マイホーム戦国

石崎楢

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第165話:知略を上回るモノ

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重苦しい雰囲気の中で三木城への帰路につく山田軍。
その中で岳人の落胆ぶりは大きかった。


どうせ大友宗麟は九州を制圧できずに島津に敗れる。豊臣秀吉に泣きつくだけという結末。
みんな何も知らない・・・でも僕は知っているんだ。
知っているからこそ歴史を変えられたんじゃないか・・・


自信は過信となり、願望は欲望・野望へと変わっていく。
そんな岳人の心根を察していた竹中半兵衛重治。

殿と若君は違い過ぎる・・・
歴史を知りつくした上での若君。
歴史を表面的にしか捉えていない殿。
どちらが民衆のためか・・・本当に民衆のことを考えておられるのは・・・

そのまま別所軍の神吉城に向かうも、山田軍は信じられない光景を目の当たりにする。

「神吉城が陥落しているだと・・・」
神吉城に立つのは赤松家の旗である。
更に斥候からも連絡があった。

「志方城も赤松によって陥落しております!!」

「どうされますか、若君。」
「何とか三木城まで戻らないといけません。城を攻める程の兵糧が私たちにはないのですから。」

しかしそれも読まれているかのように神吉城から赤松軍が討って出てくる。

「殿は俺が務める。若君は先行して三木城へ急かれよ!!」
清興が槍を構えると迎撃に向かう。

「そうも上手くいきそうにないんだけどな・・・。」

更に志方城方面からも赤松軍が攻めてきた。

「とりあえず逃げれるところまで逃げる・・・これしかないだろう。」
「ははッ!!」

山田軍は全速力で撤退を始めるのだった。

「ひとまずは野口城まで・・・」
重治の指揮の下で野口城を目指す山田軍。

「一馬、義成ィィィ!!」
清興が叫ぶ。

「わかっておりますよ。」
「信念無き者共に討たれはしません。」
一馬と義成も馬首を転じて殿の清興と合流した。

「久々にお手並み拝見か・・・」
「お任せを!!」

義成は弓を構えると次々と矢を放っていく。
赤松軍の騎馬隊は一寸の狂いもなく喉元を射抜かれて落馬する。
あまりの腕前に思わず赤松軍の追撃が止まった。

「何を止まっておるか!!」
足軽大将らしき男が激をかけるも

「ぐえッ・・・!?」
眉間を射抜かれてそのまま絶命する。

「赤松の者共よ。私を知らぬか・・・松坂弾正を射抜きしこの弓。山田家家臣高井義成だ。」
名乗りを上げた義成の背後から鉄砲隊が現れた。
連発銃が火を噴き次々と倒れていく赤松軍の兵たち。

「何をしておる・・・ぎゃッ!?」
追撃部隊の隊長らしき騎馬武者が混乱する赤松軍を立て直そうとするも、またも義成の放った矢で喉元を射抜かれて絶命。あまりの恐怖に赤松軍は動きを止めた。

その隙に清興たちは急いで撤退していく。

「大したもんだぜ・・・義成。」
「大武道会で戦った者共と比べればこの程度の軍勢は何千と来ようと恐れなどありませぬ。」

そしてすぐに岳人たちに追いつくと近隣の別所軍が合流してきた。

神吉城を落とされた神吉頼定は加古川城の糟谷氏の手勢と残兵合わせて千五百で合流。
野口城の長井政重も手勢三百を連れてやってきた。

「これで合わせて五千にも満たないか・・・赤松軍の総勢は一万はいるだろう。」
重治はその場で陣を展開すると思案した。

「軍師殿、赤松の兵には浦上や宇喜多も混じっております。事実、赤松全軍合わせても一万程のはずなのです。」
長井政重が重治に声をかけてきた。

「なるほど・・・。それ故の大軍ということですな。」
そこに早くも赤松軍が追いついてきた。
しかし、攻めて来ることもなく陣を敷き始めた。

無駄に警戒してくれたのは助かる・・・

重治はそう思いながら岳人を見た。
黒田官兵衛を手なずけることができなかったショックを隠せない岳人の姿。

やがて睨み合いだけで一日が経過した。

一気呵成に攻められるのを恐れる山田軍と夜襲や奇襲などに神経を尖らせている赤松軍。

「救いはあの赤松軍に黒田官兵衛がおらぬことですな。」
「やはりそうですか・・・。」

重治と長井政重は敵軍の様子を眺めながら話し合いを続けている。
そんな時に山田軍の陣内に一人の漁師が迷い込むようにやってきた。

「山田の若君、もしくは軍師殿にお目通り願いたい。」
その漁師は鋭い眼光で言うのだった。

そして本陣に通されるとその漁師は平伏する。

「拙者、讃岐は十河家家臣前田宗清と申します。」
「なんと・・・十河とな・・・。」

重治は讃岐の十河家と山田家は友好関係にあることを知らされていた。

「石川様と前田慶次郎様より言伝を承っております。」

その中身を知らされた重治は思わず苦笑した。

やはり戦には知略・計略・圧倒的な武が必要ではあるが、直感というもの・・・嗅覚というべきか・・・まあどちらにせよ・・・私もまだまだということだ。

その日の晩であった。
赤松軍の陣内に次々と上がる火の手。

「敵襲だァァァ!!」
大混乱の赤松軍。

「何故、我らが背後を取られるのじゃ!! 何を見ていたのかァァァ!!」
狼狽する赤松軍の総大将の川島頼村。

「山田ではございませぬ。あの旗印は・・・」
家臣の一人が絶句していた。

「何故じゃ・・・十河の・・・十河の旗印ィ!?」
川島頼村は指揮することも忘れたかのように茫然と立ち尽くすのであった。

「若君も半兵衛も読みが甘いな。戦国時代は隙を見せたら後ろから首を獲られるということだろ。」
五右衛門の前で次々と首が血飛沫を上げて飛んでいく。

「戦は大広間でするものではないっつうことだぜ♪」
慶次の槍の前に積み重ねられていく屍たち。

本陣からその光景を見ていた川島頼村は馬に乗る。

「鉄砲隊・・・あの者共を撃て!!」

命令を受けた赤松軍の鉄砲隊が本陣へと集結してくるも

「フンッ!!」
一人の騎馬武者が馬上から次々と矢を放ち鉄砲隊を射殺していく。

「やるじゃねえか・・・宗清。」
「光栄でございます。」

その騎馬武者は前田宗清だった。
右手を大きく上げて合図すると闇の中から次々と忍びたちが現れて鉄砲隊を斬り倒す。
そんな中で危機を察知した赤松軍の将兵が本陣へと集まってくる。

「くそッ・・・十河を返り討ちじゃ!!」
絶叫する川島頼村だったが、そこに家臣の一人が駆け込んできた。

「山田が攻めてきております。」

川島頼村には信じられなかった。
山田軍が既に本陣近くまで迫ってきているということを。
鋒矢の陣・・・その先頭には清興と一馬と義成の姿。

「来た来た・・・さあて・・・」
五右衛門と慶次は笑みを浮かべながら赤松軍本陣へと斬り込んでいった。


散々に打ちのめされて神吉城へと撤退していく赤松軍。
それを眺めながら勝どきを上げる山田軍と別所軍。
蓋を開ければ、十河軍は忍びや弓兵が主体の少数精鋭。

「わずか三百で一万の赤松軍に夜襲とは・・・」
重治は五右衛門たちの大胆不敵さに感服するしかなかった。

「どうした若君、元気ねえな?」
慶次が岳人の肩をポンと叩く。

「上手くいかぬことがありまして・・・」
「なるほどな。まあ・・・上手くいかぬことが当たり前の世の中ってもんだろ?」
「はあ?」
「乱世なんてものをそこら辺の農民や漁師や商人たちが望んでいるか?」
「・・・」
「戦をする者よりしない者の方が多いだろうが。望むべき世の中ではなくとも必死に生きているだろうが。」

慶次の言葉に重治や清興たちは笑みを浮かべた。

だが・・・こんなことを続けていけば、いずれは日本は近代化になっても一番大きな戦いに負けてしまう。鉄は熱いうちに打たないと・・・。このまま僕の思い通りにいけば文明開化を数百年早めることが出来るのに・・・

そんな岳人を見つめる五右衛門。

若君は畿内統一後からおかしい・・・殿に伝えねばならぬな・・・


この戦いをきっかけに山田と赤松は本格的に交戦状態に入るのであった。
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