マイホーム戦国

石崎楢

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第206話:北近江決戦へ

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1570年11月、大和国多聞山城。
私たちは一つの急報に大きく揺れ動いていた。

「そう来るか・・・上杉輝虎・・・」
重治はため息交じりに呟く。

「竹中殿。やはりこれは・・・」
「左馬助殿の察する通りです。」
稀代の軍師竹中半兵衛と明智家随一の切れ者である明智左馬助秀満。互いに顔を見合わせると頷き合う。

「我らへの・・・挑発のようにも思えるが・・・輝虎殿が・・・」

私は上杉輝虎という男が嫌いではない。
あの大武道大会においての交流から敵意は感じられなかった。

「越前から信濃、そして此度の三河制圧。完全に日ノ本を縦に割りやがった。大したものだ。」
清興も嬉しそうな顔を見せていた。

そう・・・その上杉輝虎が三河を制圧したのである。
別所城を落とした本庄繁長率いる上杉軍は、破竹の勢いで南下すると岡崎城まで陥落させたのだ。
徳川・織田信忠の連合軍を打ち破ってのことであり、それはとてつもない脅威であった。

「だが我らにはやらねばなるぬことがある・・・」

三河よりも先に目の前の一番の問題を解決しなければならないということ。
そんな私の言葉の意を察した家臣団の顔つきが変わった。

「遂に浅井を攻めるという事か・・・」
六兵衛は私を見る。
「そう。そして必ず浅井長政を生きたままで捕らえること。真意を問いただしたいし、何より怨恨による連鎖はうんざりだよ。」
私は大きく頷くと重治に目配せをした。
既に北近江攻めの準備は出来ている。

「島様、勝政様を大将とする二万の兵による浅井攻め。朝倉の兵は既に引き上げております。冬場の厳しい戦いになりましょう。」

若君に北近江を渡す訳にはいかぬ・・・

重治にとって絶対に失敗が許されない戦い。それ故に島清興、滝谷六兵衛勝政という猛者に任せる。

「俺も行かせてもらうぞ。」
五右衛門が姿を現した。

風魔小太郎が手も足も出なかったというダルハンという男。楽しみじゃねえか・・・

こうして大和国を中心に畿内各地で編成された二万の軍勢が小谷城へと進軍を始めるのだった。


その北近江小谷城では・・・

「こうなっては仕方あるまい・・・最後の一兵になっても戦うだけだ。」
覚悟を決めた浅井長政。
浅井軍は全兵力を小谷城へと集結させていた。

再三の朝倉からの降伏勧告を無視したばかりに・・・

浅井家家臣磯野員昌は家臣団を見回す。
その悲壮な面持ちの面々は見るに堪えがたかった。
そしてその視線は異国の戦士であるダルハンに向けられる。

「・・・」
ダルハンのそのらしからぬ虚無的な表情に員昌は何かを感じ取っていた。

もしや・・・ダルハン・・・



同じく近江国山中の京極家の隠れ里。

「やはりスジが良い。さすが天下の京極家の血統だな。」

京極家嫡男小法師は風魔小太郎に鍛えられていた。
怪我も癒えたように見えている小太郎ではあるが、その足は以前のようには動かない。
忍びとしての活動は絶望に等しかった。
それ故に様々な忍びの術や身のこなしを小法師に伝授しているのだった。

「・・・」
その様子を見守る柳生厳勝。

数々の悪行を重ねていようと・・・そう、私と同じ求道者かもしれぬ。風魔小太郎・・・

その鋭い視線を察した小法師は笑顔で厳勝の下に駆け寄る。

「柳生様。次はまた剣を学びとうございます。」
「はい。」

厳勝も笑顔を見せると小法師の頭に手を乗せた。

「微笑ましいようで微妙な駆け引き・・・深いですわ。市姫様。」
「そうね・・・でもこんな可愛らしい小法師がいずれ戦に出る・・・そんな世は終わって欲しい。」
山田忍軍くのいちのすみれとお市がそれを見つめていた。

「もうそろそろ山田の将軍様が動かれる頃合いだ。」
小太郎はお市の前に立つ。

「浅井もこれまでということね・・・どなたが攻め手の大将を?」
「島清興、滝谷勝政。疋田豊五郎の話ではな。」
小太郎の返答にお市は天を仰いだ。

「・・・義父上様・・・」

岳人も動くわ・・・
このままいけばいずれは岳人と義父上様は・・・
あまりに考え方が違い過ぎるから・・・
会いたい・・・でも会えばどうなるかわからない。



美濃国稲葉山城。
ここにも山田軍が小谷城へ向けて出兵したことは伝わっていた。

「先手ってヤツだ。半兵衛だけじゃない・・・父さんも本気ってことかな。」
岳人は天守閣から北近江方面を見つめていた。
傍らに控えている黒田官兵衛考高は何も語らない。

「上杉の三河攻めといい全く予想がつかない。面白いよ・・・これでこっちも色々と動くことができる。」

そう言うと岳人は両手を大きく伸ばした。

ここからの景色は最高だ。でもね・・・もっと良い眺めがあるはずなんだけどな。

「上杉の次の手は遠江か尾張・・・」
考高が静かに口を開いた。

「尾張だろうね。織田と戦うことで山田家の力も試せるだろうから。」
「私もそう思います。」
「そうだろうね・・・きっと上杉輝虎が自ら出てくるだろう。」

岳人は嬉しそうだ。

若君は市姫様の件をどう思っておられる・・・

考高と岳人は目が合った。

「お市は生きている・・・わかっているよ、そんなことは。」
「!?」
「僕の考えや行動が危険だから、何処かに匿っているんだろ・・・父さんがね。」

わかっていたというのか・・・それでいて・・・

「さあ・・・それならば父上に援軍を送るとしよう。」

岳人の命により氏家直昌率いる三千の兵が小谷城へと出陣していった。
副将として青彪と白虎として参陣していた。

やりづらい・・・

氏家直昌は異質なオーラを放つ青彪と白虎に恐怖心さえ抱いていた。

「岳人様から聞いておろう?」
「あの蒙古の男だな・・・」
青彪と白虎の表情は険しい。

「我らの悲願達成の障壁になるかもしれん。」
「そのときはこの白虎・・・命に代えてもあの蒙古の戦士を討つ。」
「俺も付き合うぞ。ともかく灰月共も動きを見せぬ。黒炎は袂を分かったに等しい。これから誰一人欠けてはならぬ。あの御方の為に・・・」

岳人がダルハンを必要としているという事実。
青彪達にとってはそれは大きな障壁に等しいのであった。


日が過ぎて、山田軍は六角領内を進軍していた。
美濃からの援軍が既に小谷城を前に陣立てしていることは清興や六兵衛の耳に入っていた。

「若君もさすがに六兵衛を前にあの緑の男はよこさないか・・・」
「この戦に私怨はないですぞ・・・それよりもなるべく早く城を落とさなければなりませぬ。」
「ああ・・・だから既に五右衛門たちを向かわせた。」

清興と六兵衛の言葉の通りであった。


「完全に籠城してるじゃねえか。亀だな・・・ありゃ兵糧は相当貯め込んでいる。長期戦になればこちらが寒さでやられる。」
五右衛門は小谷城付近に姿を見せていた。

「忍び込んで兵糧を焼き払うというのも難儀だな。」
最早、山田忍軍の一員ともいえる杉谷善住坊の眼にも、今回の小谷城の堅固さは理解できていた。

「あの時とは訳が違う・・・だが何かしらの爪痕は残さねえとな。」
そんな五右衛門の背後には十数名の忍びたちが控えている。

「必ずどこかに綻びが生じる・・・頼むぜ。」
五右衛門の言葉と共に忍びたちは姿を消した。


遂に因縁の浅井長政との最終決戦が幕を開ける・・・

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