FLY ME TO THE MOON

如月 睦月

文字の大きさ
19 / 64

回避

しおりを挟む
拡声器を手に入れた羽鐘はスイッチを入れてみた。
乾いた舌打ちのような音が響くだけだった。

チッ・・・チッ・・・

『ちっ・・・一難去ってまた一難ってやつっすか・・・』

拡声器の後ろの蓋を外してみると、単一電池6本必要のようだ。時代は多少進化を遂げるも、電池ってものは廃れないらしく、充電能力こそ格段に飛躍したが、その使用頻度は昔と変わらなかった。

『拡声器があると言うことは電池もあるはず・・・てか今時の拡声器って単三4本くらいで動くんじゃないの?なに単一が6本て!!!ええ?単一て!!はぁっ!単一て!』

物音を立てないように気を配りながら館内を探すことにした。事務室に入ると、ひときは大きなロッカーがあった。やたら大きい・・・人は入るだろうけど、まさかロッカーにゾンキーがいるはずがないと思い、何気なく通りすがりにバン!と開けた。その時、中から何かが出てきて殴りかかってきた。『キエエエエ!!』この状況で身に付いた危機管理能力と若さゆえの反射神経でさっと身をかわすと、勢いよく転んだ『何か』。しかし羽鐘は躊躇せずその『何か』の背中を抑え込むように踏みつける。

『まて!まて!狂人じゃない!狂人じゃないんだ!』
踏みつけられた男はそう答えた。

『人なのね?下手な真似すると怪我するよ?』

『しないしない、信じてくれ、いあ、下さい。』

足をどかすと男はゆっくりと立ち上がって両手を上げた。グレーのスーツに黒のピンストライプ、白いブラウスにループタイをした男は、禿げ上がった頭に白髪交じりの短い毛、白髪の無精ひげで、目が見えない程の白髪眉毛、げっそりとまではいかないが、やせ細ったおじいちゃんだった。

『あ!公民館の!』

男は公民館の管理者の【長曽禰 虎徹(ながそね こてつ)】
『おお!君は・・・その・・・あれだ・・・・』

『こてっちゃん!』

そう言うと羽鐘は虎徹に抱きついた。幼いころから公民館によく遊びに来ていた羽鐘に、いつも声をかけては頭をなでなでしてくれていた虎徹。

『羽鐘ちゃんだ!おおー無事でなによりじゃゲボゲボ』

『あ、ごめん、苦しかったね』

羽鐘は虎徹に、身振り手振りを交えて今までの経緯をざっくりと説明し、虎徹に現状を理解してもらった。

『にわかには信じがたいが、羽鐘ちゃんの言うことだから、わしゃ信じる事にするよ、で?これからどうするんじゃい?』

『まず拡声器の電池、単一が6本欲しいの!ある?

『拡声器?????んまぁ電池ならここじゃ・・・』

事務所の引き出しを開けると、6本がパッケージになった単1電池が入っていた。

『こてっちゃん、私ね、ゴーゴンスタジアムに行くんだけど、一緒に行く?』

そう言いながら拡声器に電池をセットした。

『結構遠いのぅ、足手まといにならんか?』

『大丈夫だよ、ずっと走っていくわけじゃないし、あのね、そこで友達と待ち合わせしてるの、とても大事な友達。』

『ほうか、そしたら一緒に行こうかの・・・ところでご両親はどうした、一緒じゃないんか』

『・・・・・・』

『言わんでええ、分かったわかった・・・あ、ちょっと待ってくれんかの・・・』

羽鐘が言葉にためらい、一瞬で察した虎徹は、煙をはらうように切り出し、事務室の更に奥の管理室へ入った。時間にして3分程経過したころだったと思う、おもむろに部屋から出てきた虎徹。

『待たせたの』

出てきた虎徹の腰にはベルトがしてあり、そのベルトに刀がキチンと差し込んであった。

『かっこいい!こてっちゃんそれ斬れるの?』

『真剣じゃで、真剣に斬れるで・・・』

羽鐘の瞳孔が縮まる音が聞こたような錯覚を起こすほどには静かな時間が流れた。

『こほん・・・この刀はワシと同じ名前でな、偽物は非常に多いが、これはご先祖様から代々受け継いだもの。ワシのご先祖様は刀鍛冶でな、この虎徹をとても愛しておったそうじゃ。見ろ、この反りのほとんどない無骨な姿・・・ワシぁ刀の原点だと思うとる。これぞ名刀虎徹じゃ・・・』

『こてっちゃん、それ銃刀法違反じゃないの?』

『先に刀の話に感心せぇ!!!許可取得しとるわい!歴史的遺産としての許可がな!』

『あと・・・これ・・・持っとけ・・・』

それは羽鐘が家族と一緒に写った、町内会のお祭りの時の写真だった。

『お祭り・・・またできたらええのう・・・』

『こてっちゃんあでぃがどぉおおおおおお』

羽鐘は虎徹に抱きつき、うれし泣きをした。虎徹もまた羽鐘を抱きしめ『辛かったのう』と言い、涙するのだった。



-----------------------------------------



『うわぁ・・・・橋落ちてんじゃん・・・』

水を流す為のコンクリートの溝、いわゆる下水があり、そこに橋がかかっているだが、何がどうなったのか崩れ落ちていたのだった。色々と便利になった街だが、やはり時代の流れとともに進化していったものなので、下水を溝に流すちょっとした川なんかは普通に存在した。いや、神楽の話を聞いた後だとそれすらカモフラージュではないか?と疑ってしまうのだが。

その下水にはトラックが頭から突っ込んだらしく、そのまま横転して溝に見事にきっちりとハマって水をせき止めている状態だった。それはトラックに乗れば向こう岸に渡れそうに見えた。

『回り道だとざっくり向こうの橋まで200mはあるかな…』

何でもない日常であれば、200mの回り道なんぞ喜んでするが、
今は10mでも気を抜けば危ない街となっている、つまり通常の選択は時には安牌ではないのだ。

『うむ・・・行けるか・・・よし!』

根拠も無しに気合を入れて鉄の棒を背中に背負い、足を一歩踏み出した。トラックで見事に水がせき止められて、ちょっとしたダムが上流側にでき始めていた。水は横転したトラックの上に何度か乗り上げ、その都度シャバッ!っと涼し気な音を上げている。溝に対して縦にハマッているトラックの上を移動するので、5~6mと言ったところだろうか、如月は荷台に足を乗せ、確かめるように3回ダンダンダンと踏み込んだが、ビクともしなかったので、いよいよ乗ることにした。一歩、また一歩と歩を進める如月。運転席のドアに差し掛かるが、微妙に湾曲しているので、足を乗せる面が滑るのではないかと、より慎重になった。ドアに足をのせるとベコリと音を立てて少しへこんだ。

『太ったかな・・・』

独り言を言うと、ジリジリとドアに置いた右足を前にずらした。左足を出すタイミングを見計らっていたのだが、足元に気を取られ過ぎて目の前に迫っていたゾンキーに気が付かなかった。倒れ込むように如月に両手で掴みかかるゾンキー。

『うわぁちょちょちょ!どっから来たん!!!』

とっさにその両手首を掴んで、プロレスでよく見る力比べの状態に。

『くっそ、棒さえ取れれば・・・』

ゾンキーが前へ前へ来るので、いなすのは簡単だったが、足場が悪いため踏ん張っていないと自分も危なかったのだ。そんなどうしようもない状態で足首を掴まれた。

『な!!!!!』

誤算だった、運転席にゾンキーが残っていたらしく、そいつが割れたガラスから手を伸ばして如月の足首を掴んだのだ。さっと足を上げて、手を踏みつけるが、痛がることをしないゾンキーはしつこくまとわりつくように、何度も何度も手を伸ばす。端から見ると阿波踊りのようだった。

如月はゾンキーの両手首をつかんだまま、左手前に引き寄せた、ゾンキーがトントンと小気味よく如月の左側によろめいた、そこを狙って左足を踏ん張りつつ、一瞬屈みかけてからの背中ごと体当たりをぶちかまし、ゾンキーを大きく吹き飛ばした。鉄山靠が決まったのだった。

『八極拳もやってるんで、悪いわね』

八極拳も学んでいた如月ならではの重心バランスで、即座に体勢を整え、背中から鉄の棒を抜きとり、運転席にいるゾンキーの頭をビリヤードのように割れたガラスの隙間から狙い澄まして突き刺した。

ガゴン!!!!

水をせき止めていたトラックが水圧に耐えられなくなり、動き出したのだった。『おととと・・まじぃ?』向こう側に跳び乗ろうとするも、先ほど落としたゾンキーが流されてきて運転席側に引っかかっていたので躊躇した。

ズズズズズ・・・・

遂にトラックが流され始めた。ダムが一気に決壊したかのように凄い水圧でトラックを押した。先ほどのゾンキーは流されていったが、もう向こう岸に跳び乗るなんて状態ではなかった。

『まぁヤバいくらいの遠回りでもないし、乗ってくかー・・・・』

人生で初のトラック川渡り、恐らく今後の人生にもないだろう。下水としては古い溝だが、街ぐるみで川の清掃も行っているので、大きな障害物も中州の様なものもなく、結構のんびりと流された・・・。

しかしゆっくりもしていられない事態は容赦はなく、ラブストーリーと一緒で『突然』に襲って来るモノだ。

眼前に迫る橋・・・。

『そっか橋か!絶対ぶつかるじゃんこれ!!!』

姿勢を低くして背中に鉄の棒を回し、鞄をお尻に乗せるように後ろにずらして、スキーのジャンパーのように構えた。

ゴオオオオオオオオオオオオオオオ

轟音と共に流れるトラック!走り出した如月!そして直撃の瞬間に大きく跳び上がった!

『とぉっ!!!!!』

ドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!

凄い音と共にトラックが橋にぶつかる!如月は手すりを超える大ジャンプで橋の中央に転げた。しかし、トラックの衝突の衝撃で橋にヒビが入った。

『ヤッベ!!!!』

後ろから崩れているのを感じていたが、振り向いている余裕がない。加速する如月!崩れながら後ろから這い寄る橋!その音は耳に入り、崩れると言う現実が大きく迫る!人生で1、2を争うほど必死に走ってまたもや大ジャンプ!後ろ足で橋のコンクリートを蹴った瞬間にはもうその橋は無かった。

ドン!

カランカランカラン!

転げるたびに鉄の棒は金属音を響かせた。

『ふーーーーーーーーーーーー!!!!あっぶね!ジョン・マクレーンかわしゃぁ!』

さっきまで自分が居た橋の方を見つめながら、鞄から出したスポーツドリンクを一口飲んだ。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。 最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。 会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

悪役皇子、ざまぁされたので反省する ~ 馬鹿は死ななきゃ治らないって… 一度、死んだからな、同じ轍(てつ)は踏まんよ ~

shiba
ファンタジー
魂だけの存在となり、邯鄲(かんたん)の夢にて 無名の英雄 愛を知らぬ商人 気狂いの賢者など 様々な英霊達の人生を追体験した凡愚な皇子は自身の無能さを痛感する。 それゆえに悪徳貴族の嫡男に生まれ変わった後、謎の強迫観念に背中を押されるまま 幼い頃から努力を積み上げていた彼は、図らずも超越者への道を歩み出す。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?

せいめ
恋愛
 政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。  喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。  そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。  その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。  閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。  でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。  家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。  その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。    まずは亡くなったはずの旦那様との話から。      ご都合主義です。  設定は緩いです。  誤字脱字申し訳ありません。  主人公の名前を途中から間違えていました。  アメリアです。すみません。    

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...