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私はあなたが嫌いです
1-2:産まれた時から決まっていたこと
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「血は拭き終わりました。あなたの血では無かったみたいですね」
せっかくの新品のハンカチでしたが、仕方ないでしょう。
全ての血を拭き取る頃には、花柄だったことも分からなくなるくらい真っ赤に染まってしまいました。
「当たり前だ。この私が怪我させられるわけねぇだろ」
「じゃあ誰の血なのですか?」
「どこぞの雑魚だよ」
不良少女は機嫌が悪そうに私を見下ろしてきます。迫力がありますね。
「てかお前は誰だ? さっさと退けよ」
「私は天音結衣。今日からこのクラスで勉学を励むものです」
「あっそ。勝手に励んでろよ。私に関わんな」
「言葉遣いが悪いですね」
「あいにく、あんたと違ってお嬢様ではないんだ」
「私は庶民ですよ?」
「皮肉で言ったんだよ」
「お嬢様に見えます……?」
「見えねぇよ皮肉だって言ってんだろ!」
少し嬉しくて、聞き返してしまいました。反省です。
「とにかく、あなたは言葉遣いが悪いです。それに、誰かの血を浴びるなんて、よほど乱暴者なのですね」
「初対面で説教してくるお前も大概だろうが」
「殴った手も痛いでしょう? 乱暴は辞めなさい」
「……本当に痛いかどうか、試してもいいんだぞ?」
不良少女は見せつけるように私の目の前で拳を握ってきました。力が込められ、小さく震えています。
「ちょ、ちょっと待ってぇぇぇ!!」
私が黙って拳を睨みつけていると、高梨さんが大きな声を上げながら私と不良少女の間に割り込んできました。
不良少女の三倍くらい、全身が震えています。
「お前は何だ」
「わわわ私は! 寡黙な少女! 喧嘩良くない! 殴るの良くない!」
「なんで頑なに寡黙を名乗るんだよ、騒がしい」
「ごめんね!!」
「音量下げろ」
「ごめんね……」
高梨さんは、誰かの鞄で盾を作りながら、頑張って不良少女の目を見ました。
「天音さんは、喧嘩を売ってるわけじゃないの。ちょっと理想が高いだけ。だから許して?」
「友達が言うセリフじゃねぇぞ」
それ以上、高梨さんが何か言うことはありませんでした。ただただ震えながら、鞄で身を守ろうとしていました。
その小動物のような高梨さんを見て、不良少女は拳を渋々降ろしてくれました。
「次は無いからな」
そう言って、わざと私に体をぶつけ、教室の奥に歩いていきました。
「えと、大丈夫ですか? 高梨さん」
「私が天音ちゃんを殴ってやろうかと思ったよ!!」
鞄を投げ捨て、半泣きで私に抱き着いてきました。さぞ怖かったのでしょう。まだ体が震えています。
「危ないんだよ、あの人! 目を合わせちゃダメなんだよ!」
「わ、分かりましたから落ち着いてください!?」
高梨さん、本人普通に教室にいますからね?
なんとか落ち着かせて、自分の席に座りなおしました。不良少女はこちらの会話に気付きながらも、聞き流してくれたみたいです。
乱暴者のわりに、ほんの少しだけ優しいみたいです。無関心なだけでしょうか?
「私、天音ちゃんが殴られたらどうしようかと思ったよ……」
「心配しすぎですよ」
「でも、あんなに血を浴びるほど殴るような人だし……」
「しかし、私は殴られませんでした。やはり暴力は慈愛には勝てないのです」
「でもぉ……」
まだ何か言いたげな高梨さんでしたが、こればかりは私を論破できませんよ。
「高梨さん。これはじゃんけんと一緒なのです。暴力は拳のグー。慈愛は包み込むパー。さて、どちらが強いでしょうか?」
「パー!!」
高梨さんの笑顔は満開の桜すら霞む勢いでした。幸せな人だなぁ。
それから、特に中身の無い話をして、時間を潰します。
いつの間にか教室の中は生徒でいっぱいになり、クラスメート全員が揃ったように思えます。
とはいえ、皆さん同郷の方が多いのか、自分の席から離れて話しているので、席の場所までは分かりません。
「高梨さんの後ろの席は、どのような方なのでしょうね」
「生き物がいいなぁ」
「生き物だと思いますよ」
「間違えた。イケメンがいいなぁ」
高梨さんのことだから本気で言ってるのかと思って、訂正せずに会話をしてしまいました。
「高梨さんは、イケメンに興味が? なんか意外ですね」
「単純にブサイクが嫌なだけなんだけど、そう言った方が良かったかな?」
「私が悪かったです。すみません」
案外、高梨さんから学ぶものがある気がしてきました。
「天音ちゃんの後ろも空いてるね。そんな人が良い?」
「それは勿論、乱暴ではなく、知的で、思慮深く、公平に物事を捉えられ、平和について語り合えるような方が良いですね」
「まぁ夢を見るのは勝手だもんね」
泣きそうになりましたが、ハンカチがありません。我慢しましょう。
学校のチャイムが鳴りました。高校生活で初めてのホームルームの時間です。
クラスの皆さんも、足早に自分の席に戻ります。教室の後ろに集まっていた不良っぽい男子も、気だるそうにですが、しっかりと着席していました。なぜかホッコリしました。
そんな中、1人だけ真っすぐに私の席に歩いて来ます。
あの不良少女です。
変な因縁をつけられるのも面倒なので、目は合わせないようにしつつも横目で確認。
不良少女も少しこちらに目を向けつつも、そのまま目を合わせずに私の所へ来ます。
……何故でしょう。先ほど話した時は何も感じなかったのに、今は妙に緊張してきます。
何の用なのでしょうか。どうみても真っすぐ私の方に来ています。もうすぐそこです。殴られるのでしょうか。
不良少女は、私の机の前に来ると、そのまま後ろへ行ってしまいました。
なんだ……同じ列でしたか。何かされるのかと冷や冷やしました。
そして、不良少女は一際大きな音で椅子を下げ、腰を下ろしました。
聞き間違いでなければ、私の真後ろの席で。
落ち着きましょう。一旦、深呼吸です。
さて、まだ決まったわけではありません。ここは高梨さんに確認してもらってから__あぁ、高梨さんの瞳孔が開ききっています。完全にアウトです。そして私の後ろの席を首ごとガン見しています。それは誰にしてもアウトです。
意を決し、ゆっくりと振り返ると、やはりそこには不良少女が座っておりました。
「よろしくです」
「……最悪だ」
その言葉にだけは、私も同感です。
せっかくの新品のハンカチでしたが、仕方ないでしょう。
全ての血を拭き取る頃には、花柄だったことも分からなくなるくらい真っ赤に染まってしまいました。
「当たり前だ。この私が怪我させられるわけねぇだろ」
「じゃあ誰の血なのですか?」
「どこぞの雑魚だよ」
不良少女は機嫌が悪そうに私を見下ろしてきます。迫力がありますね。
「てかお前は誰だ? さっさと退けよ」
「私は天音結衣。今日からこのクラスで勉学を励むものです」
「あっそ。勝手に励んでろよ。私に関わんな」
「言葉遣いが悪いですね」
「あいにく、あんたと違ってお嬢様ではないんだ」
「私は庶民ですよ?」
「皮肉で言ったんだよ」
「お嬢様に見えます……?」
「見えねぇよ皮肉だって言ってんだろ!」
少し嬉しくて、聞き返してしまいました。反省です。
「とにかく、あなたは言葉遣いが悪いです。それに、誰かの血を浴びるなんて、よほど乱暴者なのですね」
「初対面で説教してくるお前も大概だろうが」
「殴った手も痛いでしょう? 乱暴は辞めなさい」
「……本当に痛いかどうか、試してもいいんだぞ?」
不良少女は見せつけるように私の目の前で拳を握ってきました。力が込められ、小さく震えています。
「ちょ、ちょっと待ってぇぇぇ!!」
私が黙って拳を睨みつけていると、高梨さんが大きな声を上げながら私と不良少女の間に割り込んできました。
不良少女の三倍くらい、全身が震えています。
「お前は何だ」
「わわわ私は! 寡黙な少女! 喧嘩良くない! 殴るの良くない!」
「なんで頑なに寡黙を名乗るんだよ、騒がしい」
「ごめんね!!」
「音量下げろ」
「ごめんね……」
高梨さんは、誰かの鞄で盾を作りながら、頑張って不良少女の目を見ました。
「天音さんは、喧嘩を売ってるわけじゃないの。ちょっと理想が高いだけ。だから許して?」
「友達が言うセリフじゃねぇぞ」
それ以上、高梨さんが何か言うことはありませんでした。ただただ震えながら、鞄で身を守ろうとしていました。
その小動物のような高梨さんを見て、不良少女は拳を渋々降ろしてくれました。
「次は無いからな」
そう言って、わざと私に体をぶつけ、教室の奥に歩いていきました。
「えと、大丈夫ですか? 高梨さん」
「私が天音ちゃんを殴ってやろうかと思ったよ!!」
鞄を投げ捨て、半泣きで私に抱き着いてきました。さぞ怖かったのでしょう。まだ体が震えています。
「危ないんだよ、あの人! 目を合わせちゃダメなんだよ!」
「わ、分かりましたから落ち着いてください!?」
高梨さん、本人普通に教室にいますからね?
なんとか落ち着かせて、自分の席に座りなおしました。不良少女はこちらの会話に気付きながらも、聞き流してくれたみたいです。
乱暴者のわりに、ほんの少しだけ優しいみたいです。無関心なだけでしょうか?
「私、天音ちゃんが殴られたらどうしようかと思ったよ……」
「心配しすぎですよ」
「でも、あんなに血を浴びるほど殴るような人だし……」
「しかし、私は殴られませんでした。やはり暴力は慈愛には勝てないのです」
「でもぉ……」
まだ何か言いたげな高梨さんでしたが、こればかりは私を論破できませんよ。
「高梨さん。これはじゃんけんと一緒なのです。暴力は拳のグー。慈愛は包み込むパー。さて、どちらが強いでしょうか?」
「パー!!」
高梨さんの笑顔は満開の桜すら霞む勢いでした。幸せな人だなぁ。
それから、特に中身の無い話をして、時間を潰します。
いつの間にか教室の中は生徒でいっぱいになり、クラスメート全員が揃ったように思えます。
とはいえ、皆さん同郷の方が多いのか、自分の席から離れて話しているので、席の場所までは分かりません。
「高梨さんの後ろの席は、どのような方なのでしょうね」
「生き物がいいなぁ」
「生き物だと思いますよ」
「間違えた。イケメンがいいなぁ」
高梨さんのことだから本気で言ってるのかと思って、訂正せずに会話をしてしまいました。
「高梨さんは、イケメンに興味が? なんか意外ですね」
「単純にブサイクが嫌なだけなんだけど、そう言った方が良かったかな?」
「私が悪かったです。すみません」
案外、高梨さんから学ぶものがある気がしてきました。
「天音ちゃんの後ろも空いてるね。そんな人が良い?」
「それは勿論、乱暴ではなく、知的で、思慮深く、公平に物事を捉えられ、平和について語り合えるような方が良いですね」
「まぁ夢を見るのは勝手だもんね」
泣きそうになりましたが、ハンカチがありません。我慢しましょう。
学校のチャイムが鳴りました。高校生活で初めてのホームルームの時間です。
クラスの皆さんも、足早に自分の席に戻ります。教室の後ろに集まっていた不良っぽい男子も、気だるそうにですが、しっかりと着席していました。なぜかホッコリしました。
そんな中、1人だけ真っすぐに私の席に歩いて来ます。
あの不良少女です。
変な因縁をつけられるのも面倒なので、目は合わせないようにしつつも横目で確認。
不良少女も少しこちらに目を向けつつも、そのまま目を合わせずに私の所へ来ます。
……何故でしょう。先ほど話した時は何も感じなかったのに、今は妙に緊張してきます。
何の用なのでしょうか。どうみても真っすぐ私の方に来ています。もうすぐそこです。殴られるのでしょうか。
不良少女は、私の机の前に来ると、そのまま後ろへ行ってしまいました。
なんだ……同じ列でしたか。何かされるのかと冷や冷やしました。
そして、不良少女は一際大きな音で椅子を下げ、腰を下ろしました。
聞き間違いでなければ、私の真後ろの席で。
落ち着きましょう。一旦、深呼吸です。
さて、まだ決まったわけではありません。ここは高梨さんに確認してもらってから__あぁ、高梨さんの瞳孔が開ききっています。完全にアウトです。そして私の後ろの席を首ごとガン見しています。それは誰にしてもアウトです。
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その言葉にだけは、私も同感です。
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