ちゃんちゃら

三旨加泉

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「ちゃんちゃら」74話

「ちゃんちゃら」74話


 海斗はバスに乗りながらスマホを開く。そこにはこちらの様子を伺う男の写真が表示されていた。もちろん、その男とは大地のことだ。今日の朝、大地がベッドから起き上がったところで、水城と会う約束をしたと伝えたところ、大地の機嫌はたちまち悪くなった。確かにただの同僚といえども、男女が会うというのは不安になるのだろう。海斗は安心させるように夕方には帰ると伝えたが、相変わらず疑いの眼差しで海斗を見ていた。
「せっかくの休日なのに」とブツブツと不満を漏らしていたが、急に何か罰が悪そうに自分のベッドの中へ再び戻っていった。
 大地には悪いと思ったが、このままではいつまで経っても答えは出ない気もするし、前へ進めないような気がした。今はとにかく何でも行動を起こしたい気分だった。
 とりあえず海斗は出掛ける準備を整えて玄関へ向かった。大原も気を遣ったのか、送り迎えの提案はしてこなかった。靴を履いてドアを開ける際に後ろを振り向くと、ひょっこりと曲がり角から顔を出して、こちらを窺っている大地の姿があった。ベッドから直接来たのか毛布を頭に被っている。その姿は仕事ができて、普段しっかりしている大地とは程遠く、可愛らしかったので思わず海斗は写真に収めた。大地は不貞腐れていたが、海斗の機嫌が良いのを見て、とりあえずその場は引き下がったようだった。
 海斗は大地を愛おしく感じていた。バスの窓に映る自分自身を眺める。右手の指を隠しながら、海斗はバスの折り戸を降りた。

 辺りを見渡すと、若者たちが写真を撮ったりはしゃいでいるのが見える。自分は来たことがないが、恐らく若者たちに人気の街なのだろう。マフラーに顔を少し埋めながら水城を探す。すると、近くに黒い高級車が停まる。大地と出会う前の自分だったら今頃腰を抜かしていただろうなと海斗は思った。フロントドアを開けて現れたのは案の定、水城だった。薄手の黒いニットに黄色いキャミソールワンピースを着ていた。
「じゃあ、行ってくるわ、爺や。」
 漫画でしか聞かないような台詞に海斗は自分が物語の登場人物にでもなったような気分だった。水城はベージュ色のベレー帽を頭で押さえながら、こちらへやってくる。
「こんにちは。待ちましたか?」
 海斗が首を振ると、水城は職場の時とは違ってはしゃぐ子どものように踵を上げては落とすという謎のステップを踏んでいる。水城は少し離れた場所にあるピンク色の屋根が目立つカフェを指差す。
「私、ずっと行ってみたかったんです!友人たちが美味しいと言ってるアフタヌーンティーが食べれるんですよ。」
 普段、上品な彼女と違い、今はただの年相応な女性になったようで、海斗は微笑ましく思った。自分をβだと思っていた頃だったら水城に惹かれていたかもしれないな、と海斗は苦笑した。そんな海斗を他所に水城はカフェの中へ入っていく。
 店内はアンティークの置物や薔薇のドライフラワーで彩られていた。そんな華やかな店内で男女のカップルや女性の友人同士で来ているであろう若者たちがお茶をしている。中には恐らく水城が言っていたアフタヌーンティーを食している者たちもいる。水城は目を輝かせながら案内された席に座る。やけに浮かれている水城を見て一つの疑問が頭を過ぎる。
「水城さんって、こういったカフェ行かないの?」
「えぇ、可愛いです。みんなが可愛いと言っているカフェに来れて嬉しいです!」
 恐らく水城にとって、このカフェは庶民的なんだろうな、と海斗は苦笑いをした。水城は辺りを見渡して、テーブル近くに置かれてある陶器の人形をワクワクした様子で眺めていた。

「俺、無知で申し訳ないんだけど、水城家ってどんな家柄なの?」
 水城はテーブルに置かれたティーポットを眺めながら何の気無しに答える。
「金城家の分家なんです。」
「え?」


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