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「幻を追い求めて2」8話
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「幻を追い求めて2」8話
「は?」
ポカンと一壱は口を開けた。
ー本当に何を言っているんだ、この男は。
長は上目遣いで一壱にもう一度言い放つ。
「昔は、アニキなんて呼ばなかった。長お兄ちゃんって呼んでた。」
「一体、いつの話してんだよ。」
しまった。と一壱は慌てて口を閉じた。
ー思わずキツ目の口調が出てしまった。俺はこいつのバカな弟なんだから鋭い反応を示してはいけない。
恐る恐る顔を上げたが、幸い長は少し凹んだ気持ちを引き摺りながらも店員を呼び止めて料理の注文をしていた。
「一壱は飲み物、なに飲む?」
「カフェラテ。」
カフェの店員が紙にメモし終えると一礼して去って行った。少しの間、お互い無言になる。夏では心地良かったお冷の水も、今では冷たすぎるくらいだった。
一壱は相手の出方を伺った。こっそり長を一瞥すると、長はまだメニュー表を見ている。下げてもらったんじゃないのかと疑問に思っていたが、長はこちらの顔を窺いながら尋ねてきた。
「なあ、ひょっとしてデザートのパフェも食べたかったか?」
「いや。」
思わず即答してしまった。
この人、こんな性格だったか?と一壱は狼狽えたが、よくよく考えれば、お互い一対一で話すのは、かれこれ十年以上前かもしれないという答えに行き着いた。
恐らく長は幼少期の一壱ともう大人になったら一壱の違いについて行けず、距離を測りあぐねているところなのだろう。
一壱は下手に子供っぽくしても大人っぽくしても態とらしく見えてしまう状況にやきもきしたが、一先ず思案している間にテーブルに置かれたカフェラテを口につけることにした。
「そういえば、一壱。転職したい仕事は見つかったのか?」
突然、本題を振られたので思わず咽せそうになる。さっきまでメニュー表しか見てなかったくせに、と一壱は心の中で悪態をついた。
敢えて一壱は返答を勿体ぶった。
「うーん、それがさあ。」と指をモジモジさせる。すると、心配そうに長は顔を伺ってきた。
「どうした?気に入らなかったか?」
少し一壱は不安だった。長からある言葉を聞いてこない。仕方ないので一壱は自分の口から告げた。
「ちょっと、俺には難しくってさあ。」と申し訳なさそうに顔を俯かせる。そして、さり気なく長を一瞥すると、長はあっけらかんとしている。
「大丈夫だ。一壱なら合格できるさ。」
長の発した言葉には言い知れぬ不気味さを感じた。
ーどうしてそう思えるんだ?学生時代の俺の成績を知っていたら、そんな発言はできないはずだぞ。それとも、幼い頃の、成績が良かった頃のことしか覚えていないのか?
一壱はサラダボウルに色鮮やかな野菜が入ったチョップドサラダを装って口に運んだ。シャキシャキとレタスやきゅうりが口の中で音を鳴らし出す。
そんな一壱の様子を暫く眺めていた長は自分の取り皿を持ちながら口を開いた。
「次、店員さんが来たら追加で何か頼む?」
「じゃあ、キャラメルプリンパフェ。」
長は「育ち盛りだなあ。」と笑いながらメニュー表を開いている。
本当だったら長にもう転職先を決めたことを話すはずだったが、やめた。底の知れない男に面と向かって口で話す内容ではないと感じたからだ。
ー少し経ったらそれとなくチャットで知らせておくか。
一壱は素知らぬ顔でプリンを頬張った。
「は?」
ポカンと一壱は口を開けた。
ー本当に何を言っているんだ、この男は。
長は上目遣いで一壱にもう一度言い放つ。
「昔は、アニキなんて呼ばなかった。長お兄ちゃんって呼んでた。」
「一体、いつの話してんだよ。」
しまった。と一壱は慌てて口を閉じた。
ー思わずキツ目の口調が出てしまった。俺はこいつのバカな弟なんだから鋭い反応を示してはいけない。
恐る恐る顔を上げたが、幸い長は少し凹んだ気持ちを引き摺りながらも店員を呼び止めて料理の注文をしていた。
「一壱は飲み物、なに飲む?」
「カフェラテ。」
カフェの店員が紙にメモし終えると一礼して去って行った。少しの間、お互い無言になる。夏では心地良かったお冷の水も、今では冷たすぎるくらいだった。
一壱は相手の出方を伺った。こっそり長を一瞥すると、長はまだメニュー表を見ている。下げてもらったんじゃないのかと疑問に思っていたが、長はこちらの顔を窺いながら尋ねてきた。
「なあ、ひょっとしてデザートのパフェも食べたかったか?」
「いや。」
思わず即答してしまった。
この人、こんな性格だったか?と一壱は狼狽えたが、よくよく考えれば、お互い一対一で話すのは、かれこれ十年以上前かもしれないという答えに行き着いた。
恐らく長は幼少期の一壱ともう大人になったら一壱の違いについて行けず、距離を測りあぐねているところなのだろう。
一壱は下手に子供っぽくしても大人っぽくしても態とらしく見えてしまう状況にやきもきしたが、一先ず思案している間にテーブルに置かれたカフェラテを口につけることにした。
「そういえば、一壱。転職したい仕事は見つかったのか?」
突然、本題を振られたので思わず咽せそうになる。さっきまでメニュー表しか見てなかったくせに、と一壱は心の中で悪態をついた。
敢えて一壱は返答を勿体ぶった。
「うーん、それがさあ。」と指をモジモジさせる。すると、心配そうに長は顔を伺ってきた。
「どうした?気に入らなかったか?」
少し一壱は不安だった。長からある言葉を聞いてこない。仕方ないので一壱は自分の口から告げた。
「ちょっと、俺には難しくってさあ。」と申し訳なさそうに顔を俯かせる。そして、さり気なく長を一瞥すると、長はあっけらかんとしている。
「大丈夫だ。一壱なら合格できるさ。」
長の発した言葉には言い知れぬ不気味さを感じた。
ーどうしてそう思えるんだ?学生時代の俺の成績を知っていたら、そんな発言はできないはずだぞ。それとも、幼い頃の、成績が良かった頃のことしか覚えていないのか?
一壱はサラダボウルに色鮮やかな野菜が入ったチョップドサラダを装って口に運んだ。シャキシャキとレタスやきゅうりが口の中で音を鳴らし出す。
そんな一壱の様子を暫く眺めていた長は自分の取り皿を持ちながら口を開いた。
「次、店員さんが来たら追加で何か頼む?」
「じゃあ、キャラメルプリンパフェ。」
長は「育ち盛りだなあ。」と笑いながらメニュー表を開いている。
本当だったら長にもう転職先を決めたことを話すはずだったが、やめた。底の知れない男に面と向かって口で話す内容ではないと感じたからだ。
ー少し経ったらそれとなくチャットで知らせておくか。
一壱は素知らぬ顔でプリンを頬張った。
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