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恋愛遍歴
しおりを挟む――その晩、久しぶりに加納と会ったからか、星來は自分の子供の頃を思い出した。
自覚は無かったけれど、加納が言ったように星來は小さい頃から可愛かったらしい。
星來の好みで、当時から艶々の黒髪を少し長く伸ばしていたせいもあるのかもしれないが。
おかげで女の子と勘違いされ、男の子にチヤホヤされた。
でも男の子と分かれば直ぐにバカにされ、仲間外れにされたものだ。
かと言って、女の子のからは、好きな男の子にチヤホヤされているライバル、とみなされ仲間に入れてもらえない。
その頃の星來はそうなる理由が分からなくて毎日が戸惑いの連続だったが、親同士の仲が良い加納と野田がいつも助けてくれたので、何とか幼稚園と小学校へは行けていた。
女の子達のチクチクとした意地悪は中学に上がっても続いた。
大した事をされた訳ではないが、心へのダメージは大きく、星來はあまり女性を好きになれなくなってしまったのもこの頃だ。
しかし、男子は小さい頃と違って男と知っていても優しくしてくれたので、自然と恋愛対象が男性になって行ったのは仕方がないと思う。
決定的だったのは加納とも野田とも別のクラスになった中学2年生の頃だ。
クラスに野球部のエースがいて、彼がやけに星來に近付いて来た。
坊主頭が気にならない程、スッと整った顔の美少年で、名前は石井と言った。
星來は彼や、取り巻きの野球部員と話しすらした事がなかったのに、突然、林間学校で同じ班にならないかと誘われたのが最初だった。
その頃の星來は、クラスに仲の良い者が一人もいなくて、林間学校の班に他の誰からも誘われなかった。
だから、知らない相手でも嬉しくて、二つ返事で承諾したものだ。
班には他に三人の野球部員がいたのだが、彼らはいつも星來と石井を遠巻きにしていた。
今、思うと彼らは石井の取り巻きで、石井の指示でそうしていたように思う。
だから旅行先の宿でも、二人きりになる事が多かった。
今でもはっきりと覚えているのは、一日目の夜、取り巻きたちがいなくなった時に、石井が意を決したように星來に触れるだけのキスをして来た事だ。
突然のファーストキスに星來は激しく動揺した。
「ごめん、気持ち悪いか? でも俺は羽根田の事が好きなんだ」
大きな男が真っ赤になり、小さく震えながらそんな風に言うのは、はっきり言って可愛かった。
それに、星來もまんざらではなかったので、その時は石井の気持ちを受け入れた。
その時の石井の嬉しそうな顔は今でも覚えている。
まぁ、中身はまだ子供だったので、同じ部屋で隣同士になって眠ってもそれ以上の進展はなかったが、初めて自分を好きと言ってくれる相手を得てとても嬉しかったのを星來は覚えている。
そして日常へ戻り、星來と石井は秘密で付き合う事になった。
いくら好き合っていても、当時は男同士のカップルが受け入れられない風潮だったのだから仕方ない。
付き合うと言っても、帰り道は途中まで一緒に帰るとか、ショッピングモールへ一緒に買い物へ行くとかそんなものだ。
そして時々、手を繋いで、隠れて拙いキスをする。
まだ子供で色っぽさの欠片もない行為ばかりだったが、彼はとても優しくて恰好良くて、星來は大好きだった。
しかし、彼は野球部のエース。
この頃の野球部は強豪で、試合が近付くと練習が厳しくなった。
三年に上がると、それに加えて受験勉強がある。
追い打ちをかけるように別のクラスになってしまって、石井とは次第に疎遠になった。
しかも、石井は野球で有名な私立高校へ進学してしまったので、結局、二人の仲は自然消滅してしまう。
今は美しい初恋の思い出だ。
高校時代は同じ高校へ進学した、幼馴染みの加納と野田とひたすらつるんでいて、誰とも付き合わなかった。
けれど、気になる相手がいなかった訳ではない。
この頃の星來は石井の事を引き摺っていたので、相手は似たようなスポーツマンタイプが多かった。
当然、立ちはだかる女子の壁が高くて、とてもお近づきにはなれなかったが、遠くから眺めていたのも良い思い出だ。
そんな地味な学生時代を送った星來だったが、高校を出て就職し、都会で一人暮らしを始めた事で一変した。
就職した輸入食品会社で運命の相手(と、当時思っていた)に出会ったのだ。
彼は、星來が新入社の時に指導係として付いてくれた森山と言う6才年上の上司だった。
彼は芸能人のように顔が良く、お洒落で人目を引く男性で、人当たりが良くてとても女性に人気があった。
しかし、そちらより部下の星來を優先してくれる優しい上司で、仕事が出来て教えるのも上手く、星來は尊敬から次第に好きになってしまったのだ。
お互い特に告白しなかったが、いつの間にか逢瀬を重ねるようになり、星來の身体に一から色々教えてくれたのも彼である。
その頃の星來は森山が好きで好きで、向こうも同じ気持ちだと思っていた。
彼の為にも仕事を頑張って、いつか堂々と隣に立てるようにと気張っていたのだが、現実は残酷だった。
恋人となってって四年目、彼は突然、女性と結婚したのだ。
相手は社長の娘、断れなかったのだろうと、当時は無理やり納得しようとした。
しかし、社内の噂で二人が長い事交際していたと言う噂を聞いた時、遊ばれていたのは自分の方だと気付いた。
その上、星來のところに披露宴の招待状を送って来たのは、どう言うつもりなのか。
愛した相手の裏切りに星來の心はぐちゃぐちゃになり、気付けば会社を辞めていた。
それから数か月後、星來は生きる為に建設会社で派遣の事務員として働き始めた。
そこで良くしてくれたのが10歳年上の長谷川だ。
彼は肉体労働をしているおかげで体格が良く、男らしい厳つい顔つきで、森山とは真逆のタイプだったが、人懐っこい笑顔が可愛らしくて星來は好意を持った。
長谷川は30過ぎの独り者で、なかなか仕事場に慣れない星來をよく遊びに連れて行ってくれた。
一番良く行くのはパチンコ。
星來は店の中の騒がしさが苦手だったが、長谷川が行きたがったので無理して付いて行ったものだ。
そんな彼と身体の関係を持ったのはどういった切欠だったか、今はもう思い出せない。
気付いたら、星來が当時借りていたアパートの一室に、長谷川が転がり込んで来て一緒に暮らしていた。
星來は、いい加減なところがあるものの、とにかく優しい長谷川が大好きだった。
肉体労働の仕事をしていた長谷川のセックスは事務職だった森山とは違い、とても激しかったのも良かった。
今まで星來が好きになったタイプとは違うが、本気で好きになってしまった星來は彼と一生添い遂げたいとまで思っていた……が、そんな日々もある日突然終わってしまった。
長谷川が星來の全財産を持って行方不明になったのだ。
カードや通帳だけでなく、財布や金目の物全て持って行かれ、気付いた時には貯金も全部下ろされていた。
しかも星來は長谷川の連帯保証人になっていて、借金を負う事になってしまう。
直ぐに金貸しから返済を催促されるようになり、返済できないのなら夜は関連の店で働くように勧められた。
長谷川の借金は、その頃の稼ぎではいつ返し終わるか分からないくらいの金額だったのもあって、星來は渋々、昼間は派遣、夜はガールズバーの裏方として働くようになった。
流石にその時は、見事な転落ぶりに変な笑いが込み上げてきたものだ。
・・・・・・・
実は石井が友人に「もしかしたら恋人とエッチな事ができるかも」と話していたのを知った加納と野田が画策して、その後は二人を会わせないようにしていました。
星來が石井と仲が良いのは皆、知っていたけれど、付き合ってるまで知っていたのは加納と野田、野球部の友人の数人だけ。
石井は女子にもモテていたので、知らない人はそっちに本命がいるのだろうと思っていました。
高校時代も星來は男子にモテていたのですが、二人はこっそり追い払っていました。
しかし、卒業後は星來以外、大学進学して離れてしまったので、星來はあっと言う間に森山の餌食に。
最初こそ連絡し合っていたけれど、次第に自分たちも忙しくなってしまって、流石にそこまで干渉できなかった模様。
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