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「ちゃんちゃら」68話
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「ちゃんちゃら」68話
ー水城さんは悪くない。
ー水城さんは悪くない。
海斗はそう自分に言い聞かせながら、一人、会社の前の道路を歩いていた。頭の中に泣きながらお礼を言う水城の顔が何度も何度も再生される。
ー本当に水城さんは悪くない。悪いのは自分だ。
まさか、あの職場にリングケースが二つ存在していたなんて水城は知る由もないのだ。知っていたのは自分だけ。
海斗は上を見上げる。空はもうすっかり暗くなり、星がキラキラ輝いている。自分には似合わない輝かしさだと海斗は鼻で笑った。
あの時、どうして自分はハッキリと水城に「それは自分の物だ。」と言えなかったのか。
水城は中身を確認するような真似はしなかった。海斗の目の前で確認するのは失礼だと思ったのだろう。彼女の気遣いが余計に海斗の罪悪感を増幅させる。
リングケースを開けたら水城はどう思うのだろうか。ケースは同じでもさすがに指輪のデザインまでは同じではないはずだ。困惑するだろうし、ショックを受けるかもしれない。自分に対して腹立たしさすら抱くかもしれない。
泣きたい気分だったが、涙は出てこなかった。それがまた自分の残酷さをより際立たせ、胸がどんどん締め付けられていく。息がし辛く、首が絞まるような感覚がずっと付き纏ってきた。
みんな自分を大事にしてくれる。気を遣ってくれる。ここ最近会った人たちは本当に良い人たちばかりだった。大地も自分との結婚を考えてくれている。それなのに、自分はそれに応えられる気がしなかった。怖気付いて、情けない。
どうしても、あの温かい家族の中に自分が入っていけるような気がしなかった。
あんなに優しくしてもらったのに、自分は全て台無しにしようとしている。
ー「あんた、嘘をついたんだね。」
当てもなく、ただただ足だけが動く。
ー「ウソツキには、バチが当たるんだよ。」
気がつけば、会社近くの石橋まで来ていた。防護柵にそっと手が触れる。
「ねぇ、それ落ちるよ?」
振り向くと、マフラーを巻いた池田先輩が橋のそばで立っていた。奥には会社の駐車場が見える。
海斗が呆然と池田先輩を見ていると、池田先輩は自分の腰らへんを指し示す。
「それ、落ちるって。」
海斗が下を見下ろすと、ショルダーバッグからあのテディベアが顔を出していた。どうやら、またチャックが緩んでいたようだ。
海斗が慌ててテディベアを押し込んでいると、池田先輩はゆっくりこちらへ歩いてくる。ヒールの高い靴の音がどこか軽快に聞こえた。
「あんた、何してんの?こっち方面じゃなくない?」
海斗がなんて説明すればいいか分からず、俯いていると、池田先輩が徐に車のキーを取り出す。
「さっきバス通ってったから、あれに乗るのは無理だろうね。」
キーのボタンを押したのか、少し離れた場所にある車のヘッドライトが光る。
「次来るのも時間掛かるし、送ってってやるよ。」
ー水城さんは悪くない。
ー水城さんは悪くない。
海斗はそう自分に言い聞かせながら、一人、会社の前の道路を歩いていた。頭の中に泣きながらお礼を言う水城の顔が何度も何度も再生される。
ー本当に水城さんは悪くない。悪いのは自分だ。
まさか、あの職場にリングケースが二つ存在していたなんて水城は知る由もないのだ。知っていたのは自分だけ。
海斗は上を見上げる。空はもうすっかり暗くなり、星がキラキラ輝いている。自分には似合わない輝かしさだと海斗は鼻で笑った。
あの時、どうして自分はハッキリと水城に「それは自分の物だ。」と言えなかったのか。
水城は中身を確認するような真似はしなかった。海斗の目の前で確認するのは失礼だと思ったのだろう。彼女の気遣いが余計に海斗の罪悪感を増幅させる。
リングケースを開けたら水城はどう思うのだろうか。ケースは同じでもさすがに指輪のデザインまでは同じではないはずだ。困惑するだろうし、ショックを受けるかもしれない。自分に対して腹立たしさすら抱くかもしれない。
泣きたい気分だったが、涙は出てこなかった。それがまた自分の残酷さをより際立たせ、胸がどんどん締め付けられていく。息がし辛く、首が絞まるような感覚がずっと付き纏ってきた。
みんな自分を大事にしてくれる。気を遣ってくれる。ここ最近会った人たちは本当に良い人たちばかりだった。大地も自分との結婚を考えてくれている。それなのに、自分はそれに応えられる気がしなかった。怖気付いて、情けない。
どうしても、あの温かい家族の中に自分が入っていけるような気がしなかった。
あんなに優しくしてもらったのに、自分は全て台無しにしようとしている。
ー「あんた、嘘をついたんだね。」
当てもなく、ただただ足だけが動く。
ー「ウソツキには、バチが当たるんだよ。」
気がつけば、会社近くの石橋まで来ていた。防護柵にそっと手が触れる。
「ねぇ、それ落ちるよ?」
振り向くと、マフラーを巻いた池田先輩が橋のそばで立っていた。奥には会社の駐車場が見える。
海斗が呆然と池田先輩を見ていると、池田先輩は自分の腰らへんを指し示す。
「それ、落ちるって。」
海斗が下を見下ろすと、ショルダーバッグからあのテディベアが顔を出していた。どうやら、またチャックが緩んでいたようだ。
海斗が慌ててテディベアを押し込んでいると、池田先輩はゆっくりこちらへ歩いてくる。ヒールの高い靴の音がどこか軽快に聞こえた。
「あんた、何してんの?こっち方面じゃなくない?」
海斗がなんて説明すればいいか分からず、俯いていると、池田先輩が徐に車のキーを取り出す。
「さっきバス通ってったから、あれに乗るのは無理だろうね。」
キーのボタンを押したのか、少し離れた場所にある車のヘッドライトが光る。
「次来るのも時間掛かるし、送ってってやるよ。」
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