FLY ME TO THE MOON

如月 睦月

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NO DIE

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今朝の食事当番は羽鐘だった。

寝坊したバツと言っても過言ではないが、寝坊したことを責める者はおらず、別に何時に起きると約束したわけでもなければ決まりでもない。



『えっと・・・』



羽鐘は両手を腰に当てて考えた。
はたから見ればやる気のあるポーズだが、実際羽鐘はさほどやる気があるわけでもないわけで。

『朝だけど少し肉っ気が欲しいな・・・』

持って来た食材を見ると、フリーズドライ化されたチャーシューのブロックがあった。しかしあまりに大きいそのチャーシューにしばし困惑し、考えたけど結果が出ないので半分に叩き割ることにした。

『如月さんの真似っ!ハーッ!』

ボゴッ・・・・・

羽鐘は右手を凄い勢いで振り回し、8回ほど飛び跳ねた。
痛かったらしい・・・包丁を逆さまに持ち替えて、背中でチャーシューにドン!今度は割れた。チャーシューを鍋に入れて水を適量、そして一緒にキャベツを少量入れて煮た。20分もすると、チャーシューはまさにチャーシューに戻り、キャベツは一度戻ってから更に煮込まれて、チャーシューのうまみを吸い、もうこれだけでおいしそうだった。

「玄関開けたら2分でドカン」と言うコマーシャルで有名な、温めると出来上がる「加藤のご飯」を3人分用意して、うまみを吸ったキャベツをご飯の上にのせ、焼肉のタレをかけ、サイコロ状に切ったチャーシューをその上に乗せた。仕上げにマヨネーズをかけて『チャーシュー丼』を完成させた。

2人を呼んで食事することに。

『うま!美味いな羽鐘!こりゃ美味い!元気出るわい』

お腹がすいていたのもあるけれど、本当に美味しかったらしく、虎徹は美味いを500回ほど連発しながら食べた。

『うん・・・美味しい。

キャベツがチャーシューの味を吸ってて美味しいね。マヨネーズともよく合う。』

『あざす!あざす!』

思ってもない美味しい食事をした後、3人はまた作業に戻るのだった。



---------------------------------



『もう少しなのに・・・』



如月はなかなか進めずにいた。

潜り込んだ路地が、迷路のようになっており、思いのほかゾンキーが多かったのだ。

『思いのほか多いわね・・・思いのほかって?思っていることのほかに何かあるって言うのかしら、思いのほかでしょ?例えばあなたを思っている、そのほかにって事でしょ?何があるの?思いは一つって言うじゃない?どーゆーこと?』

ぶつぶつ言いながら周囲を警戒し、これは失敗したと思いつつも、八方ふさがりではないと自分に言い聞かせた。なるべくなら戦いたくないのだ、折角持ってきたNO DIEのブラとショーツを1枚でも手放したくないからである。最悪でも自分のDカップのブラとショーツのセットだけは死守したかった。暴れることで袋が破れでもしたらと思うと、なかなか動けなかったのである。

何度も言うがNO DIEのランジェリーはゼウスに住む女性の憧れのブランドなのだ、折角入手したのだから1枚たりとも落としたくないし汚したくない。特にDカップのブラとショーツのセットだけは死守したかったのだ。

考えた結果、まずは高い場所を目指す事にした。

ゾンキーははしごを登る概念が無いようだった、いや、これまでのリアルでの経験上では見たことが無い。映画ドドーン・オブ・ザ・デッドではショッピングモールの屋上へのはしごを登っていたが、その能力を発揮したところはこの現実世界では見ていなかった。

はしごを登れないのだから壁も登るまい。

塀をよじ登り、子供がよくやる遊びのように、両手を肩の高さまで上げ、やじろべぇの様にバランスを取り、塀の上をタタタと移動した。落ちたら終わりと言う状況でこれをやってのけるのが如月の強さだった。いや、何も考えていないだけかもしれない。

やがて、壁にもたれかけてあるマウンテンバイクを見つけ、如月はそれに乗って突破しようと考えた。『シェルビーじゃないのは残念だけれど、自転車だったら自信があるわ』そう言うと、2mほどの高さの塀から飛び降り、鉄の棒を反対方向に投げた。



カラーーーーン!カランカラン!



金属音が響き、うろついているゾンキーが音の方へ移動した。その数は大したことはない、しかし自転車に乗ってしまうと攻撃ができないのがネックなのだ、如月は攻撃よりも走り抜ける方に重点を置いたのだった。



『行くわよコブラ!』



盗んだ自転車に一瞬でコブラと名付け、一気に踏み込み、ゾンキーを縫うように避けながら、片手運転のくせに全開で走り出した。始めてなのに言う事を聞く従順なコブラの走りは軽やかだった。

『今度買う時マウンテンバイクにしよっと』

簡単にシェルビィへの浮気宣言をすると、一気に加速する如月。



ズザザーーーーーー!



自慢の脚力で残り約100mの直線を突破し、スタジアムの約束の入り口まで来た。

『サンキューコブラ!』

右のグリップにキスをして如月は、カモフラージュのような分かりにくいドアを開け、中に入り、即閉めて鍵をした。振り向くとパイロン、羽鐘、虎徹が待っていたらしく、突然のことで驚きつつも『お帰りなさい!』と声を合わせて如月を迎えた。



『虎徹さん!無事だったんだね』



『あぁ、約束は守った、よく帰ってきたな、お疲れさん、信じてまっておったよ、必ず戻るとな。』

『もしかしてって・・・もしかしてってずっと思ってて、でも信じてた、戻るって。申し訳ございません・・・よかった・・・本当によかった』

『流石如月さんっすね!おかえりなさい』

『ありがとうみんな!あと・・・・お父さんとお母さんに会った』

『ほう!で?どこじゃ?』

『良かったね!火事に巻き込まれて無かったの?嬉しくて申し訳ございません!』

『あの・・・大丈夫っすか・・・如月さん』



如月は黙りこくった


その4秒後・・・・・

ボロボロとぶどうの粒の様な涙をあふれんばかりに流し、

如月は天を仰いで『うわーーーーーーーーーん』と泣いた。

声を張り上げ、大声で、遠慮なく泣いた、わんわん泣いた。

その声は擦れて時折時が止まったようだった。

両手に荷物を持って立ったまま仁王立ちで如月は泣いた。



『睦月・・・・』



前に出ようとするパイロンを虎徹が止めた。

『泣かせてやれ・・・』



子供が感情を爆発させて泣くように、

見ている大人がつられて泣いてしまうような、

そんな絵に描いたような大号泣をする如月。

両親を亡くした、その涙も乾かないうちに生きて帰らなければと言う重圧もあった。あっけらかんと下着を選んではいたが、その心は今にも壊れそうだったのだ、それでも必死に必死に自分を押さえつけ、前だけ向いて走ってきた。

みんなと会えた幸せと、今までの辛さが津波の様に押し寄せた。

彼女の前向きさの裏には我慢があったのだ。我慢することで自分を前に前に押し出していたのに、その積み上げた我慢が一気に崩れたのだ、崩れた我慢は全てが訳の分からないぐちゃぐちゃの感情となって次から次へと彼女の心を押しつぶす、立て直す暇もない程に彼女の弱った心を残酷に抉りにかかる。

その痛みが今涙となって流れ出しているのだ、出し切るまで彼女が泣き止む事は出来ない。




何分泣いていたかはわからないが、

如月は持っていた荷物を静かに下ろした。

そして鼻声で話した。



『お父さんと、お母さんは、私が殺しました。』



『え?』『え?』『え?』



この間数秒・・・如月が続けた。



『ゾンキーだった・・・

夫婦って感情とか、無いはずなのに2人が一緒に居たの。

お母さんは私が格闘技の大会で獲ったトロフィーを持ってた。

直ぐに2人だと分かったけど・・・

もう知ってる2人じゃないとも同時にわかった。』



『お主の手で、逝かせてあげたのじゃな』



『だって・・・それが娘の役目でしょ?違う?そうだよね?』



『ご両親は・・・言い方が悪いと思うけど・・・嬉しかったと思ってしまい、申し訳ございません。』



『私なんか目の前で食べられて、助けることもできなかったっす、如月さん、よくやったと思います!』




スーハーと3回深呼吸して落ち着いた如月がとびっきりの笑顔で口を開く。



『じゃぁ今日からみんな家族になってよ』



如月の提案に3人は笑顔でピースで返した。



『如月さん!私の作ったチャーシュー丼残ってるっすよ!食べます?』



『残りもんかい!』



『贅沢はダメで申し訳ございません』



『よーし!みんなでご飯にしようかの!』



『虎徹はさっき食べただろボケじじぃ!』



『ぼ・・・ボケとらんわい!わざとじゃわざと!パンツ見せろこの野郎!』



『・・・・・・・・・・・・・・・・・』



『いあ・・・・じょう・・・だん・・・・です・・はい』



3人は手を止め、如月を警備室に案内し、朝食を用意した。



『なにこれうまっ!』



美味しそうに食べる如月、見つめるパイロン、

とにかくうるさく話しかける羽鐘、ニヤニヤしながら見つめる虎徹。

とても優しくて柔らかな時間が流れていた。



『うお!そうだった!ねーねーNO DIE知ってるよね?』

如月がご飯粒をマシンガンのように飛ばしながら話しだす。



『高い下着屋さんで申し訳ございませんが、私、いつもそれです。』



『えー!パイロン付けてるの?さっすが金持ち!どんなの?見せて見せて!』



『こ・・・こんなんで申し訳ございません』


そう言うと如月が飛ばしたご飯粒をパパっと掃い落し、スカートを惜しげもなく両手でつまんで持ち上げた。


『パイロンさんカッコいいっすね!スポーティーなハイレグに、ちょっとレース使ってるとかおっしゃれっす!』


『虎徹!見た?』


『お、おう、ええのう、に・・似合っておるぞ』

(こいつらワシをなんじゃと思ってるんじゃ・・・こんなにあっけらかんとされると逆につまらん。ワシの・・・コテツイズムに反する・・・。)



『あ、そうそう、でね、NO DIEから下着を・・・・ジャジャーン!かっぱらってきましたー!』



『ちゃんとAもCも持って来たから!いい?いいよね?』



『ちょっと悔しいけどNO DIEだから嬉しいっす』



『こんな世界ですから、有り難くいただくとしましょう・・・これで同罪ですね、でも主犯は睦月が自分だと名乗り出て欲しくて申し訳ございません。』



『鬼だなパイロン』



『あーかっこいいっす!NO DIEのデザインって、なんつーかデフォルメっぽい丸っこさの中にエッジが効いてて、それでいてこう繊細なんすよねーわかってるーって感じっすよねーあのヒゲメガネ!』


『メガネヒゲじゃなくって?』


『ヒゲハンチングじゃない?』


『どれでもいいっすよ!』


『そうね、ふふふ』


すると、如月がトトトと虎徹に近づき、Tシャツとボクサーパンツを差し出して『はい虎徹さん!』と言った。



『ワシのもあるのか?』



『NO DIEは今年から紳士ものも扱う事になってね、まだ少しだけど売場にコーナーがあったの、ブリーフ派だったらゴメンだけど、いいよね?イイっていいなよジジイ。』


『イイ!いいぞ!すまんな、ヤバい状況だったにも関わらず、こんな老いぼれの事までちゃんと考えてくれてるとは・・・くぅうううううこれにはワシも涙を我慢できんわい!死んだかもしれんのになぁ、すまんなぁ・・・』


如月は虎徹のパンツを広げて、お尻に大きく入った白いロゴを指差して言った。



『ノー!ダイ!・・・・私は死なない…か、うむ・・・死んでられんわい!』
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