幻を追い求めて2

三旨加泉

文字の大きさ
7 / 27

「幻を追い求めて2」7話

しおりを挟む
「幻を追い求めて2」7話


 一壱は天井が高い、壁全体がガラス窓で作られたカフェのドアを開けた。窓からは外の自然が見える、明るく広々としたカフェだ。
 木製の椅子に座り、辺りを見渡す。若い男女カップル、飲み物片手に女子会を開く大学生、かたや本を読むスーツを着たサラリーマンがコーヒーを嗜んでいる。若者向けのお洒落な店だった。
 本来ならこういったお店には恋人と来たいものだが、残念ながら今日は違う。

「一壱!」

 後ろの方から自分の名前が呼ばれた。一壱は小さく溜め息をつくと、笑顔で振り返って手を振った。
 そこには、スーツを着た七三分けをした黒髪の男が会計している客の邪魔にならないように気遣いながらも、こちらへ颯爽と歩いてきた。

「会議が少し長引くから先に入っていてくれ。」と書かれてあるチャットのメッセージを一壱はタップして確認する。

ーもっと長引いてくれても良かったのにな。

 無表情でチラリと長を見るが、長は全く気づかない様子で、おしぼりで手を拭きながらメニューを眺めている。
「へー、初めて来たんだけど、夜はBARになるんだね、このお店。」
「へー、そうなんだ。」と言って一壱はお冷に手を伸ばす。

ー知ってる。担当と何度か同伴で来たことあるからな。

 とは言っても、一壱でもこのお店の昼間の姿を見るのは初めてだった。
 今日は可愛子ぶってカルーア・ミルクじゃなくてエスプレッソでも飲もうか、と一壱はメニュー表のドリンクのページを開いた。

「一壱と一緒に外食で洋食を食べるなんて初めてかもなぁ。」
「そうだね。」
 長は年甲斐もなくメニューを見てワクワクしているようだ。
 確かに長と洋食を食べたことは無かった。基本、家族で外食となると懐石料理といった純和食が多かったからだ。
 しかし、長と外食したことなんて中学生の卒業祝いで家族で老舗店のすき焼きを食べて以来だ。高校生になってからは俗に言う"家族より友人と遊びたい年頃カード"を使って家族との外食の回数を減らした。その時には既に長は父の仕事を引き継ぎし始めていたので、長とは数える程しか顔を合わせなくなった。

「一壱はなに食べたい?サラダも食べるかい?」
 一壱は顎に手を当てて唸った。
「じゃあ、俺このチョップドサラダ。あ、後、鶏胸肉のローストチキンも食べたい。」
「お。じゃあ、二人で分けるか。」
 一壱はニコニコと微笑んでいる長を見た。二人で分けようと言った割には店員を呼ぶ気配が無い。何か他に頼むつもりなのだろうか。

「アニキは?」
 ふと尋ねると、長が一瞬硬直してこちらを凝視した。一壱も眉を顰めて長を見る。
ーなんだ?何かまずいことでも言ったか?

 一壱が戸惑っていると、長は震える声で一壱に訊ねる。
「あ、あにきってなんだ?」
「え?」

ー何を言っているんだ、こいつは。日本語を忘れたのか。

「アニキはアニキでしょ?」
「ち、違う!」
 長が柄にもなく声を荒げるもので、つい一壱は人差し指を口元に立てる。
「なに?何の話?」と一壱が声を顰めて言うと、長は口を尖らせてメニュー表をパタパタとゆっくり開け閉じしている。

「昔は、アニキなんて呼ばなかった。」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

青龍将軍の新婚生活

蒼井あざらし
BL
犬猿の仲だった青辰国と涼白国は長年の争いに終止符を打ち、友好を結ぶこととなった。その友好の証として、それぞれの国を代表する二人の将軍――青龍将軍と白虎将軍の婚姻話が持ち上がる。 武勇名高い二人の将軍の婚姻は政略結婚であることが火を見るより明らかで、国民の誰もが「国境沿いで睨み合いをしていた将軍同士の結婚など上手くいくはずがない」と心の中では思っていた。 そんな国民たちの心配と期待を背負い、青辰の青龍将軍・星燐は家族に高らかに宣言し母国を旅立った。 「私は……良き伴侶となり幸せな家庭を築いて参ります!」 幼少期から伴侶となる人に尽くしたいという願望を持っていた星燐の願いは叶うのか。 中華風政略結婚ラブコメ。 ※他のサイトにも投稿しています。

新訳 美女と野獣 〜獣人と少年の物語〜

若目
BL
いまはすっかり財政難となった商家マルシャン家は父シャルル、長兄ジャンティー、長女アヴァール、次女リュゼの4人家族。 妹たちが経済状況を顧みずに贅沢三昧するなか、一家はジャンティーの頑張りによってなんとか暮らしていた。 ある日、父が商用で出かける際に、何か欲しいものはないかと聞かれて、ジャンティーは一輪の薔薇をねだる。 しかし、帰る途中で父は道に迷ってしまう。 父があてもなく歩いていると、偶然、美しく奇妙な古城に辿り着く。 父はそこで、庭に薔薇の木で作られた生垣を見つけた。 ジャンティーとの約束を思い出した父が薔薇を一輪摘むと、彼の前に怒り狂った様子の野獣が現れ、「親切にしてやったのに、厚かましくも薔薇まで盗むとは」と吠えかかる。 野獣は父に死をもって償うように迫るが、薔薇が土産であったことを知ると、代わりに子どもを差し出すように要求してきて… そこから、ジャンティーの運命が大きく変わり出す。 童話の「美女と野獣」パロのBLです

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

偽りの聖者と泥の国

篠雨
BL
「感謝すら忘れた者たちに、明日を語る資格はない」 自らの都合で聖王セシルを追放し、異世界から新たな「勇者」を召喚したアドレアン聖王国。 しかし、その身勝手な選択が、国を、大地を、そして人々の心を根底から腐らせていく。 壊れゆく少年勇者と、彼を歪に愛した騎士。 二人の執着が交わったとき、聖王国は二度と再生不能な終焉へと突き進む。 裏切り者たちには、因果応報という名の、容赦なき報いが下る。 これは、傲慢な国が崩壊するまでの、無慈悲な記録。 ----------------------------------------- 『嘘つき王と影の騎士』から引き続き読んでくださる皆様へ この物語は、セシルを虐げた者たちが、ただただ因果応報の末路を辿るだけの物語です。 本編に救いはありません。 セシルたちのその後が気になるという方は、本編は飛ばして、最終話の後に掲載する「閑話」のみをお読みいただくことをお勧めいたします。 本作は『嘘つき王と影の騎士』の続編となりますが、前作をお読みでない方でも一つの物語としてお楽しみいただけます。

【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?

キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。 知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。 今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど—— 「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」 幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。 しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。 これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。 全8話。

禁書庫の管理人は次期宰相様のお気に入り

結衣可
BL
オルフェリス王国の王立図書館で、禁書庫を預かる司書カミル・ローレンは、過去の傷を抱え、静かな孤独の中で生きていた。 そこへ次期宰相と目される若き貴族、セドリック・ヴァレンティスが訪れ、知識を求める名目で彼のもとに通い始める。 冷静で無表情なカミルに興味を惹かれたセドリックは、やがて彼の心の奥にある痛みに気づいていく。 愛されることへの恐れに縛られていたカミルは、彼の真っ直ぐな想いに少しずつ心を開き、初めて“痛みではない愛”を知る。 禁書庫という静寂の中で、カミルの孤独を、過去を癒し、共に歩む未来を誓う。

【完結】男の後輩に告白されたオレと、様子のおかしくなった幼なじみの話

須宮りんこ
BL
【あらすじ】 高校三年生の椿叶太には女子からモテまくりの幼なじみ・五十嵐青がいる。 二人は顔を合わせば絡む仲ではあるものの、叶太にとって青は生意気な幼なじみでしかない。 そんなある日、叶太は北村という一つ下の後輩・北村から告白される。 青いわく友達目線で見ても北村はいい奴らしい。しかも青とは違い、素直で礼儀正しい北村に叶太は好感を持つ。北村の希望もあって、まずは普通の先輩後輩として付き合いをはじめることに。 けれど叶太が北村に告白されたことを知った青の様子が、その日からおかしくなって――? ※本編完結済み。後日談連載中。

処理中です...