マイホーム戦国

石崎楢

文字の大きさ
166 / 238

第159話:丹波平定 後編

しおりを挟む
六兵衛率いる山田軍は黒井城の支城となっている留堀城を攻めるべく兵を進めていた。
その眼前に待ち構えている軍勢があった。

あれが・・・丹波の赤鬼赤井直正か・・・

六兵衛は大刀を構える。

赤井直正率いる二千の兵は留堀城を背にして陣を敷いていた。
その表情は燃え上がらんばかりの怒りを秘めている。

為家を歯牙にもかけずに討ち取ったのは山田の大将格だと聞く。
しかし、あの高井義成とは違い、大武道会にも出ておらぬ。
ならばこちらも鉄髄を下すまでよ!!

赤井直正の指揮の下、鉄砲隊と弓隊が前面に展開。
容易に近づけさせない守りを見せる。


「なるほどな。義成の言う通りにただの猪武者ではないな。」

六兵衛は盾隊を前面に展開するとその背後の大鉄砲部隊が射撃準備をしていた。

「撃て!!」
五十丁の大鉄砲が一斉射撃。その弾丸は赤井直正の想定外の射程からの攻撃であった。
更に実弾以外にも煙玉も着弾しており、視界を見失った兵たちは混乱をきたしてしまう。

「なんだ・・・山田の鉄砲はこの距離が届くというのか!?」

混乱する自軍を必死に統制する中で、山田軍の盾隊、鉄砲隊は距離を縮め赤井軍を射程に捉える。

「撃て!!」

山田軍の鉄砲隊の三段撃ちで次々と倒れていく赤井軍の兵たち。

「くそッ!! 騎馬隊蹴散らせ!!」

赤井軍の強靭な騎馬隊が山田軍の盾隊、鉄砲隊めがけて襲いかかる。

「堪えろ!!」
盾隊が吹っ飛ばされまいと必死に堪える中、鈎鎌槍隊が盾隊の隙間から赤井軍の騎馬隊に攻撃を仕掛ける。

「うおッ!?」「ぬうあッ!!」
鈎鎌槍に手綱を引っ掛けられバランスを崩し落馬した騎馬武者たち。

「ぐえッ!?」
そこにとどめを刺す歩兵たち。

全てが統率させておる・・・これが山田の戦い方か・・・

圧倒されている赤井直正は季節外れの額の汗をぬぐったときだった。

「くるか!?」
山田軍の騎馬隊が突撃をかけてきていた。
その先頭を切るのは六兵衛。

「赤井直正ァァァ!!」
六兵衛は大刀を振りかざす。

「なんとォォォ!!」
直正も大刀を構えてそれを受けるが、その強烈な一撃に思わずたじろいだ。

「私は山田家家臣滝谷六兵衛勝政。丹波の赤鬼退治に参った!!」
「小癪な・・・」

両者は激しい打ち合いを始めるのだった。


同じ頃、一馬と義成はそれぞれ籾井教業、荒木氏綱と一騎打ちを始めていた。

「うらあ!!」
「ぬうッ!!」

丹波の青鬼籾井教業の一撃は重いが、一馬は表情一つ変えずに片手で受けていく。
そこからの返しの双槍による変幻自在の攻撃が教業を徐々に追い込んでいた。

まるで手が読めん。それでいて一撃一撃が異常なまでの重さと鋭さ・・・
あの三好政康を打ち倒したというのは真のことか・・・

そんな教業の横では荒木氏綱も義成の槍の前に追い込まれていた。

「喰らえ!!」
「くそッ!!」

大抵の一騎打ちで相手を怯ませてきた自分の攻撃が通じない。
荒木氏綱には信じられなかった。

その身体のどこにそのような力があるというのじゃ・・・
だが、ワシも退けぬのだ!!

義成の攻撃を紙一重でかわすとそのまま槍を掴んだ。

「どうじゃァァァ!! 力比べならば負けぬ・・・ぐおお!?」

その瞬間に義成が槍の反動を利用して氏綱の顔面に飛膝蹴りを喰らわした。
鮮血を飛び散らしながら落馬する氏綱。

双竜奇環撃そうりゅうきかんげき!!」
その目の前で一馬の必殺の槍により籾井教業は全身を槍で貫かれていた。

「籾井殿・・・」
そんな氏綱に槍を突きつける義成。

「さあ討て・・・生き恥を晒す訳にはいかぬ。」
「死ぬも恥ですぞ。」
「なんだと・・・」

義成の言葉に驚く荒木氏綱。

「生きてこの乱世が終わるのを見届けようとは思いませぬか?」
「何を言う・・・」
「我が殿はこの乱世を終わらせようとしております。わかりませぬか!!」

そんな義成の側で一馬は必死に籾井教業を介抱している。

しまった・・・まだ技が未完成・・・。討ち取るつもりは・・・

「・・・」
かすかに身体が反応したのを見て治療の為に兵たちに運ばせた。

「畿内統一を果たしておりますが、それが侵略ではないことは明白。此度の丹波攻めも守護を追いやったことと生野の銀山の独占が遠因でございます。」
「大義名分なぞ振りかざしおって・・・」
「大義もなく何故に戦う?この乱世が楽しいのか?」
一喝する義成の前に言葉を失う氏綱であった。

そんな中で遥か前方に敵軍らしき影が見えていた。
それが波多野秀治だと察した一馬は光秀に合図を送る。

「よし・・・正信殿の策がきっちりとハマったということ・・・さすがだ。」
光秀はそのまま陣形を整えて波多野軍が攻めてくるのを待ち構えた。

「ここからは我らの出番じゃ・・・」
「芳野様や高井様以上の手柄を取るには波多野秀治の首を獲ることだな。」

可児才蔵や藤田伝五郎といった光秀配下の手練れたちの士気も高まっている。


「・・・教業も氏綱もやられたとは・・・しかし、ここで屈するわけにはいかぬ!!」
波多野秀治の本軍は前方に見える山田軍を見定めると進軍を速めた。

このとき波多野秀治は知る由もなかった。八上城が敵襲にあっているということを。


「本丸を制圧したぞ!!」
本多正信は八上城の本丸で勝どきをあげていた。
内藤如安から借りた二千の兵でガラ空きの八上城を急襲、正信の的確な指揮によりわずかな時間で制圧を果たしたのである。


このあと、八上城陥落の報を受けた波多野軍は混乱をきたし完膚なきまでに山田軍に叩きのめされた。
数多くの将兵を失った波多野秀治は、乱戦の中で逃亡し、行方をくらます。


そして赤井直正と六兵衛の戦いも決着の時を迎えようとしていた。
およそ五十合にもわたる打ち合いの中で六兵衛の一撃が赤井直正の腹を斬り裂いた。

「ぐおおおッ・・・ハア・・・ハア・・・」

鮮血と共に後ずさりする赤井直正。

「深手であろう。もう勝ち目はあるまい・・・」
六兵衛の言葉だが、直正はニヤリと笑うと大刀を投げ捨てた。

「ワシの首は誰にも獲らせはせんぞ・・・」
そのまま馬首を転じて留堀城の中へと逃げていく赤井直正。
程なくして本丸から火の手が上がった。

六兵衛はその光景を見つめると大きなため息をつく。

このような死に様のどこか美しい?
私は勝秀の敵は取るが、死のうとは思わん・・・生きてこの世がどう変わっていくかを見ていたい。勝秀の分も背負ってな。

燃え上がる留堀城を前に次々と降伏する赤井軍の兵たち。
そして黒井城も程なく開城、これが丹波攻めの終わりを意味するものとなった。
国人衆はこぞって山田家への協力を申し出てきたのである。
丹波国内の勢力争いの終結であった。


こうして丹波国の平定を果たした山田家の名声は増々日ノ本全域に広まることとなる。

しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん
ファンタジー
 戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。  3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。  家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。  そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。  こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。  身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

処理中です...