あやかしお悩み相談所 〜付喪神少女は、宿主のおっさんとまったりしたい〜

藍墨兄貴

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からかさの恋

からかさの恋 一

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 一期一会。
 袖擦り合うも多少の縁。
 縁は異なもの味なもの。

 出会いの妙ってのは、いつの時代でも変わらないらしい。

 つまり、リサイクルショップであやかしに出会っても、何もおかしいことはないのだ。

――――

「なんかここに来るのも久しぶりだねっ」
「そうだなぁ、前に来た時はまだ寒かったしな」

 ほんのり秋の香りがし始めた頃、俺と小梅はリサイクルショップ「再生屋」に来ていた。
 学生の頃にここでバイトしていたことがあり、以来何かと重宝させてもらっている。
 平日ということもあり、店内には学生や主婦がちらほら、といったところだ。
 今日は小梅も、高い位置で結んだポニーテール、黒い長袖のTシャツに半袖を重ね着して、スキニージーンズにスニーカーという、スポーティな高校生くらいの装いである。特に背が高い訳でもないが、細身でシュッとしている分長身に見える。
 見た目がいいので、彼女が通ると学生達が振り返る。その正体が300年前に打たれた種子鋏たねばさみだとは、とてもじゃないが思わないだろう。
 一方の俺は藍染めの作務衣に寝グセ隠しのバンダナという、駆け出し陶芸家のような格好であった。なんなら俺の方があやかしっぽいな。

「あたし、古着コーナー行ってるね」
「はいよ。今日は一人3千円までな」
「おっけー、じゃ行ってくるねっ」

 てててっと小走りに消えていく小梅を見送ると、俺はまず、店長のいるレジに向かった。

「ども、ご無沙汰してます」
「お、文河岸くんか、いらっしゃい。今日は嫁さん来てないのかい?」
「さっそく古着を見に行きましたよ。……なんか面白いの入りました?」
「んー、こないだ地主さんの蔵整理で出てきたのがいくつか、かな。あとは新人さん」
「ん? バイトですか?」
「そうそう。近所に住んでる大学生の女の子。今休憩で……ああ、ちょうど戻ってきた」

「戻りましたー、いらっしゃいませ!」

 ちっこい丸顔の子が元気に挨拶してきた。美人というより可愛い感じかな。
 エプロンに付けた名札には「スタッフ 中井」と書かれている。

「ああ、紹介しておこうかな。先月から入ってもらってる中井さん。で、こちらが元バイトの文河岸くん。今は常連のお客さんだね」
「ども」
「あ、じゃあ先輩になるんですね! よろしくお願いしますっ」

 う、まぶしい。

「それにしても……」
「ん、どうしたの中井さん」
「作務衣とは渋いですねー、かっこいいです」
「あ、ありがとうございます」

 この間の詰め方。
 貴様、さては陽キャ社交的だな。

「ああ、そういえば最近和装が多いよね、文河岸くん」
「楽なんですよねぇ」

 そんなことを話していると、小梅が古着を何枚か持って戻ってきた。

「怜ちゃん、決めたよー。あ、店長さんこんにちは……って、誰」

 おおう、いきなり声を低くするなよ。警戒心強すぎるだろ。
 大丈夫だって、きみの旦那はそんなにモテるタイプでもねえよ。

「いらっしゃい。中井さん、こちら小梅さん。文河岸くんの……奥さん?」
「お、奥さん……」
「よろしくお願いします! ……なんだ、奥さんいらっしゃったんですね」
「結婚してはいませんけどね」

 あら小梅ちゃんたら照れちゃって可愛い。
 あと中井さんがなんかちょっと不穏。

「んで、何選んだんだ……反物?」
「あ、うん。綺麗だったからつい」
「ああ、それがあれだよ、さっき言ってた蔵から出てきたってやつ。他にも雑貨あたりにもいくつか残ってると思うよ」
「へぇ……」

 浅めの紫色か。藤色っぽいけどもう少し色味が深い。巻いてあるから柄は見えないけど、所々に白色が見える。

「正絹か。手触りもいいなぁ」
「これで何か作ろうかなって」
「なるほどね」

 小梅の正体は種子鋏だけあって、裁断などはお手の物だったりする。加えて祖母からの手ほどきもあり、和裁の技術も持っていた。

 ちなみに、今俺が着ている作務衣も小梅の作品である。

「怜ちゃんは?」
「忘れてた」
「えー、じゃあ一緒に見ようよ」
「はいよ。じゃあ店長、また」
「はいはい、ごゆっくり」

 あれ、中井さんはどこ行った? まあいいか。
 俺と小梅は連れ立って、雑貨コーナーに足を踏み入れた。

「せっかくだから蔵の品ってやつを探したいな」
「ちょっと気になるよねー」
「これですねー」
「おう!?」

 急な声に驚いて振り向くと、中井さんがニコニコと古い番傘を持っていた。

「中井さんか、びっくりしたぁ」
「……」
「これをお探しですよね。その反物と同じ蔵から買い取ったんです。っていうか荷物持ってあげるんだ。優しいんですね」

 そんなに畳みかけないでおくれ、おじちゃん頭ぐるぐるしちゃう。
 あとキミたち、俺を挟んで睨み合うのやめてもらっていい?

「い、いや、別に優しいってわけでも」
「優しいよね、怜ちゃん」

 俺の言葉を遮るように言うと、小梅が俺の腕にぎゅっと掴まった。
 だから何を警戒してんだって。

「で、その番傘が蔵から出たものなんだね?」
「ですです、もうボロボロだけど、好きな人は好きだしってことで」
「なるほどね……」

 俺はその番傘を何気なく受け取った。
 その瞬間だった。

「お絹さんああお絹さんだもう一生会えないかと思ったああ愛おしや愛おしやこの野郎さっさと俺を買いやがれそしてお絹さんと一緒にして添い遂げさせろってんだええこんちくしょう」
「うああっ!」
「ど、どうしたの怜ちゃん」
「え、急にどうしたんですか!?」
「小梅、これ」

 そう言って番傘を小梅に渡す。
 受け取った瞬間、小梅は、

「うあっ! 何なにぃ!?」

 と、耳を塞いだと同時に、うっかり番傘を手放してしまった。

「いでぇっ!! 何しやがんでぇこのアマ!」
「口悪りぃなこいつ」
「え、え?」

 中井さんには聞こえてないのか。
 なら、それほど“霊格の高い”やつではないな。

 ……つまり。
 こいつは番傘の付喪神、いわゆる“からかさオバケ”だったのだ。

「……ふむ」

 俺は番傘を拾い、柄を強く握り心の中でヤツに話しかけた。

(うるせぇ、まとめて買ってやるから大人しくしてろ。じゃねえとほったらかすぞ)
(お、おめぇ俺の声が聞こえるのか!)
(うるせぇっつったぞ? 細かいことは後だ、うちに着くまで大人しくしてろこのべらんめぇ付喪神が)
(わ、分かったよ……)

「……小梅、こいつも連れて帰るぞ」
「も?」
「ああ。俺の予想が当たってればな」

 っていうか。
 お絹さんって、この反物のことだよな。どう考えても。
 なんかこう、どうにもほっとけない気持ちになって、俺と小梅は、反物と番傘を買い、事務所に戻ったのだった。
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