マイホーム戦国

石崎楢

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第179話:美濃国決戦 中編

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激戦の最中、岳人率いる山田軍は四手に分かれて機会を伺っていた。

「圧倒的だな・・・これは時間の問題だ。」
松倉重信からの伝令の話で戦況を確認する純忠。

「純忠さん。僕が信長を討つ。突破口を切り開いてください。」
「わかっておりますよ、若君。」
「頼りになります。」

岳人は槍を手に高まる鼓動を抑えきれなかった。

ここからなんだ・・・ここからなんだよ・・・僕の描きたいものはね。

岳人は純忠を配下に裏手に回っていた。


「ふう・・・純忠のやつは大丈夫だろうか。」
一馬は考高に聞く。

「一応は言伝はしておきました。しかし心配ですぞ・・・。」
考高は不安げに戦況を見つめていた。

「ああ、若君がもしも討たれでもしたら・・・」
一馬は頭を抱えていた。
考高と一馬は城に逃げ込むであろう信長を追撃する役割であった。
故に岳人の側から離された。一馬は少なくともそう思っていた。

しかし考高は岳人の目論見が違うところにあると踏んでいたのである。

若君は強い。あのとき・・・対峙したとき・・・私は感じた。勝てる気がしないと・・・。
そして芳野殿をこちらに回したのは、殿と親しいが故に諫言してくるであろうということ。その点で平尾殿は良くも悪くも純粋に武にこだわる。軍才はあるがそれ以外では・・・
私の心配はそこではない。若君が何をしようとしているのか・・・そこなのだよ。


そして美濃からの降将である稲葉兄弟と氏家直昌はそれぞれ分かれて兵を配置している。

「ここで山田の若君に我らの力を見せつけておく。降るのならば重用されねばな。」
稲葉重通は兵たちに声をかけている。
弟である稲葉貞通は冷静に戦況を見つめている。

「兄上。山田軍が浅井軍を突破して織田の本軍へと向かっておりますぞ。」
「信長がどう動くかだな。」
「とりあえずは退くしか道はないかと・・・我らの思うつぼでございます。」

稲葉兄弟は顔を見合わせると笑みを浮かべるのであった。


「藤吉郎・・・まさかおぬしが殿を討ちにくるとはな・・・」
織田家家臣坂井政尚と秀吉が対峙していた。

「ならば分かりましょう・・・藤吉郎が気持ちを・・・」
そこに丹羽長秀が割り込んでくる。

「何が言いたい・・・長秀よ。」
「右近(政尚)様、殿が殿ではないということですぞ。」
更に佐々成政が馬を走らせてきた。

「佐々殿。」
「木下殿、ワシは決断できなかった。しかし、この状況になってわかったことがある。殿はあえてこの負け戦を作っておる。」
成政の言葉に一同沈黙した。

「そのような戦を我が殿がされるか?織田信長様とあろう御方がされるわけないでしょう。」
「むう・・・。」
坂井政尚は槍を下ろした。

「わからんが・・・確かにワシが惹かれた殿ではない。今の殿はワシの求めておった殿ではない。」
「では確かめましょうぞ。」
秀吉は政尚の肩に手を乗せる。

「ふう・・・偉くなったもんだ・・・藤吉郎・・・いや・・・秀吉。」
「はい。」
秀吉の笑顔に、政尚も仕方がないという顔をするしかなかったのであった。


「なんか同士討ちしている気分だな・・・いつもいつもよォ!!」
浅野長吉は最前線で槍を振るっていた。

「浅野殿・・・もうすぐ織田の中軍だぞ。」
その隣で刀で敵兵を薙ぎ払うのは山内一豊。ちなみに初陣である。
通史上では姉川の戦いを初陣としているが、早まったことによりその名を天下に轟かすのも早まるのだ。

「攻め手を緩めるな・・・相手は織田の殿様・・・信長様じゃ!!」
第一陣の大将を務める中村一氏は声を上げて兵を鼓舞していた。
しかし、内心ではいつになく脆さを感じさせる信長軍の兵たちに、憐みさえ覚えていた。

なんという同士討ちなのだ・・・だが隙を見せる訳にはいかぬ。これは戦なのじゃ・・・

「一氏・・・待て!!」
そこに利家が駆け込んできた。

「どうした又左?」
「坂井右近様と成政が我らに付いた。次は勝三郎殿(池田恒興)を口説き落とす。」
「ぷッ・・・」
そんな利家の言葉に一氏は思わず吹き出してしまった。

「何を笑うか?」
「まるで女子を口説くかのようじゃ・・・まあ悪くはないがな。」
「チッ・・・一氏も付いて参れ!!」

その頃、柴田勝家と大宮景連の戦いはまだ続いていた。
両者疲弊しきっているが、その得物の切れ味は鋭く互いに紙一重の命のやり取り。

そんな中で北畠軍は柴田勝家の兵を打ち破り、姉小路軍をも追い詰めていた。
先陣を切って攻めていく北畠具教の前に姉小路家の騎馬隊は吹き飛ばされていく。

心地よい・・・やはり布団の上で死ぬなどまっぴらじゃ。

「北畠軍が姉小路軍を間もなく打ち破りますぞ。」
信長の本陣で佐久間信盛が狼狽している。

「そうか・・・。」
信長は目を閉じたまま動こうとしない。

「私がゆく。」
そこに甲賀忍軍元頭領の多羅尾光俊が姿を現した。

「甲賀の生きる道が仕上がった次第、最後ぐらいは修羅になるぞ。」
「そうか・・・」
「果心居士、先に行くぞ。地獄からおぬしらが狂わせた世界の傍観者となろう。」

多羅尾光俊はそのまま馬に乗ると乱戦の中に消えていった。

「頃合いじゃ・・・本陣を退いて城に籠るぞ。」
信長が佐久間信盛に声をかける。

「は・・・ははッ!!」
佐久間信盛の顔には落胆の色が見えていた。


「なんと・・・これでは・・・最早・・・」
籠城の狼煙が上がるのを見た塙直政は槍を投げ捨てると降伏の意を示す。

「もうよかろう・・・織田家はどちらにせよ残るのじゃ・・・」
中条家忠は兵たちに戦いを止めさせると兜を取って大きなため息をつく。


敗色濃厚な風向きの中、池田恒興は単身奮戦していた。

「貴様ら・・・殿の御恩を忘れたかァァァ!!」
あまりの剣幕にさすがの利家も成政も近づくことができない。

「勝三郎殿・・・もうよろしいだろう。信長様も城に立て籠もる。逃げ道はない。」
利家が諭すように声をかけるも

「たわけが!! ならば殿が籠城される時間を稼ぐまでよ!!」
恒興は槍を風車のように回しながら声をあげている。

「池田様。幼き頃より信長様と共におられました貴殿ならばわかるはず・・・」
成政の言葉に恒興の表情が険しくなった。
そのまま槍を振り回し襲いかかってくる。

「なッ・・・!?」
成政は辛うじて刀を抜いて弾くも次々と恒興が攻撃を繰り出していく。

無理じゃ・・・ワシでは池田様に・・・

しかしそこに利家が槍を振りかざし恒興の動きを止める。

「勝三郎!!」
「又左!! 貴様は何度殿を裏切れば気が済むのじゃ!!」
「これは裏切りではござらん!!」
「槍の又左だが何だか知らぬが調子に乗るな・・・修羅場の数では・・・殿と共にくぐった修羅場の数が違うわァァァ!!」

池田恒興は憤怒の形相で利家に槍を振りかざした。

仕方ない・・・力づくでもわかってもらうまでよ・・・それでもダメならば・・・

利家も槍を構えると覚悟を決めるのだった。


「信長が撤退するじゃと・・・急げ・・・すぐさまその首を打ち落としてくれる!!」
北畠具教を先陣にした北畠軍は姉小路軍を蹴散らすと織田軍本軍へと迫ってきていた。

なんじゃ・・・

そこに誰も乗っていない三頭の馬がそれぞれ三方向から具教めがけて走ってきた。

「隙あり!!」

そのうちの具教の死角になる左右の馬の横腹に隠れていた甲賀の忍びが飛びかかってくる。

「!!」
具教は一人を斬り捨てるももう一人に対しては肩を斬りつけたのみだった。
そのように見えたが・・・

「さあ・・・地獄に道連れだ・・・北畠具教・・・」
その忍びの左腕が斬り飛ばされていた。
北畠具教のあまりに鋭い太刀筋に左腕を斬り落とされたことにも気づかなかったのだ。
しかしその表情は斬り落とされる前から変わらない。

「なるほどな・・・毒か・・・」
北畠具教の背中にクナイが刺さっていた。そして口からは血が滴り始める。

「我が名は多羅尾光俊。この乱世の裏に生きる者だ。」
多羅尾光俊は名乗りを上げると右手に刀、口に脇差の束を咥えて身構えた。左腕から噴き上がる鮮血は止まることを知らないが表情は変わらないままであった。

「甲賀の頭領だった男か・・・なるほど強者ならばワシの最後の相手に相応しい・・・ぐふッ・・・」
吐血しながら刀を構える北畠具教。

「大御所様!!」
大宮吉守達家臣団が一斉に駆け寄ってくるも

「ワシに構うな。城の郭を制圧していき、岳人殿の道を切り開け。」
具教はそう言うと笑みを浮かべる。

「・・・くッ・・・ははッ!!」
無念そうな表情の大宮吉守達は兵を引き連れて稲葉山城へと進軍を始めた。


その頃、考高や一馬は城内へと逃げ込む信長たちの姿を目の当たりにしていた。

「よし若君や稲葉、氏家に合図するのだ。」

狼煙が三つ上がっていくのが岳人たちには見えていた。

「行くよ・・・純忠さん。」
「お任せを・・・」
「突撃だァァァァ!!」

岳人は槍を天へと突きあげると大声で叫ぶ。

遂にこの深き因縁に終止符を打つことができるのであろうか・・・
そして岳人の思惑が明らかになった時、更なる混沌が乱戦を包み込んでいく・・・

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