あやかしお悩み相談所 〜付喪神少女は、宿主のおっさんとまったりしたい〜

藍墨兄貴

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鎌鼬の三男坊はお年頃

鎌鼬の三男坊はお年頃 四

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 視界全てがネガ反転したような異界にあって、イケメンマッチョだけが浮いている。
 まあ、罠の網に絡まってるだけなんだけど。
 そんで、シクシク泣きなさんな。

「うっうっ……」
「んーと」
「考えこんでないで、降ろしてあげたら?」
「いや、そうしてやりたいんだけどさぁ……」

 俺は、三男坊イケマッチョを捕まえている網の上を見上げる。
 網をぶら下げている綱は、途中から周りの風景に溶け込んだ様に見えなくなっている。

「……どこからぶら下がってんだよこれ」
「わっかんないけど……」
「ていうか小梅ちゃん」
「お、おう、急にちゃんづけされると照れるわね」
「あーた、あの綱切ったんさいよ、しゃきんと」
「あーそっか、それが早いねー……よいしょ」

 手首から先を鋏にして、ぴょんと跳び上がり綱を切る。
 どずんっ! と鈍い音を立て、三男坊は地面に落下した。

「いったぁ……」
「大丈夫ですかー?」
「下は腐葉土みたいだし、大丈夫だとは思うけど……」
「あ、はい、助けていただいてありがとうございました」
ハルさん、ですよね。鎌鼬三兄弟の」

 俺がそう尋ねると、マッチョはビクンっと大胸筋を震わせた。

 しかし、すごいなここの兄弟は。
 長男は小柄の小太り、次男は長身の細マッチョ。
 そんで、三男坊は大柄なゴリマッチョか。
 “鎌鼬かまいたち”ってイメージとはだいぶかけ離れている。

 あえて言えば、一番イメージが近いのは次男坊なんだけど、あれはなんかもうただの困ったちゃんだしなあ。
 件の三男坊は地面にへたり込んでいる。
 小梅が落ち着かせようと声をかけるが、その度に彼はびくんびくんと筋肉を奮わせるばかりだ。
 ともあれ、彼には一旦落ち着いてもらって、話はそれからって感じだな。

「小梅、ここって結界の中なんだよな? こないだの奥多摩ともちょっと雰囲気違うけど……」
「あ、うん。こないだの場所は、結界で閉じられた空間だったから。今あたしたちがいるここは、異界って呼ばれてるの。現実の裏側っていうのかな、よく分かんないけど」
「裏側、か」

 だからネガ反転してるような世界なのね。

「長居してても大丈夫なのか?」
「普通の人間は1時間くらいで調子悪くなってくると思うけど……大丈夫じゃない? 怜ちゃんなら」
「おかしな人扱いしやがって……」
「どっちかっていうと怜ちゃんは、人間っていうよりだいぶあやかし寄りだからねー」

 うぐ、否定できない。
 一応生き物としては人間のはずなんだけど、色々と人間離れしてるのはもう認めざるを得ない。

「そういえばさ、怜ちゃんが作ってるアレ、どういう感じになるの?」
「ああ、アレな。今2パターン考えてるんだけどね」

 少し前から小梅との会話に出てくる“アレ”。
 実は、俺の霊力を小梅に供給するシステムのことだ。
 俺の霊力はだいぶ特殊で、あやかしの妖力と融合させてより強い力を得ることが出来るらしい。
 なので、それを効率よく行うための装置を作っているのだ。
 これが完成したら、小梅は実質、無敵時間を手に入れられる。
 妖力の効かない俺の霊力を使うってことは、小梅にもまた、妖力無効の能力を付与できることになるからだ。
 そのための媒体。
 俺は今、それを作っている所だ。

「2パターン?」
「ああ。一つは装置を仲介して、俺の力をそのまま小梅に注ぎ込む。もう一つは、俺自身が小梅を使う形だな」
「合体!? 大丈夫? なんかエロくない!?」
「エロくはねえよ。ま、多分どっちも出来る様になるから、状況次第で使い分ける感じになるかな」

 目処は立ってるんだ。
 あとはいい彫金師と刀鍛冶を見つけられれば……。

「あ、あの……」

 三男坊が落ち着いたようだ。ムチムチと控えめに声を掛けてきた。

「あ、落ち着きましたか。私は文河岸お悩み相談所の所長、文河岸怜と申します」

 言いながら名刺を渡す。三男坊はそれを丁寧に受け取る。おお、すごいちゃんとしてる。

「鎌鼬三兄弟のハルさん、ですね。お兄様方からの依頼により、救出に来ました」
「兄貴達……?」
「っていうかね、ハルさん。あなた、なんで捕まってたのか分かってます?」
「あ、はい……。ぬらりひょん兄さんの千両箱を盗んだとかなんとか……でも、僕は盗んでないんです! 本当に!」
「ほほう?」

 ていうかぬらりひょん兄さんて。
 あ、でもそうなるのか?
 鎌鼬に関する記述は、その元ネタとされる文献がとても多く、いつ発生したものかがあまりはっきりとはしていない。
 とりあえず雪深い地方での言い伝えが多い、くらいのものだ。
 はっきり鎌鼬と書かれた書物は、江戸時代のものだったはずだ。

 とはいえ、これはあやかし全般に言えることだが、発生した時期や場所など、本当のところは多分、誰にも判らないのだとは思う。

「でも、痕跡としてはあなたのものしか残ってないって話ですけど」
「はい、それはそうなんですが」
「……もしかして、盗んだんじゃなくて、借りたとかそういう?」
「違います! これは、正当な報酬なんです!」

 ん?
 報酬?

「ね、怜ちゃん、報酬ってもしかして」
「ああ……。ハルさん、その報酬ってのはあれですか、“ぬらりんちゃんねる”関連の」
「そうです。……あの、ぬらりんのキャラクターデザインは僕が作ったんです」

 ……マジで?
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