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短編 御所河原君は断らない
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「御所河原君、リップ・クリーム持ってるよね?貸して!」
えっ…?
聞いてきたのは、右隣の席の星泉 菫だ。
見た目は可愛いのだが、めっぽう気が強くて、同じクラスの男子からは敬遠されがちなんだよな。
他のクラスの男子では、「そこがいい!」と言う猛者が居り、何人か告白しているが全て玉砕に終わっているそうだ。
コイツ、最近ちょいちょい俺から物を借りたり貰ったり…。
シャーペンの芯とかティッシュはまだ良いとして、リップ・クリームはダメじゃねえか…?
けどなぁ。
「わかった、待ってろ」
と、俺はカッターナイフを取り出してリップ・クリームの先端、俺の使った部位を切り取ろ…
「待って!何するの!?」
慌てて星泉が聞いてきた。
「俺の使った所を切り取る。そうすれば間接キスにならない」
「あ"~っ」と、星泉が呻いた。
そんな声出すんかい?
「それ、良いリップクリームじゃん!切らなくていい。そのまま貸して?」
そのままって、教室の皆さん見てるんだけどな?
前の席の亀井なんて、振り向いたまま固まってるぜ…。
星泉は俺からリップクリームを奪って素早く塗った…。強奪だぞ?それ。
「それは、あげられないぞ。姉貴に買って貰ったヤツだからな」
「わかった、返すね。お礼するから帰りに校門の所で待ってて」
「いや、別に礼なんていらな…」
「いいから!わかった?」
「はい…」
こういう所なんだよな。教室の皆さんも引いてるぜ。
──────────────────────
放課後になり、校門へ向かった。
あの後、教室ではヒソヒソ話が凄かったのと、亀井からは「それ、家宝にすんのか?」とか聞かれた。するわけないだろが!
校門に着くと星泉は既に来ていた。
「じゃあ、お礼ね。連絡先交換しよ?」
「はぁ?別に必要ないんだが」
「私と連絡先交換するの嫌がる男子なんていないよ!?」
めんどくせぇ。
誰もが、お前を好きじゃねえんだよ………、とは言えないなぁ。
「わかった。ホラよ」と、スマホの連絡先を交換した。
「星泉、あまり俺に絡むな。それと、シャー芯とかティッシュとかは、まだ良いけど、リップクリームはダメだろ?」
「なんで…ダメなの?」
少し怖い顔だが、耳が赤い。わかってて聞いてるやん?
「ひとつは、間接キスになる。それについては恋人同士なら問題ないだろうが、俺とお前は違う。もうひとつは感染症対策だ。見た目、発症していなくても保菌者の可能性があるからだ。わかるか?」
「アンタは、お父さんかお母さんか!?」
「知っての通り、どちらでもない。只のクラスメイトだ」
星泉はプルプル震えながら叫んだ。
「沙季ちゃんの事は優しく助けてたくせにっ!!」
えぇ…?沙季ちゃんって、誰よ?
「星泉、何の事を言ってるんだ?」
「この前!階段から落ちた娘の事!」
あ…!あー、あの時の…山本の事か。
「あれは酷い状態だったからな。顔とかあちこち打って半分気を失いかけていたしだな」
「お姫様抱っこして保健室に運んでたくせにっ!!」
ヤベぇ…回りの皆さんが怪訝に見始めている。
「星泉!落ち着け。取り敢えず、大きい声やめようか?」
くっ、と星泉は言い、俺の袖を引っぱって歩き出した。
「星泉、どこへ連れてくつもりだ!?」
──────────────────────
星泉に連れて来られたのは、高校から程近い位置にある、ムス・バーガーだった。なにこれ?俺、奢らされるの?
だったら、財布に優しいモクドの方が良かったなぁ。
「──好きなの頼んでいいよ。奢ってあげるから」と、少し優しい声で星泉は言った。さっきと雰囲気が違う。
「いや、奢ってもらうのは悪い」
「いいから、ホラ!」
これは断れそうもない…。
「じゃあ、ホット・コーヒーだけ。腹は減ってないからな」
星泉はカフェラテとポテトを頼んでた。
比較的目立たない席へと俺は誘導した。下校途中で寄る生徒もいるからな、勘違いされてはかなわない。
「急に、ごめんね…」
星泉はシュン…としている。気が縮んでいるかの様だ。
「いや、別にいい。最近、何かと俺に絡んでくるけど、何かあったのか?」
「…わからない」
「ん?」
「沙季ちゃんの一件があってから、貴方の事が気になってるの。けど、貴方の事…全くタイプじゃないのに、なんで……私…」
…あー、アレだな。この娘は少し早い段階で、ある事が変わって、と言うより気づいて、頭と心が追い付かなくて戸惑っているのだろう…。まだ先の段階もあるかも知れないけど。
──俺は過去に実例を見た。
ショックではあったが、アレが現実なのだと、知った。体感した訳ではないので、半分程しか理解は出来てないだろうけど。
「星泉、お前は俺にどうして欲しい?出来る範囲の事なら、するぞ?」
星泉は頭を抱えながら言った。
「と…、イヤ…違う。か…、イヤ…そうなのか?え~……どうしよ?私、どうなってるんだろ?」
なるほど、『混乱ここに極まれり』…と言った所か。
「別に今、答えを出さなくていい。いつでも」
「…わかった。取り敢えず、今まで通り?お願いします」
「今まで通り、ね。最近まで接点無かったのにな」
「うるさい!芋を喰え!」
お、いつもの調子に戻ったか。
──────────────────────
その週末、日曜日となった。
俺は土曜日のバイト疲れを癒すため、プールに来ていた。
以前、亀井に話したら「疲れてたらプールなんて行かねぇわ」とか言ってたな。
まあ、俺は違う。動いた方がぐっすり眠れて回復出来る。
ガチ泳ぎはしない。ゆっくりペースで泳ぎ、採暖室で温まるのを繰り返すと、頭と身体がクリアになるような感覚が好きなのだ。
ルーチンの中盤、背泳ぎしている最中に何故か、星泉の事を思い出した。
俺の事で、苦しまないで欲しいな…。
──────────────────────
自宅に戻ると、弟妹達が何やら作っているらしくキッチンで騒いでいた。
「何か作ってたんか?母さんは?」
妹の爽子が
「ガトーショコラ作ってたの!母さんはお友達とお出かけだよ!」と話した。
あ~、またマダムの会か。長いんだよな、あれ…。晩飯どうするかな?
有り合わせの材料だと…、豚汁と豆ご飯だな。
──────────────────────
俺が晩飯の支度をしていると、スマホが鳴った。
誰からだろう?固定電話の番号が表示されている…。登録してない人からだな。
「もしもし、御所河原ですが」
「…星泉、です」
「お?どうした。固定電話からって…」
「スマホの機種変更を…したんだけどね」
「ああ、落としてスイッチが破損したとか言ってたな。それで?」
「新しいスマホがね……一人で何か色々喋ってるの!今、私一人で、怖くて…!」
「両親とか、兄弟は?」
豆ご飯はもう炊けそうだな。豚汁も、後は味噌と生姜を入れて味を整えるだけ…。
「父親は出張中で、母親は夜勤の仕事で…、兄は東京に就職してて、誰もいないの!お願い……!助けて」
「──わかった。住所教えて?なるべく早く行く」
そう言って通話を切った。
ふむ…スマホが一人で喋る、か?
「爽」と、妹へ晩飯の献立の説明し、時間になったら食べる様に伝えて、俺は出かける準備をした。
──────────────────────
星泉から聞いた住所に着くとマンションだった。
エントランスで待っていてくれた。
「御所河原君!ごめんね。日曜日なのに」
「いや、大丈夫だ。だが、俺に直せるかはわからんぞ?」
その後、星泉宅へ上げさせて頂いたが、確かにスマホが喋ってる。しかも高速で…
「何かは喋ってるが、何を喋ってるかは、わからないな」
「そうなの。開こうとしても、ロック画面に『音の速度』って表示が出て、解除も何も出来ないの。こんなの初めて…」
少し借りるぞ、とスマホを借りた。
iPhoneではなく、Androidだ。
俺もAndroidだが、機種が違う。
電源ボタンを押してロック画面を解除しようとするも『音の速度』と出て、300という数値が表示されている。音の速度の調整はフリックで可能だが、他はダメだな…。
多分、色々いじっちゃったんだろうな。お店から、この状態ではあるまい。
これは、新しいスマホでは探れないな。
俺は自分のスマホのGoogleアシスタントを使った「スマホ、一人で喋る」で検索。
星泉は「えぇ?」となっているが、スマホの独り言の正体は…
「talk back機能」、との事だ。
さて、ここからだな。
星泉の新しいスマホで、ロック画面から電源ボタンを押してGoogleアシスタントを機能させる。そして「talk back機能、オフ」と俺は話した。
だが「このスマートフォンではtalk back機能はありません」とメッセージが流れた。ふむ…
手段を変えよう。
俺はもう一度、Googleアシスタントを起動。「talk back機能 設定」と話すと、なんと設定画面が出た!あんじゃねえかよ。
幸い設定画面は操作する事が出来て、talk back機能をOffにした。
フゥー、なんとかなったな。
「いいぞ、星泉。ロック画面を解除してみろ」
「嘘でしょ…!?いったい、どうやって?…あ、普通に開けた!」
「良かったな」
「ホントにありがとう!けど、アプリのデータ移行とか、説明書貰って来たんだけど解らなくて…」
どれ、と説明書を見せて貰う。
「お店で、基本のアプリの設定してくれて、後は説明書通りにやって、って言われたんだけど。その通りにやると、お店で設定したアプリも消えちゃうの」
確かに、説明書通りに行うと、工場出荷状態に初期化される……。これは不親切な説明書なのと、お店の方の説明が良くなかったんだろう。
そうなると。
「星泉、前のスマホ。起動できるか?」
「うん、電源ボタン取れちゃってるから、中を爪で押して起動できる」
どれ、と見せて貰い、あるアプリがあるか確認……、あった。
「コイツを使う」と説明し、新しいスマホの方も確認。
Share Meと言うアプリだ。これで、データ移行が出来るはずだ。
星泉にデータ移行が必要なアプリ等にチェックを付けて貰い進んだが
「だめ、QRコードが出ないよ?」
「星泉、新しい方のスマホを画面の指示通りにWi-FiをOffにしてみろ」
「んっ?…あっ!?出た、ウソォ!」
その後、データ移行に少し時間はかかったが完了した。
「アプリの情報引き継ぎ、出来てるか確認してみろよ」
「うん。あ、大丈夫そう。メッセージアプリとか音楽アプリのデータも…。本当に、ありがとう!!」
「解決、だな。じゃあ俺はこれで…」
「ちょぉっと、待った!」
「は?」
「いえ、その…お礼に、ご飯食べて行かない…かな?」
「いいのか?親御さんも居ないのに」
「いいの。私、ちゃんと作ったから」
──────────────────────
その後、夕飯となった。
メニューはハンバーグとサラダ、エンドウ豆の味噌汁に香の物だった。
「ハンバーグ美味いよ!料理上手だな」
「ありがと。お母さんから教えて貰った方法で作ってるの。半分豆腐ハンバーグなんだよ」
「えっ?豆腐はあまり感じないな」
「それよりね…。御所河原君って、なんで…そんなに落ち着いてるの?」
「落ち着いてる、かな?」
「うん。まず、私みたいな美少女にも、物怖じしない。キョドったり、どもったり…普通の男子はするよ?」
「お前…、自分で美少女って…図々しいのと、スゲぇな。まあ、俺はあんまり恋愛に興味がないからだろうな」
「…どうして?」
あー…、どうするかな。けど、今が話す機会なのかも知れん。
「気を悪くしないで聞いて欲しい。なんなら、話し半分で聞いてくれたらいい」
「うん。いいよ」
「姉貴が社会人なんだがな。姉貴の高校の時の同級生カップルが、一年前に結婚したんだが…」
「…それで?」
「半年で、離婚した」
「え…?半年で!?」
「結婚式の時には、もう…お互いに冷えきった関係だったらしい。
高校一年生の時からの付き合いだから、八年越しの付き合いの末の結婚だったんだが…、冷めた関係と言う事と、大人になって、自分の本当の好みが変わったのが、大きな原因だったそうなんだ」
「好みが…、変わる?……ん!?」
「ここからが、恐らく、星泉にも当てはまる話だ。──小学生、中学生、高校生、大人。成長するにつれて、好きになる相手、そして相手に求める条件なんかが、変わっていくんだよな。俺達は成長過渡期だ。これからも変わって行く」
「そう、だけど…。じゃあ、今好きな気持ちって無駄だって言うの?」
「そうではない。今現在、その時の気持ちは重要だ。だが、少し先と、今とを照らし合わせて、今好きな相手とお付き合いできるか、しても良いのか…。
──損得関係だけじゃなく『本当の自分』が、その相手を好きなのか?相手を大事に出来るのか?そう、俺は考える。
さっきの、離婚した二人と面識がある俺は──そう考えてしまうんだ」
「面識って…、お姉さんの友達と?」
「姉貴が高校生の頃に、家に良く来てたんだよ。そして、男の方は、今は姉貴の彼氏なんだ。俺とは何となく、仲が良くてさ。色々と、話を聞いて──恋愛とか、結婚とか、何なんだろうなって、ここんとこずっと考えてたんだよな」
「そういう…事ね。だから、御所河原君が落ち着いてて、ちょっと大人っぽく感じてた訳か。
…けどね」
「ん?」
「貴方と、その男の人は違う」
「そう、だろうけど」
「私は、貴方が好き!!」
!…、来る…
とは思っていたが…。
「ありがとう。けど、俺…」
「嫌なら無理にとは言わない。
けどねっ!こんな美少女と付き合えるなら、付き合える時に付き合っておけばいいのよ!!」
強すぎ!
けど、そうだな。
「わかった。だが、俺は女子と付き合う事が、まるっきしわからない。だから、期待に添えないかも知れないぞ?」
「大丈夫!!手取り足取り教えてあげるよ!」
──────────────────────
その後、帰ることになったが、玄関で引き留められた。
「どうした?」
と、俺が聞くと、星泉は俺の腕を引っ張り、頬にキスされた…。
「お前なぁ…」
「今日はありがと。リップ・クリームで間接キスはもうしてるけどね。ハイ!そっちもしてね」
うーん、しゃあないな。
俺も星泉の右頬に軽くキスした。
「明日からは、御所河原君じゃなくて、下の名前呼びするからね!理君!」
「…わかったよ、菫」
じゃあな、と言って菫のマンションを後にした。
──────────────────────
外に出ると、綺麗な月が出ていた。
満月かな?あまりの急展開に、月も笑っているのではないだろうか。
それにしても……
まさか、菫が彼女になるとはな…。
──仮に、上手く行かなかったとしても、それはそれで経験になるのだろう。
びびっていたら、何も出来ない。
経験の蓄積が、未来なのだから。
fin
えっ…?
聞いてきたのは、右隣の席の星泉 菫だ。
見た目は可愛いのだが、めっぽう気が強くて、同じクラスの男子からは敬遠されがちなんだよな。
他のクラスの男子では、「そこがいい!」と言う猛者が居り、何人か告白しているが全て玉砕に終わっているそうだ。
コイツ、最近ちょいちょい俺から物を借りたり貰ったり…。
シャーペンの芯とかティッシュはまだ良いとして、リップ・クリームはダメじゃねえか…?
けどなぁ。
「わかった、待ってろ」
と、俺はカッターナイフを取り出してリップ・クリームの先端、俺の使った部位を切り取ろ…
「待って!何するの!?」
慌てて星泉が聞いてきた。
「俺の使った所を切り取る。そうすれば間接キスにならない」
「あ"~っ」と、星泉が呻いた。
そんな声出すんかい?
「それ、良いリップクリームじゃん!切らなくていい。そのまま貸して?」
そのままって、教室の皆さん見てるんだけどな?
前の席の亀井なんて、振り向いたまま固まってるぜ…。
星泉は俺からリップクリームを奪って素早く塗った…。強奪だぞ?それ。
「それは、あげられないぞ。姉貴に買って貰ったヤツだからな」
「わかった、返すね。お礼するから帰りに校門の所で待ってて」
「いや、別に礼なんていらな…」
「いいから!わかった?」
「はい…」
こういう所なんだよな。教室の皆さんも引いてるぜ。
──────────────────────
放課後になり、校門へ向かった。
あの後、教室ではヒソヒソ話が凄かったのと、亀井からは「それ、家宝にすんのか?」とか聞かれた。するわけないだろが!
校門に着くと星泉は既に来ていた。
「じゃあ、お礼ね。連絡先交換しよ?」
「はぁ?別に必要ないんだが」
「私と連絡先交換するの嫌がる男子なんていないよ!?」
めんどくせぇ。
誰もが、お前を好きじゃねえんだよ………、とは言えないなぁ。
「わかった。ホラよ」と、スマホの連絡先を交換した。
「星泉、あまり俺に絡むな。それと、シャー芯とかティッシュとかは、まだ良いけど、リップクリームはダメだろ?」
「なんで…ダメなの?」
少し怖い顔だが、耳が赤い。わかってて聞いてるやん?
「ひとつは、間接キスになる。それについては恋人同士なら問題ないだろうが、俺とお前は違う。もうひとつは感染症対策だ。見た目、発症していなくても保菌者の可能性があるからだ。わかるか?」
「アンタは、お父さんかお母さんか!?」
「知っての通り、どちらでもない。只のクラスメイトだ」
星泉はプルプル震えながら叫んだ。
「沙季ちゃんの事は優しく助けてたくせにっ!!」
えぇ…?沙季ちゃんって、誰よ?
「星泉、何の事を言ってるんだ?」
「この前!階段から落ちた娘の事!」
あ…!あー、あの時の…山本の事か。
「あれは酷い状態だったからな。顔とかあちこち打って半分気を失いかけていたしだな」
「お姫様抱っこして保健室に運んでたくせにっ!!」
ヤベぇ…回りの皆さんが怪訝に見始めている。
「星泉!落ち着け。取り敢えず、大きい声やめようか?」
くっ、と星泉は言い、俺の袖を引っぱって歩き出した。
「星泉、どこへ連れてくつもりだ!?」
──────────────────────
星泉に連れて来られたのは、高校から程近い位置にある、ムス・バーガーだった。なにこれ?俺、奢らされるの?
だったら、財布に優しいモクドの方が良かったなぁ。
「──好きなの頼んでいいよ。奢ってあげるから」と、少し優しい声で星泉は言った。さっきと雰囲気が違う。
「いや、奢ってもらうのは悪い」
「いいから、ホラ!」
これは断れそうもない…。
「じゃあ、ホット・コーヒーだけ。腹は減ってないからな」
星泉はカフェラテとポテトを頼んでた。
比較的目立たない席へと俺は誘導した。下校途中で寄る生徒もいるからな、勘違いされてはかなわない。
「急に、ごめんね…」
星泉はシュン…としている。気が縮んでいるかの様だ。
「いや、別にいい。最近、何かと俺に絡んでくるけど、何かあったのか?」
「…わからない」
「ん?」
「沙季ちゃんの一件があってから、貴方の事が気になってるの。けど、貴方の事…全くタイプじゃないのに、なんで……私…」
…あー、アレだな。この娘は少し早い段階で、ある事が変わって、と言うより気づいて、頭と心が追い付かなくて戸惑っているのだろう…。まだ先の段階もあるかも知れないけど。
──俺は過去に実例を見た。
ショックではあったが、アレが現実なのだと、知った。体感した訳ではないので、半分程しか理解は出来てないだろうけど。
「星泉、お前は俺にどうして欲しい?出来る範囲の事なら、するぞ?」
星泉は頭を抱えながら言った。
「と…、イヤ…違う。か…、イヤ…そうなのか?え~……どうしよ?私、どうなってるんだろ?」
なるほど、『混乱ここに極まれり』…と言った所か。
「別に今、答えを出さなくていい。いつでも」
「…わかった。取り敢えず、今まで通り?お願いします」
「今まで通り、ね。最近まで接点無かったのにな」
「うるさい!芋を喰え!」
お、いつもの調子に戻ったか。
──────────────────────
その週末、日曜日となった。
俺は土曜日のバイト疲れを癒すため、プールに来ていた。
以前、亀井に話したら「疲れてたらプールなんて行かねぇわ」とか言ってたな。
まあ、俺は違う。動いた方がぐっすり眠れて回復出来る。
ガチ泳ぎはしない。ゆっくりペースで泳ぎ、採暖室で温まるのを繰り返すと、頭と身体がクリアになるような感覚が好きなのだ。
ルーチンの中盤、背泳ぎしている最中に何故か、星泉の事を思い出した。
俺の事で、苦しまないで欲しいな…。
──────────────────────
自宅に戻ると、弟妹達が何やら作っているらしくキッチンで騒いでいた。
「何か作ってたんか?母さんは?」
妹の爽子が
「ガトーショコラ作ってたの!母さんはお友達とお出かけだよ!」と話した。
あ~、またマダムの会か。長いんだよな、あれ…。晩飯どうするかな?
有り合わせの材料だと…、豚汁と豆ご飯だな。
──────────────────────
俺が晩飯の支度をしていると、スマホが鳴った。
誰からだろう?固定電話の番号が表示されている…。登録してない人からだな。
「もしもし、御所河原ですが」
「…星泉、です」
「お?どうした。固定電話からって…」
「スマホの機種変更を…したんだけどね」
「ああ、落としてスイッチが破損したとか言ってたな。それで?」
「新しいスマホがね……一人で何か色々喋ってるの!今、私一人で、怖くて…!」
「両親とか、兄弟は?」
豆ご飯はもう炊けそうだな。豚汁も、後は味噌と生姜を入れて味を整えるだけ…。
「父親は出張中で、母親は夜勤の仕事で…、兄は東京に就職してて、誰もいないの!お願い……!助けて」
「──わかった。住所教えて?なるべく早く行く」
そう言って通話を切った。
ふむ…スマホが一人で喋る、か?
「爽」と、妹へ晩飯の献立の説明し、時間になったら食べる様に伝えて、俺は出かける準備をした。
──────────────────────
星泉から聞いた住所に着くとマンションだった。
エントランスで待っていてくれた。
「御所河原君!ごめんね。日曜日なのに」
「いや、大丈夫だ。だが、俺に直せるかはわからんぞ?」
その後、星泉宅へ上げさせて頂いたが、確かにスマホが喋ってる。しかも高速で…
「何かは喋ってるが、何を喋ってるかは、わからないな」
「そうなの。開こうとしても、ロック画面に『音の速度』って表示が出て、解除も何も出来ないの。こんなの初めて…」
少し借りるぞ、とスマホを借りた。
iPhoneではなく、Androidだ。
俺もAndroidだが、機種が違う。
電源ボタンを押してロック画面を解除しようとするも『音の速度』と出て、300という数値が表示されている。音の速度の調整はフリックで可能だが、他はダメだな…。
多分、色々いじっちゃったんだろうな。お店から、この状態ではあるまい。
これは、新しいスマホでは探れないな。
俺は自分のスマホのGoogleアシスタントを使った「スマホ、一人で喋る」で検索。
星泉は「えぇ?」となっているが、スマホの独り言の正体は…
「talk back機能」、との事だ。
さて、ここからだな。
星泉の新しいスマホで、ロック画面から電源ボタンを押してGoogleアシスタントを機能させる。そして「talk back機能、オフ」と俺は話した。
だが「このスマートフォンではtalk back機能はありません」とメッセージが流れた。ふむ…
手段を変えよう。
俺はもう一度、Googleアシスタントを起動。「talk back機能 設定」と話すと、なんと設定画面が出た!あんじゃねえかよ。
幸い設定画面は操作する事が出来て、talk back機能をOffにした。
フゥー、なんとかなったな。
「いいぞ、星泉。ロック画面を解除してみろ」
「嘘でしょ…!?いったい、どうやって?…あ、普通に開けた!」
「良かったな」
「ホントにありがとう!けど、アプリのデータ移行とか、説明書貰って来たんだけど解らなくて…」
どれ、と説明書を見せて貰う。
「お店で、基本のアプリの設定してくれて、後は説明書通りにやって、って言われたんだけど。その通りにやると、お店で設定したアプリも消えちゃうの」
確かに、説明書通りに行うと、工場出荷状態に初期化される……。これは不親切な説明書なのと、お店の方の説明が良くなかったんだろう。
そうなると。
「星泉、前のスマホ。起動できるか?」
「うん、電源ボタン取れちゃってるから、中を爪で押して起動できる」
どれ、と見せて貰い、あるアプリがあるか確認……、あった。
「コイツを使う」と説明し、新しいスマホの方も確認。
Share Meと言うアプリだ。これで、データ移行が出来るはずだ。
星泉にデータ移行が必要なアプリ等にチェックを付けて貰い進んだが
「だめ、QRコードが出ないよ?」
「星泉、新しい方のスマホを画面の指示通りにWi-FiをOffにしてみろ」
「んっ?…あっ!?出た、ウソォ!」
その後、データ移行に少し時間はかかったが完了した。
「アプリの情報引き継ぎ、出来てるか確認してみろよ」
「うん。あ、大丈夫そう。メッセージアプリとか音楽アプリのデータも…。本当に、ありがとう!!」
「解決、だな。じゃあ俺はこれで…」
「ちょぉっと、待った!」
「は?」
「いえ、その…お礼に、ご飯食べて行かない…かな?」
「いいのか?親御さんも居ないのに」
「いいの。私、ちゃんと作ったから」
──────────────────────
その後、夕飯となった。
メニューはハンバーグとサラダ、エンドウ豆の味噌汁に香の物だった。
「ハンバーグ美味いよ!料理上手だな」
「ありがと。お母さんから教えて貰った方法で作ってるの。半分豆腐ハンバーグなんだよ」
「えっ?豆腐はあまり感じないな」
「それよりね…。御所河原君って、なんで…そんなに落ち着いてるの?」
「落ち着いてる、かな?」
「うん。まず、私みたいな美少女にも、物怖じしない。キョドったり、どもったり…普通の男子はするよ?」
「お前…、自分で美少女って…図々しいのと、スゲぇな。まあ、俺はあんまり恋愛に興味がないからだろうな」
「…どうして?」
あー…、どうするかな。けど、今が話す機会なのかも知れん。
「気を悪くしないで聞いて欲しい。なんなら、話し半分で聞いてくれたらいい」
「うん。いいよ」
「姉貴が社会人なんだがな。姉貴の高校の時の同級生カップルが、一年前に結婚したんだが…」
「…それで?」
「半年で、離婚した」
「え…?半年で!?」
「結婚式の時には、もう…お互いに冷えきった関係だったらしい。
高校一年生の時からの付き合いだから、八年越しの付き合いの末の結婚だったんだが…、冷めた関係と言う事と、大人になって、自分の本当の好みが変わったのが、大きな原因だったそうなんだ」
「好みが…、変わる?……ん!?」
「ここからが、恐らく、星泉にも当てはまる話だ。──小学生、中学生、高校生、大人。成長するにつれて、好きになる相手、そして相手に求める条件なんかが、変わっていくんだよな。俺達は成長過渡期だ。これからも変わって行く」
「そう、だけど…。じゃあ、今好きな気持ちって無駄だって言うの?」
「そうではない。今現在、その時の気持ちは重要だ。だが、少し先と、今とを照らし合わせて、今好きな相手とお付き合いできるか、しても良いのか…。
──損得関係だけじゃなく『本当の自分』が、その相手を好きなのか?相手を大事に出来るのか?そう、俺は考える。
さっきの、離婚した二人と面識がある俺は──そう考えてしまうんだ」
「面識って…、お姉さんの友達と?」
「姉貴が高校生の頃に、家に良く来てたんだよ。そして、男の方は、今は姉貴の彼氏なんだ。俺とは何となく、仲が良くてさ。色々と、話を聞いて──恋愛とか、結婚とか、何なんだろうなって、ここんとこずっと考えてたんだよな」
「そういう…事ね。だから、御所河原君が落ち着いてて、ちょっと大人っぽく感じてた訳か。
…けどね」
「ん?」
「貴方と、その男の人は違う」
「そう、だろうけど」
「私は、貴方が好き!!」
!…、来る…
とは思っていたが…。
「ありがとう。けど、俺…」
「嫌なら無理にとは言わない。
けどねっ!こんな美少女と付き合えるなら、付き合える時に付き合っておけばいいのよ!!」
強すぎ!
けど、そうだな。
「わかった。だが、俺は女子と付き合う事が、まるっきしわからない。だから、期待に添えないかも知れないぞ?」
「大丈夫!!手取り足取り教えてあげるよ!」
──────────────────────
その後、帰ることになったが、玄関で引き留められた。
「どうした?」
と、俺が聞くと、星泉は俺の腕を引っ張り、頬にキスされた…。
「お前なぁ…」
「今日はありがと。リップ・クリームで間接キスはもうしてるけどね。ハイ!そっちもしてね」
うーん、しゃあないな。
俺も星泉の右頬に軽くキスした。
「明日からは、御所河原君じゃなくて、下の名前呼びするからね!理君!」
「…わかったよ、菫」
じゃあな、と言って菫のマンションを後にした。
──────────────────────
外に出ると、綺麗な月が出ていた。
満月かな?あまりの急展開に、月も笑っているのではないだろうか。
それにしても……
まさか、菫が彼女になるとはな…。
──仮に、上手く行かなかったとしても、それはそれで経験になるのだろう。
びびっていたら、何も出来ない。
経験の蓄積が、未来なのだから。
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true177
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一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
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