あやかしお悩み相談所 〜付喪神少女は、宿主のおっさんとまったりしたい〜

藍墨兄貴

文字の大きさ
10 / 39
ぬらりひょんの憂鬱

ぬらりひょんの憂鬱 十

しおりを挟む
「うちの、もの?」

 たまにゃんはポカンとしている。

「は、はい。その昔、それこそ私がちょっと荒れていた時、あなたからお預かりしたものです。……多分、当時色々ちょろまかして荒稼ぎしていた代官宅でいたずらしていた時に持ってきたものだと思いますが」
「義賊かよ」
「流行ってたんですよ、その遊び。鼠小僧なんて人間もいましたしね」
「乗っかるなよ……」
「ん~~……」

 言われたたまにゃんは腕組みをして眉を寄せる。
 “全然覚えがないし思い出す気もあんまりないけど、一応てい・・は繕っておくにゃ”といったところだろうか。

「全然覚えがないにゃ」
「そ、そうですか……」
「だから別にいらないにゃ。ぬらっちが必要なら好きに使うにゃ」
「お、意外にいい人」
「あ?」

 そんなに睨まなくても。
 あと小梅は俺の横からイラッとした空気を出さない。

「そういうことなら、あとはぬらりひょんさん次第、というところですね。どうします? 売買ルートならこちらでご用意できますが」

 猩々さんが、だけどね。
 そういえばあのおっさん、連絡してこないな。

「寝かせておいても何にもならないですね。……分かりました、ではお任せしたいと思います」
「ぬら爺が初めて意志の強い目を……」
「言ってやるなよ……」
「もういいにゃ? じゃあうちは帰ってハニーとイチャイチャするにゃ」

 そういえばたまにゃんのハニーってどんな人なんだろうか。
 とりあえず精力オバケという印象を勝手に持ってはいるが。
 マンションに戻るたまにゃんの後ろ姿に深々と頭を下げるぬらりひょんを見ながら、俺はぼーっとそんなことを考えていた。

――――

 事務所に戻った俺たちは、まず猩々さんに連絡を取った。

『おお、解決しましたか!』
「正確には、解決までの道ができたって感じです。それで、猩々さんにもちょっと手伝って欲しいことがあるので、これから来てもらっていいですか?」
『わっかりましたぁ! これからちょっと打ち合わせの約束があるんで、それが終わったら戻りまーす!!』

 電話を切り、お茶を一口。
 目の前では、ぬら氏が同じようにお茶を飲みながら、ちょこんと座っていた。
 俺の隣では、小梅がお盆を抱えて俺にぴとっとくっ付いている。

「さて、じゃあこれからの動きですが」
「は、はい」
「猩々さんが戻ったら、換金ルートを紹介してもらいます。そこで千両箱を換金してもらって、そのお金でアバター制作を依頼、これはこちらでご紹介します。で、それが出来るまでにネタを用意していく……と」
「あの、それはどれくらいの期間なんでしょうか」
「もちろん今日明日ってわけにはいきません。それに始めるタイミングはご自身で決めていただくのがいいかと思います。何しろ、アバターや機材が揃ったところで、ネタがなければどうしようもないので」
「そ、そうですよね……」

 あやかしを紹介するという内容である以上、原稿なんかも用意しないといけない。口達者でやり手の配信者なら一人で続けることも出来るだろうが、ぬら氏では正直不安が残る。
 いずれスタッフも必要になるかもしれない。
 しょうがない、ちょっと手伝ってやろう。

「うちに来た案件関係なら、ご本人に確認した後、エピソードとして使っていただいても構いませんよ。あやかしなので、コンプライアンス云々も本人さえ良ければ問題ありませんし」
「あ、ありがとうございます。……どれくらいの間隔で配信すればいいんでしょうか」
「たまにゃんが言ってたけど、週に3回くらいがいいよって。でも、ぬら爺一人でなんとかやっていくなら、週一くらいにしないとキツいかもね、編集とかもあるし」
「え、ひ、ひとりですか……?」
「違うんですか?」
「いえ、手伝ってくれるものかと……」

 なるほど。
 家長扱いされたり、てのはこういう部分もあるんだな。
 確かに独特な親しみやすさを感じるあやかしではある。
 だが、俺にはそういう“あやかしとしての能力”は通用しないんだ。

「手伝うのはここまでです。あなたがユーチューバーになるための準備として、こちらで出来ることはやりました。あとはあなたが頑張る番ですよ」
「また何か困ったらいつでも協力するから。ぬら爺、せっかく自分からやろうとしてるんだから、人に頼り切ってたらもったいないよ?」
「……」

 言われたぬら氏は伏し目がちに考え込んでいたが、やがてゆっくり顔を上げた。

「……そうですね。ここからは自分でやってみます。たまさんにも相談なら乗ってやる、と仰っていただきましたし、頑張ってみようと思います。ありがとうございました、報酬は猩々さんにお渡しいたします」
「応援しています。……ところで、ぬらりひょんさん」

 ぬら氏の目が輝き出したところで、俺は気になっていることを聴いてみた。

「千両箱、結局どこにあるんですか?」
「山の中の洞窟に。人の入る場所ではありません」
「と、いうと?」
「表に古びた社がありましてね。あやかし以外では見つけることも出来ないところです」
「ほほう」

 なるほど、そういう所もあるだろう。
 社ってのは、人間が神を祀るだけのものではない。
 人とあやかしの世界を隔てるための結界として作られたものもあるのだ。

「じゃあ、そちらは猩々さんにサポートしてもらおう。小梅、アバター制作してもらえる人探してみてくれるか?」
「はーい」
「あ、あの、それでですね……」
「はい、まだ何か?」

 ぬら氏は申し訳なさそうな顔のまま、こんなことを言い出した。

「私、これまであちこちの家を渡り歩いてきたもので、住む場所がなくてですね……」
「……あ」

 そうか。
 アバター使ってVTuberとして動画を配信するんなら、ネット回線の使える拠点は必要になるな。

「小梅ー」
「あいあい、空いてるよー」
「……と、いうことです」
「は、はい?」
「うちの事務所が入ってるこの建物、アパートなんですよね」
「え、ええ、そうですね。人っ気はありませんが」
「実は俺、元々このアパートの管理を任されてましてね。住人はあやかし限定なんですよね」
「ええっ、そうなんですか!?」

 そう。
 我が“文河岸お悩み相談所”のあるこのアパートは、俺が管理することになっているのである。
 ……させられている、が正しいが。

「なので、住む場所をご用意することは出来ます。どうします? 入居なさいますか?」
「は、はい、ぜひ!」
「分かりました。では、そちらの契約に入りましょうか……」

 こうしてぬら氏の案件は解決し、我が“あやかし荘”に入居者が増えることになったのだった。

――――

「あ、見た目はぼろっちいですけど防音設備は完璧なので、いつ録画してもらっても大丈夫ですよ」
「あ、そうなんですか?」
「だって、聞かれたくないもん。ね、怜ちゃん」
「……そういうことです」
「な、なるほど……」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...