ちゃんちゃら

三旨加泉

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「ちゃんちゃら」40話

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「ちゃんちゃら」40話


「あ!そうだ!」といきなり雫が慌ててバッグの横に置いてある紙袋を手に取った。
「焼き菓子買ってきたのすっかり忘れてた!」
 大原が紙袋を取りに再びテーブルまでやってきた。小皿に綺麗に盛られた焼き菓子たちが置かれ、まるでインテリアのようだった。持ってきた雫に礼を言って焼き菓子を手に取る。クッキーのサクサクした食感と共に甘い香りが口の中に広がった。雫は小分けされたパウンドケーキをフォークで一口分に切って食べていた。雫がもう一口食べるかと思ったが、フォークを一旦皿に置いた。

「海斗くん、仕事したいと思ったのは、なんで?」
 海斗はクッキーを咀嚼しながら首を傾げた。ここでようやく自分の焦燥感の正体を海斗は真面目に考え始めた。
「さっき申し訳ないからって言ってたけど、それだけ?」とパウンドケーキをもう一口、雫は口にした。どうやら紅茶味のパウンドケーキが気に入ったらしい。
「それも、あるんすけど。」
 海斗は口の中に残ったクッキーの破片をルイボスティーと共に綺麗に流し込んだ。
「なにか、大地の力になれないかなあと思って。」
「へー!」と興味津々で雫が少し顔を乗り出す。
「力になるって、どんな?」
「えっと、大地は忘れてるかもしれないんすけど、金城グループの傘下にある下請け会社のことを気に掛けてた時があって。俺もそういうところで働いたら、少しは、その、連携しやすいとか、ないかなぁって」
 少しずつ自分の考えを話していくにつれ、このやり方は本当に大地の役に立っているのか、という一抹の不安が心の中を支配し始める。次第に俯いていく海斗とは裏腹に雫はパウンドケーキを食べるのを止め、目を輝かせながら耳を傾けていた。その様子は海斗に安堵感を与えた。
「海斗くん、大地くんのこと大好きなんだね!」とうっとりした表情をしている。それを見て慌てて海斗は修正した。
「大学生の時、大地と一緒に過ごして、あいつの夢というか、やりたい事は素直に応援してやりたいなって思って。」
 赤いルイボスティーに自分の顔が映る。
「大地のことを友情以外の感情があるかは、正直分からないんすけど、元々働く為に大学生活をしてたんで、今は俺もやりたいことやろうかなって思って」
「いいね、いいね~」とうんうんと雫は頷いている。すると、大原がテーブルの前まで来て空いた小皿を片付け始めた。
「よく海斗様の気持ちも聞かず、失礼致しました。」
 大原の謝罪に海斗はまた慌てて首を振る。
「いや、心配ばっかり掛けてるんで、むしろこっちがすんません。」
 大原は困り眉をしながら微笑んでいた。
「おや、もうこんな時間ですね。」
 ふと顔を上げて時計を確認した大原が呟く。時間は夕方の四時を過ぎていた。
「そろそろ夕食の準備をしますね。」と大原がまな板を手に取る。

 すると、満面の笑みを浮かべた雫が椅子から立ち上がった。
「じゃあ、海斗くんにはもっと食べて栄養つけてもらわないとね。」
 そう言うと、雫がキッチンへ向かって冷蔵庫の中を確認する。
「じゃあ、夕食は僕も一緒に作るよ。」


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