幻を追い求めて2

三旨加泉

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「幻を追い求めて2」17話

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「幻を追い求めて2」17話


 マンションに着くと一壱はまずソファに座った。少し慣れたとはいえ、労働は疲れる。その上に住む場所を失うという最悪な状況の中、ふかふかのソファやベッドは居心地が良かった。
 一壱が顔を上げると、長は何か用紙を取り出した。
「お腹すいただろ。ケータリングするから、好きなの選んでいいぞ。」
「やった。」
 一壱はお肉がたくさん乗ったお弁当や中華料理のオードブルが目に入った。長にオードブルを頼んだ。今は最近の不幸について憂さ晴らしをしたい気分だった。
「俺の部屋どこー?」と長に聞くと、立っているすぐ横の部屋を指差した。
「掃除とかは大瑠璃に済ませたから安心してそのまま使っていいぞ。」

「いえーい」と一壱は掛け布団の上に転がった。
「はーやっぱりフカフカの布団は最高だわー」
 長は両手を腰に当てて苦笑している。
 長はちょうど一壱が身体を起こした辺りで口を開いた。
「なあ、どうしてあのアパートに住んでいたんだ?両親や俺に言ってくれれば良いアパートを紹介できたのに。」
 一壱は天井を見上げ、うーんと唸った。
「いや~なんか、悪いかなぁと思って。後、自分のお金でやり取りしてみたかったんだ。」
「そんな、気を遣わなくてもいいんだぞ。」
 一壱はへらりと笑って胡座をかいた。長は小さく息を吸って、少し視線を泳がせてから聞いた。
「転職の一件も、どうして違う企業にしたんだ?そんなに嫌だったのか?」
 一壱の動きが一瞬止まったが、罰が悪そうに頭を掻き始めた。
「別に嫌ってわけじゃないけどぉ」
 一壱は手を膝の上に置いた。
「前も言ったけど、俺には何だか難しくてさ。」
 長は一壱の顔を暫く見ては俯き、また暫く見ては俯いた。その様子を見て一壱は慌てて両手を小さく振った。
「あー!別にアニキが悪いわけじゃなくってさ!俺にはそんな頭良い人と同じとこ受けれないって。ごめんな、バカで。」
「バカじゃない。」
 一壱は目を丸くした。長の重苦しい表情を見て口を閉じた。それはただ、気休めで言ってる言葉ではないことは賢い一壱にはすぐ分かった。
「本当にバカな奴は自分のことをバカだと言わない。」
 長の真っ直ぐな瞳を見て一壱は全てを悟った。ずっと薄々は勘づいていたことだったが、どうも受け入れられなかった事実をはっきりと伝えられたのを張り詰めた空気で感じ取った。それもそうだ。長は一壱程ではなかったが、竹田家にとって優秀な人材なのだから。
 このまま道化師を演じたところで無粋だと一壱はすぐ決心した。

「じゃあ、一体どういうつもりなんだ?今まで何も言ってこなかったくせに。何が不満なんだよ。」
 一壱の冷たい表情に長は一瞬怯むが、それでも瞳の色は消えていなかった。
「お前が良ければ、」
 そして長は目を逸らさず言い切った。

「継いで欲しいんだ。会社を。」


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