ちゃんちゃら

三旨加泉

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「ちゃんちゃら」64話

「ちゃんちゃら」64話


 帰りのバスを待つ途中、二人は無言だった。海斗は午前中に言っていた井口の言葉を思い出す。

ー「またおめがかよ。どうなってんだ、あんたの部署。」

 どうやら流川にも同じことが起きていたらしい。流川や空島、雫のように確かにΩは存在している。しかし、βほど大勢いるわけでもないのは確かだ。海斗も流川たちに会うまではΩの存在をどこか違う国の希少生物の話のように思っていた。

ーいや、ただみんな隠しているだけなのかもしれない。

 まさか自分もその希少生物の仲間入りをするなんて。バス停の側にあるベンチに腰掛けながら海斗は苦笑した。ふと視界に流川の顔が映る。顔を向けると流川が海斗の顔を凝視していた。
「海斗くん。絶対Ωだろうなって思ってました。」
 海斗は驚愕した。
「だって、美人で色気があるんで、初めて見た時からΩだろうなって思ってましたよ。」
 淡々と話す流川。一方、海斗は開いた口が塞がらない中、首を横に振る。
「い、言われたことない。」
「え、嘘ですよ。海斗くんみたいなΩ、世のαみんな放っておかないでしょ。Ωの中でも勝ち組だと思われ。」
 大袈裟だと思ったが、実際に大地というαには捕まっているので何も言えなかった。
「色んな人に告白されなかったんです?」
 海斗は気まずそうに首の後ろを掻く。
「俺、最近までβって言われてたからさ。」
「え!?」
 流川の大声に思わず辺りを見渡す。幸い、周りに人は見当たらなかった。
「今時、そんなことあるんですな。」と流川は顎に手を当てて関心を示している。
「それでも海斗くん、モテましたよね?一軍の顔ですから。」
「い、一軍?」
 海斗のピンときてない様子に流川は溜息をついた。
「どうして放っておかれたのか不思議ですな。」
「そういう流川はどうなんだよ。」と頬を膨らませながら海斗は流川の顔を覗き込む。
 普段は長い髪で顔が見えないが、近づくことで動揺している流川の顔が初めてはっきり見えた。いつも分厚いメガネを掛けているからか目が小さく見えていたが、そのメガネを外したら、きっと流川は化けるだろうな、と海斗は確信した。その理由は、小さいながらもまつ毛が長く、くっきりした目を海斗は自分の目に映し出したからだ。
「そうかな。流川も美人だと思うけどなぁ。」
 暫く眺めていると流川は顔を隠すように視線を外す。
「ほ、ほら!そういうことするのが一軍なんですよ!これだから一軍は!」と顔を真っ赤にしながら海斗に言い返す。
 すると、流川の視線が海斗の顔からショルダーバッグに向けられる。
「それはなんですか。」
 見ると、ファスナーが緩くなっていたのか、あのテディベアが顔を出していた。海斗が慌てて中へ押し込もうとする。
「αの匂いがしますね。ひょっとして番のものですか?」
 あまりΩの生活に詳しくない海斗にとって流川は探偵か何かに見えた。海斗が頷くのを見て流川は感心する。
「なるほど。では、ヒートとはおさらばってわけですか。いいですな。」と顎に手を当てて目を閉じている。海斗も素直に嬉しかった。流川はぬいぐるみを持ち歩く理由を理解した上で話を聞いてくれる人だ。
「な、なあ。番関係ってどうしたら長く続くと思う?」
 海斗の質問に流川は少し後退った。
「ぼ、僕に聞くの間違ってませんか。」
「だって、心配になってきて。相手は、その、今までの恋人と長く続いたことなんて見たことなくてさ。」
 流川はこちらを見ていなかった。彼と同じ方角を見ると、バスがこちらへ向かってきているのが見えた。流川は立ち上がり、白い息を吐きながら海斗の方へ振り向く。
「番なんですよね?じゃあ、それとなく聞いてみればいいじゃないですか。ま、僕に番なんていませんけど。」

 海斗はテディベアを押し込みながらベンチから立つ。その際にショルダーバッグの反対側を持つと、硬いものが手に触れる。ショルダーバッグが四角い凹凸を作っているのを海斗はバスが来るまで、ただ眺めていた。


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