14 / 14
ここだって現実なんだ
1-14:足手まとい
しおりを挟む
膨れ上がった山がめくれ上がり、そこから不気味な眼光がグランとユナを睨みつけた。
背丈はどれほどだろう。僕が通っていた学校が五階建てだったが、それを優に超えてる。
巨人の全貌が露わになるのを、グランとユナは黙って見つめていた。
ゆっくりと這い出た巨人が、まるで埃を払うかのように体についた巨木を払い落とす。
それだけで、尋常ではない風と地鳴りがした。
地面をひっくり返す巨体が、森を砂嵐で包んだ。
「ユナ、大丈夫か」
「うん。でも視界が悪い。狙いが定まらないかも」
「大雑把で良い。援護は任せた」
「了解」
小さな次元の穴をグランの額につけた。もう一つの穴は、ユナの口の前。声優のマイクのような感じだ。
それを確認してから、グランが走り出す。ユナの視界は、砂嵐のせいで自分の手の届く範囲しか確認できないでいた。
「うわ、何も見えない」
『聞こえるか、ユナ』
次元の穴からグランの声が聞こえた。
「こっちはOK。グランは聞こえる?」
『聞こえる』
グランの声のほかに、瓦礫が落ちる音と豪風が聞こえてくる。
「怪我しても良いけど、死なないでよね」
『怪我もしたくねぇよ』
そして、ユナは口を閉じた。
天才が、動き出す。
☆
「さてと、グランとユナの邪魔はさせないぞ~?」
僕を抱きながら翼で飛んでいたアミルが、流れ星のように一直線に謎の化け物めがけて飛び降りていく。
景色が残像で形を失い、取り残される内臓が盛大に悲鳴をあげていた。
「アイ、ちょっと我慢しててね」
僕を抱く腕が液状化し、大きな水滴となって僕を閉じ込めた。水というよりはスライムのような感触だ。
おかげで、衝撃がかなり楽になった。
「それしとけば、死にはしないと思うから」
アミルは笑い、自分の下半身を鋼鉄化した。そのままねじ込むように回転を加え更に加速した。
アミルが落下する瞬間だけ、僕は何故かしっかりと目で確認できた。
空から撃ち抜かれるアミルが、森の木を容易く貫通した瞬間を。
落下地点は、化け物の頭部にドンピシャだった。
アミルの鉄の蹴りが怪物の頭に当たる瞬間、僕はそれと目があった。
森の生き物が暴走した。変異した。そう聞いていた。だから、異形ではあれど、自分の理解から大きく離れた姿はしていないと勝手に思っていた。
それは大きな間違いだった。
巨木をなぎ倒しながら進んでいたそれは、四足歩行でありながら犬や猪のような骨格をしていない。蜘蛛のような足の付き方をしているが、その足は人間の腕の形をしていて、しっかりと地面を掴んでいた。体は魚のように丸ぼったく、ギラギラと光を反射する鱗に覆われている。
手と思われる部位は無く、代わりに無駄にも見えるが鰓があった。
そして、その顔は僕の身長と同じくらいの大きさの、人の顔だった。男、それも三十代前半くらい。崩れることなく存在したその顔は、まるで最近まで普通に生活していたのではないかと感じてしまうほどに、人間のままだった。
その顔が僕と目が合い、粘っこく笑った。
そのままアミルの蹴りが眉間に直撃し、化け物を数メートル押し返す。アミルも衝撃で押し返されるが、無事に着地して僕を解放した。
「あの化け物……人の顔を……」
「そうね。でも残念。私は顔より腹筋があるかどうかで男を見定めるから、ちょっと対象外かな」
翼を分解して、自分の腕に炎を燃やした。熱気が僕の顔を撫でる。
「アイは、自衛だけ考えて動いてね」
シャドーボクシングするアミルの腕が、火の粉を散らす。
「私、倒すのは得意だけど守るのは苦手だから」
「は、はい……」
僕は小さな盾に少しでも隠れようと身を縮めた。
化け物は、すぐにやってきた。
小さなロケット並みの勢いで額に直撃したはずなのに傷はついておらず、その顔は今も薄っすらと微笑んでいて、異様な気配を漂わせていた。
そして何より、足音が一切しないのが気持ち悪い。
「お腹が空いたね、ママ」
化け物がはっきりと言った。僕にそう言った?
「アミル、こいつ、僕のことを……!」
「あぁ、無視して良いよ」
鼻で笑い、拳を握る力を更に込める。
「明日は良い天気。みんなで遠足行こうね」
「あいつの記憶はとっくに終わってる。思考も言葉も、すべて過去の断片に過ぎないから」
アミルは軽く跳躍してから、一瞬で肉薄する。
炎を纏う拳が、その巨大な顎を撃ち抜いた。
象ほどある巨体が上に傾く。そして、そのまま何発も高速で拳を打ち付けていく。
「サンドバックくらいに思っておかないと、やっていけないよ」
殴った後が熱で赤く光り、拳の形で変形していく。粘土細工みたいに変形していく顔が、何故かアミルではなく僕を見た。
「寒いね」
化け物の体から、無数の腕が皮膚と突き破って蛇のように伸びてきた。
アミルを無視して、百を超える腕が僕に襲い掛かって来る。体液だろうか、気色の悪いぬめりを纏ったそれに、軽く気を失いそうになる。
「私を無視してんじゃねぇぞ!」
アミルが足を高く振り上げる。膝から先が渦を巻き、日本刀へ変形した。
そのまま振り下ろされる。十本ほど切り落とされ、自制を失った腕はトカゲのしっぽのようにのたうち回りながら他の腕を握りしめた。
どんどん腕を切り落としていくが、数が多すぎる。
途端に腕の一本が僕の足首を掴んだ。
そのまま、何本もの腕が僕の足を掴み、そのまま腕に、肩に、腹に群がって来る。
こうなってしまえば、盾なんて役に立たない。盾を握る手すらも捕まってしまった。
「アイ!」
遠くでアミルの声がする。群がる腕が僕を包んだ肉塊のように凝り固まり、僕から自由を奪い取った。
指一本動かせない。生き埋めになった。
「助け__!」
何本目かの腕が僕の口を塞いだ。雑に塞がれたせいで、口も鼻も押さえつけられ、呼吸が出来ない。
僕の命は、制限時間が付いた。
背丈はどれほどだろう。僕が通っていた学校が五階建てだったが、それを優に超えてる。
巨人の全貌が露わになるのを、グランとユナは黙って見つめていた。
ゆっくりと這い出た巨人が、まるで埃を払うかのように体についた巨木を払い落とす。
それだけで、尋常ではない風と地鳴りがした。
地面をひっくり返す巨体が、森を砂嵐で包んだ。
「ユナ、大丈夫か」
「うん。でも視界が悪い。狙いが定まらないかも」
「大雑把で良い。援護は任せた」
「了解」
小さな次元の穴をグランの額につけた。もう一つの穴は、ユナの口の前。声優のマイクのような感じだ。
それを確認してから、グランが走り出す。ユナの視界は、砂嵐のせいで自分の手の届く範囲しか確認できないでいた。
「うわ、何も見えない」
『聞こえるか、ユナ』
次元の穴からグランの声が聞こえた。
「こっちはOK。グランは聞こえる?」
『聞こえる』
グランの声のほかに、瓦礫が落ちる音と豪風が聞こえてくる。
「怪我しても良いけど、死なないでよね」
『怪我もしたくねぇよ』
そして、ユナは口を閉じた。
天才が、動き出す。
☆
「さてと、グランとユナの邪魔はさせないぞ~?」
僕を抱きながら翼で飛んでいたアミルが、流れ星のように一直線に謎の化け物めがけて飛び降りていく。
景色が残像で形を失い、取り残される内臓が盛大に悲鳴をあげていた。
「アイ、ちょっと我慢しててね」
僕を抱く腕が液状化し、大きな水滴となって僕を閉じ込めた。水というよりはスライムのような感触だ。
おかげで、衝撃がかなり楽になった。
「それしとけば、死にはしないと思うから」
アミルは笑い、自分の下半身を鋼鉄化した。そのままねじ込むように回転を加え更に加速した。
アミルが落下する瞬間だけ、僕は何故かしっかりと目で確認できた。
空から撃ち抜かれるアミルが、森の木を容易く貫通した瞬間を。
落下地点は、化け物の頭部にドンピシャだった。
アミルの鉄の蹴りが怪物の頭に当たる瞬間、僕はそれと目があった。
森の生き物が暴走した。変異した。そう聞いていた。だから、異形ではあれど、自分の理解から大きく離れた姿はしていないと勝手に思っていた。
それは大きな間違いだった。
巨木をなぎ倒しながら進んでいたそれは、四足歩行でありながら犬や猪のような骨格をしていない。蜘蛛のような足の付き方をしているが、その足は人間の腕の形をしていて、しっかりと地面を掴んでいた。体は魚のように丸ぼったく、ギラギラと光を反射する鱗に覆われている。
手と思われる部位は無く、代わりに無駄にも見えるが鰓があった。
そして、その顔は僕の身長と同じくらいの大きさの、人の顔だった。男、それも三十代前半くらい。崩れることなく存在したその顔は、まるで最近まで普通に生活していたのではないかと感じてしまうほどに、人間のままだった。
その顔が僕と目が合い、粘っこく笑った。
そのままアミルの蹴りが眉間に直撃し、化け物を数メートル押し返す。アミルも衝撃で押し返されるが、無事に着地して僕を解放した。
「あの化け物……人の顔を……」
「そうね。でも残念。私は顔より腹筋があるかどうかで男を見定めるから、ちょっと対象外かな」
翼を分解して、自分の腕に炎を燃やした。熱気が僕の顔を撫でる。
「アイは、自衛だけ考えて動いてね」
シャドーボクシングするアミルの腕が、火の粉を散らす。
「私、倒すのは得意だけど守るのは苦手だから」
「は、はい……」
僕は小さな盾に少しでも隠れようと身を縮めた。
化け物は、すぐにやってきた。
小さなロケット並みの勢いで額に直撃したはずなのに傷はついておらず、その顔は今も薄っすらと微笑んでいて、異様な気配を漂わせていた。
そして何より、足音が一切しないのが気持ち悪い。
「お腹が空いたね、ママ」
化け物がはっきりと言った。僕にそう言った?
「アミル、こいつ、僕のことを……!」
「あぁ、無視して良いよ」
鼻で笑い、拳を握る力を更に込める。
「明日は良い天気。みんなで遠足行こうね」
「あいつの記憶はとっくに終わってる。思考も言葉も、すべて過去の断片に過ぎないから」
アミルは軽く跳躍してから、一瞬で肉薄する。
炎を纏う拳が、その巨大な顎を撃ち抜いた。
象ほどある巨体が上に傾く。そして、そのまま何発も高速で拳を打ち付けていく。
「サンドバックくらいに思っておかないと、やっていけないよ」
殴った後が熱で赤く光り、拳の形で変形していく。粘土細工みたいに変形していく顔が、何故かアミルではなく僕を見た。
「寒いね」
化け物の体から、無数の腕が皮膚と突き破って蛇のように伸びてきた。
アミルを無視して、百を超える腕が僕に襲い掛かって来る。体液だろうか、気色の悪いぬめりを纏ったそれに、軽く気を失いそうになる。
「私を無視してんじゃねぇぞ!」
アミルが足を高く振り上げる。膝から先が渦を巻き、日本刀へ変形した。
そのまま振り下ろされる。十本ほど切り落とされ、自制を失った腕はトカゲのしっぽのようにのたうち回りながら他の腕を握りしめた。
どんどん腕を切り落としていくが、数が多すぎる。
途端に腕の一本が僕の足首を掴んだ。
そのまま、何本もの腕が僕の足を掴み、そのまま腕に、肩に、腹に群がって来る。
こうなってしまえば、盾なんて役に立たない。盾を握る手すらも捕まってしまった。
「アイ!」
遠くでアミルの声がする。群がる腕が僕を包んだ肉塊のように凝り固まり、僕から自由を奪い取った。
指一本動かせない。生き埋めになった。
「助け__!」
何本目かの腕が僕の口を塞いだ。雑に塞がれたせいで、口も鼻も押さえつけられ、呼吸が出来ない。
僕の命は、制限時間が付いた。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました
okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』
宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?
悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。
三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。
何度も断罪を回避しようとしたのに!
では、こんな国など出ていきます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる