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「幻を追い求めて2」7話
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「幻を追い求めて2」7話
一壱は天井が高い、壁全体がガラス窓で作られたカフェのドアを開けた。窓からは外の自然が見える、明るく広々としたカフェだ。
木製の椅子に座り、辺りを見渡す。若い男女カップル、飲み物片手に女子会を開く大学生、かたや本を読むスーツを着たサラリーマンがコーヒーを嗜んでいる。若者向けのお洒落な店だった。
本来ならこういったお店には恋人と来たいものだが、残念ながら今日は違う。
「一壱!」
後ろの方から自分の名前が呼ばれた。一壱は小さく溜め息をつくと、笑顔で振り返って手を振った。
そこには、スーツを着た七三分けをした黒髪の男が会計している客の邪魔にならないように気遣いながらも、こちらへ颯爽と歩いてきた。
「会議が少し長引くから先に入っていてくれ。」と書かれてあるチャットのメッセージを一壱はタップして確認する。
ーもっと長引いてくれても良かったのにな。
無表情でチラリと長を見るが、長は全く気づかない様子で、おしぼりで手を拭きながらメニューを眺めている。
「へー、初めて来たんだけど、夜はBARになるんだね、このお店。」
「へー、そうなんだ。」と言って一壱はお冷に手を伸ばす。
ー知ってる。担当と何度か同伴で来たことあるからな。
とは言っても、一壱でもこのお店の昼間の姿を見るのは初めてだった。
今日は可愛子ぶってカルーア・ミルクじゃなくてエスプレッソでも飲もうか、と一壱はメニュー表のドリンクのページを開いた。
「一壱と一緒に外食で洋食を食べるなんて初めてかもなぁ。」
「そうだね。」
長は年甲斐もなくメニューを見てワクワクしているようだ。
確かに長と洋食を食べたことは無かった。基本、家族で外食となると懐石料理といった純和食が多かったからだ。
しかし、長と外食したことなんて中学生の卒業祝いで家族で老舗店のすき焼きを食べて以来だ。高校生になってからは俗に言う"家族より友人と遊びたい年頃カード"を使って家族との外食の回数を減らした。その時には既に長は父の仕事を引き継ぎし始めていたので、長とは数える程しか顔を合わせなくなった。
「一壱はなに食べたい?サラダも食べるかい?」
一壱は顎に手を当てて唸った。
「じゃあ、俺このチョップドサラダ。あ、後、鶏胸肉のローストチキンも食べたい。」
「お。じゃあ、二人で分けるか。」
一壱はニコニコと微笑んでいる長を見た。二人で分けようと言った割には店員を呼ぶ気配が無い。何か他に頼むつもりなのだろうか。
「アニキは?」
ふと尋ねると、長が一瞬硬直してこちらを凝視した。一壱も眉を顰めて長を見る。
ーなんだ?何かまずいことでも言ったか?
一壱が戸惑っていると、長は震える声で一壱に訊ねる。
「あ、あにきってなんだ?」
「え?」
ー何を言っているんだ、こいつは。日本語を忘れたのか。
「アニキはアニキでしょ?」
「ち、違う!」
長が柄にもなく声を荒げるもので、つい一壱は人差し指を口元に立てる。
「なに?何の話?」と一壱が声を顰めて言うと、長は口を尖らせてメニュー表をパタパタとゆっくり開け閉じしている。
「昔は、アニキなんて呼ばなかった。」
一壱は天井が高い、壁全体がガラス窓で作られたカフェのドアを開けた。窓からは外の自然が見える、明るく広々としたカフェだ。
木製の椅子に座り、辺りを見渡す。若い男女カップル、飲み物片手に女子会を開く大学生、かたや本を読むスーツを着たサラリーマンがコーヒーを嗜んでいる。若者向けのお洒落な店だった。
本来ならこういったお店には恋人と来たいものだが、残念ながら今日は違う。
「一壱!」
後ろの方から自分の名前が呼ばれた。一壱は小さく溜め息をつくと、笑顔で振り返って手を振った。
そこには、スーツを着た七三分けをした黒髪の男が会計している客の邪魔にならないように気遣いながらも、こちらへ颯爽と歩いてきた。
「会議が少し長引くから先に入っていてくれ。」と書かれてあるチャットのメッセージを一壱はタップして確認する。
ーもっと長引いてくれても良かったのにな。
無表情でチラリと長を見るが、長は全く気づかない様子で、おしぼりで手を拭きながらメニューを眺めている。
「へー、初めて来たんだけど、夜はBARになるんだね、このお店。」
「へー、そうなんだ。」と言って一壱はお冷に手を伸ばす。
ー知ってる。担当と何度か同伴で来たことあるからな。
とは言っても、一壱でもこのお店の昼間の姿を見るのは初めてだった。
今日は可愛子ぶってカルーア・ミルクじゃなくてエスプレッソでも飲もうか、と一壱はメニュー表のドリンクのページを開いた。
「一壱と一緒に外食で洋食を食べるなんて初めてかもなぁ。」
「そうだね。」
長は年甲斐もなくメニューを見てワクワクしているようだ。
確かに長と洋食を食べたことは無かった。基本、家族で外食となると懐石料理といった純和食が多かったからだ。
しかし、長と外食したことなんて中学生の卒業祝いで家族で老舗店のすき焼きを食べて以来だ。高校生になってからは俗に言う"家族より友人と遊びたい年頃カード"を使って家族との外食の回数を減らした。その時には既に長は父の仕事を引き継ぎし始めていたので、長とは数える程しか顔を合わせなくなった。
「一壱はなに食べたい?サラダも食べるかい?」
一壱は顎に手を当てて唸った。
「じゃあ、俺このチョップドサラダ。あ、後、鶏胸肉のローストチキンも食べたい。」
「お。じゃあ、二人で分けるか。」
一壱はニコニコと微笑んでいる長を見た。二人で分けようと言った割には店員を呼ぶ気配が無い。何か他に頼むつもりなのだろうか。
「アニキは?」
ふと尋ねると、長が一瞬硬直してこちらを凝視した。一壱も眉を顰めて長を見る。
ーなんだ?何かまずいことでも言ったか?
一壱が戸惑っていると、長は震える声で一壱に訊ねる。
「あ、あにきってなんだ?」
「え?」
ー何を言っているんだ、こいつは。日本語を忘れたのか。
「アニキはアニキでしょ?」
「ち、違う!」
長が柄にもなく声を荒げるもので、つい一壱は人差し指を口元に立てる。
「なに?何の話?」と一壱が声を顰めて言うと、長は口を尖らせてメニュー表をパタパタとゆっくり開け閉じしている。
「昔は、アニキなんて呼ばなかった。」
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