完結🌟婚約破棄しない王子様α(感想お待ちしてます)

只深

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12 婚約破棄しない王子様α

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 柔らかいベッドの上で、フィンが微笑みながらキスの雨を降らせてくる。
彼との触れ合いの始まりは、いつもこうだった。

 
「ノア……愛してる、愛している。私の運命の番は君だけだ」
「ん、ん……フィン、あのね……僕言いたいことがあるんだけど」

「うん?謝罪ならいらない。私の不甲斐なさが招いたことだ」
 
「違うよ。僕はただ何もかもを与えられて、甘やかされてただけだった。
 それなのに、唯一できる信じるって事すら出来なかったんだ。……だから」

「そんな事はない。ノアは、その名の通り私に安らぎをくれたよ。暗闇の中の虚しい日々の繰り返しは……あの日ノアに出会った時から輝きにあふれて、幸せそのものなんだ」
「僕はそんなに凄い力なんかないよ。そんなふうに言うなんて、出会う前にどんな暮らしをしてたの……」
 
「聞きたいか?」
「うん」
 
 トスっ、と音を立てて横になった彼ははだけたシャツの胸元に僕を引き寄せて抱きしめる。
いつもより早い心臓の鼓動が伝わって、ドキドキしながら彼の瞳を見つめた。

 
 
「私は負け戦と予感しても迷わず先陣を切って戦った。どんな致命傷を負っても斃れない私に畏怖する者は多い。頑丈なだけで、民は英雄と誉めそやしてくれる」
「そんな事ない。フィンの英雄譚はそんな単純な話じゃないよ。戦争の中でどんな立場の人でも死なせない努力をして、自分が傷ついてもたくさんの人を守って来たでしょう?
 戦いに狂っていたわけじゃないと思うけど」

「いや……あながち間違いではない。戦にしか意味を見出せなかったのだから。狂ったように剣を振るい、私以外の者をひたすら守り続けた。そうなった理由は簡単だ。自分自身は死んでもいい、と思っていたから」

「どうして……」

 
「私は第二王子で、優秀な兄上は次世代の王の器だ。そして、私がいなくても賢い妹がいるだろう?」
 
「フィオナ様のこと?……うん、王妃様と一緒にお勉強していた時、本当に優秀な方だと思った」
 
「そう。私は、私が存在する意味を見いだせなかった。この国と家族が守るには戦に行くしかできなかった。
 そして……平和になったこの国に必要のない人間なのだと思った。運命の番に長らく出会えなかったから、何もかもを諦めてしまったんだ」

「…………」


 
 きゅうっと心臓を締め付けられて、いたたまれない気持ちになる。僕と、同じじゃないか。

 全てを持っている筈のフィンが、何も持たなかった僕と同じことを考えていたんだと知って……胸が痛い。
 どんな気持ちで戦争に行っていたのだろう、家族はみんな番を持って……フィンはそのあたたかさを知りながら孤独を抱えていたんだね。
 


「だが、こうしてノアに出会えた。私にも運命があったのだと、私だけを愛してくれる人がこの世にいるのだと思って、本当に嬉しかった。
 もっと早く探していたらこんなふうに苦労をさせなかったし、君の全ては私のものだっただろう。悔しいよ」
 
「ごめん、僕……あの、」
 
「謝って欲しいわけではない。私は、本当に愛されなければノアを抱けなかったはず。それが違わなければ、他の事など瑣末な事だ」 
「……うん」


 
 フィンは、出会った次の日に僕を王城に連れてきた。王妃様ともすぐにお会いして、僕を見る目はみんな厳しかった。
 みすぼらしい男娼の少年を……お風呂にもまともに入れてなかった僕を見て、みんなが顔を顰めていた。

 僕専用のお部屋も用意してくれたけれど、いろんな場所から持ってきただろう家具達はチグハグでなんとも言えない様相だった。
 メイドさん達が急いで作ってくれたその場所は、ずうっと暮らしていくものとして作られてはいなかったと思う。


 
 でも、それを見て……フィンは作ってくれた人たちに「すまない、手間をかけさせた」と謝罪した。
 家具を全部自分で元の場所に戻し、がらんどうのお部屋で、僕と二人で話しながらお部屋を作ろうと言ってくれたんだ。

 色や材質、今までどんなものを使ってきたのか、何が好きで何が嫌いか……僕に意見を聞いて、少しでも住みやすくなるようにって心を砕いてくれた。

 
 初めての王城での食事も、あまりに豪華な食べ物達を目の前にして怯んでいた僕にすぐに気づいた。
 お肉とか、フライとか……お野菜もたくさんあったけれど、食べ慣れていないものばかりでフォークもナイフもたくさんあって使い方がわからない。

 そんな僕を気遣って、いろんなものを小さく切ってお皿の上に並べて……『好きなものを見つけてみよう』なんて言ったりして。
 甘い飲み物を用意してくれたり……僕が乳製品が好きだと知って、夜中にこっそりミルクがゆを作ってくれて、二人で蝋燭の灯りの中でわけっこして食べた。 

 
 フィンの優しさは、本物だった。僕の身分や見た目や、何もかもを一切気にせずにただ『好きだ』と言ってくれた。
 誰にも愛されるはずのない僕に、無償の愛をはじめてくれたのは……間違いなくフィンだった。



「僕はとっても不思議だよ。運命の番だったからってどうして好きになれたの?
 痩せっぽちで、美人でもなくて、お風呂にも入れてないし。直前までお客様と一緒にいたのに」
 
「ノアは自己評価が低い。分かってはいるが、そのうちに自覚できるだろう。
 ノアが王城に来てから、皆が私と同じように癒されている。
嫌がらせをしたメイド達は『自分を罰して欲しい』と後日懇願してきたのだ。あのような事は初体験だった」

「何それ……?でも、うーん。それは後付けの理由だし、惚れられるような大層なものじゃないでしょ」
 
「…………怒らないか?」

 

 僕を見つめ返す瞳が揺らぎ、伺うような色が浮かぶ。
僕が怒るなんて、相当のことだと思うけど……?

「内容による」
「ゔっ……いや、怒られても仕方ない。これは真実だ。伝えねばならない」
 
「ふふ、何だろう?楽しみだな」


 何度か口を開き、閉じて……それを繰り返したフィンが顔を真っ赤にして小さな声でつぶやく。



「……ノアが、かわいいと思った。一目惚れと言っていいだろう。見た目も、仕草も、声も、私の胸に突き刺さった。
 それから、客とのやり取りを……しばしドアの外で聞いていたのだ」
 
「うそ!?僕の接客を聞いていたの!?」
 
「あぁ、あまりにも私が衝動的に動くものだから、側近が心配してドアの外で危険がないか見定めていたんだ。
 ただ待つのも良くないと、店主がやたら酒を勧め……緊張のあまり浴びるように飲んでしまってあのザマだった」
 
「…………」

 
「ノアは、客に対して真摯だった。嘘をつかず不器用なままで率直に話をしていた。
 オリビアが言うように、娼館で働くには少し狡い知恵がなければならない。客の弱みを握ったり、うまくやって気に入られたりと強かな者が多い場所だろう」
 
「それは、そう……だと思うけど」


 
「聞いていた内容からわかったのは、ご機嫌取りは下手くそで、嘘をつかないし世辞を言わない。
 なんて不器用で、素直で、綺麗な人なんだろうと思って……たまらなかった」
 
「む……むぅ……むぅ……」
「ほら、怒ったじゃないか」

「怒ってはないけど。確かに僕はお客様は少なかったし、稼ぎも少なかったけど……むぅ」
 
「ふ……それはありがたいことだ。私の番を消費されずに済んだ」
 

「フィンは、嫌じゃないの?その……」
 
「嫌だと思う理由などない。生きていこうと前を向いた者がする仕事に、優劣も貴賤もない。
 ただ、それを選ぶしかなかったと言う情勢は変えたいと思う。私は、そのためにノアとオリビアに手助けしてもらう予定だ」
 
「……うん……」

 

 僕は、色んなことを聞かなきゃいけないのに。オリビアがどうしてフィンと知りあったのか。僕の手下って何さ、とか。ジェラルドさんも、アナスタシアも何で王妃様の元へ戻さないでずっと僕の傍にいるのか。
 かわいそうなステラ嬢が、どうなってしまうのか……。


  
 そして何より、こんなふうにして幸せをくれたフィンに、どうやって謝罪と恩を返せばいいのだろう。
 
「頭の中が混乱しているな。悩んでいる時の顔だ」
「うん……」
 
「一つだけなら質問に答えよう」

「一個だけなの?」
「あぁ。私はお預けされている。話の内容は、仕事のことや事件のことは禁止だ。それについては兄に任せているし、今後いくらでも話せる」
 
「…………む、む……」

 そんなこと言われたら、フィンのことしか話せないじゃないか。
 …………あ、そうだ。いい事思いついた。


「フィンに何をしたら信じられなかったことの謝罪になる?もらってばかりの僕は恩返しできる?」
「頑固だな……恩返しはもうしている。失われた金木犀の苗木を見つけ、公爵の謀反を抑えた。わたしも結婚詐欺に遭わずに済んだ」

「それは僕の功績じゃないでしょう」
 
「いや、間違いなくノアの功績だ。これについてはわたしだけではなく、一家の総意だからな」
「…………じ、じゃあ、フィンに……もぉ!フェロモン抑えて!!」


 ふわふわ漂うフィンのフェロモンが漂って、僕は体が熱い。こんなに強く香らせたら、正気じゃなくなっちゃう。

 

「どうしてもと言うなら、今日はノアからしてくれないか。愛されている実感が欲しい」
「は……あ、そ、そう言う感じなの?」
 
「どう言う感じなのかは知らないが、私はずーっと据え膳のままだ」

「……ん、わかった。今日は僕が頑張る。下手っぴでも我慢してよね」
 
「言ってみるものだな。かなり期待してしまっているのだが」

 

 ニコニコしてるフィンに口付けて、僕は覚悟を決める。
お客様じゃなくて、僕の唯一の番で旦那様である愛おしい人に……今度こそ、全部をあげる。

 彼が横になったままの体の上にのしかかり、僕はそうっと跨った。
漆黒の瞳はキラキラ輝いて、これから訪れる甘いひと時の予感に……優しくその色を溶かしていった。

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