マイホーム戦国

石崎楢

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第191話:高取城防衛戦

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高取城。後の世では日本百名城の一つとして、また日本三大山城の一つとして名高い城である。
明治時代の損失がなければ、姫路城に匹敵する名城として今の世に名を轟かせていたことであろう。

1570年4月15日、高取城は畠山軍に囲まれていた。
かつて天文の錯乱の際には本願寺証如率いる一向一揆軍に包囲されたが、筒井家の力を借りながらも見事に撃退した難攻不落の要塞でもある。

「こういう時、山田家の方々ならどうするか・・・」
高取城城代の越智家家臣薩摩伝五郎は思案していた。
越智家の主だった家臣たちは先日の戦で戦死しており、頼るべき者もいない。

こういう時に希信のヤツでもいてくれるだけでありがたいと思えるのだが・・・

自分より知恵が回る、機転が利く同僚の姿を思い出すばかりであった。
しかし、そこに天の助けとも言うべき男が姿を現す。

「な・・・何者だ・・・ぐあッ!?」
本丸館の兵たちが次々と吹っ飛ばされていく。
そして現れた一人の男・・・

「あなた様は山田忍軍頭領の石川五右衛門様!!」
伝五郎は慌てて平伏する。その名を聞いて怯えながら平伏する兵たち。

「おぬしは確か越智家広殿の・・・」
「はッ・・・越智家家臣薩摩伝五郎でございます。」
「よし、伝五郎。ウチの軍師の一人の竹中半兵衛から策を授かってきた。これは秘策だ。成功すれば面白いものが見れるぞ。」
五右衛門はそう言うと伝五郎に耳打ちした。

「なんとそれだけでよろしいのですか・・・」
「ああ。そしてこの城には以前ウチの殿様というか将軍様が送った鉄の盾があるだろう。あれで十分に鉄砲除けになるだろうからな。」

五右衛門の言う通りに兵たちは準備を始めた。


「動かぬな・・・籠城を決め込んだか。それにしてもかなりの要塞ぶりじゃな。時間はかかるであろう。」
攻め手の大将である畠山政尚は高取城を見上げている。

「大筒の弾数にも限界はございますぞ。数では圧倒的に我らが優勢。少しずつ郭を奪っていけば良いでしょう。」
「そうじゃな・・・我が殿・・・の兵が大和の軍を抑えてくれている内に奪わねばならぬ。」
鈴木孫一の進言を受け入れた政尚。
畠山軍の鉄砲隊、弓隊、足軽たちは次々と山中へと入り込んでいった。

山中には幾重もの柵や罠が仕掛けられている。
また堀切もあるので進むのが困難な道のりであった。
更に通常の登城口となる道にも幾重もの柵や門が建てられており、いかにも伏兵が潜んでいる気配が漂っている。

「郭を奪うのも一苦労か・・・。それにしても送り込んだ間者が誰一人帰らぬのは気がかりだ。」
そうつぶやくのは雑賀衆きっての実力者である土橋守重。
この戦にはあまり乗り気ではなかった。


「山田に与することこそ雑賀の生き残る道だと思っておる・・・」
雑賀出身の甲賀上忍杉谷善住坊の言葉を思い出していたのだ。


そしてその杉谷善住坊は配下の忍びたちとこの高取山に潜んでいた。
それぞれの手には連発銃。畠山軍が上がってくるのを待ち構えていたのである。


「気をつけろ・・・罠かもしれぬ。」
「いや・・・問題ないじゃろう。」
畠山軍の一部隊がかなり上の方まで登っていた。
見上げれば石垣と塀が見えているが、そのときだった。

頭上から水が次々と降り注いでくる。

「なんじゃ・・・!?」 「鉄砲が濡れたぞ!!」

慌てて鉄砲を拭こうとするも上から石を次々と投げ込まれたため、一旦は退くしかなった。

「この水は・・・しょっぺえ・・・塩か!?」「ふざけた真似を!!」
登城口から登り始めた部隊も上から浴びせられる水攻撃に動揺していた。
その水はかなり濃い目の塩水である。
ヤケになって近づこうとすると弓矢と石攻撃を浴びるという悪循環に畠山軍は苦戦していた。

「姑息な真似をしおる・・・火縄銃の弱点が湿気だと知っておるか・・・」
鈴木孫一はつぶやくもニヤリと笑う。

「縄を濡らさぬようにすれば良いだけではないか、我らの鉄砲はそうそう水如きで使い物にならなくなるシロモノではないぞ。」

翌16日、火縄を守りながら畠山軍は次々と山を登っていく。
また裏手の壺阪寺方面からも畠山軍は侵入を始めた。

「また塩水か・・・」「何を考えておるのだ!?」
頭上から降り注ぐ塩水攻撃を浴びながら畠山軍は次々と郭を制圧していく。
前線で指揮をする土橋守重は手応えを感じながらも、不安は隠せない。

何か攻めさせられている気がするのじゃが・・・

そんな中、裏手から攻め始めた畠山軍の別動隊は次々と門を打ち破っていき大手門近くまでたどり着いていた。

「もう少しじゃ!!」
足軽大将らしき男が声を上げた瞬間、頭を打ち抜かれて倒れ伏す。
更に次々と周囲の兵たちも撃ち殺されていく。

「どこだ・・・どこから撃っている!?」

モヤのかかっている山の中、姿なき者達の鉄砲攻撃に戦慄を覚える畠山軍の兵たち。
杉谷善住坊とその配下は斜面に穴を掘り隠れながら狙撃していたのだ。
更に大手門が開くと越智軍の弓隊、鉄砲隊が現れて一斉に攻撃を仕掛けてくる。
不意打ちの前に畠山軍の別動隊は全滅するのであった。
使われることのなかったその鉄砲を全て奪い取った越智軍の士気は上がっている。


「裏手から攻め入った部隊から何の合図もない・・・まさか全滅したというのか・・・」
畠山政尚は夕暮れの空を見上げて嘆息する。

「まあ良いではなりませぬか。この勢いで郭を落ちしていけばあと2、3日もあれば城を落とすこともできましょうぞ。」
鈴木孫一には余裕が見られていた。
しかし翌日以降、笑えなくなる事態に陥るとは気づく由もない。

善戦している越智軍ではあるが、指揮している薩摩伝五郎は内心穏やかでなかった。

援軍が来ない・・・

それは五右衛門も同じであった。
畠山秋高の兵と戦っていることは予想できたが、それでも来ないということは相当苦戦しているのではないか?

島殿と半兵衛がおるのだから負けるはずはない・・・

ただ予想だにせぬ出来事が起こっていたのである。
そのことが山田軍や筒井軍、十市軍を苦戦させていたのだ。

ともかく何とかしねえと不安感が兵に伝われば士気に影響する。
その日の晩に五右衛門は少数の精鋭で夜襲することを決めた。


そして夜、闇に紛れて五右衛門たちは山を下り、畠山軍の本陣へと近づいていた。
隙を伺いながら様子を見ていると突然畠山軍が混乱状態に陥る。

どういうことだ・・・

吉野国人衆の兵が夜襲をかけて畠山の本陣に火を放ったのだ。
小川や秋津が独自に動いてくれたか・・・殿の人徳だろうな。

反撃のために雑賀衆が鉄砲で反撃しようとするも、

「なんだ・・・調子が悪いぞ・・・」
稼働しない鉄砲が多く、更に混乱する畠山軍。

「郭の兵を戻せ!!」
畠山政尚は大声で叫ぶも

「ここで下げては思うツボですぞ。我らで何とかせねば!!」
鈴木孫一は叫ぶと鉄砲を手にしたが、そこで気付いた。

なんだ・・・この白い結晶は・・・!?

先日に濡れた鉄砲は乾かしたはずだった。新規の鉄砲は城攻めの兵たちが手にしている。
その先日の鉄砲には白い結晶が付着していたのだ。

これは塩か・・・そうか・・・水というのは塩水。しかも濃度が濃すぎるぐらいの塩水・・・
このままにしておけば今後も使い物にならなくなる。すぐに分解して部品を一つ一つ綺麗にせねば・・・。
待て・・・ということは今の城攻めの者共の鉄砲もそのうち使い物にならなくなるというのか・・・

動揺を隠せない鈴木孫一であったが、突然の殺気に思わず身の毛がよだつ。

「なんだ・・・何が・・・えっ・・・!?」

目の前で畠山政尚の首が斬り落とされていた。

「いっちょ上がり・・・さてと鉄砲などで戦っても生の実感はないだろ?」
五右衛門は鈴木孫一を見ると手招きして挑発する。

「馬鹿な・・・退け・・・退けええ!!」
孫一の声と共に兵たちは右往左往に逃げ惑う。

「何が起こっている? まさか石川様が本当に成功されたと・・・」
高取城から火の手が上がっている麓の畠山軍の本陣を眺めていた。

これは好機・・・ここは死ぬ気でいくしかない!!

「よし、我らも討って出るぞ!!」
城から打って出た越智軍は郭から撤退しようとしていた畠山軍に襲い掛かる。
結果的に背後を突く形となり、散々に畠山軍を打ちのめしていく。

「うらあああ!!」
伝五郎の槍の前に打ちのめされた土橋守重は降伏するしかなかった。


夜が明けて畠山の本陣跡で越智軍の精鋭の者達と酒宴をしている五右衛門。
そこに遠くから軍影が見えてきた。
その旗印は山田家のもの。

遅えって・・・

五右衛門は含み笑いを浮かべるが、その後で悲しみに包まれることとなる。
一体、畠山秋高との戦いで山田軍たち大和国軍に何があったのだろうか・・・

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