あやかしお悩み相談所 〜付喪神少女は、宿主のおっさんとまったりしたい〜

藍墨兄貴

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からかさの恋

からかさの恋 三

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「そうじゃねえって、どういうことだ?」
「へぇ、実は……」

 からかさの言うには、数十年前まではこの反物、お絹にも魂が宿っていたらしい。
 とは言っても、どちらもさほど霊格の高い付喪神ではなく、人化はおろか、動くことも出来ない状態で、蔵の中でひそひそと会話する程度のことだったんだそうだ。
 からかさはどうやらその頃からお絹のことを好いていたようで、初めはやんわりと断られていたが、じっくり時間をかけてようやく口説き落としたというところだったらしい。

「ようやくこっちを向いてくれた、そう思っていた矢先のことでやんした。それまで虫干しの時にしか開けられなかった蔵の扉が、時期でもねえのに開かれたんでヤンス」

 え、ヤンスキャラのままでいくの?
 まあいいけども。

「蔵の荷に用でもあったってところじゃないのか?」
「あっしもそう思ってたんでヤンスが、それがどうにも様子がおかしい。知らねえ顔の野郎が何人か、ドヤドヤっと押し入ってきて、金物ばかりを外へ引っ張り出したんでヤンス」
「……それ、いつ頃の話だ?」
「そうでヤンスね、もうかれこれ70年以上は経ちますか。……ああ、ちょうどニンゲンが他所の国と戦になっていた頃でヤンス」
「……やっぱりか」

 金属類回収令だ。
 太平洋戦争当時、資源に困った日本軍が一般家庭からも金属類を回収して回っていた時期があった。
 あの反物や、このからかさの出来などからしても、蔵の持ち主は相当の良家だったことは間違いない。

「……その時からなんでヤンス。お絹さんの魂を感じられなくなったのは」
「え、そんなに昔からなの?」
「……入って来たのは軍人だけだったか? みんな同じ、黒っぽい緑の服を着てたんじゃないかと思うが」
「そうでやんすね……あ」
「どうした?」
「後ろの方にいたんでチラッとしか見えなかったんでヤンスが、一人和装の野郎がいたような……」
「和装? 家の人間じゃなくてか?」
「蔵の鍵開けたりするもんね」
「いえ。あの家のニンゲンはいつも、洋服姿でやんした。お絹さんが蔵にいたのも、和装を好んでいた先代が亡くなって、不用になったからだって聞いてやす」
「ふぅん……」

 どうもそいつがクサいな。クサいが、仮にそいつがお絹の魂をさらったとして、その動機が分からない。
 そもそも、その蔵に付喪神がいるなんて、誰が知ってるっていうんだ?
 それに、お絹の魂は持っていって、からかさのはそのままだ。

「その和服の人、何の用事だったんだろうねー」
「俺もそれを考えてた。なあ、付喪神の魂ってそんなにポンポン抜き出したり出来るもんなのか?」
「弱ければね。物と魂を繋いでる“縁”を切っちゃえばいいの」
「縁?」
「うん。人間だったら大動脈をちょん切るみたいな感じかな?」
「なるほど……」
「なんかいい案見つかりやしたかミスター」
「ミスターゆーな。……いくつか仮説は立てられそうだけど、いまいち決定打が出ないな……」

 煮詰まってきたな。
 こう言う時は、頭抱えててもいい案なんか出てこない。
 気分転換なりなんなりして、一度頭をスッキリさせたいところだ。

 小梅も同じことを考えたらしく、空になった湯呑みを乗せた盆を持って立ち上がった。

「またお茶にする?」
「いや、コーヒー飲みたいな。豆挽くわ」
「シンキングタイムかな?」
「そうだな」

 煮詰まってる時は、何も考えずに手を動かす。
 今はコーヒー豆をゴリゴリとやりたい気分だった。

――――

「……ちゃん、怜ちゃん!」

 小梅の声が遠くに聞こえる。
 あれ、俺何してたんだっけ?

「起きてよー、怜ちゃんー、暇なのよーう」

 頭がぐわんぐわん回っている。
 いや、これ違うな。肩掴んで揺らされてるんだこれ。

「小梅、待って待って、揺れる揺れる吐く吐く」
「あ、ごめん」

 目を開ける。焦点の合わないままに見ると、コーヒーミルを持つ手があった。
 俺の手である。
 ついで辺りを見回すと、さっきまではいなかったはずの人物が、向かい側のソファでニコニコとしていた。

「お疲れの様子ですねぇ、所長」
「猩々さん……」
「あれ、からかさは?」
「傘立てにささってるよー」
「私が戻った時は大層な剣幕でしたけどね、ええ。その後説明して、納得していただいたところであちらもお疲れになったみたいで」
「うそうそ、本当は猩々さんに妖気あてられて、ビビって傘に戻っちゃったの」
「いやあ、若気の至りってやつで。中々お話を聞いていただけないんで、ちょいと」
「若気……」

 さすが、伊達に長生きしてるわけじゃないな。

「で、今日はどうしたんです?」
「ええ、ちょっと気になることを耳にしましてね、ちょいとご報告に上がったんですが……どうやら、からかさ氏の案件にも関わりそうなんです」
「どういうこと?」

 小梅が尋ねると、猩々さんは俺と小梅に顔を寄せるように手招きした。

「どうも、所長の呪印と無関係じゃないかもしれません」
「えっ!」
「しーっ。これはからかさ氏にはあまり聴かれたくない。お静かに」
「ご、ごめん……」
「俺の呪印と関係……」
「その呪印は、あやかしの手によって刻まれた。その上におばあさまが封印を施しています。そのおかげで所長にはあやかしの力が効かず、さらにあやかしを見る力も高まっている。結果的に小梅さん、あなたの霊格が、覚醒して20年程度にしてとんでもなく上がることになった」
「そうね」
「ただ、所長に呪印を刻んだあやかし、どうやら使い魔のようなんです」
「使い魔?」
「ええ」

 猩々さんはそこで言葉を区切った。

「あやかし使い、と呼ばれる人間。それが所長に呪印を施した真犯人です」

 ……人間?

「人間が何で俺に、“霊気を貯め込んであやかしを呼ぶ”呪印なんかを刻んだんだ?」
「……で、あのからかさ氏がご執心の反物。そちらも同じ人間、または組織かもしれませんが、の仕業の可能性が高い」
「え……それ、もしかして」
「もしかして? なんか知ってるのか、小梅?」
「知ってるっていうか、聞いたことある程度だけど。……融魂ゆうこんっていうのがあって」
「小梅さん、それは」
「いい。……教えてくれ、小梅」
「……うん。鬼の外法げほうなんだけどね。弱いあやかしの魂を混ぜて、強い鬼を生み出すっていう」
「外法……」
「本来の筋とは違う使い方をする、外道のやり方です。そうやって無理やり、ただ強いだけの鬼を作り出し、意のままに動く道具として使役するんです。……所長の呪印も、そうやってあやかしをおびき出すために付けられたのではないか、と、あるあやかしに言われましてね。ひょっとしたら例の反物も、と考えた次第で」

……なんだって?
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