が押し寄せていた。
主力を担う旧若狭武田家の兵は凄まじい気迫で大手口を突破していく。
「狙うは一色義道の首のみじゃ!!」
先頭に立って斬り込んでいくのは旧若狭武田家四家老の一人内藤勝行。
若狭の海賊衆を従えて本丸を目指していた。
「むう・・・俺の出番がなさそうだ。」
清興は本陣から建部山城を見つめていた。
赤尾但馬守、小倉播磨守の手勢も攻めており、落城するのも時間の問題であった。
「島様も一応は総大将らしく動かなくてもよろしいかと思いますが。」
純忠が清興に声をかける。
「なんだとォ・・・」
「守護代がもしも・・・万が一ですよ、討ち取られたら」
「俺がそこいらのヤツに討ち取られる?」
「どれだけ島様が武を誇ろうとも鉄砲には勝てませぬ。」
「そりゃそうだ・・・嫌な時代になったもんだぜ・・・」
純忠の言葉に納得するも清興は苦虫を嚙み潰した表情でため息をつくのだった。
「内藤殿が先走り過ぎではないですか!!」
城内の乱戦の中、元規は次々と敵兵を打ちのめしながら本丸へと急いでいた。
元規はこの戦において旧武田家の兵をまとめる山田軍の副将を担っている。
「我らにとっては若殿の敵なのじゃ・・・。」
武藤友益ら旧武田家家臣団も元規の後に続いている。
本丸に突入した内藤勝行。ついてきているのはわずかな兵だけであった。
追いついた・・・
その後姿を捉えた元規だったが・・・
「!?」
激しい銃声が鳴り響くと内藤勝行たちは倒れていく。
本丸に鉄砲隊を潜ませていた一色義道が高笑いしている姿が見えた。
「愚かな・・・武田の家臣共なぞ取るに足らぬわ。ワハハハ。」
「ゆ・・・許さん・・・ウオォォォ!!」
元規は咆哮すると弾をこめ直ししている鉄砲隊の前に飛び込んだ。
「ヒッ・・・」
思わずたじろいだ一色義道だったが、次の瞬間、頭を吹っ飛ばされていた。
「・・・」
憤怒の表情で流星鎚を振り回す元規の姿と絶命している主君の姿に、一色軍の鉄砲隊は銃を放り投げて逃げていく。
「お・・・小原殿、すまぬ・・・若殿の敵を取ってくだされて・・・」
「内藤殿・・・」
元規は内藤勝行の身体を抱き起すが腹を二か所吹っ飛ばされており手遅れなのは明白であった。
「最後にお頼み申す・・・何とか・・・武田の家を・・・残せるように・・・」
そう言い残すとこと切れた内藤勝行。
元規は見開いたままの勝行のまぶたを塞ぐと空を見上げるのだった。
「いつまでこのような世の中が続くのだろうか・・・義輝様・・・教えてくだされ・・・」
こうして建部山城は陥落。一色家による丹後の支配は終わりを告げることとなった。
残るは丹波である。
「確かに美味でございますが、私は小食で・・・」
「何言ってんの。だから病弱なのよ。」
伴天連の方々が日々集う「薬膳料理やまだ」の個室で私は竹中半兵衛重治夫婦を接待していた。
戦国時代で合法的に牛肉や猪肉、雉肉を食べれるお店として公家の方々にも好評。
若き美女料理人としてひよりが腕を振るっており、彼女目当ての客も多い。
「殿。暇さえあれば御馳走になり申し訳ございません。」
重治が恐縮している傍らで妻であるいねは物凄い勢いで肉を食べている。
「重治も早く子供を作らないといけない。ウチの料理は精力がつくぞ。」
私の言葉にいねも同調する。
「あなたが頑張らないといつまで経っても子ができませぬ。せっかく風邪ひかぬお身体になられたのに。」
「すまぬ・・・いつも私の夜がいたらぬばかりに・・・」
天才軍師である竹中半兵衛にも弱点があるのかと思うと私のドS心に火がつくものだ。
「ひよりちゃん?」
「なあに大ちゃん。」
殿を大ちゃん呼ばわりだと・・・この小娘が・・・
私とひよりのやり取りに憮然とした表情の重治。
「スッポンスープお願い。」
「はい♪ 大ちゃん、真紅様と頑張るのですか?」
「いや、半兵衛といねさんに飲んでもらおうと思ってね。」
そしてひよりはスッポンスープを二人前運んできた。
恐る恐る飲む重治だが・・・
「なんですと・・・これはなんという美味しさ。元気がみなぎりますぞ。」
「たまらないですわ♪」
美味しそうに飲み干す二人。これも私の作戦なのである。
竹中半兵衛重治は病弱であり、1579年には亡くなってしまうという史実がある。
これからの山田家のため、日ノ本のために長生きしてもらう。
優秀な遺伝子を持つ子供も一人ではなく何人も残してもらいたい。
これは食事による虚弱体質の改善、長い目で見れば食事療法なのだ。
このことにより竹中半兵衛という男の歴史が大きく塗り替えられることになるのは後の話である。
まだ残雪の丹後国。
「出陣!!」
八田守護所から出陣する山田軍その兵力は五千。
大将である清興は元規、純忠を従えて建部山城を目指す。
しかしこのとき、丹後国守護一色義道が立て籠もるその城は既に窮地に陥っていた。
「うぬぬぬ・・・」
一色義道は城の麓を眺めて一人唸り声をあげていた。
建部山城を西から包囲しているのは家臣のはずである赤尾但馬守、小倉播磨守の手勢である。
「おのれ・・・ワシをたばかりおって・・・」
憤る義道に朗報が舞い込んでくる。
「殿、義清様が手勢千五百を率いてこちらへ向かっております。」
「さすがじゃ義清。ワシたちも合わせて反撃に出るぞ。」
そして一色義道の実弟である吉原義清は兄を救うべく必死の行軍をしていた。
居城である吉原城は建部山城から離れており、途中には山田家に寝返った家臣団の居城が点在している。
兄上を救うのじゃ・・・
しかし、その思惑は無残に散ることとなる。
「なんだと・・・」
吉原義清の軍は行軍を止めた。
その先に見えるのは山田の旗印。
「来たか・・・急ぎならばこの道しかあるまいと踏んだが・・・」
景兼率いる山田軍二千の兵が待ち構えていた。
「先陣を切らせていただかせてもよろしでしょうか?」
景兼の弟子である鳥見俊英が進み出る。
「決して大将首は獲るな。生かして捕らえることができるならば任せよう。」
「ははッ!!」
俊英は鉄砲隊、盾隊を前面に展開させると名乗りを上げる。
「我こそは山田家軍師疋田豊五郎景兼様が一の弟子鳥見俊英なり!! ここより先へは通すわけにはいかぬ。」
それに対し一色家からも一人の騎馬武者が現れた。
「吉原義清様が家臣近藤義明じゃ。若造が、後悔するぞォ!!」
近藤義明は槍を振りかざすと俊英めがけて襲いかかる。
俊英も槍を得物にすると迎え撃つ。
「グエッ!?」
打ち合うことわずか十合ほどで近藤義明は喉元を貫かれて落馬した。
「次は誰だ!!」
あまりの圧倒的な武の前に怖気づく一色軍。
「何をしておる。一騎打ちなどの時代錯誤はどうでも良い!! 弓隊、鉄砲隊。あの者を狙い撃て!!」
吉原義清が叫んだ時だった。
山田家の鉄砲隊が素早く展開すると一斉に射撃を始める。
その正確な射撃の前に一色軍の兵たちは次々と倒れていくばかり。
「義清様、無意味な争いはお止めください。」
そんな中で山田軍の中から現れた一人の若者。
その顔を見ると義清は言葉を失った。
「弥四郎か・・・」
一色家砲術指南稲富家の次期当主である稲富弥四郎祐直であった。
丹後の山田軍の鉄砲隊は稲富家の指導により正確無比な射撃ができるようになっていたのだ。
「既に丹後は一色家のものではございませぬ。元はと言えば若狭国の内乱に介入し武田家を滅亡させたこと。発端は我々にございます。」
「なんじゃと・・・」
このことは義清には初耳であった。
畿内に急激に勢力を伸ばしている山田家による侵略ではないのか!?
兄上が若狭の・・・武田と逸見の争いに介入した・・・聞いておらぬ。
そして義清は山田軍の本陣へと家臣団を伴い入っていった。
「吉原義清殿、果たして丹後の民や国人衆は今のままで満足されておるのか?」
景兼の言葉に義清は答えられなかった。
国人衆は既に我ら一色を見限っておる・・・全ては兄上の業の深さのせいじゃ・・・
「疋田殿、失礼ながら我らや丹後の民は圧政に苦しんでおりました。」
吉原義清の家臣小西石見守が義清を遮って前に出てきた。
その後も次々と家臣団が義道の悪政を訴える姿に義清はただ嘆息するばかりであった。
そして建部山城には清興率いる山田軍が押し寄せていた。
主力を担う旧若狭武田家の兵は凄まじい気迫で大手口を突破していく。
「狙うは一色義道の首のみじゃ!!」
先頭に立って斬り込んでいくのは旧若狭武田家四家老の一人内藤勝行。
若狭の海賊衆を従えて本丸を目指していた。
「むう・・・俺の出番がなさそうだ。」
清興は本陣から建部山城を見つめていた。
赤尾但馬守、小倉播磨守の手勢も攻めており、落城するのも時間の問題であった。
「島様も一応は総大将らしく動かなくてもよろしいかと思いますが。」
純忠が清興に声をかける。
「なんだとォ・・・」
「守護代がもしも・・・万が一ですよ、討ち取られたら」
「俺がそこいらのヤツに討ち取られる?」
「どれだけ島様が武を誇ろうとも鉄砲には勝てませぬ。」
「そりゃそうだ・・・嫌な時代になったもんだぜ・・・」
純忠の言葉に納得するも清興は苦虫を嚙み潰した表情でため息をつくのだった。
「内藤殿が先走り過ぎではないですか!!」
城内の乱戦の中、元規は次々と敵兵を打ちのめしながら本丸へと急いでいた。
元規はこの戦において旧武田家の兵をまとめる山田軍の副将を担っている。
「我らにとっては若殿の敵なのじゃ・・・。」
武藤友益ら旧武田家家臣団も元規の後に続いている。
本丸に突入した内藤勝行。ついてきているのはわずかな兵だけであった。
追いついた・・・
その後姿を捉えた元規だったが・・・
「!?」
激しい銃声が鳴り響くと内藤勝行たちは倒れていく。
本丸に鉄砲隊を潜ませていた一色義道が高笑いしている姿が見えた。
「愚かな・・・武田の家臣共なぞ取るに足らぬわ。ワハハハ。」
「ゆ・・・許さん・・・ウオォォォ!!」
元規は咆哮すると弾をこめ直ししている鉄砲隊の前に飛び込んだ。
「ヒッ・・・」
思わずたじろいだ一色義道だったが、次の瞬間、頭を吹っ飛ばされていた。
「・・・」
憤怒の表情で流星鎚を振り回す元規の姿と絶命している主君の姿に、一色軍の鉄砲隊は銃を放り投げて逃げていく。
「お・・・小原殿、すまぬ・・・若殿の敵を取ってくだされて・・・」
「内藤殿・・・」
元規は内藤勝行の身体を抱き起すが腹を二か所吹っ飛ばされており手遅れなのは明白であった。
「最後にお頼み申す・・・何とか・・・武田の家を・・・残せるように・・・」
そう言い残すとこと切れた内藤勝行。
元規は見開いたままの勝行のまぶたを塞ぐと空を見上げるのだった。
「いつまでこのような世の中が続くのだろうか・・・義輝様・・・教えてくだされ・・・」
こうして建部山城は陥落。一色家による丹後の支配は終わりを告げることとなった。
残るは丹波である。
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