マイホーム戦国

石崎楢

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第178話:美濃国決戦 前編

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1569年10月16日、美濃国曽根城。
無血開城した城に入城する山田軍。
守将である稲葉重通、貞通兄弟と氏家直昌に出迎えられた岳人。
早速、大広間で評定を始めた。

「では現状を説明しましょう。」
考高は稲葉貞通から地図を受け取ると広げた。

「尾張の織田軍は三井城に入りました。その兵力は一万程。東から攻め入ります。」

考高は三井城から稲葉山城へ矢印を引いた。

「続いて大垣城の北畠軍は一万。既に城を出ており木曽川沿いを北上しております。」

大垣城から長い矢印を引く考高。

「そして我らは二万。これだけでも美濃の信長の兵力を上回ります。故に軍を二つに分けます。本軍の指揮は松倉殿にお任せします。池田殿や伊丹殿は三好家において戦慣れされております。副将をよろしくお願い申しあげます。」

「ははッ!!」
狼狽する松倉重信。しかしその両脇の池田勝正、伊丹親興は自信ありげに声を上げた。

「この曽根城の守りは摂津国国人衆の有馬則頼殿にお任せします。」
「御意!!」
摂津国三田城城主有馬則頼が一千の手勢でそのまま曽根城の守備に入る。
そこに岳人が入り込んできた。

「そして僕が別動隊を率いて直接信長を討つ。」

「お待ちくだされ!!」
松倉重信と共に参陣していた筒井家家臣森好久が声を上げる。

「森殿・・・どうしたのですか?」
「大将自らが別動隊とは聞いたことがございませぬ。危険でございます。」
森好久の言葉に摂津国人衆も同調する。

「若君・・・若君がどれだけ武勇があれども危険でございます。」
「もしものことがあれば大輔殿に合わせる顔がございませぬ。」
池田勝正と伊丹親興も前に進み出た。

そう来るだろうが・・・若君は絶対に退かない。殿と同じで頑固なところはとことん頑固だからな。

一馬と純忠は岳人の顔を見た。しかしその表情は曇るどころか喜んでいる。

「山田家の精鋭五千と稲葉、氏家両家の兵合わせて三千で信長を討つことに変わりはない。でも心配してくれてありがとう。僕は命に代えても信長を討つ。その理由は皆さんが知っての通り僕の妻は信長の妹だ。しかし信長は僕たちを・・・義理の弟と実の妹を京で討とうとした。これはケジメなんだ。白黒をつけないといけないんだ。」

そんな岳人の言葉に異論を唱える者は出なかった。

「兵力は我が方は四万三千、信長側は二万五千。両軍ともに連合軍という形であるが故に細かい戦略や戦術は行き届かない。それぞれが真っ向からぶつかり我らが打ち破る。敗走する信長が城に逃げ込むと同時に、別動隊が四方から稲葉山城を攻めて追い打ちをかけるということです。」

考高は説明を終えると岳人を見た。
岳人は笑顔でうなずくと考高の肩に手を乗せた。

「では我らも出陣いたすぞォ!!」
「オウ!!」

山田軍も稲葉山城へと進軍を始めた。


既に城下から打って出た信長は陣を敷いて岳人たちを待ち受けている。

「面白いように城を落とされていったな・・・赤龍よ、ワシの何がと違ったと思うか?」
信長は傍らに控えている赤龍に聞く。

「分かりませぬが・・・」
赤龍はそうつぶやくと天を仰いだ。

所詮は日ノ本の道化師に過ぎぬのだよ・・・果心居士。

「道化でも構わぬ・・・この腐った乱世に何かしらの歪みを加えることができたならばな・・・」
信長の言葉に赤龍は驚きを隠せない。

やはりこの男・・・

赤龍は何といえぬ顔つきで信長を見つめるのだった。


その二日後の10月18日。
遂に決戦の火蓋が切って落とされた。

山田軍の先陣を担う十市家家臣森本主水介率いる一千の兵が浅井軍の右翼の遠藤直経の部隊とぶつかり合う。
正史上では松永久通の前に敗れて討死する主水介、山田家による歴史の改変で生き残りその武人ぶりを浅井軍に見せつける。

「なんという手練れ・・・」
狼狽する遠藤直経に追い打ちをかけるように山田軍の第二陣である筒井家家臣森好久、窪田内記率いる五百の兵が更に挟み込むように浅井軍に襲い掛かっていく。

「やはり大和の兵は強いですな・・・一糸乱れぬ統率力が見事じゃ。」
池田勝正は本陣で感嘆の声を上げていた。

「まだまだこれから・・・そして止めは池田殿、伊丹殿にお任せいたしますぞ。」
松倉重信は淡々と戦況を見つめていた。

圧倒的に有利だが、油断をしてはならぬ。

「では第三陣の小川隊、井戸隊は正面に展開し、鉄砲などで浅井を威嚇し炙り出すのだ!!」

重信の指示の下で小川弘久率いる吉野国人衆の軍三百と筒井家家臣井戸良弘の兵三百は浅井軍の正面に展開。
柵を次々と建てていく。

「こうも次々と展開されては追いつかんぞ・・・くそゥ!!」
浅井軍の大将は長政の弟の浅井政元は完全に押し込まれた右翼の崩壊を食い止めるので精いっぱいであった。
そこに井戸良弘配下の五十の鉄砲隊が次々と射撃を始めてくる。

「この程度・・・」
そうつぶやいた浅井政元。
しかし、次の瞬間に頭上に降り注ぐ巨石に腰を抜かした。

「なんだあれは・・・!?」

小川弘久率いる吉野軍は移動式投石器(カタパルト)を並べると次々と巨石を浅井軍めがけて放り込んでいく。
セオリー無視の戦術だが、戦国時代において敵陣に混乱をもたらすには最適の兵器であると岳人は確信していた。
吉野軍は巨石の投擲を終えるとそれぞれが弓を手にしていた。

「うおおお!!」
浅井軍が突撃をかけてくる。

「退け!!」
井戸良弘の命で鉄砲隊が退くと次は弓隊を展開させ次々と矢を放っていく。

「射て!!」
吉野軍も次々と矢を放っていく。
しかし矢の嵐をかいくぐって浅井軍は突撃をやめない。

「今じゃ・・・摂津国人の力を示すぞォォ!!」
「オウ!!」

その浅井軍に側面から怒涛の攻撃を仕掛ける池田勝正と伊丹親興。
それぞれが三千、計六千の兵は浅井軍を既に上回る兵力であった。

「これではどうしようもないぞ・・・」
呆然とする浅井政元の目の前であっという間に浅井軍は壊滅していくのだった。


「おお・・・呆気ないぞ・・・浅井め。」
信長は本陣にて浅井軍が壊滅寸前という報を受けると無表情でつぶやいた。

姉小路頼綱の軍は左翼で秀吉の軍と戦っている。
そして信長の本軍は北畠軍と正面から死闘を繰り広げていた。

「ふんッ!!」
大宮景連は圧倒的な強さで信長軍を蹴散らしていた。
しかし、その手ごたえのなさに違和感も覚えつつあった。

数でいえば我ら一万、織田信長は一万五千。ここまで戦えるのか?
以前に幾度も北勢で相対した際は、その強さは並外れていた・・・それがどうしたというのだ・・・

それでもこの戦いの後で、山田家に家臣として加わる予定である大宮景連は、禊とばかりに信長軍を切り崩していく。

「小僧がァァァ!! これ以上はやらせんぞ!!」
柴田勝家が大宮景連の前に立ちはだかる。

「鬼柴田か・・・もうおぬしの時代は終わったぞ。」
景連は馬上から大きく跳躍すると勝家の頭上にて刀を振りかぶる。

「馬鹿め・・・串刺しにしてくれるわァァ!!」
狙いを定めた勝家の槍が鋭く景連を貫く。

「!?」
身体をひねりながらその一撃をかわすとそのまま左手で槍を掴んで右手で刀を振り下ろす。

「ウヌウッ・・・」
勝家は馬から転げ落ちながらその一撃をかわすが、その頬には大きな傷がついていた。
流れ出る血を舌で舐めると、槍を真っ二つに折り刀を抜いた。

「小僧・・・本気でいくぞ。」
「私もですがな・・・」

そんな勝家を見た景連は、挑発的な手招きを見せる。

「久々じゃ・・・久々に本気で血が滾ってきておるわ・・・ガハハハ!!」
勝家の身体から闘気がほとばしる。


まだ戦いは始まったばかりである。

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