あやかしお悩み相談所 〜付喪神少女は、宿主のおっさんとまったりしたい〜

藍墨兄貴

文字の大きさ
21 / 39
鎌鼬の三男坊はお年頃

鎌鼬の三男坊はお年頃 三

しおりを挟む
 どれくらいの時間が経ったのだろうか。
 意識が戻った時、俺の頭は小梅の膝に乗っていた。

「あ、起きた」
「……どんくらい寝てた?」
「30分くらい。まだゆっくりしてていいよ?」
「……やっちまったなぁ」

 そう言って軽く目をつぶる。

――疲れると、キレやすくなる。
 ばあちゃんからはそう聞いていた。
 だから、その程度のものだと思っていたんだけど、成長するに従って、それどころじゃない、まさに人間離れした力が出てしまうことが判った。
 その力は俺が疲れ切って気絶するまで続く。普段、自然に発散するはずの霊力まで貯め込んでいる影響だって話だけど……。
 ま、考えてもどうすればいいかなんてわからない。ぶっちゃけ厄介なクセ、くらいの意識ではある。その度に小梅たちに迷惑を掛けてしまうのは心苦しいところではあるけれど。
 そもそも、人間離れったって高が知れている。
 石を砂にする程度の握力なんて、探せば他にもいるだろうし。
 ……いるよね?

「ま、あれはザン吉が悪いし」
「ざんきち?」
「次男坊。テンさんに怒られてだいぶ凹んでたから、あたしと猩々さんでちょっとイジってたのよね。あたしは飽きたからこっちで怜ちゃん甘やかしてるんだけど、多分猩々さんまだやってるよ」

 そう言って小梅がケラケラ笑う。
 小梅も猩々さんも、俺がキレた後はこうしてくだらないことで笑わせてくれる。

「……じゃ、いくか」
「ん、ほっとくんじゃないの?」

 ニヤニヤすんじゃねえや。

「意地の悪いこと聞くんじゃねえよ」
「ごめんごめん」
「いや、ありがとな、いつもな」

 そう言って小梅の頭を軽く撫でると、彼女はわざとらしく驚いてみせた。

「怜ちゃんがデレた、だと……」
「いや、割と普段からデレてるでしょ……。ま、いいや。どのみちあの三男坊はどうにかしないといかんしなー」

 身支度を整え、応接室に戻る。うわ、次男坊凹んでるわ。
 長男が気付いて立ち上がる。俺はそれを手で抑えた。

「あ、いいですいいです、お互い様ってことで。……じゃ、とりあえず行きますか」
「えっ」
「行くでしょ? 三男坊のとこ。……どうしました、なんか気まずいんすか?」
「あ、ええと」
「所長、多分それ正解です。今はお兄様方は同行しない方がいいかと……」

 あー……なんか分かっちゃったわぁ……。
 依頼そのものがどういうことかは分からないが、これアレだな、根っこにあるのはこの、兄弟内での揉め事、だな。

「猩々さんは理由を知ってるんですか?」
「大体のところは。なので、お兄様方には一旦お帰りいただいて、所長と小梅さんには現場に移動してもらいたいのです。説明はその時にでも」

 ああ、気を使ってくれてるな。
 俺と小梅二人での行動時間を作ってくれている。

 鎌鼬ブラザーズが事務所を出たあと、俺は猩々さんに聞いてみた。

「……兄弟間のもつれですか」
「……まぁ、ばれますよね」
「あの態度ならもう……。んで、どこに行けば?」
「ん、あたしが知ってる。だから、一緒にいこ?」

 小梅がニコニコだ。
 こいつは本当に、俺を好きでいてくれるんだなぁ。

「分かった、じゃあ頼むな。猩々さんは?」
「私はちょっと別件がありまして。といっても、今回の件に絡んだ話なんですけどね」
「はぁ……?」
「今日のところはお任せしたいなと思っている次第で」
「分かりました。……ありがとうございます」
「はて、なんのことでしょう? ……では、これで」

 やれやれ。
 頭上がらないんだよなぁ。

――――

 車を走らせ、俺と小梅は県境の丘陵地帯の一角にいた。
 適当な所に車を停める。駐車場なんてある訳もない、今時珍しいくらいの空き地である。
 とはいえ街からここまではそれなりの距離と坂を登ってきている。宅地造成に失敗したんだろうか、土管などの資材がポツポツと置かれている。

「……こんなとこにあるのか?」
「意外でしょ? ここはあやかし達の間では結構有名な“異界との境目”があるの」
「ふうん……もしかして、だからこの辺りは放ったらかしなのか? 霊障的な……」
「あーそうかも。普通に神隠しとかあるしねー」

 だいぶやべえなここ。
 今時神隠しってのがもうアレ。

「んで、その境目ってのは……」
「んっとね……あ、あっち。ついてきてー」

 そう言って小梅はテクテクと歩き始めた。
 っていうかさ。
 小梅って、まだ覚醒して20年くらいしか経ってないはずなのよな?
 そんで、それほど出歩いてたって記憶もないんだよ。

 で、なんでこんなにあやかし事情に詳しいの?
 しかもアレよ、ぬらりひょんにしろ猫又にしろ鎌鼬にしろ、だいぶ前から存在してるあやかしなわけよ。
 向こうからしてみればただの小娘、赤子同然だと思うんだけど、みんな小梅には一目置いてるんだよな。
 霊格、てやつなのかな。
 ヤンスからかさが言ってたみたいに、完全な人の形で顕現してるってのが関係してるんだろうか。

――ま、いいか。小梅は小梅だ。
 いつものように思考停止しつつ、小梅の後を歩く。

 山道から外れて5~6分くらいだろうか。
 二本並んでいる巨木の前で、小梅が立ち止まった。

「着いたよー。ここが異界の境目」
「この木の間か? 見た感じなんともないけど……」
「うん、あやかしにしか見えないし、行けないからね。でも、あたしとこうやって手を繋げば、そのままスルッと入れるよー」

 なるほど、つまり、お絹さん助けに行った時のあの感じか。

「多分入ったらすぐにいると思うよ、ハルさんだっけ、あの三男の人」
「それがいいな。なんなら網から降ろしてからが本番だ」

 そんな会話をしつつ、異界へと足を踏み入れた。

「うーわ」
「おー、これはまたすげぇ……」

 入った途端に見えたのは、デカくてマッチョなイケメンが、半ベソで罠の網に捕らえられている姿だった。

「まるで馬鹿みてえだ……」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...