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海上の高い位置に浮遊する四人の足元から数十メートル下に、上半分が焼き崩れた半球型の魔物が浮かんでいる。
直径一キロほどある山のようだったが、今は平坦な島のようだ。
辺りはすっかり暗くなり、海岸沿いの民家は避難が済んでいるのか真っ暗で、少ない街灯と海岸の自衛隊の照明灯の光が周辺を照らしている。
アキラが両手で抱える程の明るい球体を出しその場に浮かべると、魔物の様子がよく見えるようになった。
簡易的な灯りだろうが、魔物の向こう端まで見える程明るい。
あわよくば電撃で魔核が破壊されていれば、それが無理でもせめて見えていればと思ったが、それらしき物は見当たらない。
半日前にツバサが食べられた口の中も雷撃で焼かれたようで、真っ赤だった肉壁も所々黒くなっている。
「ちょっと焼肉っぽい匂い・・・?」
「姉さん、お腹壊すよ」
「ミコト、大丈夫か?」
「まだビリビリきてるぅ~」
ミコトの髪の毛が静電気でフワフワと広がっている。
「あれ?そういえばミコトもアキラも杖は?」
いつの間にか手に持っていた杖がない。
「あれ、ホントだ」
「あ~・・・まぁいいや。アレ、前の世界にあった杖ほど魔力の浸透率がよくなくてさ。まぁ道具に頼ってるようじゃまだ二流って事さ」
失くしただけだろうが、格好よく言い換えている。
「と、いう訳で。アキラ、あんたはもう免許皆伝だよ!」
「免許って何さ・・・」
「もう一人前の魔術師って事さ!世界一の魔術師が言うんだ。もう立派な魔術師として・・・世界を救っといで」
「一体何を」
アキラの言葉を最後まで聞く事なくミコトとユウトが下に、魔物の肉の地面の縁に降りた。
慌ててアキラとツバサも下に降りると、二人は魔物の身体下半分から伸びるこれまでで一番太い触手と戦っている。
「ちょっと!師匠どういう事だよ!」
「この巨体を動かしてる触手が下にある事は予想してたんだ、コイツらを止めなきゃ魔核の破壊なんて出来ないだろ?」
「じゃあ僕が止めていても」
「あたしはもう満身創痍、アンタはまだまだ元気いっぱい。どっちが魔核を破壊するべきかなんて明白だろ?」
「そんな・・・」
「え、何?二人で話し合ってたの?!」
ツバサも触手の相手をしながらユウトに向かって叫ぶ。巨体を支えて移動していた太い触手は一撃、二撃では切れない程の強度だ。
「アイツだけじゃないさ!お前もだぞ!」
ゴルフのスイングのように下から剣をすくい上げ、太い触手を切り落とす。
「お前はムラっ気があるが、気持ちを上手く乗せられれば俺より強い!別に騎士団を率いる訳じゃないんだ、アキラと一緒に行って、思いっきりやってこい!」
尊敬する上司にここまで言われて奮い立たなければ騎士ではない。
寂しいような気持ちもあるが、二度と会えないわけじゃない。
死んだってまた会えたんだから。
それに、他の誰でもないアキラと一緒なんだ。
きっと大丈夫。
太い触手の一本をやっと切り落として、アキラの腕を取る。
「アキラ、行こう」
「でも、姉さん・・・」
不安そうなその顔は守ってあげていた子供の頃と同じだ。
「大丈夫、あたしが守ってあげる」
ニッコリと笑うと、アキラの顔がハッとする。
が、すぐに力が抜けた顔になり
「そうだね、姉さんがいれば百人力だ」
と言うとミコトとユウトに向かって叫んだ。
「もし無理そうなら早めに言ってね!すぐ来てあげるからさ!」
思わず噴き出したツバサも後に続く。
「やっぱり一緒に行くって言うなら待っといてあげるよ~?」
「うるさいぞ!」
「さっさと行きな、馬鹿ガキ共!」
笑って走り出す二人と送り出す二人。
アキラとツバサは魔物の中心へ向かって走り出した。
「とりあえず真ん中に向かってるけどさ、端っこにあるって事はないよね!?」
細めの触手に刀を掴まれるが、クルクルと軽く回して振りほどきスパリと切り落とす。
ミコトとユウトが海に近い場所に居るおかげで海中から出てきた太い触手はそちらに集中してはいる。
だが電撃を生き残った焼け野原ならぬ焼け肉地の縁に生えた数少ない細い触手が二人を襲ってくるのだ。
魔核を見つけようと探知魔術を駆使するアキラを守るべく、走りながら刀を振るっている。
赤とピンクが混じる肉の地面は非常に走りにくく、焦げた黒い部分を選んで走っている。
あ、そっか、飛べばいいのか。
よく見ると、アキラは肉から十センチ程の空中を飛んでいる。
教えてよ~と思いつつも、こっそり浮遊魔術を使った。
「多分、こっちで合ってる。大きな身体で包まれてた時はわからなかったけど、強い魔力を感じる」
目を閉じたまましばらく辺りを飛んでいたが、その身体がピタリと止まった。
「ここだ。この下にある」
アキラの目線がある一点を睨んで動かない。
「じゃあ一丁あたしがほじくって・・・」
「姉さん、離れて」
アキラの左手の動きに合わせて、腕まくりしたツバサの身体がすうっと後ろに動かされる。
アキラの右の人差し指がその場所を指差すと、覆っていた肉が飛び散った。
そして、黒曜の輝きを放つ巨大な宝石が現れる。
「これが、魔核・・・」
その大きさは直径三メートルほど。
だがその大きさよりも、その美しさに目を奪われる。
どこまでも暗く全てを拒絶する黒色。
だが同時にその表面の艶は引き込まれるような輝きを放っている。
「姉さん!」
アキラの声に意識を取り戻した時、ツバサの左手が魔核に触れた。
気付かないうちに魔核に手を伸ばしていたのだ。
「あああああああああ!!」
その瞬間に脳裏に流れ込んでくる強い、強い感情。
そして魔核の元となった人の途切れ途切れの記憶。
帝国軍に追われ、逃げ、家族と離れ、奴隷となり、虐げられ、捕らえられ、実験に使われた記憶。
流れ込んでくる感情は、飢えと痛みと苦しみ、もう人を食べたくないという感情と反するように何もかも食べたくて堪らないという貪欲な欲望。
そして早く楽になりたい、家族に会いたいという哀しい気持ち。
アキラに腕を引っ張られ魔核から離れるその一瞬で、ツバサはその全てを感じた。
いつ変貌したのか、その髪と涙を流す瞳は火のような赤色に変わっている。
「姉さん・・・大丈夫?」
涙が止まらないツバサを抱きしめる。
「うん・・・コレは、ダメだね。存在しちゃいけないし、産みだされちゃいけなかった魔物だよ。なんて・・・なんて可哀想な・・・」
声にならない。
前世も今世も、大切な人達に囲まれ好きな事をして暮らしている自分には到底理解し切れない、容易く同情なんて出来ない哀しき魔物の心。
でも、今の自分にも出来る事はある。
「壊そう。この子を助けてあげなきゃ」
魔核に触れても離さなかった刀を握る手に力が入る。
「わかった。まずは、僕がやる」
直径一キロほどある山のようだったが、今は平坦な島のようだ。
辺りはすっかり暗くなり、海岸沿いの民家は避難が済んでいるのか真っ暗で、少ない街灯と海岸の自衛隊の照明灯の光が周辺を照らしている。
アキラが両手で抱える程の明るい球体を出しその場に浮かべると、魔物の様子がよく見えるようになった。
簡易的な灯りだろうが、魔物の向こう端まで見える程明るい。
あわよくば電撃で魔核が破壊されていれば、それが無理でもせめて見えていればと思ったが、それらしき物は見当たらない。
半日前にツバサが食べられた口の中も雷撃で焼かれたようで、真っ赤だった肉壁も所々黒くなっている。
「ちょっと焼肉っぽい匂い・・・?」
「姉さん、お腹壊すよ」
「ミコト、大丈夫か?」
「まだビリビリきてるぅ~」
ミコトの髪の毛が静電気でフワフワと広がっている。
「あれ?そういえばミコトもアキラも杖は?」
いつの間にか手に持っていた杖がない。
「あれ、ホントだ」
「あ~・・・まぁいいや。アレ、前の世界にあった杖ほど魔力の浸透率がよくなくてさ。まぁ道具に頼ってるようじゃまだ二流って事さ」
失くしただけだろうが、格好よく言い換えている。
「と、いう訳で。アキラ、あんたはもう免許皆伝だよ!」
「免許って何さ・・・」
「もう一人前の魔術師って事さ!世界一の魔術師が言うんだ。もう立派な魔術師として・・・世界を救っといで」
「一体何を」
アキラの言葉を最後まで聞く事なくミコトとユウトが下に、魔物の肉の地面の縁に降りた。
慌ててアキラとツバサも下に降りると、二人は魔物の身体下半分から伸びるこれまでで一番太い触手と戦っている。
「ちょっと!師匠どういう事だよ!」
「この巨体を動かしてる触手が下にある事は予想してたんだ、コイツらを止めなきゃ魔核の破壊なんて出来ないだろ?」
「じゃあ僕が止めていても」
「あたしはもう満身創痍、アンタはまだまだ元気いっぱい。どっちが魔核を破壊するべきかなんて明白だろ?」
「そんな・・・」
「え、何?二人で話し合ってたの?!」
ツバサも触手の相手をしながらユウトに向かって叫ぶ。巨体を支えて移動していた太い触手は一撃、二撃では切れない程の強度だ。
「アイツだけじゃないさ!お前もだぞ!」
ゴルフのスイングのように下から剣をすくい上げ、太い触手を切り落とす。
「お前はムラっ気があるが、気持ちを上手く乗せられれば俺より強い!別に騎士団を率いる訳じゃないんだ、アキラと一緒に行って、思いっきりやってこい!」
尊敬する上司にここまで言われて奮い立たなければ騎士ではない。
寂しいような気持ちもあるが、二度と会えないわけじゃない。
死んだってまた会えたんだから。
それに、他の誰でもないアキラと一緒なんだ。
きっと大丈夫。
太い触手の一本をやっと切り落として、アキラの腕を取る。
「アキラ、行こう」
「でも、姉さん・・・」
不安そうなその顔は守ってあげていた子供の頃と同じだ。
「大丈夫、あたしが守ってあげる」
ニッコリと笑うと、アキラの顔がハッとする。
が、すぐに力が抜けた顔になり
「そうだね、姉さんがいれば百人力だ」
と言うとミコトとユウトに向かって叫んだ。
「もし無理そうなら早めに言ってね!すぐ来てあげるからさ!」
思わず噴き出したツバサも後に続く。
「やっぱり一緒に行くって言うなら待っといてあげるよ~?」
「うるさいぞ!」
「さっさと行きな、馬鹿ガキ共!」
笑って走り出す二人と送り出す二人。
アキラとツバサは魔物の中心へ向かって走り出した。
「とりあえず真ん中に向かってるけどさ、端っこにあるって事はないよね!?」
細めの触手に刀を掴まれるが、クルクルと軽く回して振りほどきスパリと切り落とす。
ミコトとユウトが海に近い場所に居るおかげで海中から出てきた太い触手はそちらに集中してはいる。
だが電撃を生き残った焼け野原ならぬ焼け肉地の縁に生えた数少ない細い触手が二人を襲ってくるのだ。
魔核を見つけようと探知魔術を駆使するアキラを守るべく、走りながら刀を振るっている。
赤とピンクが混じる肉の地面は非常に走りにくく、焦げた黒い部分を選んで走っている。
あ、そっか、飛べばいいのか。
よく見ると、アキラは肉から十センチ程の空中を飛んでいる。
教えてよ~と思いつつも、こっそり浮遊魔術を使った。
「多分、こっちで合ってる。大きな身体で包まれてた時はわからなかったけど、強い魔力を感じる」
目を閉じたまましばらく辺りを飛んでいたが、その身体がピタリと止まった。
「ここだ。この下にある」
アキラの目線がある一点を睨んで動かない。
「じゃあ一丁あたしがほじくって・・・」
「姉さん、離れて」
アキラの左手の動きに合わせて、腕まくりしたツバサの身体がすうっと後ろに動かされる。
アキラの右の人差し指がその場所を指差すと、覆っていた肉が飛び散った。
そして、黒曜の輝きを放つ巨大な宝石が現れる。
「これが、魔核・・・」
その大きさは直径三メートルほど。
だがその大きさよりも、その美しさに目を奪われる。
どこまでも暗く全てを拒絶する黒色。
だが同時にその表面の艶は引き込まれるような輝きを放っている。
「姉さん!」
アキラの声に意識を取り戻した時、ツバサの左手が魔核に触れた。
気付かないうちに魔核に手を伸ばしていたのだ。
「あああああああああ!!」
その瞬間に脳裏に流れ込んでくる強い、強い感情。
そして魔核の元となった人の途切れ途切れの記憶。
帝国軍に追われ、逃げ、家族と離れ、奴隷となり、虐げられ、捕らえられ、実験に使われた記憶。
流れ込んでくる感情は、飢えと痛みと苦しみ、もう人を食べたくないという感情と反するように何もかも食べたくて堪らないという貪欲な欲望。
そして早く楽になりたい、家族に会いたいという哀しい気持ち。
アキラに腕を引っ張られ魔核から離れるその一瞬で、ツバサはその全てを感じた。
いつ変貌したのか、その髪と涙を流す瞳は火のような赤色に変わっている。
「姉さん・・・大丈夫?」
涙が止まらないツバサを抱きしめる。
「うん・・・コレは、ダメだね。存在しちゃいけないし、産みだされちゃいけなかった魔物だよ。なんて・・・なんて可哀想な・・・」
声にならない。
前世も今世も、大切な人達に囲まれ好きな事をして暮らしている自分には到底理解し切れない、容易く同情なんて出来ない哀しき魔物の心。
でも、今の自分にも出来る事はある。
「壊そう。この子を助けてあげなきゃ」
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