あの場所で待っている

ながれ

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ある恋の話

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出会いは唐突なものとはよく言うがその通りだった。
大学の入学準備のために、電車で少し離れた都会の街まで買い物に来ていた。
帰り道、駅のホームの向かい側で君を見つけた。
一瞬だったが、それが目に焼き付いて離れないくらいに君は僕の心を支配した。
そしてもう二度と会うことは無いのだろうと少し残念に思えた。僕には声をかけるなんて勇気はないし、ましてや向かい側のホームだ。家に帰ると色々忙しくてそんなことは既に忘れていた。

大学が始まった。
僕の大学は珍しいことにクラス制で、そして、そのクラスに君は居た。なにか偶然が運命のように感じられた。
1度忘れたはずの支配されたこの心はまた君に支配された。
なんとか仲良くなろうと努力した。まず話しかけてみた。君は笑顔で答えてくれた。それが作った笑顔だったとしても、僕はそれをホントのように思った。そう思うことで自尊心やら自己肯定感やらを満たしたかった。
君と話せた翌日は大学に早く行きたかった。また君と話したくて、LINEも追加したかったが、それをやっていいのか、LINEを追加したところで話せるのだろうかと不安になった。
なんとか共通の友達の力でLINEを追加できた。皆は意気地無しと言うだろうがこれは仕方の無いことなのだから許して欲しい。

案の定、LINEを追加しても話すことは無かった。僕が話していることに君は短文で返してきた。あまつさえ話が下手な僕がこれ以上話を広げるのは無理だと思った。そして、彼女に直接話をしに行った。

「僕と話していても楽しくないのだろう?ならば、もうLINEなどは返さなくていいから。今までありがとう。ごめんなさい。」

そう言う僕を見つめて彼女は困った顔をした。
そしてこう言ったのだった。

「楽しくないことは無いわ。けれど、私も何か変に意識してしまって、安直な単純な返信しか出来ないの。気に触ったならごめんなさいね。けれど、貴方とはまだ話したいわ。」

僕は困った。まさかこう返されるとは神さえも予想しないだろう。しかし、こう言ってみたことで、彼女からの返信は遠慮が少しなくなったように見えた。自分の話もしてくれた。お互いがお互いを少し知り始めた時、僕達は恋人同士になった。

夢にも思わなかったことだった。とても嬉しかった。いや、嬉しいとかのレベルではなかった。何がどうあって天変地異が起きたとて、親が殺されたとて僕は喜ぶだろうと思えるくらいだった。
そこからの生活は薔薇色だった。僕は彼女のために尽くして彼女も僕にある程度は尽くしてくれた。
彼女が好きなアーティストに嫉妬するといつも喧嘩になった。(これは男のサガだ)
僕は隣に居てくれるだけで幸せだったし彼女もそうであったと思う。
いつもデートは僕が彼女を初めて見た駅だった。
そこだけという訳では無いが、駅ビルの中の店を見て回ってカラオケに行ったり、それがデートの定石だった。
帰る時に君はいつも悲しい顔をした。
僕は無理に笑って「大丈夫だよ」と彼女を慰めた。
彼女と僕の家は反対方向だったから、いつもホームが違うかった。
僕は2番ホームで彼女は4番ホーム。
線路の向こうの君を探して手を振った。彼女も僕を見つけて笑って手を振ってくれた。
そうやって、別れたあとは、電車の中でLINEで「寂しいね」と言い合った。

全てが順調のように思えた。
しかし幸せの後には悲しみが必ずあるのだった。
彼女と付き合って半年がすぎた頃だった。

きっかけは些細なことで、別段話すようなことではない。
彼女と僕は付き合って初めての喧嘩をしたのだった。
2日間くらい喧嘩をしていた。理由は寂しいからだった。
僕が会いに行くと君の機嫌は治った。

悲しみの後には幸せもあるのだ。

僕は彼女とひとつになった。
別段不思議なことでもないが、何とも、さらに愛情が深まった気がした。
初めてのお泊まりのあと、君はまた泣いてしまった。
「離れたくない。」そう言った。
そしていつもの駅のホームでまた手を振った。
線路が間にあるというのに彼女が隣に居るような気がした。

付き合って1年が経った。彼女と僕は別れた。
僕は振られたのだ。
お互いのためだった。僕は彼女が好きだったが、彼女に気持ちがないのなら仕方の無いことだとは思えた。
そして彼女は僕のことが嫌いになった。
僕は彼女のことを嫌いになれなかった。その努力はしたが、どうしてもいい思い出が介在して君の笑顔を忘れることが出来なかった。

失恋ソングを聞いて君のことを思い出して泣いた。
僕は大学を休学した。理由は体調不良というものだが実際には彼女に会いたくなかったからだ。
家にひきこもり、半年がたった。
僕は大学を辞めることにした。色々な手続きをした。
地元でバイトをしながら家に引こもる、そんな日々だった。

そんな生活をして、2年がたった。僕は、フリーターとして生きていた。
すると、旧友から連絡が来た。
「来月の16日に飲みに行かないか?」
僕の事情を知っていた上でそれでも懇意に話しかけている友人だった。
断るわけにもいかず僕は行くことにした。

待ち合わせ場所はいつも彼女とデートしていた駅だった。
僕は断ろうかと思った。でも、乗り切らなきゃ行けないと思った。だから、電車に乗っていくことにした。

電車に乗ると懐かしかった。
アナウンスが流れる。君と会える駅が近づいていくから、到着2駅前くらいになるとずっとドキドキしていた。
今日はどんな服だろう。どんなことを話そう。何を見よう。そんなことを考えながら僕は彼女が待つ駅へ向かった。
そんなことを思っていたことを思い出した。
涙が出るかと思ったが、何しろ二年半だ。
涙は出なかった。少し悲しかったが、この程度か、と思えるほどだった。

駅に到着すると友達が改札前で待っていた。
「久しぶり!元気には、してないか」
そう言って笑った。

僕も苦笑いで
「そうだな」と答えた。
久しぶりに話したとは思えないほど話は盛り上がった。
お酒も入っていたので楽しかった。
彼はここら辺で仕事をしているらしく、明日も仕事らしいので21時頃に解散することになった。

解散して、駅までの道を一人で歩いた。
色々な思い出が目の前に現れては消えた。
行きつけのカラオケ店は既に無くなっていた。

駅に着くと来た時に感じなかった違和感を感じた。
パン屋が無くなっていたことに気付いた。
ここのパン美味しかったのにな。なんてことを考えてホームへ行き、駅のホームのベンチに腰掛けた。

駅のホームの反対側を見ないように、居るはずがないのにそんなことをしていた。
電車が到着した。と思って後ろに体を向けたら、僕が乗る電車じゃなかった。
また後ろを向くのもなにか恥ずかしいため、そのままぼーとしていた。

ふと線路向こうのホームを見てしまった。
そこには、彼女が居た。
見間違うことがない。確かに彼女だった。
心臓が高鳴った。あるはずのない展開を望んだ。

しかしそれは叶わなかった。
彼女は同じホームの彼に手を振っていたから。
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