マイホーム戦国

石崎楢

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第166話:大和での日々

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播磨国において岳人たちが赤松家と交戦状態に入った頃、山城国勝竜寺城。

「出陣!!」
平尾純忠と八滝源之進率いる五千の山田軍が播磨へと向かっていった。
それを見守る景兼と慎之介。

「やはり戦わざるを得ないという状況になりましたか・・・」
慎之介が嘆息する。
景兼は出陣する純忠と源之進に策を授けていた。

ここは赤松の動きを封じ込める・・・この一点のみ。

そんな中で本丸のお市の部屋。

父様ととさまはどこへいっちゃったんでちゅかね・・・」
お市はそんなことをつぶやきながら大きくなったお腹をさすっていた。

「何も若君が自ら出陣する必要はないでしょうに・・・」
なずなが愚痴をこぼしながらお市の世話をしている。

「播磨には何やら重要な御方がいるみたいね・・・」
「市姫様。何よりも自分の奥方様や御子を大事にせねばならぬときかと私は思うのです。」
なずなは寂しげな顔のお市を見ると胸が苦しくなっていた。

みずはともみじは若君の後を追って播磨へ。すみれとれんかは御前様と美佳姫のお供で大和へ。
私たち五人もバラバラだわ・・・


少し離れた茶室内ではお腹に手を当てながら穏やかな顔で真紅が佇んでいる。

殿の御子・・・何があってもこの命に代えても守り抜く・・・


そして大和国多聞山城。

「大丈夫かな・・・高齢出産よね・・・」
苦笑する朋美だが、美佳は嬉しそうだった。

「名前は女の子だったらあたしに付けさせてね?」
「ウフフ・・・いいわよ。」

ただ私には様々な気がかりがある。
朋美のお腹の子もそうだが、真紅とも出来てしまったし、播磨も岳人も気になる。
そんな私の心を察したかのように朋美が言ってきた。

「真紅ちゃんとの子は気にしないで・・・むしろこのお腹の子に同年代の兄弟や友達がいたらって考えると必要だと思うわ。」
「すまない。」
私にはそうとしか言いようがなかった。
坂上田村麻呂パワーは本当に私を絶倫に変貌させたのだ。
言い訳ではない。私の身体には本当にあの偉大なる将軍様が眠っている。

そんな光景を遠巻きで見つめている六兵衛と大雅。

「大雅はもう嫁をとってどれぐらいになる? なのか?」
「そうですなあ・・・なかなか出来ませぬ。ところで勝政様は・・・」
「言うな・・・頼む、この齢でまだというのも辛いところなのだ。」

六兵衛はそう言うと美佳を見る。

九兵衛がおれば今頃は美佳様と・・・ワシはあの緑の男を討つまでは誰とも縁は持たぬ。

険しい表情の六兵衛と目が合った美佳は駆け寄っていった。

「どうしたの六ちゃん?」
「いや・・・少しだけ考え事をしていたという訳で・・・」
「仇討にこだわっても九兵衛は喜ばないよ・・・それだけ言っておくから・・・」

そんな美佳と六兵衛の姿に大雅は胸を締め付けられる思いだった。

勝秀様の死を互いに引きずり続けられているだけじゃないか・・・


その翌日、多聞山城に高取城から急使が訪れた。
越智家家臣貝吹山城城主吉備盛直が直々に早馬を飛ばしてきたのだ。

「なんと・・・家広殿が・・・亡くなられた・・・と・・・」
私は同年代である越智家広の死に肩を落とすしかなかった。
遠因は河内国遠征での負傷。そこからの病であったことで胸が痛いのだ。
阿古丹を送り続けたが、手遅れだったようだ。

「我が主君、越智家広から山田大輔様に最後のお言葉がございました。ありのままでお伝えいたします・・・ご無礼をお許しください。」

目に涙を浮かべる吉備盛直。

「大輔殿のおかげで大和国は一つになれた。どれだけ感謝しても感謝しきれぬことじゃ。ただ心残りは大輔殿が言う争いのない日ノ本の実現をこの目で共に見届けることができぬということ・・・でございました。」

「そうですか・・・私も同じです。家広殿のお力がなければ大和統一も・・・ましてこの畿内統一も果たせませんでした。共に歩みたかったですよ・・・」

私も思わず涙ぐんでしまった。やはり友と呼べる男との別れは堪える。
ただ・・・この戦国時代では私ぐらいの年齢で死ぬのは当たり前であることも知っている。
今年で四十六歳・・・この時代であと何年生きれるのだろう。

「あともう一つございます。越智家は後継ぎがおりません。」
「いや・・・前に家広殿から弟や甥がおられると聞いてますが。」
「あの方々が直に継いでは家を滅ぼすことになるというのも主君越智家広の遺言でございます。」
「ではどうされる・・・」
「国人衆としてではなく家臣団として山田家に我らが越智家を加えていただきたいのです。さすれば後々にいらぬ国人衆同士での争いも起こりますまい。甥である楢崎家高を越智家隆として高取城城主のみに任命してくだされればよろしいかと思う次第であります。」

越智家は後に家督相続で騒動が起こったあげくに筒井順慶によって滅亡される運命にあった。
しかし、改変により越智家広が後の災いを懸念したことがこの発言に繋がったのである。

「分かりました。では楢崎家高殿に高取城をお任せする。そして弟である越智家増殿には越智城を、盛直殿には貝吹山城をお任せしましょう。よろしいですか?」
「ありがたきお言葉・・・恐悦至極に存じます。」

こうして越智家は山田家家臣として存続を果たすことになるのであった。


その日の晩、私は久しぶりに茶屋っ娘劇場に足を運んだ。
舞台袖からそのステージを眺めると気分は辣腕プロデューサー気分。

終演後の静かになった劇場の中で私は今井宗久と十市遠勝と酒を酌み交わした。

「思えばあのとき大輔殿に攻め落とされなければワシはどうなっていたことやら・・・」
十市遠勝が遠い目でつぶやく。
「私も月に一度は堺と南都を往復する日々ですが、充実しておりますぞ。」
今井宗久は茶店チェーンにより莫大な富を得ていた。
現在は本店である都祁貝那木山城店と大和多聞山城店、山城国勝竜寺城城下町の長岡京店、更には伊勢北畠店(霧山城城下町)、越前一乗谷店がオープンした。
ちなみに伊勢北畠店と越前一乗谷店はフランチャイズである。


そんな大人のたしなみの中に一人の女子が入ってきた。

「ぶ・・・無礼を承知で・・・大変申し訳ございません!!」
「あら? お彩ちゃん・・・どうしたの?」
酔ってオネエ口調の遠勝。かつての大和四家当主の一人としての面影はまるでない。

「山田大輔様・・・長滝慎之介様のことでございます。」
お彩の必死な顔に胸を打たれた私は笑顔でうなずく。

「構わないよ。私は無礼とか全然思わないから。慎之介がどうしたの?」
「ずっと・・・ずっとお姿をお見せにならないので・・・」
「気になるんだね?」
「・・・」

顔を赤らめながら無言でうなずくお彩に遠勝が優しい口調で言う。

「会いに行けば良い。大丈夫、茶屋っ娘。には研究生も多い。後輩に任せても良いだろう。人生後悔することなかれじゃ。」
「ですが・・・」
「もうすぐ私は都に戻らないといけない。そのときに一緒に来なさい。」
「はい!!」

このことが山田家の若き家臣団に衝撃を与えることになるのである。



そんな中、播磨国では重治の指揮の下で山田・別所連合軍は攻勢に転じようとしていた。
だが、黒田官兵衛考高は動かなかった。
動けないという方が正しかった。


「・・・ガハッ・・・な・・・何故だ・・・」

姫路城の牢獄に繋がれていたのである。
棒などで打ちのめされて傷ついた身体の考高。
一体、何があったというのだろうか・・・

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