ちゃんちゃら

三旨加泉

文字の大きさ
64 / 102

「ちゃんちゃら」64話

しおりを挟む
「ちゃんちゃら」64話


 帰りのバスを待つ途中、二人は無言だった。海斗は午前中に言っていた井口の言葉を思い出す。

ー「またおめがかよ。どうなってんだ、あんたの部署。」

 どうやら流川にも同じことが起きていたらしい。流川や空島、雫のように確かにΩは存在している。しかし、βほど大勢いるわけでもないのは確かだ。海斗も流川たちに会うまではΩの存在をどこか違う国の希少生物の話のように思っていた。

ーいや、ただみんな隠しているだけなのかもしれない。

 まさか自分もその希少生物の仲間入りをするなんて。バス停の側にあるベンチに腰掛けながら海斗は苦笑した。ふと視界に流川の顔が映る。顔を向けると流川が海斗の顔を凝視していた。
「海斗くん。絶対Ωだろうなって思ってました。」
 海斗は驚愕した。
「だって、美人で色気があるんで、初めて見た時からΩだろうなって思ってましたよ。」
 淡々と話す流川。一方、海斗は開いた口が塞がらない中、首を横に振る。
「い、言われたことない。」
「え、嘘ですよ。海斗くんみたいなΩ、世のαみんな放っておかないでしょ。Ωの中でも勝ち組だと思われ。」
 大袈裟だと思ったが、実際に大地というαには捕まっているので何も言えなかった。
「色んな人に告白されなかったんです?」
 海斗は気まずそうに首の後ろを掻く。
「俺、最近までβって言われてたからさ。」
「え!?」
 流川の大声に思わず辺りを見渡す。幸い、周りに人は見当たらなかった。
「今時、そんなことあるんですな。」と流川は顎に手を当てて関心を示している。
「それでも海斗くん、モテましたよね?一軍の顔ですから。」
「い、一軍?」
 海斗のピンときてない様子に流川は溜息をついた。
「どうして放っておかれたのか不思議ですな。」
「そういう流川はどうなんだよ。」と頬を膨らませながら海斗は流川の顔を覗き込む。
 普段は長い髪で顔が見えないが、近づくことで動揺している流川の顔が初めてはっきり見えた。いつも分厚いメガネを掛けているからか目が小さく見えていたが、そのメガネを外したら、きっと流川は化けるだろうな、と海斗は確信した。その理由は、小さいながらもまつ毛が長く、くっきりした目を海斗は自分の目に映し出したからだ。
「そうかな。流川も美人だと思うけどなぁ。」
 暫く眺めていると流川は顔を隠すように視線を外す。
「ほ、ほら!そういうことするのが一軍なんですよ!これだから一軍は!」と顔を真っ赤にしながら海斗に言い返す。
 すると、流川の視線が海斗の顔からショルダーバッグに向けられる。
「それはなんですか。」
 見ると、ファスナーが緩くなっていたのか、あのテディベアが顔を出していた。海斗が慌てて中へ押し込もうとする。
「αの匂いがしますね。ひょっとして番のものですか?」
 あまりΩの生活に詳しくない海斗にとって流川は探偵か何かに見えた。海斗が頷くのを見て流川は感心する。
「なるほど。では、ヒートとはおさらばってわけですか。いいですな。」と顎に手を当てて目を閉じている。海斗も素直に嬉しかった。流川はぬいぐるみを持ち歩く理由を理解した上で話を聞いてくれる人だ。
「な、なあ。番関係ってどうしたら長く続くと思う?」
 海斗の質問に流川は少し後退った。
「ぼ、僕に聞くの間違ってませんか。」
「だって、心配になってきて。相手は、その、今までの恋人と長く続いたことなんて見たことなくてさ。」
 流川はこちらを見ていなかった。彼と同じ方角を見ると、バスがこちらへ向かってきているのが見えた。流川は立ち上がり、白い息を吐きながら海斗の方へ振り向く。
「番なんですよね?じゃあ、それとなく聞いてみればいいじゃないですか。ま、僕に番なんていませんけど。」

 海斗はテディベアを押し込みながらベンチから立つ。その際にショルダーバッグの反対側を持つと、硬いものが手に触れる。ショルダーバッグが四角い凹凸を作っているのを海斗はバスが来るまで、ただ眺めていた。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

あなたの家族にしてください

秋月真鳥
BL
 ヒート事故で番ってしまったサイモンとティエリー。  情報部所属のサイモン・ジュネはアルファで、優秀な警察官だ。  闇オークションでオメガが売りに出されるという情報を得たサイモンは、チームの一員としてオークション会場に潜入捜査に行く。  そこで出会った長身で逞しくも美しいオメガ、ティエリー・クルーゾーのヒートにあてられて、サイモンはティエリーと番ってしまう。  サイモンはオメガのフェロモンに強い体質で、強い抑制剤も服用していたし、緊急用の抑制剤も打っていた。  対するティエリーはフェロモンがほとんど感じられないくらいフェロモンの薄いオメガだった。  それなのに、なぜ。  番にしてしまった責任を取ってサイモンはティエリーと結婚する。  一緒に過ごすうちにサイモンはティエリーの物静かで寂しげな様子に惹かれて愛してしまう。  ティエリーの方も誠実で優しいサイモンを愛してしまう。しかし、サイモンは責任感だけで自分と結婚したとティエリーは思い込んで苦悩する。  すれ違う運命の番が家族になるまでの海外ドラマ風オメガバースBLストーリー。 ※奇数話が攻め視点で、偶数話が受け視点です。 ※エブリスタ、ムーンライトノベルズ、ネオページにも掲載しています。

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

キンモクセイは夏の記憶とともに

広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。 小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。 田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。 そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。 純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。 しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。 「俺になんてもったいない!」 素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。 性描写のある話は【※】をつけていきます。

この手に抱くぬくもりは

R
BL
幼い頃から孤独を強いられてきたルシアン。 子どもたちの笑顔、温かな手、そして寄り添う背中―― 彼にとって、初めての居場所だった。 過去の痛みを抱えながらも、彼は幸せを願い、小さな一歩を踏み出していく。

ふた想い

悠木全(#zen)
BL
金沢冬真は親友の相原叶芽に思いを寄せている。 だが叶芽は合コンのセッティングばかりして、自分は絶対に参加しなかった。 叶芽が合コンに来ない理由は「酒」に関係しているようで。 誘っても絶対に呑まない叶芽を不思議に思っていた冬真だが。ある日、強引な先輩に誘われた飲み会で、叶芽のちょっとした秘密を知ってしまう。 *基本は叶芽を中心に話が展開されますが、冬真視点から始まります。 (表紙絵はフリーソフトを使っています。タイトルや作品は自作です)

【完結】初恋のアルファには番がいた—番までの距離—

水樹りと
BL
蛍は三度、運命を感じたことがある。 幼い日、高校、そして大学。 高校で再会した初恋の人は匂いのないアルファ――そのとき彼に番がいると知る。 運命に選ばれなかったオメガの俺は、それでも“自分で選ぶ恋”を始める。

好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない

豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。 とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ! 神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。 そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。 □チャラ王子攻め □天然おとぼけ受け □ほのぼのスクールBL タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。 ◆…葛西視点 ◇…てっちゃん視点 pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。 所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。

処理中です...