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石に宿るモノ→謀りごと
しおりを挟む無銘府地下。龍山國宮殿より南東へ三十六里下る。かつての刑場跡に建てられた慰霊のための場所である。しかし実際は、密やかに調をするのに適した場所とされ使われていた。
八焔は、石を見つめていた。
厳密には、それが【石】であるかどうかも定かではない。ただの石っころではないことは確かだ。
「これが……龍命石、か」
蒼龍から直々に命じられ、彼はこの石を調べていた。
龍命石――
それは古代この地に生きた龍の血が染み込み、長い時を経て霊力を宿したとされる希少な鉱石である。その力は計り知れず、持つ者に強大な加護をもたらすといわれる。始祖帝君が五龍を倒したのもその力が故だと。
だが、八焔の知る限り、加護など眉唾物だ。代々龍命石を受け継いできたのは、王家だ。それが本当であるなら、前王が病死、ましてや皇太子がすぐ後に落命することなどなかっただろう。
八焔個人としては、むしろ縁起が悪いと捨ててしまいたい代物だが、それが王座争いに関わる代物となるならば、慎重に扱わねばならない。
「八焔殿、これが例の石か?」
声をかけたのは、蒼龍の配下である郎中の一人だった。八焔は頷く。
「そうだ。だが、何も感じないな。広義では、王位を継ぐ者だけがわかるとされたが本当かどうか」
彼は指で石をなぞった。その表面は滑らかで、わずかに冷たい。
「しかし、刑部尚書が綿密に調べた経路だと聞きましたよ。これ以上ない程確かでは」
「そうだな残念だ」
残念?と郎中は繰り返す。
「私では、王になり得ないようだ」
おどけたように言う八焔に、郎中が飛び上がって周囲を見渡した。
「不敬ですぞ!八焔殿っ、謀反と取られてもおかしくない…っ死にたいのですか」
恐れか怒りか、眉を吊り上げて小声でがなる郎中に八焔は肩を竦めながらも、ふっと目を細めた。冗談のように振る舞ったが、心の奥底ではまるで笑っていなかった。
──王位を継ぐ者だけが、この石の力を使える。
そんな言い伝えがあるならば、龍命石は単なる迷信の産物か、それとも何らかの仕掛けが施されているのか。どちらにせよ、王家の象徴として担ぎ上げられたこの石には、多くの者の思惑が絡み合っている。皇太子の死後、石が行方不明になっていたことからも窺える。
誰かがこの石を使って謀を巡らせている。そう考えた時、八焔の脳裏に浮かんだのは、蒼龍と対立する九帝の候補たちだった。
「少しこちらからも探ってみるか」
八焔は腕を組み、思案する。
◇◇◇◇◇◇
砡は、己の手の内にある物を見下ろした。
細やかな布に包まれたそれは、あの女人から渡された鍵である。前主人の部屋奥にある隠し部屋に繋がるものらしい。つけられていた書状には、【真なる石あり】とある。
(この折に、これは……龍命石のことを言っているのか?)
だとすれば、大変なことだ。蒼龍の手に渡った龍命石が偽物である可能性があるのだ。
表立って騒ぎ立てるのは得策ではない。しかし、一人で考え込むには、あまりにも判断がつかぬ話だ。
砡は小さく息を吐き、静かに立ち上がった。
宵闇の中、静かに廊下を進む。どこかで、かすかな笑い声が響いたが、それに足を止めることはなかった。
その時、背後から声がかかった。
「何をしている」
振り返ると、そこに立っていたのは蒼龍だった。
月光を背に受けたその姿は、まるで夜の王のように冷たい気配をまとっている。砡は心臓を鷲掴みにされたような感覚を覚えながらも、ゆっくりと頭を垂れた。
「少し夜風に当たりたくて」
「ほお」
蒼龍はじっと砡を見据える。その視線が、砡の手元へと落ちる。
「その手のものは」
砡は、わずかに手を握り締めた。
この品を、蒼龍に見せるべきなのか。あるいは、もう少し慎重にことを運ぶべきか。迷いが、砡の胸中に渦巻いていた。
(見せろと言われるだろうか)
ちら、と窺うが、奪ったりする様子はない。蒼龍の視線は一瞬、砡の仕草を追ったが、それ以上は踏み込んでこない。意外な思いが顔に出ていたのか、蒼龍は僅かに片眉を吊り上げたが、それだけだった。だからだろうか、素直に彼へ言ってみようと思ったのは。
「実は……」
砡は、先程起こった出来事を説明した。
話を聞くと思索するように、蒼龍は腕を組み。黙して庭を眺める。
砡は、先程起こった出来事を説明した。
話を聞くと思索するように、蒼龍は腕を組み、黙して庭を眺める。
「なるほど」
低く呟いた後、蒼龍はしばし沈黙した。
「つまり、その鍵の先にあるものが、本物の龍命石である可能性がある……ということか」
砡は頷く。蒼龍はゆっくりと目を閉じる。思考を巡らせているらしい。夜の冷気が肌を撫で、かすかに衣の裾を揺らした。遠くで虫の鳴く声が響く。
息の詰まりを覚えた頃、蒼龍は、口を開いた。
「この件は慎重に進めねばならん。軽率に動けば、思わぬ者に利用されることとなるやもしれぬ」
静かに、しかし確かな決意を滲ませるように、蒼龍は言葉を紡いだ。
「砡、お前はその鍵をしばらく持っていろ。……誰にも気取られるな」
その言葉に、砡は小さく頷いた。
「俺がずっとついてやるのが一番良いのだろうが、そうはいかん。去坂をなるべく傍に置き、何かあればすぐ伝えよ」
「はい。承知いたしました」
「それはそうと砡。」
蒼龍がそう言葉を続けると、砡は無意識に背筋を伸ばした。その仕草に、蒼龍は微かに目を細める。
「そう警戒するな。夜風に当たりに来たといったな。少し散策をしないか」
「え?」
「入ったばかりでは、不便もあるだろう。この二十八宮(蒼龍の居所)を案内できないかと思ってな」
その声音は、今までのものとは違い 柔らかい響きを帯びていた。
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