忠誠心は、偽りの仮面で。

はらぺこ

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共闘と天眼

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 南棟――旧研究エリア。

蛍光灯が不規則に明滅する。
かつて“観察施設”だったこの場所は、今は誰も観察していない。
 
アヤメの端末が短く電子音を鳴らした。

「第9セクター、データホストの動作ログ……異常あり。誰かがアクセスして、中の構造を“組み替えてる”」

「誰かが、情報資産の“偽装”にかかってるってことか」リョウが即座に反応した。

「……敵に先を越された?」

「わからない。でも、そこに“トラップ”を仕掛けていった可能性もあるわ」

アヤメの瞳が僅かに細まる。その右目は、何も映していないようでいて、何かを探っているようにも見える。

「私は、あそこに踏み込んだチームの一つ──《ユニット01》が急に沈黙したことを警戒しているの」

「通信が遮断された?」

「いえ。“更新ログ”が止まってる。つまり、情報収集行為そのものを“やめた”か、“不可能になった”」

「どっちにせよ……不自然だな」とシン。

その瞬間、廊下の奥で短い警報音が鳴った。


《警告:近接エリアで非公式アクセスを検知》


ナツミが即座に前へ出た。バイオレットは壁沿いに回り、携帯型の偵察ドローンを飛ばす。

──すぐに判明する。
アクセス元は、別のチーム……《ユニット04》。所属者は不明。だが、その端末にはすでにアヤメたちの“コードネーム”が記録されていた。

「……こっちの存在を認識してる。敵にマークされてるわ」

アヤメが呟いた瞬間、彼女の右目が光の反射を受けて、ぎらりと冷たく光った。まるで“人間の目ではない”ような、鈍く機械じみた色。

「アヤメ、その目は……」
シンが思わず口にしたとき、アヤメはひやりとする感覚を覚えた。
この男は、自分の本質に触れようとしている。
隠し続けてきた“真実”が、わずかに揺らいでいる。
彼女は即座に目を伏せ、無表情な仮面を貼り直した。
「後で話すわ。今は、判断を一つにしないと、私たちが負ける」

 
彼女は、右目だけで世界を見ることに慣れていた。
左目を、使わなければならない状況は——
いつだって、最悪のときだ。
 

 だからこそ、彼女は“右目”で、この世界に溶け込もうとしてきた。
しかし、今、彼女の目の前には、彼女の隠し事を、真実を知りたいと願う人間がいる。


過去の記憶が、断片的に蘇る。
 
 
――「どうして私はここにいるの?」「私に、何をしてほしいの?」


彼女は、その質問に答えたいという衝動を抑え、即座に応えた。

「二手に分かれる。あなたたちは反対ルートを取って、ホストに回り込んで。バイオレット、ナツミ、私が陽動する」
「囮になる気か? 危険すぎる」

リョウの静かな反論に、アヤメは目を伏せる。

「いいの。“最下位”になれば、チームごと“記録から消去される”」

「……え?」

「さっきナツミに情報を“盗んで”もらったの。成績最下位のチームは、“全データ削除対象”──実質的な“追放”。それがこのゲームの真のルール」

リョウとシン、ニコが凍りつく。

「嘘……でしょう?」

アヤメは、微かに笑った。
「今さら、怖い?」

「怖くねぇよ。ただ、よりによってそんなルールを……」
リョウが答える。

「国家は、生き残る人間しか選ばない」
 
 
そう言い残すと、アヤメたちは別ルートへと走っていった。

──15分後:旧データホスト前

シンたちは、南棟地下の端末に到着した。目の前にあるのは、古びたアクセス端末。だが、そのディスプレイには既に何者かが残したデータログが並んでいた。

「これは……?」

「罠だ」リョウが即座に判断した。

「“自チーム”の情報資産を、わざと漏洩させたかのように見せかけた捏造ログ。もし他チームがこれを信じて本部に報告すれば、逆に失点する」

「誰が?」

その瞬間、天井裏から微かな金属音。

ニコが反射的に身を伏せた直後──

ドンッ!

廊下の照明が一斉に落ち、赤色警告灯が回り始める。

「来た……!」

暗闇に浮かび上がったのは、黒いマスクを装着したチーム《ユニット04》の影。おそらく、この“デマログ”を利用して、アヤメたちを引きずり落とそうとした者たち。


だが──その直後。


背後の通路から、鮮やかな煙幕と閃光が放たれた。


「伏せて!」


アヤメの声と同時に、彼女たちが再登場。ナツミの放った閃光弾が敵の視界を潰し、バイオレットの短距離妨害電波が端末を一時停止させる。


「今よ、行って!」

シンたちは、敵の注意が逸れた瞬間に端末を回収し、情報資産を記録。捏造データの罠を見破り、逆に証拠として保存した。協力関係の、最初の成果だった。

 
「あれ…?ニコの…?」

 

ニコの端末。
そこにあったはずのキーホルダーが、消えている。



アヤメの胸に、小さな棘のような違和感が残った。
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