アヤカシバナシ『小説版』

如月 睦月

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玄関

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この家に引っ越してきてもう10年になるか。
正直私は気行っていたわけではないのだが、妻が気に入って契約を決めた。妻の言いなりではない、娘たちが自分の部屋をここにする!じゃあ私はこっち!などと既に始めていたからだ。思えば1つの部屋を2人で使い、更に夫婦の寝室でもあるので、4人でその部屋に寝ると言う使い勝手が悪くて狭い思いをさせていたのもあり、その部屋を取り合う姿を見たら私も『まぁいっか』となった。

ただ、一番私が懸念していた部分は『妻の母親の家と近い事』

妻の母親は健在で、私たちが結婚して数十年、ほぼほぼ365日毎日のように家に来る人なのだ、新婚当初は居座って毎日20時21時まで帰らない始末、人の休みもお構いなしで『暇だからどこかへ連れていけ』と、家族団らんの時間にも割って入り、自分中心へと持っていこうとするとんでもない母親。結婚して直ぐに始まったこの行動、女親ならこういうものなのかと思っていた事もあるのだが、人の迷惑を考えずやりたい放題、酷いときは暇だからと言う理由で早朝8時には呼び鈴を鳴らし、早朝7時30分には電話を出るまで鳴らし続けると言う行動に出る。さすがの私も気が付き、これは女親だからだと言う問題ではなく、母親自身に問題があるのだと言う答えに辿り着いた。

何度も妻に注意し、母親に聞き入れてもらうよう話をした。私の仕事が精神を磨り減らすようなものだっただけに、家に帰っても休める空間が無いのは本当に辛く、心身ともにおかしくなりそうだったからである。

それでも変化が出たのは一週間連続の出勤が6日出勤になった程度だった。妻は『来なくなったよねー』と言っている、そうか、親が親だから子も子なのか…言っても無駄と言う諦めにも似た空気が漂うのだった。

そんな生活が数十年続いてのこの家、以前の家よりも妻の親の家に近いのだから不安しかない。妻に『母親が毎日通うのだけは遠慮してもらってくれ、言えないなら俺が言う、それが条件だ』と言うと『大丈夫!もう年で歩けなくなったって言ってるから』と言う回答だった。少しホッとしたが、翌日から親の出勤が始まった。

我慢我慢の毎日が続き、正直ストレスで神経をやられ、電話が鳴ると心臓鼓動が早くなり、庭を歩いて玄関に向かって来る姿を見ると吐き気がした。

目には目を…ある日から私は呼び鈴が鳴っても出ない事にした。電話にもナンバーディスプレイで確認し、親の番号だったら一切出ない事にした。心なしか『ざまぁみろ』と言う感情が生まれ、少し気晴らしになった。

そんなある日、母親が体調を崩し、週に3回ほどしか来なくなった。ここまでくると、娘から『今日も婆ぁが来た』と聞くだけで腹が立っていた状態なので、かなり神経的にも楽になってきた。

そんな矢先、深夜トイレに起きると玄関に明らかに妻の親の人影がすりガラスの向こうに見えた。『え?こんな夜中に?いい加減にしろよ』。どなってやろうかと言う勢いで玄関を開けると誰も居ない。扉を閉めるとやっぱり人影が見える。『うーん、曇り具合でそう見えるのか?』そう自分を納得させたのだが、翌日は別の場所に人影が映り込んでいた。もちろん妻の母親のシルエットに間違いない、この影は何度も見たから間違えようがない。でも開けると居ない、閉めると出る。妙な現象だった…ところがそんな事が何日も続いたある日の深夜、人影が全くなかった。『もしかして死んだ?』と言う考えが脳裏によぎり、少し心配したが翌朝また訪ねて来たその姿を見てイラッとした。

『死んでねぇし』

もしかすると、家に来ているのは生霊なのかもしれない。

そこまでして来たいのか?
今度そう尋ねてみようと思う。
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