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刀の主人は美少女剣士
八 鍋はいいよなぁ。
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旅館の夕飯は美味かった。
食堂として案内された部屋は、囲炉裏を囲むスタイルで、雰囲気のある作りだ。
寒くなってきたということでよせ鍋だったが、どうしてこう田舎の鍋ってのは美味いんだろうか。
分かってるよ、食レポは向いてないんだよ。ただひたすら美味くて、小梅と猩々さんと三人で、鍋だってのに無言で貪ってたんだよ。
せっかくだからってことで酒も少し呑んだ。猩々さんはまぁ、例によって凄まじい勢いでがぶついていたが、あの人やっぱりおかしいよ……ていうかあやかしだったわ。いやそれにしても。
まあいいや、とりあえずあの人はほっとこう。
部屋は前乗りしていた猩々さんは一人部屋、俺と小梅が一緒になっている。
俺たちは自分の部屋に戻り、足を放り出してぐでっとテレビなんかを眺めていた。
「怜ちゃーん」
「んー?」
「なんかさー、地方局のCMって面白いよね」
「あーわかる。ノリが地元っていうか」
「それそれ。たまにさー、商品は東京でも売ってるものなのに、なぜか違うCMだったりすることもあるよねー」
「あるなー」
あとあれね。同じノリのCMだけど、お店の名前が違うとか。俺が知ってるのは仏具屋さんのCMだけど、あれはなんなんだろう。フランチャイズ的なことなんだろうか。
「……さて」
「うん」
ひとしきり落ち着いたところで、今夜の本題である。
「これが、小梅と俺の連携を引き上げる道具だ」
「どれどれ……あら、可愛いケース」
小梅に見せたものは、明るいブルーグレーのリングケースだった。普通のケースより大振りの、2個収納できるタイプのやつである。
もちろん、見せたいものはこのケースじゃない。
「見た目は指輪に似せてある。普段はこれを、俺と小梅が1つずつ身に付けておく。俺の場合は、体内の霊力を流す必要があるから、左手の中指につける。小梅は、人間形態の時は、身につけておいてくれればどうやっていても大丈夫だ」
「ふむふむ……あ、ねえ、これ指輪っていうより、なんかこうピンみたいになってるけど……」
「良いところに気づいたな。そのピンの部分が重要なんだ」
小梅に渡したものには、指輪から垂直に、ピン状になっている金属の突起がついている。根本から折れて畳める作りになっていて、指につけても邪魔にならないようにしてあるものだ。
もちろんこれには、大事な理由があった。
「本来の姿、種子鋏の状態の時に、必ず支点のネジの部分につけておいて欲しいんだ。そのためのピンなんだよ」
「ほほー……?」
「ごめん、ちょっと分かりづらいな。このリングは、小梅が元の姿になっている時、左右の刃を繋げるパーツとして使うことで、俺のつけている指輪とリンクして、妖力と霊力を融合させる働きをするんだ。」
「そして……?」
「そして、元の姿になった小梅のピンを俺が抜く」
「すると……?」
「? ……すると、小梅の身体が分かれ、大きくなって、ちょうど俺の使いやすいサイズの、二本の片刃鋏になるんだ」
「すなわちぃ……?」
「す、すなわち、俺が小梅を使って戦えるようになるというか、小梅が俺の身体を使えるようになるというか……」
……小梅のやつ、もしかして。
「つまりぃ……?」
「……おい」
「え? あっ」
「なにニヤニヤしてんだ、小梅」
「バ、バレた?」
俺がつっこむと、小梅は悪びれもせずにペロっと舌を出してみせた。
「ごめんごめん、なんか一生懸命説明してくれてる怜ちゃんが可愛くてついつい……って、え、なになになにぃ!?」
「……のやろ、人が真面目に説明してる時にイジってきやがったなあっ!」
「きゃー、ごめんってー!」
もちろん、怒ってる訳じゃない。が、まんまと踊らされた感じなのが癪だ。
ということで、俺は小梅をヒーヒーいわせてやることにしたのだった。
「ちょ、ちょーっ! あひゃひゃひゃ、くすぐったいってば! もー!」
「まじ! めに! はな! しを! きけえっ!!」
「うひゃひゃひゃ、きっききく、きくからーー!! やめてえええっ!!」
ばかめ、こちとらもう20年来の付き合いだ。貴様の弱点などお見通しよ。
などとアホなことをしているうちに、小梅の顔に余裕がなくなってきた。
よし、そろそろいいだろう。
「よぉし、そういう時は何ていうんだ?」
「うひゃひゃひゃ……ご、みょえっひひひひっ」
「ごみょ?」
「ご、ごめんなさいいいいい! あひゃひゃひゃひゃ!!」
「よぉし、分かりゃいいんだ分かりゃ」
そう言って小梅を解放してやる。彼女はけひょけひょぜえぜえと荒れた息を整えつつ、涙目で俺を睨んできた。
そんなことしても可愛いだけだっての。
「ひっどいよもぉ~~!」
「ほー?」
「うう……」
「うい奴め。今日はもう寝てしまえ」
「寝るわよもー、おやすみっ!」
「ああ、リング忘れるなよ? 明日早速試してみるからな」
「はぁい。……怜ちゃん」
「ん?」
「ちゅー」
「……ん」
まあね。もはや夫婦みたいなもんですからね。
そういう時間だってあるんだよ。
明日はいよいよあのSMカップルとの修業だ。
色々、ほどほどにしておきませんと。
ね。
食堂として案内された部屋は、囲炉裏を囲むスタイルで、雰囲気のある作りだ。
寒くなってきたということでよせ鍋だったが、どうしてこう田舎の鍋ってのは美味いんだろうか。
分かってるよ、食レポは向いてないんだよ。ただひたすら美味くて、小梅と猩々さんと三人で、鍋だってのに無言で貪ってたんだよ。
せっかくだからってことで酒も少し呑んだ。猩々さんはまぁ、例によって凄まじい勢いでがぶついていたが、あの人やっぱりおかしいよ……ていうかあやかしだったわ。いやそれにしても。
まあいいや、とりあえずあの人はほっとこう。
部屋は前乗りしていた猩々さんは一人部屋、俺と小梅が一緒になっている。
俺たちは自分の部屋に戻り、足を放り出してぐでっとテレビなんかを眺めていた。
「怜ちゃーん」
「んー?」
「なんかさー、地方局のCMって面白いよね」
「あーわかる。ノリが地元っていうか」
「それそれ。たまにさー、商品は東京でも売ってるものなのに、なぜか違うCMだったりすることもあるよねー」
「あるなー」
あとあれね。同じノリのCMだけど、お店の名前が違うとか。俺が知ってるのは仏具屋さんのCMだけど、あれはなんなんだろう。フランチャイズ的なことなんだろうか。
「……さて」
「うん」
ひとしきり落ち着いたところで、今夜の本題である。
「これが、小梅と俺の連携を引き上げる道具だ」
「どれどれ……あら、可愛いケース」
小梅に見せたものは、明るいブルーグレーのリングケースだった。普通のケースより大振りの、2個収納できるタイプのやつである。
もちろん、見せたいものはこのケースじゃない。
「見た目は指輪に似せてある。普段はこれを、俺と小梅が1つずつ身に付けておく。俺の場合は、体内の霊力を流す必要があるから、左手の中指につける。小梅は、人間形態の時は、身につけておいてくれればどうやっていても大丈夫だ」
「ふむふむ……あ、ねえ、これ指輪っていうより、なんかこうピンみたいになってるけど……」
「良いところに気づいたな。そのピンの部分が重要なんだ」
小梅に渡したものには、指輪から垂直に、ピン状になっている金属の突起がついている。根本から折れて畳める作りになっていて、指につけても邪魔にならないようにしてあるものだ。
もちろんこれには、大事な理由があった。
「本来の姿、種子鋏の状態の時に、必ず支点のネジの部分につけておいて欲しいんだ。そのためのピンなんだよ」
「ほほー……?」
「ごめん、ちょっと分かりづらいな。このリングは、小梅が元の姿になっている時、左右の刃を繋げるパーツとして使うことで、俺のつけている指輪とリンクして、妖力と霊力を融合させる働きをするんだ。」
「そして……?」
「そして、元の姿になった小梅のピンを俺が抜く」
「すると……?」
「? ……すると、小梅の身体が分かれ、大きくなって、ちょうど俺の使いやすいサイズの、二本の片刃鋏になるんだ」
「すなわちぃ……?」
「す、すなわち、俺が小梅を使って戦えるようになるというか、小梅が俺の身体を使えるようになるというか……」
……小梅のやつ、もしかして。
「つまりぃ……?」
「……おい」
「え? あっ」
「なにニヤニヤしてんだ、小梅」
「バ、バレた?」
俺がつっこむと、小梅は悪びれもせずにペロっと舌を出してみせた。
「ごめんごめん、なんか一生懸命説明してくれてる怜ちゃんが可愛くてついつい……って、え、なになになにぃ!?」
「……のやろ、人が真面目に説明してる時にイジってきやがったなあっ!」
「きゃー、ごめんってー!」
もちろん、怒ってる訳じゃない。が、まんまと踊らされた感じなのが癪だ。
ということで、俺は小梅をヒーヒーいわせてやることにしたのだった。
「ちょ、ちょーっ! あひゃひゃひゃ、くすぐったいってば! もー!」
「まじ! めに! はな! しを! きけえっ!!」
「うひゃひゃひゃ、きっききく、きくからーー!! やめてえええっ!!」
ばかめ、こちとらもう20年来の付き合いだ。貴様の弱点などお見通しよ。
などとアホなことをしているうちに、小梅の顔に余裕がなくなってきた。
よし、そろそろいいだろう。
「よぉし、そういう時は何ていうんだ?」
「うひゃひゃひゃ……ご、みょえっひひひひっ」
「ごみょ?」
「ご、ごめんなさいいいいい! あひゃひゃひゃひゃ!!」
「よぉし、分かりゃいいんだ分かりゃ」
そう言って小梅を解放してやる。彼女はけひょけひょぜえぜえと荒れた息を整えつつ、涙目で俺を睨んできた。
そんなことしても可愛いだけだっての。
「ひっどいよもぉ~~!」
「ほー?」
「うう……」
「うい奴め。今日はもう寝てしまえ」
「寝るわよもー、おやすみっ!」
「ああ、リング忘れるなよ? 明日早速試してみるからな」
「はぁい。……怜ちゃん」
「ん?」
「ちゅー」
「……ん」
まあね。もはや夫婦みたいなもんですからね。
そういう時間だってあるんだよ。
明日はいよいよあのSMカップルとの修業だ。
色々、ほどほどにしておきませんと。
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