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中学校編
不良の詩
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中学二年も後半に入ると、進路について周りが話し始める。
そんな事はまだまだ先の事のように考えていた龍一だったが、
ふと自分も考えているふりをしてみるが5分も持たずに、
頭の中は漫画の物語でいっぱいになる。
この頃の龍一の夢は『漫画家』だった。
でもインターネットも普及しておらず、
漫画家になるにはどうしたらいいのかもわからなかった。
そのため、漫画家先生がよく出している『漫画家になれる本』
みたいなものを次々と読み漁るものの、答えは結局
有名漫画家のアシスタントをしながら自分も漫画を描き、
雑誌の賞を狙うと言う展開しか分からなかった。
ましてや編集社に持ち込むなんて事は
この田舎に居たのでは不可能と言ってもイイ。
龍一が知らないだけで他に手段はいくらでもあったかもしれないが、
彼の持ってる情報はこれだけだった。
頭の中で想像する。
数万円握りしめて東京へ、漫画家先生を訪ねてアシスタントをさせてもらう、
住むところも無いので住み込みを土下座でお願いする・・・
しかし想像には必ず悪い展開が訪れる・・・
断られる、帰る手段がない、野宿する、のたれ死ぬ。
今思えば埼玉に兄2人、長男の常盤 善幸(ときわ よしゆき)と
次男の常盤 雅幸(ときわ まさゆき)が居るので、
そこに世話になるのが安牌だったのだが、
埼玉が東京のすぐ側というのも知らなかった。
とは言え東京へ出る勇気が無かったのも正直なところである。
ここで龍一は作品を送っても賞に参加できると知り
渾身の一本を完成させて、とある雑誌の月間賞に応募してみた。
誰にも内緒で次の月の雑誌の発売を待つ龍一の心は、
発売日が近づく度にドキドキを増して行った。
そしてついに来た雑誌の発売日。
平常心を保ちつつ雑誌を購入し、自転車を漕いだ。
急ぎたい気持ちを抑えつつ、いつもよりのんびりと。
家に着くと部屋に急いだ。
玄関上がって即右に部屋があるので急がずとも即部屋なのだが。
いつも読んでる漫画を飛ばし、月間マンガ大賞の発表ページへ急ぐ。
答えはソッコーで出た。
落選、佳作にも入らず。
龍一は雑誌をそのままゴミ箱へ捨ててしまい、ボーッとした。
悲しいとか悔しいとか、そういう気持ちは無かった。
ただただボーッとしてしまった。
毎日描いていた漫画もやめ、イラストも描かず数日が過ぎたある日、
龍一が送った漫画が返却されてきた。
『落選作品』そう思うと龍一は開ける気も起きなかった。
それから更に数日後、邪魔になった落選作品を捨てようと思ったが、
頑張って描いた作品だったので、もう一度見たくなって包みを開けた。
すると1枚の封筒が落ちて来たので、中身を確認して見ると手紙が入っていた。
『桜坂龍一さんへ、この度の月間大賞への応募ありがとうございました、
残念ですが落選となりましたが、編集を担当している私から、どうしても
お伝えしたいことがあり手紙を入れさせていただきました。
この度の桜坂さんの作品は、中学生とは思えない恐ろしさすら感じる画力に
私は正直驚かされました、しかしながら桜坂さんの為にはっきり言いますが、
物語の起承転結がとても甘く、独りよがりさを感じました。
画力は既にプロの領域です、小説をたくさん読んだり、映画をたくさん見て、
物語の組み立て方を勉強してください、次の挑戦を楽しみに待っています』
わざわざ編集の方が手書きで龍一の為に手紙を書いてくれたのだった。
龍一の中に希望の光が差し込んだ。
『画力はプロの領域・・・?え?そうなの?』
なんと心強い言葉だろうか、一度しか挑戦していない投稿だが、
渾身の1本だっただけにショックも大きく、
やる気の炎が消えかけていた心がまた熱く燃えだしたのを感じた。
人には言えない自慢でしかない言葉だが、口に出して言った。
『絵はプロレベルだ!』
すっかり自信が回復した龍一はすぐさま机に向かい、
物語を作り始めた。
この頃になると、龍一の周囲に若干の変化が出始めていた。
いわゆる不良との付き合いが増えたことだ。
当然悪い付き合いをしているわけではなく、不良が寄って来るのだ。
それは『美術の課題』が絡んでいた。
美術は作品提出しないと点数にならず、不良どもを苦しめた。
出すだけでも良いのに不良たちはそれすらできなかったのだ。
そこで絵が得意な龍一に1人の不良が
1枚100円で作品の完成を願い出たのが始まりだった。
噂は広がり、不良たちが次々と龍一の家を訪れ、作品の依頼をすることになった。
龍一は依頼されたらその不良の過去の作品を見せてもらったり、
無い場合はその場で犬を描いてみて、と簡単なテストをした。
これは依頼者の画力と画風を見る為だった。
龍一の特殊能力の一つに『完全擬態』があった。
その人に完全に擬態する事、つまりそっくりに描く事だった。
それは卒業まで美術の先生の目を欺き続ける程の技術だった。
そうしているうちに不良たちと距離が縮まり仲良くなっていった。
付き合ってみると気さくな奴らが多く、正直でわかりやすい。
依頼しに来て完成まで帰らず部屋に居る不良も居た。
龍一は不良たちから貰ったお金を缶に貯め込んでおり、
こういう帰らずに待つスタイルの不良の為に煙草を買ったり
ジュースを買うために使っていたのだった。
一緒に煙草を吸いながら特に接点はないものの、話しをしてみる龍一。
意外にもクラスの真面目な女の子に恋心を描いていたり、
新聞配達をして家計を助けている不良なんかも居ることを知る。
龍一は不良と言う者を少し勘違いしていたことに気付かされた。
自分の知っている普通のクラスメイトよりもよっぽど人間らしいと感じた。
真っすぐで正直な部分がとても多かったのだ。
『あ・・・』龍一は気が付いた。
煙草や喧嘩が不良と言うのなら俺もか・・・と。
そして龍一が不良の美術の依頼を承るのには意味があった。
【絵の練習】である。
完全擬態の特殊能力を使い、次々と色んな人に擬態して描く事で
自分の引き出しを増やし、挑戦する勇気を身につけ、
経験と自信をつけていけるからだった。
しかしこうなってくると、不良にも付き合ってあげなくてはならない事もあった。
それは主に他校との抗争である。
この時代はやったやられたの日常、他の中学の生徒に誰かがやられたとなれば、
報復に行かなければ男ではなかった、いや、不良ではないのだ。
いわゆる極道みたいなものである。
敵が大人数となれば、こちらも人数をかき集めて攻め込む。
その頭数に龍一は時折入れられるのだった。
今回の依頼は『湯川原中学校(ゆのかわら)』へのかち込み。
湯中は人数が多いで有名だったが、不良自体はさほど多くない、
ならば人数VS人数の戦いとなったら北中が有利。
しかも若干喧嘩経験のある龍一となれば、連れて行くには適切な人材だった。
聞けば湯中の生徒数人で取り囲み、北中の真面目君1人をカツアゲしたと聞く。
目標はその数人・・・ではなく、湯中を潰す事。
とある日の放課後、北中の不良約20人が集結し、湯中へ向かう事になった。
バットを引きずり悪ぶる者、メリケンサックをはめる者、
空手経験者は軽くウォームアップをし、ボクシング経験者は歩きながらシャドウをする。
なんとも恐ろしい集団の行進に、厳つい男性ですらその道を歩くのを避けた。
意味のない喧嘩に興味がない龍一はいつも途中で姿を消す。
この日も居なくなるチャンスを探していた。
北中からは結構な移動距離だった、40分ほど歩いただろうか、
とうとう湯中に到着してしまった。
北中には番格と言う者が居ない特殊な学校。
言い換えれば誰もが学校の看板を背負っているのだ。
となると誰もがなかなかの強さを誇っているのも事実。
そいつらが集団で校門の前に並び『北中の生徒にカツアゲしたやつ出てこい』
と叫ぶのだから迫力も相当なものだった。
湯中の不良たちがなんだなんだと出て来た、現場の雰囲気はデモ隊VS警官隊。
一触即発の状態で互いが罵声怒声を浴びせる時間となった。
この時間が割と逃げやすいことを知る龍一は、ゆっくり後ずさりして
角を曲がった時、ドン!と何かにぶつかった。
『痛ぁい!』
湯中の女子生徒を転ばせてしまった龍一は『、ごめんなさい、大丈夫ですか?』
ととっさに手を差し伸べると、その少女はとっさにその手を掴んできたので
グイッ引き起こした。
手を握りしめたままその女子生徒が言った。
『あ!龍一君!』
え?と驚き女子生徒の顔を見ると靖子ちゃんだった。
そんな事はまだまだ先の事のように考えていた龍一だったが、
ふと自分も考えているふりをしてみるが5分も持たずに、
頭の中は漫画の物語でいっぱいになる。
この頃の龍一の夢は『漫画家』だった。
でもインターネットも普及しておらず、
漫画家になるにはどうしたらいいのかもわからなかった。
そのため、漫画家先生がよく出している『漫画家になれる本』
みたいなものを次々と読み漁るものの、答えは結局
有名漫画家のアシスタントをしながら自分も漫画を描き、
雑誌の賞を狙うと言う展開しか分からなかった。
ましてや編集社に持ち込むなんて事は
この田舎に居たのでは不可能と言ってもイイ。
龍一が知らないだけで他に手段はいくらでもあったかもしれないが、
彼の持ってる情報はこれだけだった。
頭の中で想像する。
数万円握りしめて東京へ、漫画家先生を訪ねてアシスタントをさせてもらう、
住むところも無いので住み込みを土下座でお願いする・・・
しかし想像には必ず悪い展開が訪れる・・・
断られる、帰る手段がない、野宿する、のたれ死ぬ。
今思えば埼玉に兄2人、長男の常盤 善幸(ときわ よしゆき)と
次男の常盤 雅幸(ときわ まさゆき)が居るので、
そこに世話になるのが安牌だったのだが、
埼玉が東京のすぐ側というのも知らなかった。
とは言え東京へ出る勇気が無かったのも正直なところである。
ここで龍一は作品を送っても賞に参加できると知り
渾身の一本を完成させて、とある雑誌の月間賞に応募してみた。
誰にも内緒で次の月の雑誌の発売を待つ龍一の心は、
発売日が近づく度にドキドキを増して行った。
そしてついに来た雑誌の発売日。
平常心を保ちつつ雑誌を購入し、自転車を漕いだ。
急ぎたい気持ちを抑えつつ、いつもよりのんびりと。
家に着くと部屋に急いだ。
玄関上がって即右に部屋があるので急がずとも即部屋なのだが。
いつも読んでる漫画を飛ばし、月間マンガ大賞の発表ページへ急ぐ。
答えはソッコーで出た。
落選、佳作にも入らず。
龍一は雑誌をそのままゴミ箱へ捨ててしまい、ボーッとした。
悲しいとか悔しいとか、そういう気持ちは無かった。
ただただボーッとしてしまった。
毎日描いていた漫画もやめ、イラストも描かず数日が過ぎたある日、
龍一が送った漫画が返却されてきた。
『落選作品』そう思うと龍一は開ける気も起きなかった。
それから更に数日後、邪魔になった落選作品を捨てようと思ったが、
頑張って描いた作品だったので、もう一度見たくなって包みを開けた。
すると1枚の封筒が落ちて来たので、中身を確認して見ると手紙が入っていた。
『桜坂龍一さんへ、この度の月間大賞への応募ありがとうございました、
残念ですが落選となりましたが、編集を担当している私から、どうしても
お伝えしたいことがあり手紙を入れさせていただきました。
この度の桜坂さんの作品は、中学生とは思えない恐ろしさすら感じる画力に
私は正直驚かされました、しかしながら桜坂さんの為にはっきり言いますが、
物語の起承転結がとても甘く、独りよがりさを感じました。
画力は既にプロの領域です、小説をたくさん読んだり、映画をたくさん見て、
物語の組み立て方を勉強してください、次の挑戦を楽しみに待っています』
わざわざ編集の方が手書きで龍一の為に手紙を書いてくれたのだった。
龍一の中に希望の光が差し込んだ。
『画力はプロの領域・・・?え?そうなの?』
なんと心強い言葉だろうか、一度しか挑戦していない投稿だが、
渾身の1本だっただけにショックも大きく、
やる気の炎が消えかけていた心がまた熱く燃えだしたのを感じた。
人には言えない自慢でしかない言葉だが、口に出して言った。
『絵はプロレベルだ!』
すっかり自信が回復した龍一はすぐさま机に向かい、
物語を作り始めた。
この頃になると、龍一の周囲に若干の変化が出始めていた。
いわゆる不良との付き合いが増えたことだ。
当然悪い付き合いをしているわけではなく、不良が寄って来るのだ。
それは『美術の課題』が絡んでいた。
美術は作品提出しないと点数にならず、不良どもを苦しめた。
出すだけでも良いのに不良たちはそれすらできなかったのだ。
そこで絵が得意な龍一に1人の不良が
1枚100円で作品の完成を願い出たのが始まりだった。
噂は広がり、不良たちが次々と龍一の家を訪れ、作品の依頼をすることになった。
龍一は依頼されたらその不良の過去の作品を見せてもらったり、
無い場合はその場で犬を描いてみて、と簡単なテストをした。
これは依頼者の画力と画風を見る為だった。
龍一の特殊能力の一つに『完全擬態』があった。
その人に完全に擬態する事、つまりそっくりに描く事だった。
それは卒業まで美術の先生の目を欺き続ける程の技術だった。
そうしているうちに不良たちと距離が縮まり仲良くなっていった。
付き合ってみると気さくな奴らが多く、正直でわかりやすい。
依頼しに来て完成まで帰らず部屋に居る不良も居た。
龍一は不良たちから貰ったお金を缶に貯め込んでおり、
こういう帰らずに待つスタイルの不良の為に煙草を買ったり
ジュースを買うために使っていたのだった。
一緒に煙草を吸いながら特に接点はないものの、話しをしてみる龍一。
意外にもクラスの真面目な女の子に恋心を描いていたり、
新聞配達をして家計を助けている不良なんかも居ることを知る。
龍一は不良と言う者を少し勘違いしていたことに気付かされた。
自分の知っている普通のクラスメイトよりもよっぽど人間らしいと感じた。
真っすぐで正直な部分がとても多かったのだ。
『あ・・・』龍一は気が付いた。
煙草や喧嘩が不良と言うのなら俺もか・・・と。
そして龍一が不良の美術の依頼を承るのには意味があった。
【絵の練習】である。
完全擬態の特殊能力を使い、次々と色んな人に擬態して描く事で
自分の引き出しを増やし、挑戦する勇気を身につけ、
経験と自信をつけていけるからだった。
しかしこうなってくると、不良にも付き合ってあげなくてはならない事もあった。
それは主に他校との抗争である。
この時代はやったやられたの日常、他の中学の生徒に誰かがやられたとなれば、
報復に行かなければ男ではなかった、いや、不良ではないのだ。
いわゆる極道みたいなものである。
敵が大人数となれば、こちらも人数をかき集めて攻め込む。
その頭数に龍一は時折入れられるのだった。
今回の依頼は『湯川原中学校(ゆのかわら)』へのかち込み。
湯中は人数が多いで有名だったが、不良自体はさほど多くない、
ならば人数VS人数の戦いとなったら北中が有利。
しかも若干喧嘩経験のある龍一となれば、連れて行くには適切な人材だった。
聞けば湯中の生徒数人で取り囲み、北中の真面目君1人をカツアゲしたと聞く。
目標はその数人・・・ではなく、湯中を潰す事。
とある日の放課後、北中の不良約20人が集結し、湯中へ向かう事になった。
バットを引きずり悪ぶる者、メリケンサックをはめる者、
空手経験者は軽くウォームアップをし、ボクシング経験者は歩きながらシャドウをする。
なんとも恐ろしい集団の行進に、厳つい男性ですらその道を歩くのを避けた。
意味のない喧嘩に興味がない龍一はいつも途中で姿を消す。
この日も居なくなるチャンスを探していた。
北中からは結構な移動距離だった、40分ほど歩いただろうか、
とうとう湯中に到着してしまった。
北中には番格と言う者が居ない特殊な学校。
言い換えれば誰もが学校の看板を背負っているのだ。
となると誰もがなかなかの強さを誇っているのも事実。
そいつらが集団で校門の前に並び『北中の生徒にカツアゲしたやつ出てこい』
と叫ぶのだから迫力も相当なものだった。
湯中の不良たちがなんだなんだと出て来た、現場の雰囲気はデモ隊VS警官隊。
一触即発の状態で互いが罵声怒声を浴びせる時間となった。
この時間が割と逃げやすいことを知る龍一は、ゆっくり後ずさりして
角を曲がった時、ドン!と何かにぶつかった。
『痛ぁい!』
湯中の女子生徒を転ばせてしまった龍一は『、ごめんなさい、大丈夫ですか?』
ととっさに手を差し伸べると、その少女はとっさにその手を掴んできたので
グイッ引き起こした。
手を握りしめたままその女子生徒が言った。
『あ!龍一君!』
え?と驚き女子生徒の顔を見ると靖子ちゃんだった。
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