生意気かわいい幼なじみ

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生意気かわいい幼なじみ

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 ロンの実家は村に一軒しかないパン屋だ。
 
 店のパンは村人に愛され、「これが村の味」と言ってもらえるのを誇りに思っているので、家族皆で毎日パン作りに精を出していた。
 息子のロンも勿論そうである。
 店は姉夫婦が継ぐが、自分も職人として店を手伝うつもりで、一生懸命パン作りを覚えているところだった。

 そんなある日、隣村の一軒しかないパン屋の主人がぎっくり腰になってしまいパンを作れなくなってしまった。
 だからと言って、村人に主人が良くなるまで主食のパンを我慢しろとは流石に言えない。と、そこのパン屋のおかみさんに頼まれ、ロンの家がそちらの村の分も作る事になったのだ。

 
「明日から、いつもより早く起きて隣村の分までパンを作って、オレが一人で隣村へパンを売りに行く事になったんだ」
 朝、パンを買いに行った時、ロンからそんな話を聞いたレオンは、慌てて警備隊長の所へ相談に行った。
 

 この村には前村長の創設した警備隊がある。
 最初こそ魔獣から村を守る事を目的に作られた警備隊だが、大型魔獣を殆ど討伐してしまった今では、それ程出番がある訳ではない。
 しかし、ちょっとしたいざこざにも直ぐ対応できるので、村になくてはならない存在になっている。
 それに警備隊は主に親のいない子供や継げる家業のない者を雇っているので、この職ができて助かっている者も多い。
 幼い頃、魔獣に両親を殺されてしまい、孤児院で育ったレオンも、この警備隊と言う職に就いた一人であった。

 
「パン屋の息子を隣村まで護衛したいだと?」
「はい。明日の朝からしばらくの間、隣村までパンを売りに行くんだそうです。早朝から一人で食料を積んで出かけるなんて、強盗に合ったり事故に合ったり、もしかしたら魔獣に襲われるかもしれないでしょう? 」
 出勤したと同時に警備隊長室へ駆け込んできたレオンが突然、私的に護衛をしたいので休みが欲しいなどと言い出したので、警備隊長は驚いた。

「……お前の気持ちも分かるが、こっちも忙しいんだ。急に休みにはできないぞ」
「分かってます。無理なら退職してロン専属の護衛に……」
「馬鹿か? 一般人が専属護衛なんて雇える訳がないだろう…………。分かった、その間は午後番か、深夜番のローテーションに変えてきっちりと働いてもらうからな」
「ありがとう隊長。流石、話が分かりますね! 」
「全く、足元見やがって……こっちもお前に辞められたら困るんだよ」
「そうなんですか? 」
 嬉しくて、隊長の背中をバンバン叩くと、隊長は呆れたようにレオンを見た。
 
「パン屋の息子って、言っちゃ悪いが、あの、不愛想で気の強そうな子だろう? お前ならあの子じゃなくても直ぐに嫁が見つかるだろうに」
「何言ってるんですか、俺にはロンの代わりなんていないんですよ。それに孤児の俺と結婚したいような奴がいると思いますか? 俺はロンが結婚するまで見守ってやりたいだけなんです」
 
 レオンの幼なじみのパン屋の息子ロンは、一見小柄で可愛らしいのだが、職人気質で気難しいところがあり、その上口が悪い。
 本人もそんな自分が嫌いらしく、子供の頃は変わろうと試みていたが上手くいかなかったようだ。
 落ち込んでこっそり泣いているところを、レオンも何度か見た事があった。
 
 だが、レオンはそんなロンが好きなのだ。
 レオンが孤児になってしまっても変わらず仲良くしてくれて、馬鹿にしてきた子供どころか大人にだって怯まずに言い返して守ってくれたのは彼なのだ。
 だから変わらなくてもいい。
 何があっても自分だけはロンの味方であろうと、彼を一生守ろうと決めた。
 警備隊に入ったのだって、そんな気持ちがあったからだ。
 勿論、魔物に両親を殺された恨みや、復讐心があって警備隊に入ったのもある。
 しかし、今の一番はロンだ。
 
 そんな事情を隊長はだいたい知っていた。
 だからレオンに護衛を許したのだ。
 同僚も、いつもレオンが真面目に働いているのを知っているし、困った時にいちばん助けてくれるのは彼なので、たまに無茶を通しても笑って許してくれるだろう。
 

 *******

 
 
「レオン、忙しいのにごめんね」
「良いって、これも仕事だから気にするな。大体、一人で行くなんて、魔獣に襲われても村へ知らせにも戻れないだろうが」

 翌早朝、まだ日も明けきらない道を、馬を操るロンと、辺りに目を光らせるレオンを乗せた荷馬車が行く。
 レオンの両親が襲われた後に大規模な魔獣狩りがあり、この周りの魔獣は殆ど討伐されているので、傍から見ると少し心配しすぎの様な気もするが、やはりレオンは心配だった。
 
「……そうだね。でも、家はこの時間忙しいんだよ。急な話だったから隣村の人も備えてないだろうし、やっぱり行くしかないんだ」
「だから、話を受ける前に俺に相談しろって」
「うん、今度はそうする」

 そう言って笑うロンの笑顔が昇って来たばかりの朝日よりも眩しくて、レオンは警戒するふりをしてして辺りへ視線を流す。
 レオンが動揺しているのを知ってか知らずか、ロンは二人の間を詰めてきた。
 
「さ、寒いのか? 」
 急に距離が近付いて、ロンに聞こえてしまいそうなくらい心臓が逸る。
 レオンは頑張って平静を装ってみるが、少し挙動がおかしくなってしまった。
「うん。良いでしょ、ちょっとだけくっ付いても」
「おう……」
 
 直ぐ側に迫ったロンから香ばしいパンの匂いがする。
 すっきり刈った小麦色の髪の間から、少し赤くなった耳と首筋が目に入った。
 そんな姿を見て、一瞬ロンが自分に気があるのではないかと期待してしまったが、レオンは何度も聞かされたので知っている。
 ロンはいずれ結婚して家庭を持ちたいと思っているのだ。
 
 具体的な相手がいるのかは知らないが、家庭が持ちたいならばその相手はきっと女性だろうと思う。
 この世界、特にこういった女性の少ない地方の村では同性同士のカップルは少なくないが、子供が欲しいなら間違っても男であるレオンを選ぶことはないだろう。
 だからこそ、ロンが自分に甘えてくるのは今だけなのだと、レオンは嬉しさと切なさが入り混じった気持ちになった。
 
 だが時々、今日のように試されているのでは? と、思うような行動をされる事もある。
 そこで下手を打って、気持ちを知られて嫌われてはいけないと、レオンは日々耐えているのだ。

「……どうかした? 」
「い、いや、馭者を変わろうか? 」
「ん、大丈夫」

 村を出て麦畑を過ぎ、土手へ上がると、上流に鬱蒼と木の生い茂る森が見えてきた。
 あの森にはまだ魔獣がいる。
 
 たまに現れるのは大人なら一人でも十分対応できる弱い魔獣だが、最近、大型魔獣の姿を見たと言う報告があった。
 森は大分離れているが、気を抜く事は出来ないと、レオンは脇の長剣を自分の方へ手繰り寄せる。
 荷台の出来立てパンからも、ロンからも魔獣でも獣でも人間でも、何でも引き寄せてしまいそうな良い匂いが漂っているのだ。
 警戒するに越した事は無い。

 暫く進んで、村と村の間を流れる川に掛かる橋を越えると、また畑が見えてきた。
 あの向こうに隣村はある。
 ちらほら畑仕事をする村人の姿が見えてきたので、レオンはほっとして警戒を緩めた。

 
 
 隣村に到着すると、ロンは村のパン屋へ馬車を寄せた。
 そこではこの村のパン屋のおかみさんが待っていて、挨拶を交わすと直ぐに、二人で店の前に用意されていた台の上にパンを並べ始めた。
 レオンは馬車を預かり、店の見える草むらへ行って木に馬を繋ぐ。
 荷台に横になって仮眠をとる事にしたのだ。
 目を瞑る前に、ロンが無表情で淡々とパンを売りさばいているのが見えた。

(ロンは仕事でも他人に愛想を使ったりしないんだな)

 レオンは、ロンが自分にだけ笑顔を見せるのに優越感を覚えてニンマリと笑った。
 

「ロンちゃん、ありがとうね。うちの人、中身がたくさん入ったミルク缶を持ち上げたらぎっくり腰になっちゃったのよ。もう年だからねぇ。うちにもロンちゃんみたいな働き者の子供がいたら良かったんだけどね」

 客が引けると、おかみさんがロンにそんな事を言っているのが聞こえた。
 ここのパン屋は子供が出来なくて、レオンがいた孤児院へも跡取りになりそうな子供を探しに来ていたのをレオンは知っていたが、結局良い縁に巡り合えなかったらしい。
 
 おかみさんはお喋りが好きらしく、大した相槌も打たないロン相手なのに、その後も話が止む事は無かった。
 最終的にレオンが片付けを手伝いながら適当に話を切り上げ、ロンを回収した。
 馬車に乗り込んだ頃には、太陽が大分高い位置まで昇っていた。
 
 
 
 次の日、店が始まって少し経った頃に、レオンは買い物へ来ていた数人の女の子に声を掛けられた。
 
「お兄さん、その制服は警備隊の人ですよね。パン屋さんの護衛ですか? 」
「昨日も来てましたけど、明日も来ますか?」
「良かったらお名前を教えてください」
 
 勢いよく質問されるが、面倒臭かったので適当にあしらう。
 その時、ロンの視線を感じてそちらへ笑いかけたら顔を逸らされてしまった。
 ちょっと膨れていたのが可愛くて、レオンがつい吹き出してしまうと、ロンが気付いて耳まで赤くなった。
 
 
 *******
 
 
 それから晴れの日も雨の日も、パンを隣村へ売りに行った。
 
 流石のレオンも徹夜明けの時は辛かったが、販売中は適度に休憩できたし、ロンに会えばそんなのは吹き飛んでしまう。
 日に日に声を掛けて来る女の子が増えたが、そちらは適当にあしらって、仮眠を取るからと無視する事に決めた。
 
 しかし、女の子が声を掛けてくると、必ず帰りはロンの距離が近くなった。
 友人としてだろうが、ちょっとは妬いてくれているのかと思うとそれも嬉しい。
 毎日幸せ過ぎて、レオンは本気で警備隊を辞めてロンの専属護衛になれないか考えたが、貴族でも豪商でもないロンに身内でもない男が専属護衛に付くのはやはりおかしいと思い直して止めた。
 

 
 *******
 

 
 その日もいつものように隣町へ行くと、到着して直ぐにパン屋のおかみさんから「主人のぎっくり腰も大分良くなったから明朝からパン作りを再開したい」と言われた。
 とても感謝されて、帰る時には旦那さんも出て来て散々お礼を言われ、お土産にと果物まで貰ってしまう。

「あーあ、パンを売りに来るのも今日が最後かぁ。次、レオンと二人きりで出かけられるなんて何時になるかなぁ」
 二人が立ち去ると、ロンはそう言って大きな飴色の瞳でレオンを見つめる。
 こんな事を他の奴にしたら勘違いしてしまうだろうが。と思ったが、そこは長年の付き合いのあるレオンだ。
 平静を装って答える事に成功した。
 
「そうだな。俺が一日中休みの時、かな」
「ちぇ、そんなの中々ないじゃん。休みとか言っても大抵、半日は仕事が入ってるじゃないか」
 拗ねたように口を尖らせるロンは成人男性としては子供っぽいが、レオンにはそれさえも愛おしく見える。
「……ごめんな、警備隊は忙しいんだよ」

 話しながら馬車へ向かっていると、数人の女の子がやってきた。
 彼女たちは荷馬車の番をしているレオンの所へよく現れていたのだが、レオンは大した話しもしなかったし、笑顔を見せた覚えもない。
 それなのに何処を気に入られたのか毎日のように話しかけられていた。
 
 
「……あの、今日でパンを売りに来るのは最後って聞きました。今度は遊びに来てください。あと、良かったらこれ」
 レオンに渡すタイミングを狙っていたのだろうか。
 彼女たちは、次々に刺しゅう入りのハンカチや野の花を纏めたブーケなどを押し付けてきた。
 その勢いにレオンは呆然とする。
 困ってロンへ目を向けると、「警備隊員さまはおモテになりますね。制服も恰好良いし、剣も様になっていて」と、ロンがあからさまな嫌味を言ってきた。
 
 馬車に乗ってから、もらったものをどこかへしまおうとしていた時、レオンはハンカチに『アンナ』と言う名前と、シロツメクサの刺繍がしてあるのに目を留める。
 シロツメクサは、ロンのパン屋の看板のモチーフでもあるからだ。
 その時ロンに、シロツメクサの花言葉は「私を想って」だと教えられて戸惑う。
 
「俺はそんな気はない。向こうが勝手に」
「知ってるよ」
 
 つーんとそっぽを向いて更に不機嫌になったロンの機嫌を取ろうと、レオンは咄嗟に「今日は夕方まで時間あるから、何処かで暇つぶししていくか? 」と言ってみる。
 すると、今までの不機嫌な様はどこへ、ロンは手綱を放り出してレオンに飛びついてきた。
 
 「オレ、行きたい場所があるんだ! 」


 
 暫くして到着したのは、両方の村の間にある湖だった。
 この辺りの林は、去年、警備隊員が大勢駆り出されて大がかりな討伐をした場所だ。
 あまり人が立ちよるような場所ではないが、最近は魔獣の目撃情報もないので安全だろうと、レオンもOKを出した。
 
「それにしても、何でこの場所へ来たんだ? 」
「今日は暑いから水浴びしたいなって……」
 
 確かに今日は少し暑いくらいで、ちょっと水遊びをするのに丁度いい……くらいに思っていたのに、木陰に馬を繋ぐとロンは服を脱ぎ始めた。
 この湖は奥まっているので近付く者も少ない為、構わないと思ったのだろうか。
 ロンは上半身裸になると、レオンの隊服にも手をかけてくる。

「ちょ、ちょっと待てよ。いくら人がいないからって裸はまずい、防御が足りなすぎる。それにそこまで暑くないだろう? 」
 レオンの方はロンの日に焼けていない白い身体を目の前にして理性が飛びそうである。
 胸の赤く色付いた部分がちらっと見えてしまって、慌てて上着を脱いでロンに被せると、ロンは怒り出した。

「いいじゃん、レオンも脱いで泳ごうよ! 」
「いや、魔獣が出るかもしれないから、俺は見張っていてやるよ」
「いつもそうやって目を反らす! レオンも、本当は俺が嫌いなのか? 」
「違、そうじゃなくて」
「じゃあ、見ろよ! オレをさ! 」

 次第に押し問答に発展してしまい、レオンはどうしたものかと困ってしまう。
 ロンの沸点が良く分からないのはいつもの事だが、今日は少し焦っている様にも見えるのだ。
 
「……ごめん、言いすぎた」
 暫く何も言い返えせずにいると、レオンが困っている事に気付いたのか、ロンの方が謝った。
 ロンは怒ってしまった後に、必ずこうやって後悔する。
「いいって、身体が冷えて風邪を引いたらいけないからさ、何か着ようぜ……って、ん? 」
 その時、目の端に何かが蠢いた様な気がして、咄嗟にレオンはロンを後ろへ庇った。


 水音と共にいきなり湖から飛び出してきたのは、体長20㎝ほどの泥色の魚型の魔獣だ。
 魔獣は魚型であるにもかかわらず、陸上へと這い上がって来た。

「ロン、馬車へ戻れ! 」
 レオンはロンを自分から引き離し、腰に帯びていた剣を抜いて、気合と共に突き出してその魔獣を貫く。
 
 「うおぉーーーっ!!! 」
 
 魚型魔獣は剣に貫かれたまま苦しがって跳ね、体液をまき散らしながら甲高く不快な叫びを上げる。
 その時、鳴き声と体液の匂いに気付いて集まって来たのか、湖の中から同じ種類の魔獣が陸へ上がって来た。

「うげぇ……」
 見るのは初めてだが、レオンはこの魔獣が群れを作る種類だと知っていた。
 小さいが獰猛で何でも食べる。
 
 少しだけ陸上を移動できるので、近辺を通る人間や動物を水中へ引き摺り込んで食べる事もあるらしい。
 その上、魔獣の餌になるので、近くに別の魔獣がいるかもしれない……はっとして、レオンは剣を魔獣から引き抜いた。
 絶命しなかった魔獣は湖の方へ向かって勢いよく跳ねる……が、とたんに辺りの魔獣がそこへ集まって共食いを始めた。
 
「レオン、」
「こっちを見るな! 」
 レオンは走ってロンの待っている馬車へ向かい、転がるように乗り込むと同時に、ロンが馬車を出発させた。

 
「ロン、怪我はないか? 」
「う、うん……大丈夫」
 暫く行ってから、ロンはレオンと馬車の操縦を代わった。
 
 直ぐにロンはいそいそと服を着替え始めたが、滅多に見る事のない魔獣に出会いショックだったのだろうか、その顔色は悪い。

「あの、ごめんなさい……」
「謝んなくていいって。それより湖にあんなに沢山魔獣が住み着いていたなんてな。報告すればよく見つけたな、って隊長に褒めてもらえるぞ」
「そう……」
「そうだ、褒美に休みを貰おう。一週間くらい連休で」
 レオンはロンの緊張を解こうと、おどけて話しかけたが、ロンは俯いたままだ。

「……あのな、ロン。俺はお前を守れて良かったと思ってる。俺は怒ってなんかいないから……だから、また二人で出かけような」
「うん……」

 その後はいつもの道へ戻り、途中で馬を休ませるついでに昼食に取っておいたパンを食べた。
 帰り道では何事も無く、昼を過ぎた頃に無事に村へ戻れる事ができたのだった。
 

 
 村へ戻ると、レオンはロンと馬を家まで送り届けてから警備隊へ赴いて湖で魔獣に出くわした事を報告した。
 その報告は直ぐに会議にかけられ、数日後には隣村と合同で魔獣の討伐が行われることになる。
 
 そこでは自ら志願した事もあり、レオンが陣頭指揮を執って討伐隊が組まれる事となった。
 比較的大規模になりそうだったので国に申請すると、予算も付いて、数週間後には専門家がやってきた。
 そして驚いた事に希少な魔術師まで派遣されてきたのだ。

 この近隣で魔術師が派遣されるような討伐は初めてで現場は多少混乱したが、魔獣を少しでも減らせればロンを守る事に繋がるのだと言う一心で、レオンは必死に現場を回した。
 湖と言う場所なので、討伐は長期化するかと思っていたが、そこは派遣された魔術師が何とかしてくれた。
 
 やがて専門家の調査によって、この魚型の魔獣は、やはり大型の魔獣の食料になっている事が判明した。
 慎重に湖の捜索を続けると、大きな両生類の魔獣が見つかり、最後に全力を挙げてそれを討伐する事となったのだ。
 
 そうして大がかりな魔獣討伐は半年ほど掛かって、やっと終わりを告げる事になる。

 この時の働きが評価されて、この後王都へ出向く事になるとは、レオンは思いもしなかったけれど。
 
 
 *******
 
 
 季節は巡って、再び春になった。
 
 討伐の後、警備隊長と共に王都へ報告と表彰の為に上がっていたレオンは、やっと村へ戻って来られた。
 王都では、魔物に両親を殺された孤児が見事に魔物に復讐を果たしたともてはやされてしまった。
 そのせいか、兵士長から王都の兵士にならないかと誘われたり、試しに騎士試験を受けないかと提案されたり、魔術師に街を連れ回されたりパーティに出席させられたり、独り者だと言う事で女性を紹介されたりと散々だった。
 
 大分、心がすり減ったレオンは、もう二度と王都には行かないと固く誓う。
 しかし、これですべての仕事が終わり、あの日ロンに言った通り、纏まった休みがもらえる事になっていた。

 
 村へ到着し、警備隊長と別れると、レオンは早速ロンに会いにパン屋へ向かった。
 討伐が始まってから、レオンはロンに殆ど会えなかったのだ、気も足も急いでしまう。
 
 奇しくも今日は春まつりの日。
 春の昼間と夜の長さが同じになるその日は、春の女神が目覚める日とされており、それをお祝いする日だ。
 キラキラした春の日差しの中、村中が花やリボンで華やかに飾り付けされて、屋台が出され、たくさんの人々が行き交っていて、レオンはなかなか人ごみを抜けられなかった。
 
 この村で行われる春まつりは、近隣で一番大きな祭りで、『女神の使い』として毎年数人の独身の男女が選ばれ、彼らが山車に乗って挨拶をしたり花びらや菓子を撒いたりする。
 
 子供たちは撒かれた菓子や出店を見て目を輝かせているが、若い男女にとっては恋人を探す日でもあるので、近隣から人がやって来て賑やかになるのだ。

 
 
「レオン! 」
「ロン、ただいま」
 パン屋の前まで来ると、祭りの為に店の外へ設置されたパン売り場にロンが立っていた。
 ロンはレオンを見つけると、店番を姉に任せて飛び出して来る。

 今日のロンはヒラヒラの白いレースでできた服を着て、小麦色の短髪に白い花の冠を乗せていた。
 それを見て、レオンはロンが今年の『女神の使いに』選ばれた事に気付き、山車に乗ったところを見られなかった事を悔しく思う。
 
「レオン、おかえりなさい! 元気そうで良かった……なんか、少し大人っぽくなったみたいだし」
 魔獣に襲われかけた頃は少し怯えた様子だったが、それも時間が経って薄れたようだ。
 すっかり元通りになったロンは、レオンがいなかった間の事を色々教えてくれる。
 
 
 それにしても、暫く会わなかったうちにロンは妙に色っぽくなっていた。
 衣装のせいでそう見えるのかもしれないが、もしも居ないうちに彼女か彼氏が出来て、自分の事なんかどうでも良くなっていたらどうしよう……とレオンは心配になる。
 誰かが触れた痕が残っているのではないかと、むき出しの項につい目が行ってしまった。
 
「レオン? 疲れてるの? 」
「いや、そうじゃなくて……ロン、女神の使いに選ばれたんだな。山車に乗ってるところを俺も見たかった」
「そう言うと思って、衣装着て待ってたんだ」
 ロンは道の真ん中に立つと、嬉しそうにヒラヒラとレースの衣装を広げて回って見せる。
 まるで妖精のような姿をレオンがうっとりと見つめていると、髪に『恋人募集』の目印である白い花を挿した男たちがロンに話しかけてきた。

「君、さっき山車に乗ってた子だよね」
「君がいちばん可愛かったよ」
「ねぇ、一緒に遊びに行かない? 」
「……」

 突然話しかけてきた男たちに、先程とは一転、ロンは表情を消してしまった。
 このまま相手にしているとロンは暴言を吐いて、また自己嫌悪に陥るに違いないと思い、レオンは慌てて前へ出る。
「嫌がっているように見えますが、彼に何か? 」
 そう言って男たちへ睨みを利かせれば、男達もレオンが警備隊の隊服を着ている事に気付いて、黙って去って行った。
 
「……ロン」
「大丈夫、びっくりしただけだから。あのさ、この後レオンの部屋に行ってもいい? ここじゃ邪魔されちゃうし」
「えっ? 」
 
 男たちが行ってしまうと、ロンが小首を傾げてそう聞いてきた。
 レオンは警備隊の宿舎で暮らしているのだが、いつもロンは「狭い、臭い」と言って近寄って来ないくせに今日は珍しく行きたいと言う。
「いいのか? ずっと空けてたから綺麗じゃないぞ」
「構わないよ。部屋へ行ったら一緒にパンを食べたい。残りものだけど貰っておいたんだ」と、ロンはシロツメクサが印刷してある店の袋を掲げた。
 
 レオンはロンの店のパンも大好きだ。
 王都では食べる事ができなかったから、持って来てくれて嬉しかった。
 
「ああ。そういえば、湖にも何度も差し入れしてくれただろ。遅くなったけど、ありがとな」
 ふと、討伐の間、ロンの家族がパンを配っていた事を思い出す。
 きっとロンは怖かっただろうに、時折父親と一緒に差し入れへ来ていたのだ。
 中々話す事はできなかったが、そのおかげで頑張れたのは間違いない。
 
「うん。だってみんな頑張って討伐してくれてたでしょ。オレも関係ないわけじゃないし、だからさ」
 そう言ってはにかむロンが可愛らしくて、レオンの鼓動が跳ねた。

 
 
「お邪魔します」
 部屋へ入ると、ロンはまじまじと部屋を見回していた。
 宿舎の部屋にはキッチンとシャワールームが付いていたが、家具はベッドとローチェストにダイニングテーブルのセットを置いたらいっぱいなくらい狭い。

「やっぱり臭いか? 」
 窓を開けながらロンにそう聞くと、「ううん。あの……レオンの匂いがする」等と可愛い事を言うので、レオンは思い切り動揺してしまう。

(こ、これは揶揄われている……のか? )

 妙な沈黙が訪れ、何だか気まずい雰囲気になってしまい、二人は取り合えず食事を取る事にした。
 
 しかし、久しぶりに食べるロンの家のパンが美味しくて、そんな雰囲気は直ぐに吹き飛んでしまう。
 ロンの持って来てくれたパンは、直ぐに食べられるようにスライスされて、間に肉や野菜が挟まっていた。
 残り物とは言っていたが、これは間違いなくレオンへ作っておいてくれたのだろう。
 レオンが美味しいと言っていくつも食べているのを、ロンが嬉しそうに眺めている。
 食べながら王都の話もしたが、やっぱりこのパンの食べられるこの村が好きだなぁとレオンが言うと、ロンは珍しく満面の笑みを浮かべた。

 
 「ごちそうさま」
 食事を終え、二人で後片付けを終えると、ロンはスタスタとベッドの方へ歩いて行き、いきなりベッドへ横になった。

「……あのなぁ」
 ベッドの上へうつ伏せに横たわり、レオンを見上げるロンは、どう見ても男なのに妙な色っぽさがある。
 ロンは挑発的に笑うと、指でシーツを官能的になぞった。
 
「オレ、仕事だって分かってたけれど、レオンに会えなくて寂しかったよ」
 指の動きはまるで誘われているような仕草だったが、こちらを見たロンの瞳が楽しそうに輝いているのを見て、レオンはやっぱり揶揄われていると確信した。
 
(俺の反応を見て楽しんでいるのか――)
 
 その姿が目の毒すぎるので、ベッドの端に腰掛けて小麦色の髪に埋もれている花冠を外し、細い腰が見えない様に毛布をそっと掛けてやっていると、ロンが擦り寄ってきて腰に抱き着かれてしまった。

「あのさぁ……レオン、レオンは好きな人いる? 」
「は? 」
 レオンにはロンの意図が分からずに困ってしまう。
「帰って来たら絶対に聞こうと思ってたんだよ。この間、女の子たちがレオンなら結婚相手にしたいって騒いでたからさ」
「マジか」

 今まで孤児と言う事もあって、レオンはこの村の女性からそう言う対象で見られた事は無かった。
 隣村ではそんな雰囲気の子がいたが、仮にあの子と付き合ってもロン以上に好きになれないとレオンは分かっている。
 そもそも、ロン以外は眼中に無い。
 
(あっ、その女の子たちの中にロンの好きな子がいて、ロンは俺に焼きもちを焼いてる、とか? )
 考えているうちに思いがけないところへ行き着いてしまった。

「俺はいない……けど」
「良かった」
 ほっとロンの吐き出した息が腰の辺りに掛かって、心が痛くなった。

(そんなに安心するなよな)
 
「じゃぁ、オレは? オレは好き? 」
 しかも無邪気にそんな事を聞いて来るので、破れかぶれになったレオンは「ああ、好きだよ。大好きだ」と答えてやる。
 すると、ロンが息を詰めたのが布越しに分かった。

「何だよ、嫌なのかよ」
 ロンはふざけて返して来ると思っていたのに、黙られてしまってレオンは辛くなる。
 立ち上がって離れようと身を捩るが、ロンの腕は離れなかった。
「ううん………………じゃぁ、オレを抱ける? 」
「は??? 」
 たっぷりと時間を掛けて寄越したロンの問いかけに、レオンの頭は大混乱した。
 
 
「見て」
 何を考えているのか、ロンはゆっくり起き上がるとベッドを下り、レオンの前に立って徐に服を脱ぎ始めた。
 
「ま、待て! もう子供じゃないんだから直ぐに裸になろうとするなよ。そう言う揶揄い方は止めろ」
 レオンは咄嗟にロンの手を止める。
 部屋で二人きりの時に裸になんてなられたら、今度こそロンを襲ってしまう。
 
 とにかく今はこの妙な空気を変えたくて、レオンはいつもの調子で「全く、ロンは小さい子みたいだなぁ」なんて言ったのが、ロンはまた面白くなかったらしい。
 大きな飴色の目を吊り上げ、ますます距離を詰めて来て、グンとお互いの顔が近付いた。
 
「オレは子供じゃない」
 少し紅の残った唇が目前に迫る。
 頬にロンの息が掛かり、レオンは顔を反らした。
「知ってるさ。けれど、お前はこういうのがどういう意味なのか全然分かってないんだ」
「分かってないのはレオンだろ」
 
 突然、グルンとレオンの視線が回り、ベッドに背中が付く。
 何が起こったのか分からず呆然としていると、頭上からロンが覗き込んできた。
「え? あ?」

 そこでレオンはロンにベッドへと押し倒されたと気付いた。
 流石、毎日重たい粉を運んだり、パン生地を捏ねているだけあって、見た目は細いけれどロンは結構力があるんだなぁ。なんて思わず感心してしまった。
 
「あのさ、オレ、レオンと会う時はできるだけ態度に表してたんだけれど、何とも思わなかった? 」
「そりゃあ、その……誘われてるのかなと思った時もあったよ。でもお前、家族が欲しいって言ってただろ。それは子供が欲しいんじゃないのかよ。なら相手は女がいいに決まってんだろって……え? 」
 
 ふと、顔を上げると、そこにはとても怒った表情のロンがいた。
 それを見て、レオンは一瞬凍り付く。
 自分に対してこんなに怒ったロンを見たのは子供の時以来だ。
 あの時は丁度レオンが両親を亡くした時で、いつまでも泣いていたのをロンに怒られたんだったな。と、レオンは一瞬懐かしく思った、が。
 
「子供が欲しいなんて言ってない、オレは好きな人と暮らしたいって言ったんだよ! 俺が好きなのはレオン。他はどうでもいい」
「えぇ……」
 
 思わぬ答えにレオンは絶句した。
 ならばこれまでの我慢は何だったのか。
(え? 俺が勘違いしてただけ? いや、はっきり言ってくれないと分からないだろうが……って、今言われてるのか? )
 
 レオンが混乱しているうちにロンは下着姿になり、レオンの足の間に入り込んだ。
「ばーか、ばーか、レオンから言って欲しかったのに、オレ頑張ったのに。分かんないならオレがレオンの事襲っちゃうもん。早くしないとレオン格好良いから取られちゃう」
「何言ってんだよ……」
「オレが馬鹿だったの、レオンを他の人に取られたくないよ」
「待て! 」
 抵抗虚しく、レオンはロンにズボンを引っ張り下ろされて下着になってしまう。

「好き、オレはずっとレオンが大好き。レオンだってここ、こんなにして。オレが好きなんでしょ」
 そう言ってロンがレオンの立ち上がった中心に顔を近付ける。
「ロン! 」
 強く名を呼ぶと、一瞬だけロンが怯んだ。
 レオンは勢いを付けて起き上がると、今度は反対にロンをベッドへと押し倒す。
 いくらロンの力が強くても、本気を出した警備隊員に比べたら大した事は無い。
 あっという間に跨がられて、腕を頭上に一纏めにして押さえつけられると、ロンは焦ったように見上げてきた。
 
 目を丸くしたのがまた可愛くて、レオンが思わず頭に頬を寄せる。
 短く刈った小麦色の髪がチクチクと刺さるが気にしない。
 髪からは先程まで頭に載せていた花冠の花の匂いと、いつものパンの香ばしい香りの混じったような匂いがして、レオンの胸が甘苦しく締め付けられた。
 
「俺は、いつもお前に揶揄われてるだけだと思ってた」
 そう言うとロンがレオンを見上げて子供みたいに頬を膨らませたので、レオンは笑いながら、空いている方の手でそこをツンツン突いてやる。
 
「レオンの鈍感。好きでもないのに誘うような真似したら気持ち悪いだけだろ」
 ロンは咎めるようにそう言ったが、レオンは嬉しくて満面の笑みを浮かべた。
「へへっ、ちょっと嬉しいかも」
「もう……」
 気持ちが抑えられなくなり、持っていた手を離してロンを抱きしめると、ロンも抱きしめ返してくれる。
 
 その時、ふと、ロンの下半身のふくらみに気付いた。
「でさ、ロン。ここまでして、今日はそう言うつもりで来たって思って良いんだな」
「あ……うん、そうだよ。えっと、初めてだから手加減してね? 」
 身体を起こして上から顔を覗き込むと、ロンは小首を傾げてレオンを見た。

(ロンは小悪魔だな。全部分かっていてやってるに違いない)

 思い起こせば思い当たる節が色々ある。
 子供の頃からロンはレオンが女の子と話していれば話に入ってきたし、男同士でつるんでいれば拗ねて一人になってしまった。
 毎回必ずレオンはロンを優先したのだが、あれはそうなる確証があっての行動だったのだろうか。
 だとしたら、隣村へパンを売りに行くと言えば、レオンが付いて来るのは予測できただろう。

「俺、もう掌の上で転がされてない? 」
「なに? 」
「いいや、独り言」
 
 レオンはニヤッと笑うと期待に応えるべく、ロンへそっと口付けをした。
 ロンは今更びっくりしたように飴色の瞳を見開いているが、レオンはもう止める気なんかない。
 次第に口付けは深くなり、薄い唇ごと食み息も奪ってやろうとすると、苦しくなったロンが薄く口を開けたので、そこへ舌を捻じ込んでやる。
 引き出したロンの舌は想像以上に柔らかくレオンの舌へ甘く絡みついてきて、ついには口の端から唾液が零れたが構わない。
 二人は唇がふやけるかと思うくらい長い口付けを交わした。
 
 やがて、どちらともなく唇を離すと、間に銀の糸がかかり、プツンと切れる。
 
「はぁ……やっとオレに誘われてくれたねレオン」
 ロンは唾液でベタベタになった口元を拭いながら潤んだ瞳で睨んだが、全く効果はない。
 寧ろレオンはいつもすましているロンにそんな顔をさせる事ができて興奮した。
 
「全く、回りくどい事しないで、最初から素直に言えば良いじゃないか」
「だから、レオンから言って欲しかったの! 」
 顔も真っ赤で息も絶え絶えなくせに、まだ強がりを言っているロン。

「ん……好きだよ、ロン。子供の頃から……これからもずっと、ロンが好きだ」
「レオン」

 ロンは大きな目をキラキラと輝かせた。
 小さな声で何度も「嬉しい、好き」と言っている。
 
 それに高揚した頬、細い首に肩、息が上がって激しく上下する胸をよく見ると、下着の下に赤い乳首が透けて見えるし、下履きもずり下がっていて、どう見ても好きにして良いと言わんばかり。
 流石にレオンも自制が効かなくなると言うものだ。
 

「ロン、これ以上すると、もう二度と女神の使いに選ばれなくなっちゃうけどいい? 」
「え? 」
 『女神の使い』になれるのは純潔の者だけだ。
 聞いた話だが、女神の導きで何故か純潔でない事は分かるようで、そうでない者が選ばれる事は間違ってもないそう。


 レオンが意味を教えるように下着の中で主張している乳首をそっと摘まむと、ロンは「ひゃっ」と言って背中を反らせた。
「ごめん、痛かったか? 」
 目をきつく瞑ってロンがふるふると頭を振る。
 強がっているのかと思ったが、グンと下肢の中心が盛り上がったところを見ると悪くはなかったようなので、レオンは白い下着を捲って、赤く尖ってしまった乳首の先端を労わるように舐めてやった。

「や、やだぁ」
 そう言いながらもロンは胸をレオンに押し付けて来た。
 それなのに、もう片方を指で摘まみながら口に含んだ方をチュッと少し強めに吸ってやると、「ヤダヤダ! 」と言って暴れる。

「オレばっかり恥ずかしいだろ、レオンも脱げよ」
 相変わらず口では憎らしい事を言うが、それが照れ隠しである事をレオンは良く分かっている。
 上手く誘導されている気もするが、もうどうでもいい。
 期待に応えてレオンはシャツを脱いだ。
 
「うわぁ」
 レオンの日に焼けて鍛えた身体を目にしてロンは目を輝かせた。
「どうしたらこんなに筋肉が付くの? ああ、思ったより固くないね」
 手を伸ばして筋肉の縁をなぞり、固さを確かめるように押したり揉んだり。
 最後に乳首をふにふにと押してきた。
 
「レオンは、ここ、気持ち良くない? 」
「別に何ともない」
「そうなの? 」
 
(ロンは乳首を触られると気持が良いらしいな)
 
「うー、レオンの弱点はどこ? 」
 されるがままになっていると、ロンはレオンをあちこち擽って、最後に下半身へと視線を向けた。
 
「こっちもいい? 」
 可愛らしく小首を傾げてロンが見上げて来る。
 細い指は、レオンの固くなった中心を行ったり来たり。
 我慢できなくなって許可を出すと、ロンは嬉しそうにレオンの下着を引き下げた……その時、大きくなったレオンのモノがぺちん、とロンの頬を叩いた。
 「ふぁ、おっきい! 」
 そんな事を言うのでレオンは思わず両手で顔を覆って唸ってしまった。

「ロン」
「なに?」
「俺、こう言うの聞いた事しかないんだけどさ、やっぱり入れるんだよな。最終的に」
「そうらしいね」

 ロンにしか興味が無かったレオンには、性の事と言えば仕事先や孤児院の先輩から聞いた知識しかない。
 そこで男同士だと尻を使うとは聞いていたが、詳しくは知らないのだ。
 最初から嫌な思いをさせたくはないのだ、もっと調べたり話を聞いておけば良かったと、今更後悔する。
 取り合えず滑りをよくするものが必要なのではと考えて、視線を彷徨わせていると、ロンが起き上がって腕に触れて来た。

「ねぇ。レオンは、入れたい? 入れて欲しい?」
「んー、そりゃぁ入れたいけれど、ロンが入れたいなら入れる方でも良いぞ」
「そっかぁ」
 ロンはニヤリと笑う。
 
 これは大抵碌な事をしない時のロンの表情だ……とレオンは身構える。
 が、ロンはそんな事を知ってか知らずか、ベッドの上で後ろを向いて膝立ちした。
 
 焦らすようにゆっくりと下履きを下ろして、男にしては丸い大きめな尻を晒す。
 今日も白い肌が目に眩しい。
 「見て」
 そう言うと、ロンは後ろを向いて、自分の尻たぶをゆっくりと割り開いて見せた。

「うわぁ……」
 開かれた奥、ロンの窄まりはちゃんと用意されていて、少し口を開いて油のようなもので濡れていて……レオンはあまりのいやらしさに目を見張る。

「……自分で用意したのか? 」
「うん。ちょっと姉さんに聞いて……って、ねぇ、大丈夫? 」
 凝視しすぎて怖い顔になっていた為か、ロンに心配そうな顔をされたが、レオンは聞きたい事があった。
 
「あのさ、もしかして、湖でも……」
「まぁ、いつも用意はしてた……あの日も魚がいなければ……その……」
 ロンは思い切り目を泳がせる。
 
(くそ、やらしくて可愛いな)
 
 レオンがずっとロンを凝視していると、何故かロンは向かいに正座してしまった。
「やっぱり恥ずかしい」
 急に羞恥に襲われたのだろう、俯いてモジモジし始める。
 
 だが、レオンは今更止まる事などできない。
 子供の頃からずっと好きなロンと、やっと思いが通じたのだ。
 できるだけ早く、全てを自分のものにしてしまいたい。
 どうしようもない独り善がりな考えだが、さっきみたいな輩も少なからずいるので、レオンは気が気じゃないのだ。
 
 
「……ロン」
 レオンは真面目な顔をして、ガシッとロンの肩を掴んだ。
「な、何?」
「なぁ、俺は、今すぐにでもお前が欲しい」
「ふ、えぇえ? 」
 レオンが真っ直ぐに見つめてそう言うと、ロンは妙な声を上げて、全身真っ赤になった。

 固まったロンへ、レオンから唇を合わせ、そのまま耳から首筋、胸へと順に舌を這わせる。
 時々、印を付けるように吸ってやると、ブルブルと震えていた。
 その間に指を後孔へあてがい、蕾の周りを撫でたが、抵抗はされなかった。

「あ、あう……」
 そっと指を入れると、準備したと言った通り、蕾は綻んでいる。
 しかし、レオンを受け入れるにはどう考えてもまだ足りないので、中まで解す為に指を入れると、縁が媚びるように吸い付いてきた。
 ここに入った事を考えると気持ちが逸る。
 身体を這わせていた唇を離してロンを見ると、目まで赤くなっていたが、泣いてはいなかった。
「痛い? それとも怖い? 」
「うぅ、恥ずかしいだけ、頑張る」
 ロンが足に絡んでいたズボンを脱ぎ、寝転がっておずおずと足を開いたので、レオンはその間へ入り込んだ。
 
 午後のカーテン越しの西日がロンを照らしている。
 白い肌に朱が散らばり、足の間、尻の奥に綺麗な白い蕾が見え隠れしているのがとても淫靡だ。
 その前では、綺麗なピンク色のロンのモノが中途半端に立ち上がって揺れている。
 レオンはそれを扱きながら後ろを解す事にした。

「あ、ダメ、そこやだぁ」
 数回扱いただけでロンは直ぐに達してしまった。
 そのおかげで緊張が解けたのか、太く骨ばった指を二本とも後ろに入れる事ができた。
「あぅ、何かへん。でも気持ちいいかも……」
「煽るなよ……」
 ロンがあんまり嬉しそうに言うので、レオンは熱い中へいきなり挿ってしまいたかったが、我慢した。

 

「入れるぞ」
「……うん」
 後ろに指が三本入るまで広がった頃には、ロンは息も絶え絶えだった。
 途中、あまりにもロンが何度も達した為に、レオンは心配になって中断しようとしたが、今度はロンの方が続けて欲しいと言った。
 こんな時も頑固なのだと、レオンは苦笑する。
 それでも「オレも早くレオンと繋がりたい」と言われれば止められない。
 時間はかかったが、しっかり広がるまで頑張った。

 ズブ、ズブとレオンの熱いモノがロンの身体を開いて行く。
 いくら十分に準備したと言っても、やっぱりロンは初めてな訳で、苦しそうで……再び前を扱いて紛らわせる。
 額に汗を浮かべているロンに「苦しかったら止める」と何度も言っているのに、ここでもロンは強情にもレオンのモノを強請ったのだ。
 やっとのことで全て中に収めると、ロンは嬉しそうに笑った。

 
「あーあ、レオンのものになっちゃった……」
「違うだろ、俺がお前のものになったんだ」
「二人で1つになったんだよ」
「そう、そうだな……」
 
 繋がった時、二人は額を合わせ、感極まってボロボロと涙を流した。

 長かった片思いだった。と、レオンは思う。

 寂しい時もあったけれど、傍にはいつもロンがいた。
 いつもレオンを……レオンだけを特別扱いして、どんな時も寄り添って励まして、時には分かりやすく嫉妬さえしてくれていたのに、なぜ彼の気持ちに気付けなかったのか。
 誰とでもフラットに話せるレオンと違い、ロンはレオン以外には興味が無かったのも知っていたのに。
 ロンが他人に厳しくなったのだって、考えればみんなレオン絡みだと分かるのに、勝手に自分に興味が無いとか、只の幼なじみと思われているとか、自分の思い込みが激しすぎて恥ずかしい。と、レオンは思う。
 
(自分から誘ってくるまで追いつめていたんだなぁ)
 
「どうしたの? 」
「ああ、ロンの中はあったかいなぁ……ずっとこうしていたいなって思ってた」
「いいよ。ずっといていいよ」
「うん、ありがとうな」
 
 ロンが手でレオンの髪を優しく梳いてくれる。
 それがまた嬉しくて、レオンはロンの肩に顔を埋めてされるがままになった。
 
「ねぇ、レオン。オレと一緒になってくれたら、パン屋をやって一生食べさせてあげる。レオンが望むなら独立しても良いよ」
 暫くすると、髪を梳き続けながらロンが話し始めた。
 
「本気か」
「もしもレオンが怪我とかして警備隊を続けられなくなっても、オレが面倒みるし」
「怪我には気を付ける」
「先に死んじゃっても、オレには一生レオンだけ」
「なんで先に死んじゃう設定なんだよ」
「いいでしょ、妄想は本当にならないんだよ」
「本当かぁ? 」
「でも、それ以外は妄想じゃないからね」

 ロンはふふっと笑うと、レオンへ掠めるだけの口付けをする。
 それが合図になり、レオンは動き始めた。

 奥をトントン突くと、ロンは身を捩る。
「あ、奥の方突いたら……そこもダメ。 いっちゃう」
「どこもかしこも気持ち良いって素直に言えよ」
「きもちぃぃ……」
「俺も」

 手も足も離れないように絡め合う。
 息も、鼓動も交じり合って、本当に1つの生き物にでもなったようだ。

「ロン、絶対に離れない。約束する」
「ふぁ、ぜったいだよ……」
 離さないと言うように、一層ロンの締め付けが強くなった。

「んんっ」
「あっ、ああ……」
 
 お互い初めてなせいなのか、直ぐに達してしまった。
 それでも幸せな気持ちで一杯になり、二人は強く抱き合って、長い長い口付けを交わした。

 
 
 その日は暗くなるまでいちゃついて、家人が全員集まっているであろう夕食時に、二人揃ってロンの家族へ挨拶に行った。
 そこで実は家族全員ロンの気持ちに気付いていた事を知る。
 どうやら分かっていなかったのはレオンだけだったようだ。
 
 

 暫くしてレオンとロンは籍を入れた。

 最初の頃は朝早いロンの為に、二人でロンの実家に間借りして住んでいた。
 当時、住み込みの見習い職人が減り、部屋が余っていたと言うのもある。
 姉夫婦に子供が出来た頃は、レオンがよく面倒を見ていたので、ありがたがられていた。
 
 しかし、レオンは30歳になると、ロンにいつまでも心配を掛けたくないと言う理由であっさり警備兵を辞めてしまう。
 せめて指導者として残って欲しいと隊長に懇願されたが、「なるならロンの専属になりたい」と言って、それも断ってしまった。
 
 そのタイミングでロンが独立し、二人揃って隣村へ引っ越した。
 いつか手伝いに行ったあのパン屋の後を継ぐ為だ。
 
 店の看板には勿論シロツメクサの印。
 
 今も二人仲良くパン屋を営んでいると言う。
 
 
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